「……では三好中将も……」
「まぁ……そうではあるが高野らとは少し違うな」
仲間がいたとばかりに高野はズイッと背を乗り出すが将和は苦笑しつつ熱燗の日本酒を呷る。
「語るは長くなる……」
「望むところです」
そして将和は高野に対して語り出す。彼が経験したその全ての物語を……。
「……………………………」
将和が語り終えた時、時刻は0500を指していた。高野の酔いはいつの間にか覚めておりただひたすらに水を飲んでいた。対して将和は語り終えると10本目の熱燗を飲んでいたのである。
「……三好中将は……いや、貴方は何を成さるためにこの世界に?」
「知らん」
高野の言葉に将和はそう答える。
「俺は前の世界で十分に歴史を動かした。だが、八百万の神々は満足せずに俺を働かせようとしている。俺がやる事はただ、日本をあの史実と同じ事をさせたくない。その意思で動いているだけだ」
「………成る程。少なくとも、我々はその点に関しては必ず共通出来る認識であると私は思う」
そう言って高野は右手を差し出し、将和もそれを理解して高野と握手をするのである。
「取り敢えず、ロンドン軍縮は脱退予定だが②計画は大幅に変更予定での実施だから何とか協力してくれ」
「まぁ何れは戦争の道しかありませんからな……」
「引き分けとするのが信条だな。日露と同じくな……」
将和の言葉に高野は頷くのである。なお、②計画は高野ら『紺碧会』の協力もあり極めて短時間で決定するのである。
『②計画』
正規空母
『蒼龍』『飛龍』
(史実より拡大発展型、70機余り搭載可能)
巡洋艦
『利根』『筑摩』
駆逐艦
『白露』型4隻
『朝潮』型10隻
潜水艦
『伊7』型(巡潜型)
潜水母艦
『剣埼』『高崎』
水上機母艦
『千歳』『千代田』『瑞穂』
工作艦
『明石』『三原』『桃取』
『蒼龍』『飛龍』は史実より拡大発展型となり70機余りが搭載可能とされていた。また、伊号潜水艦(海大型)に水雷艇、駆潜艇を取りやめたのでその分浮いた予算を工作艦に取り入れ史実で計画された『明石』型3隻が誕生する事になる。また、余った予算はその他の開発(ワルター機関の研究)等に振り分けられ、『紺碧会』に所属する研究員達が思う存分にワルター機関を研究するのである。
「しかし宮様、このような差配では末続中将らが騒ぐのではないですか?」
「構わぬ。末続らは時が来れば消えてもらう」
横須賀工廠にて宮様は前原少佐を伴い巡潜型の建造を訪れていた。
「今、建造中の『伊6』の艦体には軟性護謨皮膜を貼り水中探信儀からの発見されにくくするようにしています」
「ん。実験艦だが君等が目指す潜水航空艦隊が配備されるまでは試行錯誤を繰り返すが良い。その分の批判は儂や三好君が引き受ける」
「は、ありがとうございますッ」
宮様の言葉に前原少佐は頭を下げるのであるがその表情はあまり芳しくない。
「どうした前原少佐?」
「いえ……潜水艦の構想は取り合っているのに戦艦と空母の運用になると……」
「……仕方あるまい。互いの前世の運用方法は両方とも合っていたからな」
前原少佐の言葉に宮様は苦笑する。海軍では新たな③計画にて主力を戦艦にするか空母にするかの議論が白熱していたのである。
「新たな補充計画に戦艦7隻、空母10隻、巡洋艦10隻とは如何なる了見か?」
「『金剛』型に『伊勢』型の代艦であり都合4隻は機動部隊に随伴可能とする高速戦艦の予定だ。空母も装甲空母2隻に戦時量産可能に設計している改『飛龍』型6隻、巡洋艦も対空対潜の護衛巡洋艦等を予定している」
「しかし、予算が大幅に上昇しているッ」
「開発に予算を振り分けている。最悪でも戦艦6隻は認めてもらう所存だ」
海軍省では井上少将や高杉少将らが言論を繰り返している。賛成派と反対派も互いに運用方法は理解していたのだが、やはりそう簡単に認める事は出来なかったのである。取り敢えずは戦艦6、空母6、巡洋艦6としての計画を元に妥協案が成立するのであるが神楽坂の小さな料亭に集まった将和や高野達は苦笑していた。
「まだロンドン軍縮も脱退していないのにこの有り様ではな……」
「まぁ仕方あるまい。どちらも正しいからな、日本海軍機動部隊をどう活かすのかはそれ次第になる」
高野の言葉に将和は苦笑しつつお猪口に注がれた日本酒を飲む。
「来年度……照和13年に海上護衛総隊が新設されるが……まぁ暫くは旧式艦艇での運用だろうな」
「それは仕方ありません。開戦時までに近代化改装した旧式艦艇と海防艦で編成すれば3個護衛艦隊は編成可能でしょう」
宮様肝いりでの海上護衛総隊が照和13年から創設される。旗艦は『天龍』型の『龍田』となり所属艦艇も旧式艦艇が多かった。
海上護衛総隊
司令長官 伏見宮博恭王海軍元帥
旗艦『龍田』
第一護衛戦隊
『天龍』『龍田』
第一護衛隊〜第六護衛隊
『樅』型及び『神風』型駆逐艦で編成
これは宮様が第一次大戦で乗艦していた戦艦『安芸』での経験から肝いりでの創設となる。今は少ないが開戦時までは海防艦等を編成して輸送船団を護衛する予定である。ちなみに開戦時には長谷川が司令長官となるのは内定済みでもある。
「海軍は何とかしてるが……陸さんは相変わらずか」
「永田や岡村らが何とか粘っているが……」
「実は陸軍の中にも大高中将らも開明的であるとか……」
「ほぅ……(漸く此処で大高か……成る程。派閥は小さいようだな……)」
高野の話を聞きながら将和は日本酒を飲むのであった。そして歴史は進んでいく。欧州ではナチスドイツが台頭しハインリッヒ・フォン・ヒトラーが首相から総統に変わりつつあった。しかし、その中で空軍を一から支えてきたエアハルト・ゲーリング元帥やエアリスト・ミルヒ上級大将、エルンスト・ウーデッド上級大将、アーデルハイド・ケッセルリンク上級大将等有能な空軍に携わる者達が家族共々次々と失踪してしまう。
突然の事にナチスドイツは焦るが結局は「会食中に混ぜられた毒により執務不能」と暗殺未遂事件として処理、代わりにハンス・イェションネク航空兵大将が空軍総司令官となるのである。
「久しぶりだなゲーリング」
「久しぶりだね将和。いつも通りヘルマンで構わないよ」
照和14年1月、旅順にある小さな日本式の料亭にて将和と高野はドイツから亡命してきたエルンスト・ゲーリング等と会食をしていた。ドイツで失踪し行方不明となっていたゲーリングだが、これは予めゲーリングらで予定されていた事だった。
「あのヒトラーはボク達が思っている以上の者だ。悪魔かもしれないね」
「悪魔……か……(まぁそれに近いんだけど……言わないでおくか)」
ゲーリングの言葉に将和はそう思うが言わぬが仏である。なお、ゲーリングらは亡命する際にジェットエンジン等の設計図をコピーして持ち出す事に成功しておりこれは日本航空機を大いに向上させる事になる。また、ゲーリングらはナチスの圧政から亡命してきたドイツ人技術者を集めて『プロイセン』という航空会社を創設したりしている。
そして同年7月、北満州を保有をしていたソ連が南へ平和的な進駐として黒竜江省から前進し吉林省等に進駐、そのまま遼寧省に迫る勢いがあり日本は抗議したがソ連は無視をしそのまま遼寧省に雪崩込んだのである。此処に至り日本及び関東軍はソ連の暴挙とし在満の邦人を守る為に軍——関東軍が出撃、迎撃を開始したのである。
「……これ程とは……」
関東軍の増援として急遽参戦が決定した第39師団長の大高弥三郎中将は最前線で侵攻してくるソ連軍戦車を戦車砲で撃破する戦車連隊を双眼鏡から見ながらそう呟く。
(我等陸軍内にも同じ前世の記憶が持つ同志がいるのは知っていたが……まさかこれ程に戦車を持たせるとは……戦車の性能も前世の四式中戦車並の性能であるな……)
大高中将は奮闘する戦車——九七式中戦車『チハ』を見てそう思う。『チハ』は戦車砲に八八式野戦高射砲を母体にした中戦車であり30トン近い重量であった。
(やはり海軍の高野中将や三好中将らと接触しよう。彼等も同志ではないかという話もある。特に高野中将の前世は山本大将……三好中将は分からないが恐らくはそれなりの将官だろう……)
そう思う大高であり大高も彼等との接触で大きく変わると踏んでいたのだ。
(今度こそは……今度こそは妻を守らねば……)
昭和20年8月6日のあの日、大高の妻は広島にいたのだ。それがあるからこそ大高を動かす理由になるのである。その後、日ソの紛争——満州事変は2カ月程度で停戦となり遼寧省に侵攻したソ連軍は引き揚げるが引き揚げるどの部隊もボロボロでありソ連軍は5万近い死傷者を出し壊滅状態になるのである。
そして同年11月、神楽坂に一発の銃声が響き渡るのである。
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