東方白狼伝説   作:青森の桜前線

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 人はなぜコミュニティを形成するのか。

生き残るためか
仲間が欲しいのか
自分の存在意義を見出したいのか

いや、ただ、寂しいだけかもしれない。





第十四話 永琳の気持ち

健人「それじゃ、まずは打ち合ってみようか」

 

 道着に着替えたオレを見て師匠が言った。渡された竹刀を握りしめてとりあえず構えてみる。

 

健人「…うーん、もしかしてハク君。剣持つの初めてだったりする?」

 

主「はい、そうですね…。」

 

健人「なるほど。まあ構えは人それぞれだからいいんだけど、脇は締めた方がいいよ」

 

 そう言いながら師匠は手でわかりやすいようにオレの体を矯正してきた。

 

健人「背筋は伸ばして、腰は少し落とす。ちょっと窮屈かもしれないけど、これだけは基本だから守ってね」

 

主「はい」

 

 師匠に直されたオレの構えはなんか様になってた(気がする)。確かに少しきついが慣れていくしかないだろう。師匠は自分の立ち位置へと戻りオレと同じように竹刀を構えた。

 

 

健人「じゃあ、打ち込んできてねー」

 

主「はあッ!」

 

 ハク竹刀が健人の脳天目掛けて振り下ろされる。風がゴオっと鳴き、それを正眼に構えていた師匠が受け止めた。竹と竹がぶつかる音が道場に響く。

 

健人「…ふう、やっぱり力は強いねー。」

 

 両腕で受け止めた健人はハクの力を称賛するが、だけど…と言葉を続けた。

 

健人「剣は腕で振るもんじゃないよ。もっと強く踏み込んで、剣に体の重さが伝わるように打つんだ。それと、流れで斬ってね。」

 

 そこまで言うと健人は横を向き、ハクに体全体の動きが見えるようにして実演してみせた。

 

健人「相手を、"斬る"って思って斬るんじゃない。踏み込んで、構えて、そしてその流れのままに斬るんだ。斬るのは結果であって、過程じゃない。この三段階をきちんと踏まないと、その一撃は軽くなっちゃうからね、気をつけてみて」

 

主「…ずいぶんと細かいんすね。剣術って」

 

健人「あれ、飽きちゃった?」

 

主「いえ、オレが強くなるための努力だったら何でもします。ですから、ご指導お願いします!」

 

健人「♪」

 

 

 それからも師匠との打ち合いは続き、昼、夕方を回り、辺りはすっかり暗くなっていた。その時、道場の戸がガラガラと開いた。

 

永琳「げ、まだやってたの貴方たち…」

 

 仕事で疲れているのだろう、げっそりとした永琳は、熱を持って鍛錬しているハクたちを見て呆れ顔をした。

 

永琳「…朝からやってるのよね。本当よくやるわ…って、依姫ちゃん!?」

 

 永琳は、正座でハクたちの打ち合いを眺めている依姫を見て驚く。

 

依姫「八意さま、お久しぶりです」

 

永琳「え、ええ…久しぶりね…じゃなくて!もう夜よ、帰らなくていいの?綿月様たちが心配してるでしょう?」

 

依姫「父さまと母さまは、鍛錬のためならばよいと言っていました。それに、いつも鹿島さまが送ってくださるので…」

 

永琳「ああ…そうなの。」

 

 

 

 

健人「ハク君!相手の攻撃を避ける時には"体捌き"で避けることを忘れないで!体で避けようとすると相手にわかっちゃうから、脚運びが先で体がそれに追いついてくるように避けて!」

 

主「…はいっ!」

 

 流石に疲労の色が見えてきたか…、ハクの様子を察した健人は一つの流れが終わると待ったをかけた。

 

健人「うん、今日はここまで。よく頑張ったね」

 

主「ふう…はあ…はあっ…はあっ…」

 

 ハクは緊張の糸が切れたのかその場にへたり込む。呼吸が乱れ、額からは汗が噴き出し、天井を見上げる。

 

主「つか、れ………た…………」

 

 ハクはそのまま目を閉じて、意識を手放した。

 

 

主「……………」

 

健人「あ、あれ?ハク君?ハクくーん!おーい、って眠っちゃったか…。」

 

永琳「健人」

 

 その様子を見ていた永琳が声をかけてくる。竹刀などを片付け始めていた健人は、特に驚くこともなく彼女の呼び声に答えた。

 

健人「やあ、永琳さん。ハク君のお迎えかな?」

 

永琳「…家に帰ったら誰も居なかったから、まだやってるのかと思って来てみたのよ。案の定やってたわね…、今って夜の9時なんだけど…。」

 

 道場の壁に掛けられた時計を見ながら話す永琳は、眉がひきつり若干苛立っているように見えた。

 

健人「…うーん、だけど1ヶ月で"鹿島の剣"をものにするためにはこのくらいやらなきゃねー。特に明日は僕仕事で道場に居ないんだし。」

 

永琳「そ、それは、そう…だけどさあ…。」

 

 ぷくーと永琳は頬っぺたを膨らませる。健人は苦笑いしながら永琳に語りかける。

 

健人「…永琳さん、なんか変わったよね。前はロボットみたいで怖かったけど、今は別の意味で怖い(笑)」

 

ドカ、バキ、ボコ、

 

 

永琳「どういう意味…?」

 

健人「そんな悪い意味じゃないよ!殴らないでよ、痛いなーもー」

 

 健人は戯けたような笑みから一転、真面目で穏やかな表情になった。

 

健人「ハク君が来てからさ、永琳さん優しくなったよね。なんて言うのかな、表情?雰囲気?前までは残酷なこと平気で言うんだもん、全部正論だったけどさー。だから、大切にしてあげなよ、ハク君のこと。もう、そんな子とは出会えないかもしれないから…さ」

 

 道場に冷たい夜風が吹き抜ける。衣服や髪が揺れ、確信を突かれたかのように体が震える。

 

健人「そんだけ…。じゃあ、僕は依姫ちゃん送ってくるから、ハク君のことよろしくねー」

 

 

 

 

 

依姫(き、きゃあーーー!なんかすごいことになってるぅーー!?)

 

 あ、どうもこんにちは。私の名前は綿月依姫、世間ではまじめで通っている私ですが、人には言えない趣味がありまして…。

 

依姫(この前の昼ドラで見た展開そのままだー!三角関係だー!本当に実在したんだー!!)

 

 そう、私は昼ドラが大好きである。あの女と女の泥沼の戦い、ヒロインを取り合う男たち、そして修羅場…、ああなんかもう最高である(語彙力)。

 

依姫(これって"俺は君を変えてあげられなかった、でもソイツなら…君を変えてくれたソイツとなら幸せになれる…。だから、幸せになれよ"ってことじゃないですか!やだー!でも絶対にあとで好きって気持ちが捨てきれなくて戻ってくるパターンですよね!そうですよね!)

 

 

健人「…何はしゃいでんの、依姫ちゃん」

 

依姫「はうわあっ!?え、ははははしゃいでなんかいいませんよよ!わ、私はまじめですからね…、まじめ…うん、まじめ」

 

健人「?よくわかんないけど、帰ろうよ」

 

依姫「え、ええそうですね!帰りましょう、帰りましょう!…ガラガラガラっ!おじゃましました!!」

 

健人「依姫ちゃん、そこ押し入れなんだけど…」

 

 

 

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼

 

永琳「私って、変わった…のかしら」

 

 道場を出て、眠ってしまったハクを背負いながら家へと帰る途上、永琳は健人から言われたことを思い返していた。“もう、そんな子とは出会えないかも”、か。自分でもそう思う。

 

 

物心ついた頃から、私には親がいなかった。死んだのか、それとも赤子の私を捨てたのか、今となっては知る由もない。月の都もまだ存在しておらず、その頃はまだ血の境界線もなかった。そう、妖怪と人間が混在していた時代である。あの頃の人間たちは人を喰らう妖怪を恐れて、小さな村を作りそこで生活をしていた。度々襲い来る妖怪を撃退しながらたくましく生き抜いていたのである。そんな中、ある者たちが天から降りてきた。

 

“天孫”__彼らは自分たちのことをそう称した。彼らはバラバラに存在していた人間たちの村をまとめ上げて一つの都市を造り、彼らの故郷にあやかってそこを“月の都”と名付けた。そのような折に、私は“ツクヨミ様”に拾われたのだった。ツクヨミ様と言っても今のツクヨミ様とは違う、彼のお祖父さんだ。初代ツクヨミ様はそれはそれは強い人だった、並大抵の妖怪では傷一つつけることは出来ずに殺され、それでいて人々に優しかった。この人望が人間たちをまとめられた理由のひとつだろう。初代ツクヨミ様は私に古今東西の知識を詰め込んだ。彼が親代わりで、何か恩を返したいと思っていた私もそれを望み、昼夜問わず勉学に熱中した。そののち、私は"月の都の頭脳"と呼ばれて彼の横に立っていた。孤児だった私は、彼の右腕として国政を支えるまでに至ったのである。しかし、そんな日々にも終止符が打たれることになった…。

 

"人妖大戦"ーー。はっきり言ってこの戦いで初代ツクヨミさまが亡くなったのは私のせいだ。彼の強さを過信した私は、効果的な作戦として中央のツクヨミ本隊で敵を引きつけて左右の軍で包囲する策を献じた。…今考えると自分のことを殴り倒したくなる。なぜ囮部隊がツクヨミ様でなくてはいけなかったのか、敵を釘付けにする為とはいえツクヨミ様を危険に晒すことは最も避けるべきことではなかったのか!彼は、私のことを可愛がっていた。実の娘のように可愛がっていたんだ…!だから、この策は採用された…。

 

人妖大戦が、天孫・白狼・鬼側の勝利に終わり、諸々の戦後処理が済んだ後、私は軍法会議にかけられた。ツクヨミ様の死の原因が私にあるのは確かだった。私は潔く死刑に処されようと覚悟して出席していた。しかし、その中で、ツクヨミ様が最期に残したという言葉が読み上げられたのだった。

 

 

"八意永琳は有能である、罪を許して厚く用いよ"

 

 

私は涙が出た。涙が止まらなかった。そして深く誓った。この人の一族、何世代何十世代何百世代に至ろうとも!深く!恩を尽くして仕えようと…!そう…誓ったのだった。

 

 

 

 

 

 

永琳「それから私は、少しのリスクも冒さなくなった。何よりも主君であるツクヨミ様の為に、どんなに冷酷なことも、それが必要であるならば容赦なく実行した。そんな私をいつの日からか、人々は"魔女"と呼んだの…。ふふっ、そりゃそうよね」

 

 街灯りが遠くなり、いつしか永琳の家の前まで来ていた。

 

永琳「"月の都の頭脳"…なんて、昔の異名で呼んでくれてるのは今のツクヨミ様だけよ…ほんと…」

 

 

永琳「ねえハク、私ね…貴方を()()()()()()と思うの。月に移住したら、一緒に暮らしましょう?今度は実験体じゃなくて私の息子として」

 

永琳「私…家族が居たことなんて……、おじいさまとは確かに家族みたいな関係だったけど、養子縁組したわけじゃないし…。だからね、家族って初めてなの。でも、貴方とならなりたいわ、家族に……」

 

 永琳は深く息を吐いて、頭を左右に振った。

 

永琳「…駄目、これじゃ私のわがままじゃない…。ちゃんとハクの気持ちも聞かなくちゃ、仇討ちのこともあるんだし…、寝てる貴方に話してもね。えへへ…」

 

 キーロックを外して玄関の扉を開ける。そしてそのまま家の中に入り、電気を点けた。

 

永琳「また、改めて話すわね…。なんか沢山話して疲れちゃったわ……ふわあ…。早く寝ましょ」

 

 リビングに入ってきた永琳はハクをソファーに寝かせて、自分はテーブルに顔を伏せて眠ってしまった。

 

 

 

 

 




【補足】

正眼の構え:中段の構え方で刀の切っ先を相手に向ける。剣道でよくとられる構え方。

※健人との修行シーンの剣の振り方などは、門外漢がそれっぽいこと言ってるだけですので、当てにしないでください。
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