東方白狼伝説   作:青森の桜前線

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 人のまばたきは、さながらビデオフィルムの一コマのようだ。

僕たちは連続した時の中を生きているのか、生かされているのか、時々わからなくなる。僕たちは監督なのか、キャラクターなのか。どっちだっていい、だって僕は僕なのだから。





第十話 鬼の里へ

 味気のない部屋での一週間は辛くなると思っていたのだが、それほどでもなかった。ヤゴコロとの会話が多少はあったし、何より外に出るためだ。彼女に言った言葉に噓はなく、本当に何でもする覚悟だった。

 

彼女の言う実験も辛いものはほとんどなかった。最初はどんなマッドサイエンティストじみたことをされるかと身構えていたが、人間用の薬が妖怪にどの程度効くかなどのデータを取るものが大部分を占めた。だが、中でも下剤の投与はきつかった。どうやらオレには特別効くらしく、えらい目に遭った。あの時のヤゴコロの悪魔のような顔は忘れない(いつか見てろよ…)。

 

 

 そんな訳で一週間が経ち、オレたちは外に出る準備をしていた。何本かの薬を打ち終え、オレが耳と尻尾を隠すためのローブを羽織ると、ヤゴコロもまた準備を終えたのだろう部屋に入って来た。

 

永琳「用意はいいかしら?」

 

主「見た通りだ、いつでも行けるぜ」

 

 ベットから立ち上がったオレはローブの裾をひらひらさせながら答えた。その様を見てヤゴコロは不服そうに口を尖らせた。

 

永「…もう!これじゃ貴方の尻尾が見えないじゃない」

 

主「はあ?アンタが羽織れって言ったんだろ」

 

永「そうだけどさあ…」

 

 ヤゴコロは変わった奴だ。研究のために尻尾を触らせて欲しいと言ってきたので仕方なく触らせたのだが、そこからが悪夢の始まりだった。それからヤゴコロは毎日それをねだってくるようになり、最初はオレも素直に従っていたのだが段々鬱陶しくなってきて一回キレた。それ以来、一日一回だけ触るという約束のもと、この問題は解決した。ヤゴコロは年齢こそは知らないが、オレよりも大分年上だろう。だが、心は子どものままだ。たまに駄々をこねたり、拗ねたりする。いつの会話だったか、ヤゴコロが独身だと聞いた時には“だろうな”と思った。思っただけで声には出していないのだが、そのあと殴られた。なぜバレたし。

 

永「まあ、いいわ。今日の分は触ったし。じゃあ行きましょうか」

 

 ヤゴコロがそう言うとオレを連れてドアの外に出た。彼女が出入りする時にチラチラ見えていたが、部屋の外はコンクリート張りの廊下になっていた。ひんやりとした空気感が気持ち良い。左手に20メートルほど進むと上り階段が見えてきた。どうやらこの上が彼女の自宅らしい。

 

主「…おいおい」

 

 階段を上り、その先の鉄のドアを開けると、驚くべき光景が飛び込んできた。むせ返り圧倒される衣類の山、恐らくちゃんと読んでいないであろう書類の山、乱雑に隅に寄せられた本の山、山々山々。なんだオレは遭難してるのか?

 

 

主「片付けろよ…」

 

永「…うるさい。」

 

 眼前に連なる山々をかき分けて(文字通り)前に進み玄関に着いた。ヤゴコロがドアノブに手をかけるとこちらを振り向き声をかけた。

 

永「じゃあ開けるわよ」

 

 唐突に光が漏れた。長い間人工の光にしか照らされていなかったオレは地面に反射する太陽の光に目がくらんだ。徐々に明順応していき、視界が開けてくると、生まれて初めて見る景色がそこにはあった。

 

 

 紺碧の長方形が屹立する奇怪な木々のような建物が辺りに広がり、その間をまるで働き蟻かと見間違う程の沢山の人間が闊歩していた。彼らの足元を走るは白亜の舗装された道。それと直角に接する壁には情報を伝えるべく電子が点滅していた。ハクの生まれ育った場所とはありとあらゆるものが違う、否違いすぎる。そのギャップにやられて脳がフリーズしていると、永琳が手を引っ張ってきた。

 

永「こっちよ」

 

主「え、ちょ!」

 

 理解が追いついていないままハクは永琳に連れられ歩かされる。川の様に歩く人の流れの中に飛び込んだ。

 

 

 

生命には総じてエネルギーが宿っている。神には神力、妖怪には妖力、人間には霊力といったように。これらは生命活動するためのエネルギーそのものであり、様々なことに応用できる。まあつまり何が言いたいのかっていうと、オレは妖怪でこの体には妖力が流れているってこと。そして周りにいるのは沢山の人間たち、霊力を持ったね。いくらローブで姿を隠したって、見る奴が見れば一人だけ妖力垂れ流した怪しい奴がいるぞってなる。そのことを考慮したヤゴコロは、オレにある薬を飲ませた。それは『妖力を霊力に置換する』効果をもつものだ。これによって詳しく調べなければバレないようになっている。

 

 しばらく歩いていたオレたちは大きな壁にぶつかる。それはこの都市を囲う巨大な城壁だった。城門と思われる所には兵士たちが駐屯しており、暇そうに、行き交う人々の流れを見ていた。そんな彼らの元へヤゴコロは近づいて行き、話しかけた。

 

永「こんにちは、外の調査をしたいのだけどいいかしら。」

 

 ヤゴコロの言葉に兵士たちははっとして途端に姿勢を正す。ここのリーダーであろう男が兵士に耳打ちし、彼を裏に走らせた。

 

兵士「これは八意様、本日もお勤めご苦労様でございます。只今門を開けておりますので少々お待ちを…。おや」

 

 兵士はヤゴコロの隣にいるオレに気づくと、そのことを質問した。

 

兵「八意様、本日はおひとりではないのですね。その方も出られるのですか?」

 

永「ええ、私のゼミの生徒なの。後々は私の下で働いてもらいたくて、今回同行させることにしたの。ダメかしら」

 

兵「いえ、問題ありません。八意様にはいつもお世話になっているのでそのくらいは…」

 

 そうこうしていると、唸るような地響きとともに門が開き始めた。ヤゴコロは門番たちに軽く会釈をするとオレの手を取って出ていった。

 

後ろで門が閉まる音が聞こえると、オレたちは“血の境界線”を目指して歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 新緑に覆われた大地を踏み越え、ついには荒涼とした荒れ地が広がる場所に行きつく。此処こそが先の大戦“人妖大戦”の最大激戦地であり現在血の境界線が引かれる、言うなれば人間と妖怪の世界を分ける境目である。そして、此処でオレとヤゴコロは出会った。

 

主「ふぅ、着いたな…」

 

 被っていたローブを脱ぎ、吹く風に全身を震わせる。ここからは1人だ。

 

永「じゃあ私はフィールドワークしてるから、行って来なさい。どのぐらいかかるか知らないけど、二日くらいはキャンプとかしてここにとどまれるから、それまでには戻って来てね」

 

主「…ああ。分かってるよ」

 

 ハクは遠くを見ていた。ただ、遠くを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 一日かけて鬼の里へとやって来た。そこには八ヶ岳と蒼穹に魅せられた活気ある村が…、あるはずだった。

 

フラッシュバック………フラッシュバックだ。

彼の故郷と違うのは、それが破壊されていない事だった。争った形跡も、血の跡もない。ただ、忽然と()()()()姿()()()()()()()()()のである。

 

 ハクは過去の記憶により、戦々恐々としながら村の中へと入って行った。本当に…、この前来た時のままだ。鬼が居ないだけで、それはただの日常だった。

 

 

主「ッ!?」

 

 _____ふと、前に誰かが立っているのが見える。

花が散り、新緑を備えた桜の木の下に、彼女はいた。背丈を超える異様に長い刀に、肩を露出させた着物姿、その後ろ髪には大きな簪が差してある。そう彼女は、あの日彼の故郷を襲った一人だった。

 

 

?「悲しいなあ」

 

 桜の木を見ながらそう(こぼ)す彼女はハクの存在に気がついているようであった。そして彼に語り掛けるように言葉を続けた。

 

?「新たに生命(いのち)が芽吹くということは、ある生命が淘汰されるということだ。…過去の存在はいずれ忘れ去られてしまう。世界の生命の数には限界というものがあるのだよ、少年。」

 

 くるりと身をひるがえしハクの方に向き合う。

 

?「この間ぶりだな、少年。そういえば名乗りがまだだったかな?私の名前は“木花咲耶姫(このはなさくやひめ)”。今は、ある友達の手伝いをしているところでね、以後よろしく頼むよ。」

 

 彼女が礼をしたところで、ハクが声を出した。

 

 

主「…タダノさんとモブオさんは、どうした」

 

木花「む…、ああ彼らかい。勿論手厚く葬ったよ、何せ彼らは私の頬に傷をつくった勇敢な戦士だからね。それとも、墓の場所を教えてもらいたのかな?だったらあっちの」

 

 ゴッ!、ハクの結界を纏った拳が木花咲耶に降りかかる。だが、彼女は刀の柄でそれを受け止めて平然と話を進めた。

 

木花「…白狼族というのは随分と手が早いんだな。全く礼儀のなっていない子だ!名を、名乗り給え。」

 

 

主「…オレは狗剱ハク、お前を殺しに来たッ!!」

 

木花「その意気や良し!!」

 

 二人は干戈を交えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




【補足】

 今回はあまり補足するようなことはないですね。強いて言うのであれば、八意永琳の能力が「あらゆる薬を作る程度の能力」なので、ドラ○もんのポケットみたいに便利(小説の展開的に)ということくらいですかね。まあ、これを煎じすぎるのもよくないですが…。
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