東方虚悪魔異聞(原作厨が原作キャラに憑依してしまう話)   作:イベリ子

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ちょっと長くなりました。こちらを読む前に、めんせつを読み返していただくとより楽しめるかと思います。

ところで話は全然変わるんですが、


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はい。


こうりゅう caseめいどちょー

 十六夜咲夜は、人間である。

 

 それにも関わらずこの吸血鬼が住み着く紅魔館に雇われて、メイド長という役職を請け負っている。それはここの主であるレミリア・スカーレットの気まぐれによるものであり、ここでメイドの真似事をやっているのも自らの食い扶持のためであってそれ以下でもそれ以上でもない。そのはずであった。

 

 しかし、その認識は一週間前に破られることになる。謎の悪魔がレミリアと対峙していると、食堂からなんらかの巨大な気配を感じて逃げ出す妖精メイドから聞いた時だ。

 

 咲夜は自分をある程度の強さはあると自負している。体の出力こそ人間並みだが、「時間を操る程度の能力」と自らも知らない過去に蓄積した体術とナイフ術があり正面からであっても大抵の妖怪には勝てるという経験と自信があった。

 

 しかし、食堂の気配は咲夜の記憶の中で最も強い妖怪であるレミリアをも凌ぐものである。そして彼女はまた賢明であり、自分の強さは人外を相手にした時にある程度「格」が違う相手には有効にはならないとも理解していた。所詮能力もナイフも体術も小手先の技であり、人間である以上小手先でどうにもならない相手もいるのだと。

 

 

 

 その上で、彼女は決断を迫られた。何をするか、だ。

 

 

 

 合理的に考えれば咲夜のやることは一つ、紅魔館から逃げ出すしかない。そもそも彼女がこの紅魔館にいた理由はレミリアに気に入られたことと、行き先も何もなかったこととで需要と供給が噛み合っただけに過ぎない。本来は名前のない根なし草なのだ。あのお嬢様がやられようが、自分には何の関係もないことである。そのはず、なのに。

 

 

 咲夜の体は、時を止めて全速で向かった。食堂で悪魔と対峙するレミリアの隣へと。

 

 

 

 

 時間停止を解除した咲夜の姿は、他からはレミリアの側に瞬間移動でも行ったかのように見える。悪魔の前に立ったことで、咲夜は先程までよりも強く強く自分との大きさの違いを感じていた。そして自分は何をやっているのかと笑ってしまいそうになる。しかし、

 

 

 

「いらっしゃいませ。紅魔館へようこそ」

 

 

 

 ────私は、紅魔館(ここ)にいたいのだ。

 

 

 

「咲夜。今は主人が応対しているのだけれど?」

 

 

 

 ────私は、紅魔館の十六夜咲夜なのだ。

 

 

 

 

 

 気づいたら幻想郷にいて、何もなかった。家も、食べ物も、仲間も、家族も、過去も、なにもかも。

 だから「何か」になりたかった。なんでもいいから。このままだと消えてなくなりそうなただの「私」を、誰でもいいから認めて欲しくて。

 そして、私には力だけがあった。妖怪のボスを殺せれば何かが起こると思って、勝てないと分かっていながら、半ば死ぬことを望んで紅魔館へと来たのだ。

 

 

 

 

 

『名前がないなら私があげるわ。貴方の名前は、十六夜咲夜。私の側に輝く月。

 

 ────十六夜咲夜。私のものになりなさい』

 

 

 

 

 

 ただの強者の戯れだと思っていた。勝者による敗者を使った暇潰しだと思っていた。

 

 

 

 それでもいい。

 

 

 

 それでも私は、十六夜咲夜(わたし)になれたのだ。

 

 

 

「お嬢様は私が知る限り来賓の対応をしたことがありませんので。何か失礼なことを仕出かしているのではないかと心配で心配で」

 

「お前中々言うじゃないの」

 

 

 

 レミリア、お嬢様との会話の心地好さに自然と口角が上がる。失いそうになってから初めて気づく、なんて陳腐な言い方だがその通りだと思う。一年もかかり、生き残れるか分からない戦いの前になって今さらだと自分でも思うが、随分と彼女を慕っていた私と、その気持ちに気付いていなかった私のどちらもが気恥ずかしい。

 

 

 

 けれど、この気持ちに気付いたならば。

 

 

 

 

 

 

 

 どうか、生きている間は、この方と一緒にいよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな風に決意したりしたのが一週間前の話である。そしていまだに私は生きていて、今日も今日とてメイド業に励んでいる。そして

 

 

「お疲れ様です、咲夜さん」

 

「恐縮です、小悪魔様」

 

「……あの、その様付けやめてもらえませんか?(小悪魔って咲夜さんからなんて呼ばれてたっけ?もしかしたら原作でも小悪魔様とか呼んでたのかな。いやでもさすがにちょっと解釈違いだからやっぱりどうにかタメ口調にしてもらいたい……!)」

 

 

 

 あのとき決死の覚悟で挑んだ悪魔と、同僚になっていた。どうしてこうなったのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 私が隣に立ってからの顛末は非常に簡単で、小悪魔が纏っていたその圧を霧散させて私とレミリアお嬢様に対して目を輝かせていて、それに毒気を抜かれたお嬢様も魔力を解いて、私と小悪魔同士で自己紹介をした。その後パチュリー様が図書館へと小悪魔を送ったということだけだった。彼女はパチュリー様が呼び出した使い魔ということらしく、とりあえず本の整理を手伝わせるという。正直パチュリー様は凄いことをやる人だな、さすがお嬢様の友人と思うだけで、小悪魔と関わることはあまりないだろうと思っていた(というかさすがにあまり関わりたくなかった)。

 しかし彼女の仕事が妖精メイドを使ったものであり、そして彼女らの懐柔のために使われるお菓子や茶葉の補充分を持っていかなくてはならなくなった。元々パチュリー様のために軽食は日に二回持っていっていたし、「自分で淹れるから紅茶の準備だけおいといて」と言われていた図書館にあるティーセットの用意を使用したら入れ換えることはやっていたのだが、一番困っていたのはやはりあの小悪魔様である。

 

 彼女は、私が図書館に入る度に話しかけてくるのだ。元々お嬢様に仇なす相手だと思っていたこともあるし、何より彼女は私に対してあまりにも好意を寄せすぎている。もしや淫魔の類いかとも思ったが、性的な接触どころか挨拶以外は私の仕事の何が面白いのかずっと見つめているだけなのだ。妖精メイド達はやたらなついているし、見張りをしておくといっていたパチュリー様ももう面倒臭がっているのか監視をせず普通に使い魔として使っている。魅了や洗脳の危険については、そういうものに敏感な美鈴が何も言ってこないということは自然な状態なのだろうが、強大な力を持っている彼女を契約によって縛ってるとはいえ警戒しなくて大丈夫なのか?

 

 特に私の困惑を強めているのが、彼女の私に対する態度だ。私は、人間である。得てして人外は人間を侮る。格下であるという前提がある。まあ彼らのエサでもあるのだから当然だとは思っている。思っているからこそ、小悪魔の態度は解せない。

 彼女は「私」に敬意を払っている。お嬢様という悪魔に仕える狗に対してではなく、私という個人に。あの相対の時から、私が彼女よりも圧倒的に弱いことは分かっているはずなのに。

 

 

 

「何故、私の敬語がご不満なのですか?」

 

「え、(いや不満、不満かな?でも実際にいる咲夜さんの行動が解釈違いって言うのすっっっっごい失礼だよねこれ間違いなく!どうしよう、えーとなんで解釈違いなんだろうまず咲夜さんはれみりゃー、妹様、パチュリー様に対しては敬語だったよね?そんで他の人には大体タメだったような……そうだ!めーりんにもタメだったじゃん!それだ!)

……私はパチュリー様に仕えているしがない使い魔です。対して咲夜さんはそのご友人であるレミリア様に仕えるもので、なおかつ実質的にこの館の管理を任されているメイド長という立場でしょう?であるならば、咲夜さんともなる人が私程度に敬語を使っていてはいけないと思いまして」

 

 彼女の返答を聞き、私の困惑はますます深まる。私が彼女に対して行ったことなどほとんどない。なのに、どうしてここまで純粋に敬意と好意を人間である私に表すのだろう?

 

 そう考えて、私は一つの可能性に気付く。

 

 もしかして、だが。

 

 

 

「小悪魔様は───私を知っていたのですか?」

 

 

 

 私が失った過去。世界にも、私自身からも忘れ去られた十六夜咲夜(わたし)の知らない私。それを彼女は知っているからこそ、こうしているのではないか、と。

 

 

 そして、反応は劇的だった。

 

 

「あっ……!?」

 

「ひい!」「きゃあ!」

 

「!小悪魔!」

 

 

 一週間ぶりに。パチュリー様から使われていた契約をものともせず、お嬢様と対峙していた時とは雲泥の差であるが、それでも私とは比べ物にならないほどの存在感を発する小悪魔。

 

 

 

「……(こ、これはもしや東方を作品として知ってる的なあの、憑依バレ!?憑依バレですか!?待て待て待て想定外!想定外でふなんでバレたの!?ど、どこだ?どこでミスしたのだ私は!?いや違うその前に何か答えないと小悪魔が小悪魔じゃないってバレちゃう!いや元の小悪魔をみんなが知ってるわけではないから大丈夫、なわけがない!四面中ボスのキャラは実は幻想入りした現代人ですなんて原作解離ってレベルじゃないもの!)」

 

 

 小悪魔は先程までと同じ笑顔でこちらを見つめ続けている。急変した彼女の気配に驚いた妖精メイド達のほとんどは一目散に逃げていく。そしてパチュリー様がこちらに来ようとするが、

 

 

「大丈夫ですパチュリー様」

 

「咲夜!?あなた……」

 

「いいんです。……聞かせてください、小悪魔様。あなたは私の、何を知っているんですか?」

 

 

 

「( 原 作 で す )」

 

 

 

 あのときお嬢様の隣に立ったからこそ分かる。彼女は威圧こそすれ、本気ではない。おそらく、彼女は私を試しているのだ。これで話を追及しなくなればそこまでであると。しかし私は、逃げはしない。胸を張って私は紅魔館の十六夜咲夜であると言うために。

 

 しばらくして。彼女は、はぁ、と溜め息をついて、その圧を霧散させた。残るのは、先程までと同じ無力なように見えるだけの姿。

 

 

 

「(し、仕方ない……もうバレてるとしても、せめて原作までは!原作まではなんとかしなければ……!)

分かりました。けれど、今は言うわけにはいけないのです。私が今後、一度だけ、私の存在を懸けて闘わなくてはいけない時が来ます。そして、私が私の目的通りに闘いを終わらせることが出来たとき。

その後には、間違いなくお伝えすると約束するので……どうかそれまでは、私を名も無き小悪魔であると扱ってくれませんか?」

 

 

 そういって、今までの無垢な笑みとは違う、縋るような目で私を見つめてくる小悪魔。意外だった。彼女のような絶対者が私に対してこんな、無力な人間のような目を向けるとは思っていなかったからだ。けれど、その彼女の新たな一面で、理解不能であった存在が急激に近くなったような気がして、途端に今の状況がおかしく感じてしまった。

 

 

 

「ふ、あはははは!そんな目で見てくるとか、もう……くく、反則よ、反則。はあ、これでいいんでしょ、小悪魔?」

 

「え、あ、はい!(わ、私の何がそんなに面白かったんだろう?もしかして咲夜さんSっ気が入っていらっしゃるのかしら、まあ東方キャラはみんな皮肉屋だったり煽ったりしまくるから不思議ではないのかな)」

 

「でも、約束よ?貴方の持ってる秘密、しっかり教えてよね」

 

「……はい。その時が来たら、お伝えします」

 

「じゃあ、まあ」

 

 

 私は彼女に手を差し出す。彼女はその手をきょとんと見つめているだけで、私の意図が掴めていないようだった。その姿にまた笑いが込み上げてくる。

 

 

「ふふっ、……握手よ、握手。これからよろしくね、っていう」

 

「えっ、(は?咲夜さん笑顔可愛い過ぎかよふざけんなというか握手?そんな私が原作キャラに触れるとかそんなの)

 

 

 はい!これからもどうぞよろしくお願いいたします!(きゃああああああああああああ手ぇすべすべええええええええ柔らかいいいいいいいいいいいいいい幸せええええええええええええええええええ!!!!!)」

 

 

 

「ええ。よろしくね、小悪魔」

 

 

 

 

 そして、彼女が見せる大輪の花のような笑みに私も笑みを返しながら、手を結べたのだった。

 

 

 




私は咲夜さんに投票します。

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