東方虚悪魔異聞(原作厨が原作キャラに憑依してしまう話) 作:イベリ子
「小悪魔さん。ちょっとお話しませんか?」
「ん、美鈴さん。勿論大丈夫ですよ! ただ、パチュリー様にお声がけしてお休みを頂けたらになりますが……」
「ああ問題無いです。私がもう話は通しておいたので」
「そうですか、ありがとうございます」
そういって満面の笑みをこちらに向ける、小悪魔と名乗る彼女。今の彼女からは以前に発していた巨大な気配はなく、妖精と比べてもほとんど変わらない程度のものとなっている。パチュリー様が魔力に制限をかけていることは知っているが、それでも彼女からは自分の力を出そうという気配も、力を制限されていることに対する不満、窮屈さも私は感じ取れない。その上で空を飛ぶこともせずにこの広大な図書館の整理という雑用をこなしている。
そして、今その微かな気で彼女から感じ取れる感情は、私への純粋な好意と高揚。ほとんど初対面の私に対してのこの感情。これは私が特別ということではなく、雑用をさせているパチュリー様も含めて、今のところ紅魔館の人員……例え妖精メイド達にであっても少なくはあるが普遍的に向けられているものである。そうなのだ、という現状把握は出来る。ただ、何故なのかは分からない。
「では、妖精メイドたちの邪魔になってもいけませんし、場所をお借りしましたので……付いてきていただけますか?」
「了解しました」(はああめっちゃ気遣いの塊やん美鈴! 背高いし姿勢綺麗だしかっこいいなあ……ニヤニヤが止まらん。もう理想の上司? 理想の姉? なんだろ正しい例えが思い浮かばないけど一生一緒にいたい)
不可解だ。彼女の存在、彼女の力、彼女の感情。まるで理解が及ばない。
威圧し力を誇示しながら、恐慌。────墓穴を掘り踏み潰されるのを待つ鼠のような。
威圧し力を誇示しながら、歓喜。─────待ち望んでいた運命に出会ったかのような。
「美鈴さんは門番の仕事をされているんですよね? やはり襲撃を試みる妖怪はいるんですか?」
「ああいえ、最近は……お二人のおかげでこの辺りの妖怪の襲撃はごっそり減りましたね。ただまあ知能が低い妖怪がたまに……多くて日に数度侵入してくる感じですね」
「なるほど。大変ですね、やっぱり(少し前? 妖怪が減る? あああれかな、吸血鬼異変ってやつ。……あ、ということは今もう紅魔館が幻想入りした後ってことか。そりゃそうだよね、咲夜さんいるし他の吸血鬼見ないし。
は! じゃ、じゃああの吸血鬼異変を叩きのめした『最も力のある妖怪』って結局誰なのか分かるのかな!? あれ友達の間で論争になってたんだよね)」
「いえ、大したことはありませんよ。言った通り最近は静かなものですしね」
それはいけない。紅魔館の門を預かるものとして、紅魔館を守るために、紅魔館の内部の妖怪であっても誰がどの程度の脅威と成りうるのかは把握しないと。
「あ、こちらになりますね。どうぞ中へ」
「失礼します。……おや、ここは……(私が召喚されたところだ。なんか魔法研究する場所って感じなやつだー)」
彼女も悪魔だ。もうこの場所にパチュリー様による結界が張られていることに気付いたのだろうが、もう関係ない。四肢に力を込め、全身に気を漲らせる。周囲に溢れる私の気、虹色の輝きを感じてか彼女がこちらに顔を向ける。
「小悪魔さん」
「はい?」
変わらぬ笑顔を浮かべている彼女の眼前に拳を突き、当たる直前で止める。
拳によって切り裂かれた空気が風圧となり、小悪魔さんの髪をなびかせて周囲に張り巡らされた結界を少し響かせた。
「余計なことはせず私の質問にだけ答えて下さい。いいですね?」
しばらく間隔が空いて。笑顔のままの彼女から、巨大な圧。
「……(わあマジ顔。まなじりが垂れてたのが上がると印象変わるなー、ってえええええええええええなんでこうなるのおおおおおおおおおおお!?? ちが、違うじゃんもっと優しくお話して仲良くなりましょーってのが美鈴じゃないの!? 皆血気盛んな幻想郷の中での常識人&苦労人枠じゃないの!!? 私はいったい何をやらかしてしまったんだ今度は!! あああでも美鈴かっけええええ! 拳突き付けられる相手が私じゃなければ30分くらい眺めてたい!! 写真撮って飾りたいいやいや違う違うなんだどうして何をやればほぼ初対面の美鈴にここまでガチ顔させれるんだよバカ私! バカバカバカもう!!)」
────それと同時に、私への好意と共に恐慌。けれどそれら全てを埋め尽くすような底知れない程の自己嫌悪の奔流が流れ込む。
私の「気を使う程度の能力」で他者の感情を感じ取るというのは本来の使い道ではなく、あくまで他者の精神エネルギーである気の中にどんな感情が乗っているかを感じる程度のものだ。だから普通はある程度の力を持ったものと相対して、相手が感情を昂ぶらせている時でなければほとんど分からない。そのはずなのに、図書館からでも門で感じ取れてしまった彼女の感情。
彼女の感情はあまりにも大きすぎる。知性を持つ生き物が御せるとは思えないほどに。こうして眼前で見て、その異常性に改めて気付く。
彼女の心は、壊れている。間違いなく。
「……あなたは、我々に危害を加える気はありますか?」
「(ハッ!? そうだ今問い詰められてる最中だった! ま、まだ挽回出来るな!? 美鈴のどんな逆鱗踏んじゃったか分からないけど誠実に回答すれば多少は印象を盛り返せるはず……! 自分のメンタルは無理だけど……!)……いえ、そんなこと考えたこともありませんよ。私はただ、パチュリー様のもとで……紅魔館で働くだけで幸せですから」
こうして落ち着いて受け答えしているように見える時でも、その感情は荒れ狂っている。気は感情によって荒ぶり、左右されることはあっても、感情が気によって増幅されることはない。だから、こんなにも巨大な感情を彼女は、ただいつも持ち続けているのだろう。平静を保ち、危害が加えられそうになり感情が溢れだしたとしても決して力を振るわないように。
彼女の言葉に嘘はないと思う。けれど、それを鵜呑みにすることは出来ない。心が壊れた妖怪は、その存在そのものが不安定になってしまう。肉体が生まれた後に魂が宿る人間と違い、幻想が魂を形作りそれを肉体で覆う我々にとって狂気は、重い。
「自分の力を過信しているとは考えられませんか? あなたは今もこうやって私に拳を向けられて気を発してしまっています。それが常に紅魔館に向かないでいられる、そんな保証は出来るのですか?」
「(気を……発するってなんだろ、アッ呆けちゃってたこと? あああもしかして原作キャラに会う度に内心発狂してたのバレたのかな!? それで仕事してないように見えたとか! それっぽい、ぽいぞだいぶ! えええ、でも紅魔館メンバーに対して気を向けない? そんなの)……そうですね、申し訳ありませんが保証は出来ないです」
「では、「ですが」」
スッ、と彼女の赤い瞳が私を射貫く。それは常に柔和な笑みを絶やさずにいる、余裕を持つ強者である彼女が私の前で初めて見せた、真剣で、切実な、希うような───、
「私は、やめません。力不足は自覚しています、そのためにご迷惑をおかけしてしまうことはあると思います。……本当に、申し訳ありません。
でも、私はここで、紅魔館でパチュリー様に従う使い魔の小悪魔であり続けます。……私はそのためにここにいるのですから」
───自分の存在に不安を覚える、迷子のような表情だった。
「はあ。私、それには弱いんですよねえ」
握り拳をほどいて、脳裏をよぎった過去を振り払うよう努めて明るく声をかける。正直に言うとそもそも真剣な空気はあまり好きじゃないし、闘う必要がないのなら基本的に緩く付き合いたいのだ。
いきなり緩和した私の態度について行けてないのか、眼をパチパチさせて困惑した様子の彼女に苦笑しながら声をかける。
「驚かせましたよね、無理矢理聞き出しちゃってごめんなさい。私心配性なので、自分で新しいお仲間がどんな人なのか確認したくてですね? ……でも、良い人そうで助かりました! これから同じ紅魔館の仲間としてよろしくお願い、って大丈夫ですか!?」
目からぽろぽろと滴をこぼす彼女。先ほどまでの威圧感も気も一気に霧散し、ただの少女が泣いているようなその姿に動揺して彼女の背中をさする。触られて現状を把握したのか、うめきながら私に抱きついてくる。
「ごめ、ごめんなさい安心しちゃって……うぐぅ……(ほ、包容力の化身……まま……てか涙止まらない、みっともないなあ恥ずかしい)」
「ええ、大丈夫ですよ。ゆっくり、ゆっくり、落ち着いてください」
「う、うぅぅぅぅぅああああ」
私の背に回された手は人間と見まごうほどに脆弱で、パチュリー様の封印が機能していることと、無力になった状態で過ごしてきた不安を想像させた。彼女の目指すところがなんなのかは分からないけれど、この子はきっと
「……落ち着きましたか? 小悪魔さん」
「…………はい。ありがとうございます、お見苦しい所を……(ひ、久しぶりに人前で泣いてしまった。でもなんかスッキリした、自覚無かったけどストレス溜まってたのかなあ)」
「それはよかった」
「……(うわあ美人の笑顔だあ)」
私から顔を背けている彼女の頬は赤らんでいる。恥ずかしがる様子にかわいらしいと思いながらも、その横顔から険が取れていることに安堵した。
「……」
「(え? え? すごい髪梳かれてる、これ何のご褒美?)」
この子にとって、「パチュリー様の使い魔である小悪魔」であることが何よりも大切なのだろう。もしかしたらそれすらも関係なく、「紅魔館にいたい」と思っているのかもしれないが。
彼女の歓喜は、会いたかった人に出会えたから、自分の存在意義を見つけたから。
彼女の恐慌は、命の危機から、存在意義の否定から。
であれば、守ってあげよう。迷子の世話は慣れてるから。彼女が抱えるものが何であっても、
「あ、あの美鈴さん」
「どうしました?」
「いえ、嫌ではないですけど……あの、どうして頭を撫でられてるんでしょう?」
「頑張ってくれてるんだなって分かったので、甘やかしたくなっちゃったんです。……嫌でしたか?」
「(バブみがすごい)」
頭を撫でられ頬を染める彼女に、私は敵意を抱けない。だったらコレも私の家族で私の宝だ。そういうふうに生きてきたのだから、そういうふうにする。単純で重要なことだ、特に私達幻想の存在にとっては。
「小悪魔さん。これから紅魔館の一員として、どうか末永くお願いしますね?」
愛してあげよう、彼女の心が癒えるまで。
──────
甘々で蕩けさせられるかと思った。殺されそうなところからバブみ100%になるまでの落差が急すぎて本当に頭蕩けさせられそうよ。あのあとしばらく抱きしめられながら頭なでられ続けて、天国のような時間はパチュリー様が様子を見に来て終わりを告げた。
めちゃくちゃな距離感の状態を見られて慌てる私と『へえ。………………随分仲が良さそうね?』とすっごい微妙な表情で言われてしまった。疑問と呆れと嫌なものみたわーという感情がないまぜになっており、その表情が効いたのかなんなのか美鈴は『仲良しの印ですよー』と言いながら解放してくれた。
甘々タイムが唐突に終わり呆ける私を背景に二人は『聞くまでもなさそうだけどどうだった?』『お気に入りですね』『あんたらどっちか実は淫魔とかじゃないでしょうね』とそれこそ仲良さそうに会話しながら去っていく二人。今の時間は一体何だったのかと思考して、そして今仕事中だと気づいて急いで戻った私に待っていたのは非常にいつも通りの『はいこの分片しといて』という指示。あれ? 今の夢? と思いながら待っててくれた赤い妖精メイドちゃんと一緒に終業まで仕事をこなす。
次の日に咲夜さんがお茶の準備を持ってきてくれたとき、美鈴も襲来。ギョッと構える私をよそに昨日の剣呑な雰囲気も甘々な雰囲気もなく、和やかにお茶会が進んでいきあれ? やっぱり本当に夢だった? と思って仕事に戻ろうと一人になった瞬間。『小悪魔さん』と呼び止められ、あの甘々バブみ100%の状態で抱きすくめられ、『お仕事頑張ってて偉いですね。今日は落ち着いてて何よりです』と囁かれる。ひゃい!! と大声を出してしまうと、くすくすと笑いながら身体を離していく美鈴。
何!? 紅魔館原作乙女ゲーの世界に迷い込んじゃったの私!? と動揺を隠せない私と美鈴を見て、声に反応してか様子を見に来たパチュリー様が呆れ顔で『美鈴、ほどほどにしなさいよ』と言う。
……もしかして美鈴ってそっちの人!? しかも紅魔館の住民に周知されてるタイプ!? と戦慄する私をよそにはーい、と返事をして戻っていく美鈴。が、すれ違いざま『二人っきりのときは、呼び捨てでいいですよ』とそっと言われた。
夢じゃなかったみたいだけど何このイケメン!? 百合は眺めるだけ派の私をこうも揺さぶるとは……と赤くなっていると本棚の陰で距離を取られてた妖精メイドたちに見られていた。その後咲夜さんと仲良くなる前みたいに動いてくれるようになったけど恥ずかしい。小悪魔って原作でこんないじられキャラだったの??
でも仲良くなれてるのは嬉しい。この調子で紅魔館に溶け込んで原作通りの展開を特等席で見届けるぞ! おー!
──────
「うーん」
「あの悪魔本当にどういう正体なんだ? こんなに運命が操りやすいのにあの威圧?」
「まあ、折角だし、本当に操れてるか確かめてみるか」
「フランとも仲良くしてくれるかしら。あの子が外に出てくれれば万々歳ね」
ちなみにこの美鈴は小悪魔スキーではなく自分のお気に入りに入れた人(紅魔館は全員)と二人きりになるとだれにでもこうなります。誰だよ!!(←難産の原因)
クオリティはもうわかんなくなってきたのですがとりあえずプロローグにたどり着くことを目標に細々とやっていきます。ちなみにコミケの一般参加チケットの抽選申し込今日までですよ(二次創作モチベの要因)
リアルイベント開催できるようになって本当によかったですね。来年もあったらいいなあと切に思います。