正確には、ザナドゥのヒトミなので、オリジナルは苗字だけ。
海老名さんととべっちを物語にどう絡ませるか悩み中。
「......私、どうすればいい?どうしてあげればいいい?」
「......本当に俺のことを思うなら、もう俺に関わるな。正直、付き纏われるのは目障りだし迷惑だ。」
――砕けた日常。
何も知らずに無邪気に過ごしていたあの頃。
私ね、信じてたんだよ。
ずっと君と一緒だって、あんな毎日が続くって、信じ切ってたんだよ。
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異界化千葉②
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2017年6月25日
18:00
杜宮記念会館
陽菜からLINEが来た。しかもツーショットの写メつきで。......この目の腐ってる男の人は誰だろう?こんな可愛い女子と一緒に写ってるのに、なんか凄い嫌そうな顔してるんだけど。てか、これ講義中だよね?少し前まで塞ぎ込んでたのに、ちゃっかりキャンパスライフを満喫してるじゃん!
「璃音せんぱい~。そろそろ本番ですよ。って、何見てるんですか?」
後ろから私のサイフォンを覗き込んでくるのは、栗色の髪がキュートな私の新たな後輩......一色いろはちゃん。陽菜が脱退してから加入した新メンバーで、普段は千葉県内の高校に通っている。ちなみに、今日はスピカのライブがあるので早退したみたいだけど。この子が芸能界に入ってきたのはつい最近のこと。そして、今日が初ステージだってのに、余裕かましちゃってまぁ。私なんか、初めての時はガチガチだったのになぁ。そんなことを思い出していると、いろはは何か信じられないものを見たような表情を浮かべながら固まっていた。
「ん?どったの?」
「そ、その人......」
「あー、陽菜から写メが送られてきてさ。まさか彼氏とかかな?目は腐ってるけど、よく見るとイケメンだし......って、いろは?」
私のサイフォンを指差しながら、いろははわなわなと肩を震わせている。まぁ、陽菜と男の人のツーショットなんて見せられたらびっくりするよね。この子、私達がデビューしてからずっとファンでいてくれた上に、ずっと陽菜の信者らしいし。でも、この反応は......何というか、それだけでもないような......?
「......ま、悪くないんじゃないですかね。」
表情を殺したように、無表情でいろははそう言うと写メから目を背けるように背を向けた。
「なんか怒ってる?」
「怒ってません!ほら!皆待ってるんですから早く行きますよ!」
私のツッコミに、いろはは般若のような表情を浮かべながら、私の手を引く。てか、痛い!強い!力が!
「わ、わかったわよ。ちょ!顔怖い!何をそんなに怒ってるのよ!」
「怒ってません!」
いや、絶対怒ってるでしょ!とは言えなかった。顔が怖くて。
ま、なんか知らないけど気合い十分みたいだし、私も頑張りますかね!今日はコウ君も見に来てくれてるし、最っ高のステージにしないとね!
新メンバーのいろはを迎えての初ステージ。
陽菜、私達もようやくスタートを切れるような気がするよ。
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2017年6月25日
少し前
千葉大学西千葉キャンパス
サークル棟
気がついたらサークル棟の中に連れ込まれていました。しかも、現在進行形て黒髪クール系JKに睨まれています。......何でだよ。何か俺悪いことしたの?
「誰。このぬぼーっとした人は。人を連れてくるなんて聞いてないんだけど。」
目の前のJKに思わず見惚れてしまったのが数分前の出来事。まるで、ルミルミがあのまま美人系に成長したような......そんな美少女がいたらいくら俺でも見惚れてしまう。だがしかし、いきなりの悪口。そして、この言われよう、何だか記憶にあると思ったらどこぞの雪の女王様ですね。はい。というか、雪ノ下も初対面で同じようなこと言ってた気がすんぞ。性格は雪ノ下で見た目は成長したルミルミ。結論、嫌な予感しかしない。
「ゴメンゴメン。でも、ひとみちゃんも男手あったほうがいいでしょ?色々と、さ。」
両手を合わせて謝る天堂。つーか、謝るくらいなら連れてこないで欲しかったんですがねぇ。それに対して、黒髪JKは品定めでもするかのように、俺のことを頭の上から足元まで目線を移動させる。まぁ、目を除けばそんなに酷いなりはしていないはずだ。これ以上罵倒されるようなことは......
「時坂センパイや高幡センパイならともかく、その人普通に一般人でしょ?正直、役に立たない人が幾ら増えても......」
「オゥケーイ!お前が俺の事を嫌いなのはわかった。」
はい。更なる罵倒が待っていました。というか、会って5分立たずに約立たずのレッテルを貼られる俺ってどうなん。そもそも一般人以外の奴ってどんな奴だよ。お前はアレか、ただの人間には興味ありません!とか自己紹介で言っちゃう系女子か。
「いきなり大きな声出さないで。しかも、お前じゃない。ひとみ。横須賀仁美。」
「お、おう......比企谷八幡だ。」
「は、はち?......ぷ。へ、変な名前......」
横須賀は不満そうな表情を浮かべた後、少しだけ真剣な表情に切り替わり、突如クスクスと笑い始めた。知ってる?1人で百面相してるって気持ち悪いんだよ。まぁ、美人とイケメンは例外だが。あ、ってことはコイツは例外か。結局、見た目がいい人は許されるんですね。わかります。
「ほんと失礼な奴だな......。てか、なんで女子高生がこんなとこにいんだよ。」
「んー、仁美ちゃんは私と地元が一緒で、引っ越してきたばかりで友達も居ないから私と一緒にいることが多いんですよ。それならばと、人数不足のこのサークルに入ってもらったんです。」
「いや、大体わかったけど、お前......」
1人でスタートしたのかよ......という言葉は言葉のうちにしまっておく。というか、天堂がサークルを立ち上げたのなら、人くらいいくらでも集まりそうなもんなんだがな。しかも、言っちゃ悪いが、会議室のような広い部室なのはいいんだが、如何せん人が見当たらない。まさかとは思うが、部員はこいつら2人だけですか?
「つーか他に人が見当たらないんだが......部員は天堂と横須賀だけなのか?」
「まぁ、発足したばかりですしね。気長にやっていきますよ。今丁度3人目をゲットしましたし。」
元アイドルは笑顔でとんでもないことを言い出した。ハチマンは逃げ出した!しかし、回り込まれてしまった!
......すっと回れ右をした俺の前に素早く回り込む天堂。さすが元アイドル。動きが俊敏ですね。そして、殴りたい......その笑顔。
「......相手の承諾を取るってことを知らないの?」
「え?ついてきてくれたってことは入ってくれるんですよね?」
コイツ、可愛い顔に反して実はめちゃくちゃ自己中なのかもしれない。まぁ、アイドルなんてそんなもんかもしれないけどさ。
俺がかつて憧れていたアイドルが暴君なのは絶対にまちがっている。
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同日21:00
天堂宅
完全に余談だが、私こと天堂陽菜は千葉駅の隣の駅、西千葉駅の駅前に住んでいる。部屋の間取りは1Kだから余り広くはないんだけど、新築物件だったこともあり、中はとても綺麗だ。結構気に入っている。
「ふぅ。」
早めのお風呂を済ませ、パタンとベットに倒れ込む。すると、私のサイフォンが微かに光っているのに気がついた。そういえば、璃音にメッセージ送ったんだっけ。バタバタしてて、返信を確認するのすっかり忘れてたよ。それに、今日はライブの筈だ。忙しくて返信は明日来るかなー、なんて思ってたんだけど、璃音ってこういうとこ結構マメなんだよね。
"キャンパスライフ満喫してるんかいっ!てか、その男の人誰よ?彼氏?かれぴ?かれぴん?ps.なんかしらんけど、いろはがおこだよ。じゃ、頑張ってくるね!"
添付された写真を見ると、不貞腐れたいろはちゃんの顔が......かわいい。じゃなくて、何を隠し撮りしてるのよこの子は。というか、彼氏じゃないし、物心ついてからは今日初めてまともに喋ったよ。
2枚、3枚と写真を捲っていくと、レイカ達を隠し撮った写メが何枚も添付されている。
......ほんと、キラキラしてるなぁ。皆。
――Never give up, chu chu,踊るように カジュアルな覚悟――
テレビに目をやると、"恋のシューティングスター"が流れており、丁度いろはちゃんのパート。少し声が震えてる。でも、身体は動いてるし、音も外してない。何より、楽しそうな気持ちを身体全体で表現できてる。頑張れ。私が駆け出しの頃よりも、表現力も歌唱力も、ファンを引きつける可愛らしさも持ち合わせてる。君なら絶対にやれるから。
――ぼやぼやしてたら 恋のシューティングスター
誰かのものになるから――
「ふふ......」
璃音達の計らいで、何度かお話したことはあるけど、入ってきてくれたのがこの子で本当によかった。あざといけど憎めなくて、応援したくなるようなひたむきさが、この子にはある。それにひきかえ私は......
「少し、焦りすぎたかなぁ。」
思い出されるのは、先程、比企谷君を強引に部室に連れ込んだ時のこと。流石にやりすぎたかな、と思ったけど、案外ひとみちゃんとも気が合いそうだし結果オーライっちゃオーライかな?ただ、もう少し段取りというものがあったのは間違いないよね。私らしくもない。
ゲートの中に躊躇なく飛び込んで来てくれた比企谷さん。正直とても驚いたし、この人は一体何を考えているのかと思った。まぁ、その後は異界内部でしっかりと気絶していたのはご愛嬌だけど。そして、まさかファーストネームで呼ばれるとは思わなかった。もしかして、SPICA時代にファンで居てくれたとか?......いやいや、やめておこう。どうせレイカやリオン、もしくは若葉や晶だろう。期待していて落ちた時は結構応えるから、出来ることなら期待しないほうがいい。
表向きは"勇退"実際は"歌えなくなった"ことによる事実上の戦力外。......戦力外なんて言い方をしたらレイカ達に怒られるか。でも、"喉の腫瘍"を患ってからの私は完全に戦力外だった。僅かな希望を託してメスを入れたのが昨年。でも、私の声は元には戻らなかった。傍目にはほんの微妙な変化。でも、音程もコントロール出来ないうえ、耐久力も低下し、一曲歌いきるのが精一杯のアイドルなんていらないよね。
丁度その頃、異界に取り込まれた私とひとみちゃんが璃音と時坂さんに救われたのは、また別の話だ。その後、"適格者"として覚醒した私と彼女は、柊さんが所属するネメシスの一員として行動することになった。因みに、肩書きは二人共、柊さんの代理。私とひとみちゃんがここに来たのは完全な偶然だったのだけど。丁度よくタイミングが合ったため、杜宮から離れられない彼女に代わってベテランの執行者と私達が千 に赴いた、というカラクリだ。ま、暫くの間、地元の杜宮からは離れたかったし、私としては渡りに船というところではあったんだけど。ひとみちゃんは家庭の事情だから少し可哀想だったかな。
それにしても、聞いていた以上に異界化が進んでいる。その証拠に、ゲートの現れる頻度が異常なことに加えて、怪異の力も増してきているように思える。正直、異常事態ともとれるが、まだ観測し始めて数ヶ月だ。結論を出すには早すぎる、と思う。何より、私の上司が今のところ問題なし、と判断しているしね。やはり、暫くは様子見かな。
「しかしまぁ......私情を挟みまくってる私は、柊さんの協力者としてはどうなのかな。」
比企谷さんをXRCに連れ込んだ理由は二つある。
一つは、単純に彼に興味があったから。わりと、ずっと前から。何なら、小学校の頃には既に。
もう一つは、彼に対して私の"サイフォン"が反応したから。
理屈はわからないが、負の感情が高まると異界に取り込まれる危険性が高くなる。それとは別に、突発的に異界への門が出現する場合があるが、これは人々の感情とは関係ないと言われている。あくまで、自然災害的なものだ。
話は戻って、"異界に取り込まれる"という点においては、その人によって危険性を測定する装置を、ネメシスが開発済みである。尤も、私達現場には昨年実装されたばかりであるため、試験段階なのは否めないんだけど。
因みに、"人が異界に取り込まれる"という点において、新たな仮説も提唱されている最中である。その仮説というのが、異界に生息する怪異は"人"を媒体に成長していき、やがてその人自身を飲み込む......というもの。ただ、この仮説についても、未だ研究段階の域を出ない。
......装置で測定できる危険度の段階は10段階。脅威度の大きい順に、ランク10、ランク9、ランク8、ランク7、ランク6、ランク5、ランク4、ランク3、ランク2、ランク1と続く。
正直、私は千葉に来るまでランク5以上を見たことがなかった。
......だが、今日比企谷さんに近づいた時、私のサイフォンは最高値である10を指し示していた。
「......考えていても仕方ないか。」
いくら悩んでも、比企谷さんのために出来ることは少ない。それならば、事が起こった時には私が必ず彼を助けたい。それがあの頃の恩返しにもなるだろうから。幸い、今の私には異界絡みのことなら彼を助ける力がある。
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――踊れ、狂ってしまえ!抗う、術なき、嘆きの鐘は響く――耳塞いで!それでも、ああ!拒むことなど出来はしない――
SPICAの新曲が耳に入ってくる。
どこか危うさの感じさせるメロディーが耳に残る。サビの部分を独唱するのはレイカといろはちゃん。レイカの声によくよくマッチした選曲だと思う。まさか、いろはちゃんがこんな迫力のある声を出せるとは思わなかったけど。
――染まれ、浸ってしまえ!逃れる、術なき、嘆きの鐘は笑う!声枯らして!叫ぶ拒絶......NO!――絡み囚われ......溶ける響き――
――祈りにも似たリフレイン――
レイカといろはちゃんが最後を締める。最高潮に盛り上がる観客席。私がいなくとも、彼女達はこんな素晴らしいステージを創りあげることができる。
「私もあそこに立ってたんだよね......なんだか夢みたい。」
しばしの放心状態。SPICAのライブを見ると、毎回こんな調子だ。もう1年も経つのに、我ながら引きづってるなぁ、なんて思う。
「......やっぱり見るんじゃなかったな。」
私の呟きは誰にも届くことはない。
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同じ頃
舩橋駅前 繁華街
bar エクセリオンハーツ
「比企谷君......久しぶりだね。」
「もう俺のことなんか忘れてると思ったんだが。電話貰った時はびっくりしたぞ。」
突然知らない番号からの着信があったのがほんの数分前のこと。
「もう。数ヶ月しか経ってないんだから忘れるわけないよ。」
ケラケラと笑う彼女。空っぽな笑顔。
あの頃と同じ、微笑みの奥に果てしない空洞が広がっているのを感じる。
春用の薄目のコートをハンガーに丁寧にかける彼女。見れば、真っ白で今にも透けて見えそうなシャツに身を通しており、主張している女の部分に嫌でも目が行ってしまう。ボタンを第二まで外し、下はショートパンツとニーハイを組み合わせたその格好は、どこか男を誘っているようにも見える。
俯き気味な表情は憂いを感じさせ、どこか妖艶な雰囲気を纏う彼女。海老名姫菜とはこんな女の子だっただろうか?