「お前のこと好きなんだけど、付き合わねぇ?」

ゲームをしてる俺の後ろで黙ってスコアブック眺めてた御幸がいきなりそんなことを言って、俺は振り返りも手を休めることもせずに返事をした

よくある罰ゲームだ
コンビニに誘われた時みたいな軽い返事しかしなかった俺と、嫌々参加させられた勝負で負けたペナルティを手短なところで消化した御幸
誰を責める気にもならなかった

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一月のつき

「お前のこと好きなんだけど、付き合わねぇ?」

 

ゲームをしてる俺の後ろで黙ってスコアブック眺めてた御幸がいきなりそんなことを言って、俺は振り返りも手を休めることもせずに返事をした

 

「いいぜ」

 

 

 

◆一月のつき◆

 

 

御幸が好きだった

 

なんの脈略もない告白

あまりの突然さに驚きすぎて逆に冷静に返事ができた

 

「つぎ移動だぜ」

「ん、なぁさっきのノートとったか?」

「半分はな」

 

マジか、と真っ白なノートを片付ける御幸を笑いながら先に教室から出る

 

あの告白から一ヶ月経つが俺たちは何も変わらない

夜に二人で自主練しても風呂で一緒になっても何もなかった

様子の変わらない御幸にこっちから何か仕掛ける勇気もなく、拍子抜けしてはじめは地味に悩んだが当然人目もあるし、寮生活なんてプライバシーは無いに等しい

そりゃそうなるよな、と期待しながらもお互い照れてるんだと諦めていた

 

 

突然アイスが食べたくなって沢村をパシらせようとしたら見当たらず、純さんに声をかけたら哲さんと話があると断られた

しかも、ちょうど良かったと少女漫画のお使いを頼まれてしまい、さっさと行けば良かったと少し後悔した

 

あの店員、アイスと漫画を一緒に入れやがった

純さんの目のでけぇ女が表紙にいる雑誌が水気を吸ってよれちまったが、気付かなかったことにする

 

寮に戻ると部屋の前で後輩たちが騒いでいた

 

「あ!もっち先輩!」

沢村たちと二年が数人、御幸もいる

「お前どこいたんだよ、使えねぇな」

帰り道でもう食ったアイスの棒を噛みながら何事かと近寄ると

 

「御幸一也からちゃんと告白されやしたか!?」

 

「だからしたっつーの」

 

はぁ、とめんどくさそうに頭をかく御幸に各々が迫る

 

「なんで報告もしねーんだよ」

「全く意味ないじゃないですか!」

 

俺は一瞬で悟った

 

「あー、んなことあったな、忘れてた」

 

ぜんぜん面白くない!!と叫ぶ沢村に、純さんとこ持ってけと漫画を押し付け部屋に入る

集まっていた奴等も興味が失せたのか散っていった

 

よくある罰ゲームだ

コンビニに誘われた時みたいな軽い返事しかしなかった俺と、嫌々参加させられた勝負で負けたペナルティを手短なところで消化した御幸

誰を責める気にもならなかった

自分が一番恥ずかしいやつだとわかっていたから

 

 

 

それからも俺たちは何も変わらなかった

野球して飯食って勉強もそこそこして野球して…の日々

卒業するまで今まで通りの俺たちだったし、今まで通りの自分だった

 

ただ、たまに足元から血の気が引いていく感覚と、仲間と笑う自分を斜め上から見ているような錯覚をすることがある

 

 

信じてバカをみたなんて、

それで傷付いたなんて認めたくなかった

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

はじめはテレビ雑誌の仕事で野球以外のことが忙しくてなかなか野球部の同窓会に顔を出せなかったが、タイミングが合って久々に参加できることになった

 

人付き合いが苦手だとは思わないが、得意でもない

特に野球以外の人間関係には煩わしさも感じる

青道はそんな自分が素でいれる場所だった

 

「久しぶり」

 

もうみんなが揃って飲んでいるところへ遅れて入る

 

「お前久々って感じしねーんだよ!」

「テレビで見てるからかな?」

「あの女子アナと付き合ってるってマジ?」

 

口々に好き勝手言う先輩たちに絡まれながら

 

「あれ?アイツ来てないんすか、倉持」

 

そう聞いた、その瞬間場が凍りついたように固まった

 

「アイツ付き合いわりぃんだよ!

お前もだぞ!オラ、飲め!」

 

純さんが大声でその空気を変える

それからクリス先輩に声をかけられたり、楠木先輩が結婚するなんていう話で盛り上がって、感じていた違和感もすぐに忘れてしまった

 

ところどころ覚えてないが、数件はしごして残っていた奴等もバラバラと帰っていく

 

俺も帰ろう、潰れている先輩たちは見なかったことにして金丸に多目に金を渡し店を出た

 

 

「御幸先輩」

 

タクシーを捕まえようと大通りまで歩いていると後ろから声をかけられる

しこたま飲まされて潰れていた沢村だ

今でも変わらずつるんでいるらしい小湊と降谷もいた

 

まさか今から球捕れなんて言わねぇよな、と考えていると

 

「知らないんですか…?」

 

言いにくそうにしてはいるが、意思の強い目でじっと俺を見る

いったい何のことか検討もつかない

 

「誰も連絡がつかなくて、確かめようがないんですが…」

 

今度は小湊がそう切り出し、話し終えたときになってやっと、いま聞いていたことが誰のことか理解できた

 

 

 

アイツは大学に行っていたはずだ

卒業後は就職して社会人野球でもやってるだろう

俺の出る試合も見てくれているはずだ

元々まめに連絡を取り合うような関係でもなく、登録してある連絡先を卒業してから使うことはなかったが、なんとなくそう勝手に決めつけていた

 

 

だがアイツは大学を中退し、いきなり連絡がつかなくなった

みんなで探したが見付からず、家庭の事情かもしれないと深く踏み込めずにいたとき、ある噂が広まった

 

 

 

男同士がヤッてる動画の片方が、倉持なんじゃないかと

 

 

 

そこまで聞いてとっくに閉店した小料理屋の前で茫然と突っ立ってることに気付き、何の反応もしない俺を心配そうに見つめる三人に何と言って別れたのか記憶がない

 

シャワーを浴びながら思い出すのは目付きの悪い顔と高い独特な笑い声

副主将として俺が怪我したときは代わりに部をまとめてくれた頼りになる小さい背中

いま考えると、あのとき俺が感じていた以上にアイツが居ないとチームが成り立たなかったような存在だったと思う

 

いつも一緒にいたのは俺だ

仲間はいても友達がいなかった俺の、唯一の…

 

そう過去の記憶を辿っていたとき、ふと思い出した

 

 

いまのいままで忘れてしまっていた

なぜ思い出せたのかもわからない記憶

 

 

 

 

 

 

自主練を終えて風呂から戻ると俺の部屋は先輩たちが占領しているようで、外まで声が漏れていた

このまま入ると寝かせてもらえねぇなと倉持の部屋に避難したが、五号室には一年と二年もちらほら混じって遊んでいて、こっちはこっちで面倒だと引き返そうとしたら沢村につかまった

何なんだと思えば昔からあるボードゲーム

無理やり参加させられ、わけもわからずにいる内に負けた

さっさと帰ろうとすると罰ゲームを言い渡され、くだらないと思いつつも盛り上がってる雰囲気を壊すわけにもいかずに数日中に済ませることを約束して部屋へ戻った

まだ先輩たちが騒いでいたが、消灯時間が近付きすぐに解放された

五号室にいなかった倉持はここでつかまってたらしく、お前が来ねぇから大変だったと文句を言われたのを覚えている

 

コイツならいいか、と思った

というより倉持ぐらいしか冗談が通じそうな相手もいない

 

 

「お前のこと好きなんだけど、付き合わねぇ?」

 

 

次の日、ちょうどいいタイミングで二人になった

今しかない、とゲームに夢中の倉持にそう言ったが、人生ではじめて人に対してする告白がこれかと一瞬後悔が過る

 

そして倉持の反応は俺が予想したどれとも違った

 

「いいぜ」

 

その一言だけ

驚いて何の反応もできなかった俺は、どうしよう告白成功しちまったと焦った

どっと汗をかきながら無言でスコアブックと倉持の後ろ姿を目で何往復かする

妙に間が空いてしまい、どう伝えればいいかわからない

でも振り向きもせずゲームを続けるいつもと変わらない倉持に、あぁそうか、気付いてるか何言ってんだコイツと思って流したんだ

そう思った

 

その証拠にそれから一ヶ月、俺たちは今までと何も変わらなかった

罰ゲームの報告をするのを忘れてしまっていた俺に数人が確認しに来たが、そのときまで忘れていたくらい

 

倉持だって、そんなこともあったなという程度で忘れていたと言っていた

 

 

その後だって変わらなかった、と思う

 

 

ただ、もし、もしあの告白が本当に成功していたとしたら

 

 

倉持はあのとき「いい」としか言わなかったし、俺も罰ゲームだと教えなかった

もし倉持が嘘の告白だと知らずにいたなら、アイツがそうだと知ったのは一ヶ月も後になる

 

まさかそんなはずは…

 

だってアイツは告白する前も、した後も、罰ゲームだと知った後も変わらなかった

 

 

そうだ、俺の記憶の最後まで隣で笑っていた

 

 

 

 

 

 

 

 

ベッドに埋もれながら登録してある番号へ電話するが繋がらない

 

メールもアドレスが存在していないと返ってきた

 

今さら何を言いたいのか自分でもわからない

 

ただ倉持洋一という人間が居なくなってしまったように感じて、ずっと連絡を取らなくても平気だったくせにいきなり寂しくなって、全く知らない誰かになってしまったんじゃないかと、自分の中の何かが欠けてしまったかのような不安にかられた

 

考えすぎかもしれない

本当にあのときの嘘の告白は流されただけかもしれない

 

でも急に会いたくなった

 

 

 

 

 

 

あの一ヶ月

俺たち恋人だったんだ


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