『⚪月⚪日、警察署前にヴィランが出没し行方不明だったヒーローを置いて逃走。ヒーローは無事に保護されましたがヴィランを捕まえるべくヒーローや警察達が奮闘するも捕まえるに至らず依然逃亡中です』
一週間前に行方不明だったヒーローはとあるヴィランによって返還されたものの廃人となっていた。そのヴィランは杖をつき高笑いをしながら徒歩で立ち去り、数多くのヒーローやヴィランが立ち向かうも切り裂かれて追撃出来ずに逃走されてしまったのである。
そして廃人と成り果てたヒーローはそこで見たものをうわ言の様に呟き続けた。
「そこは化け物達の巣窟だ……」
『じゃあさっそく君の個性を消そうか♪』
女子高生の制服を着て数々のヒーロー達の個性を消失させ、絶望から廃人や自殺者を生み出した歩く災害
【ジ・エンディア】
『待って頂きたいミセス・エンディア。吾輩が彼を捕らえたのはあの方の理念を伝える為なのです』
杖をつきながらもその姿勢は真っ直ぐで風格を思わせるジェントルマンの老人。数々の孤児院で秘密裏に人体実験などの悪逆を成した者達から孤児を保護するも加害者を無惨な骸に変える
幼女の味方。
【ロリコン神父】
『力に溺れた愚か者め、裁きを与えよう』
かつてトップヒーローとして君臨していたが突如行方をくらまし、再び姿を現した際には汚職に走ったヒーローを粛正して周るヒーロー殺しへと成り果てた英雄
【絶対正義(ジャガーノート)】
『必要ない。彼も思い知る事になる』
全身を重瞳の瞳が宿る黒い影に覆われた青年が静止する。かつて【絶対正義】がヒーローだった頃に彼と対峙して裏社会最強として君臨していた【覇王(はおう)】。
『貴方も個性(ちから)が欲しいの?』
鎖で縛られたチンピラ達に少女が手を触れるとチンピラ達は白目を剥いて次々と発狂し、鎮まると新たな個性を試して使える事を確認すると膝を屈して忠誠を誓い始める。
その悍ましい光景に個性を造り与える事で崇拝させ従える者こそが彼らのボスなのだと痛感させられる。
(こ、こんな化け物達と戦うなんて…俺には出来ない!)
そのヒーローは髪が白髪に変わる程の絶望を知ってしまった。
「はむ…はむ…あのおじさん、私達を見てたら髪が真っ白になっちゃったけど大丈夫かな……」
「気にするな何時もの事だ」
マシュマロを食べる少女の頭を撫でる青年【覇王】こと項羽。先程のヒーロー廃人事件も少女に悪気はなく、彼女は善意でチンピラ達に個性を与えたのである。今まで没個性だった者達が新たな個性を与えられれば彼女に感謝するのは当然であり、発狂すらも激痛などなく彼らには気持ちいいと感じて白目を剥いていただけである。
「お菓子は沢山買ってきているからね〜」
「ありがとう、遥お姉ちゃん!」
「あぁん、もう可愛いなぁ」
少女に抱き付き頬ずりするのは【ジ・エンディア】こと輪道 遥。彼女は数多くいるネームドの中でも居場所が特定されながらもその余りの強さに手出し出来ない危険人物として放置されている。その死者数は数万人に及ぶものの、彼女自身は善良で手を出さなければ気軽に個性を使ったりしない為である。被害者はいずれもヴィランや功名心目当てで襲ってきたヒーロー達ばかりであるからだ。オールマイトに匹敵する戦闘力がある為にオールマイトを差し向けて失敗した場合に平和の象徴が不在になるリスクから全力で警察達が隠蔽しているのである。
「ふむ、やはり幼女は素晴らしいですな」
「手は出すなよ…」
「幼女は崇拝すべきものです。欲情するなど愚行ですとも」
ホロリと涙を流すのはイエスロリータ、ノータッチが心情の
【ロリコン神父】と彼を諌める仮面とマントを着た青年【絶対正義】。二人は元トップヒーローだったがヒーロー飽和社会の闇によって葬られそうな所を少女や【覇王】に救われたのである。そこで神父はロリコンに目覚め、青年は自身を陥れたヒーロー共を憎悪したのである。
「俺達の行動理念は忘れていないな【絶対正義】」
「かつての因縁はもう捨てている。今は俺を救ってくれた【覇王】とあの方に尽くす事だけが生き甲斐だ」
「それで良い。忘れるな」
「「「「
一つ訂正するならヤバイのは少女ではなく彼女を崇拝する者達が過激過ぎるせいでヒーローは壊されたのである。
「?」
「時期に仲間達も帰って来る。出迎えてやれ」
「うん、分かった」
嬉しそうに笑う少女に【覇王】は微笑む。
これは無邪気な少女が過保護なネームドヴィラン達のせいでいつの間にかラスボスとして祀り上げられている物語。
一人の少女の為にオール・フォー・ワン級が複数人もいる現状にオールマイトは泣いても良い。