東方虚悪魔異聞(原作厨が原作キャラに憑依してしまう話)   作:イベリ子

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お久しぶりです。
こっそり更新。



はじまり

 私がどうしてこうなったのかは未だにわからない。一番初めに目に入ったのは、鮮やかな紫の髪を持つ少女だった。

 

 

 ……は?紫とはなかなかパンクな染め方を……っていうかここどこ?さっきまで何してたっけ?

 

 ぐるりと辺りを見回す。薄暗く埃が積もっているような場所だ。そして本。本。本。図書館のような場所だろうか?それにしてもやたらと天井が高く、それに合わせて本棚の高さが尋常ではない。空でも飛ばなきゃ届かないぞあんな所にある本。

 そして薄暗い中で私の足元がやたらと輝いている。これは……魔法陣、だろうか?そして下を見れば発覚する私の格好。白いシャツの上に黒のベストとロングスカート、胸元に赤いリボンを着けている。んんん着た覚えがないぞ?そして更に衝撃の事実として、視界に入る私の髪の色は、鮮やかな赤色。……これは。

 

 自分の髪を観察していた視線をおそるおそる正面へと向ける。さっきはその特徴的な髪色に目を奪われていたが、

 

 

 毛先をリボンでまとめられた紫の髪。

 

 縦縞の入ったパジャマのようなゆったりした服。

 

 何より特徴的な大きな三日月のマークがあるドアキャップに似た帽子!

 

 

 動かない大図書館、パチュリー・ノーレッジ!

 

 

 そして彼女の眠たげに細められている半目に映る人影。それがおそらく今の私。これは……

 

 

『小悪魔』だぁーっ!!

 

 

 ま、まさか友人と二次創作についてのあれこれを話していた矢先に自分が二次創作みたいなことになるとは思ってなかった……しかも憑依!夢か!夢なのか!

 いやしかし待て、憑依?そうだ、私憑依してるんじゃん!自分で憑依系二次創作苦手って言ってたのに……でも自分の意志じゃないし仕方ない…よね?いや仕方なかったとしても頑張って原作の流れは保たねば!原作の小悪魔通りに……原作の……小悪魔……

 

 

 

 原 作 の 小 悪 魔 っ て な ん だ

 

 

 

 げ、げ、原作の小悪魔!?原作の小悪魔ってなんじゃ!?いや小悪魔はオリキャラとかじゃない立派な原作キャラだけど!東方紅魔郷のれっきとした四面中ボスだけど!でも露出が少なすぎる!名前がない!立ち絵がない!「程度の能力」がない!種族以外の設定がない!特に!

 

 会話が!一切!ない!!

 

 口調もなんもかんもわからない!な、何をどんな風にするのがいいの!?そもそも姿だって儚月抄ではロングだったけど神主のインタビューではショートだったし……あ、今ショートだ。二次イラストではロングばっかりだしちょっと新鮮……じゃない!

 

 ままままままマズイですよ!今パニクってたけどよく考えなくても目の前にパチュリー様がいる!ずっと黙ってキョロキョロしたりパチュリー様じっとみたり髪いじってたり明らかに無駄な動きが多すぎて不審者間違いなし!は、早くなんか言わないと!でもどんな口調!?どんな口上!?原作では一体どんな出会いだったんだよおおおおおおおお!

 

 ……うぶ、テンパりと緊張で吐きそうになった。そ、それでもそろそろ喋らないと!頼む私のアドリブ力!行くぞおおおおおお!

 

 

 

 

 

 ────────

 

 

 

「……ふむ」

 

 読みきった本をぱたりと閉じ、浮遊させて自身を中心にして積み上がってる本の塔の一番上へと移動させる……が、

 

「あ」

 

 本の塔が足場から崩落していき、滝のように見えたのは一瞬のこと。私の周囲はあっという間に本の海へと変わってしまった。

 ……はあ、そろそろか。私はまだ読破していない数冊を脇によせ、読破済みのものを内容ごとに本棚に入れて整理するために自身と共に浮遊させた。

 

 

 一年と少し前、私パチュリー・ノーレッジは友人の吸血鬼であるレミィことレミリア・スカーレットと共に今住んでいるこの地……幻想郷へと移りこんだ。その際レミィが幻想郷征服という野望を完膚無きまでに叩き潰されたが、私にはそこまで関係のない話なので割愛する。

 私にとって重要な話は、紅魔館の瀟洒なメイドにより空間が拡張されたこのヴワル魔法図書館についてである。この図書館にはある魔法がかかっている。それは幻想郷という地自身が外の世界で失われ「幻想になった」ものを集める性質を持っている、それのランダムだった出現する場所を、「本」に限ってこの場所へ誘導する……それだけの魔法だったのだが、幻想郷に他に「図書館」などの本を保管する場所がないのも相まって本であるならば9割は誘導出来てしまっている。その結果いくら読みきったものを整理しようとしても追い付かないペースで本が増えていく。本の虫である自分にとっては嬉しい悲鳴ではあるのだが……

 

「この整理作業は、面倒よねえ」

 

 いくら自分が本の虫といっても、読み続けるのには限界がある。定期的に本の内容毎に本棚へと収納しなくてはならない。それでもなるべくまとめてやるようにはしているが、やはりこの広大な図書館を巡って収納していくのは気が滅入る。

 

 

 

「本の整理専門の使い魔でも召喚しようかしら」

 

 一段落ついて、思い付いた考えである。なんとなく自身の周囲に生き物がいるのは落ち着かないので使い魔は召喚したことがなかったが、これからもこの作業をし続けることを考えればいた方がいいのは間違いない。思い立ったが吉日と言うし、とりあえずある程度の命令が聞ける奴であれば問題なし。下級の使い魔を召喚してみることにする。場所は適当に開けた所があればよし、魔法陣も詠唱も頭の中に入っているから……

 

 

 

 

 そう。そして私は召喚した。して、しまったのだ。

 

 

 

「ソレ」は最初、本当に無力な悪魔に見えた。召喚されてからきょろきょろと辺りを見回して、こちらに視線を合わせてくる紅い髪の悪魔。なんとなく、友人よりも紅魔という文字が似合いそうだな、なんて考えていられたのはそこまで。

 しばらくして「ソレ」は顔を綻ばせ、見るものを魅了するような笑みをしながらこう告げたのだ。

 

 

 

「はじめまして! 『パチュリー・ノーレッジ』

 様!」

 

 

 ーーー身を震わせるようなプレッシャーと共に、私の真名を。

 

 

 悪魔とは契約をする怪異だ。存在としての強弱や契約者にもたらす災いや力に差異はあれど、悪魔としての力を現世で振るうためには召喚者と現世で契約を結ばなくてはならないということは共通している。

 そして、大多数の悪魔が契約を行う時に重要視するのが、双方の名前だ。なので悪魔を呼び出す時は相手の名前をこちらが知っており、こちらの名前を相手に知られないようにしなければならない。それは魔術師の中では一般常識といってもいい。それに従って私は念のため防心読の術と自身に対して別名を本名だと錯覚するような自己暗示をかけていた。

 

 しかし。しかし。目の前の悪魔はーーー

 

 

「ええ、よろしく。……それで、どうして私の名を知っているのかしら」

 

 手段が分からない。目的が分からない。こちらの名前を知られた以上既に契約の主導権は相手に握られている。しかし悪魔の契約はこちらが相手の存在を暴くことで解除されるというのも一つのルールだ。ならば今私がやるべきは目の前の存在がどんなものなのか、それを知るためのヒントを集めること。幸い、名前を知っていることを示すためとはいえ会話を仕掛けてくる存在だ。ならばそこから少しでも分かることがあるはず。

 

 

「………………(ホアアアアアアアアそりゃそうじゃん初対面で名前知ってる訳ねーじゃんバカバカバーカ!!!!!!どっふどどどどどうしよう、どうすればいいんだほんとに!!)」

 

 

「……ッ」

 

 じわり、と汗が吹き出す。

「ソレ」はニコニコと擬音がつきそうな笑顔をこちらに向けたまま微動だにしない。それでいて存在感はますます増して、相対しているだけで膝を突きそうになる。だが、魔法使いとしてここで屈するわけにはいかない。こちらが隙を見せたらそこにつけこまれるのは明白なのだから。

 

「そ、……そんなことはどうでもいいじゃない、いや間違いなくどうでもよくはないな、えー……企業秘密、ということでお願いいたします(パチュリー様めっちゃ睨んでるよめっちゃ怪しまれてるよー!)

 それよりも、私を呼び出したということは何かやらせたいことがあったんじゃないですか?早めに済ませてしまいましょう?(ダメだこれ以上話が長引くとボロしか出ない!とりあえず関係は結ばないと!そうじゃないと最早小悪魔じゃなくなってしまう!)」

 

 しかし、あくまで自らの手札は見せず契約だけを迫ってくる悪魔。

 内心で歯噛みする。会話はするが、必要な時だけということだろう。こうなると今この場で私から行える手はほとんどない。使い魔に限らず召喚というのは術者の都合で意思を持つものの力を使役する性質上、基本的には術者が関係としては不利な立場となる。本来ならば力によって屈服させられる相手を呼び出し、有利な条件を認めさせる算段だったが、コレ相手に対して行える手段ではないだろう。ならば、と私は事前に用意していた一つの魔術を起動させて一枚の紙を作り出し、悪魔へと送る。

 

「一利あるわね。けれど、私ばかりが名を知られているというのは良い気分ではないわ。

 ……あなたが真名を明かすというのなら、契約を結びましょう」

 

 それは契約書。必要なことはお互いがお互いの名を知り、契約を理解した上で相手が同意することだけ。それだけで相手は生殺与奪の権限を全て譲渡するようになる。呼び出した使い魔があまりにも悪性の強い場合を想定して作っておいた最も不平等な契約。

 端から契約されるとは考えていない。しかし、相手が契約を一度でも断ることがあれば、呼び出したもの/呼び出されたものという関係に新しく契約を断られたもの/契約を断るものという間柄が生まれる。出方次第ではあるが、私が下手を打たなければ「なるほど、それは確かに失礼なことをしてしまいました」「え?」

 

 考えを巡らせている間に、悪魔は契約書にサインを刻んで渡してきた。思わず呆けた声を出してしまう。この契約を結ぶ?考えが止まってしまいそうになるが、自分のミスか何かがないか契約書を確認する。しかし内容自体にも、現在結ばれた契約にも何の不備もなく私はこの得体の知れない悪魔の全権を握るようになった。

 

 そして、このふざけたサイン。言うまでもないが偽名などではこの契約は履行されないようにした。つまり今ここに書かれている名前は本人が自分の名前だと完璧に認識しているものとなる。それが……

 

 

「私、『小悪魔』と申します。力も何もないよくいる木っ端悪魔ですが、今後ともよろしくお願いします」

 

 

 ……「小悪魔」であると。

 

 




(小悪魔って……なんだ……?)

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