少なくとも、民俗学的にその土地の風土を調べるのにはうってつけですが。昔の人々には確かにそこに「いる」という感覚があったんでしょうね。現代に生きる我々は多くのことを考え過ぎてしまう。科学の進歩は、文化の進歩とは言えないのかな。
第一話 白狼の里
ここは白狼の里。三方を山に囲まれ、川が村に沿うように流れている。外敵の侵攻を防ぐためなのか、入り口に架かる橋は一本だけ。その奥にある大きな門は、今まで何度も攻撃を受けてきたのだろう、傷だらけだが誇らしげに悠然とそこに坐していた。門をくぐり抜けて中に入ると、田園風景が広がり村の男や女たちがせっせと自らの作業に従事していた。その傍らでは、子どもたちが泥だらけになりながらも遊んでいる。太陽から日を受け、キラキラと輝いていた。
それらを片目に通り過ぎて、家屋が建ち並ぶ村の中心へと向かう。進むにつれて、だんだんと、こちらも賑わっている声が聞こえてきた。その中で一人の男の声が一段と際立って民衆に語り掛けているのが分かる。その男は他の村民よりも一段高い位置で、朗報だ!と興奮冷めやらぬ様子で話していた。
「皆の者!!先程、鬼の一族より連絡が入った。彼らが住まう八ヶ岳で噴火があったそうじゃ…」
「な、なんだってー!」
「なん、だと」
「そりゃ、本当かい!
村長と呼ばれた男の一言を受けて大いにはしゃぐ民衆。その中で一人の村人が声を上げた。
「じゃあ…!
村長「ああ!
バッ、と左手を挙げる村長。その合図を受けてか、近くに待機していた従者が銅鑼をかき鳴らした。
村「
「「おおおおおおおお!!!!」」
歓声は大地を揺らし、遠くにいた村人にも伝わる。火祭りだ!火祭りが始まるぞ!そのような声があちこちで巻き起こり、大きなうねりを以て村の中心へと押し寄せた。今回は誰が選ばれるのか、前回出場者の來寄さんか、この前攻めてきた妖怪をひとりで倒した鍛冶屋の息子も有力だぞ、山に籠ってるがあの片手の爺さんもあるんじゃねぇか。そのような言が飛び交う中、一人の少年が大言を発した。
「オレがでるっ!!」
周りの民衆は一斉にその声の主を見る。そこには大人たちの肩ほどの背の高さの少年が、手を挙げながらぴょんぴょん跳ねていた。その様を見るや、大人たちは笑い出した。
「…ぶっ、はっはっはっはっは!!お前が出れる訳ねぇだろ、ハク!」
「流石、隊長殿の息子さんだ。大言壮語とは恐れ入った!」
主「ん?オレは本気だぜ。何なら今話に上がってた人たち、全員倒して俺がでる!」
「「はははははは!」」
主「何がそんなにおかしいんだよぉ」
「ハクっ!!」
人ごみの奥から声が聞こえてきた。すると、すみませんすみません、と人をかき分けながら一人の女性がハクの前に現れた。
母「ハク、ダメでしょう。まだ子どもなんだから!」
主「母さん!で、でもオレ、出たいし…」
母「まったく、ほら!行きますよ」
主「ちょっ、引っ張らな…!て、力強っ!?ぐ~~~っ!」
そう叫びながら少年は、母親に引っ張られて人混みの向こうへと消えていった。その場はまた笑いに包まれた。
村(ハク…來寄の息子か。ぬう…、丁度良いかも知れぬのう)
村「待つのだ!ハクよ!!」
村長の声に驚き、家に帰ろうとしていた親子はこちらを振り返り、周りの民衆もまた村長の方に注目した。
村「その心意気、大いに気にいったぞ!おぬしが出よ!」
「「えっ」」
村「今回の武闘祭、出場者はお前だ!
「「ええええええっっ!!??」」
母「えええっ!?」
主「やったぜ」
?「待って下さいよ!村長!」
村長を制止するような大声。それはすぐ傍らに控えていた大きな太刀を差した男から発せられた。男は一歩前に出て村長に問いかけた。
?「何故ウチの息子を?妻も言った通り、ハクはまだ若い。出場させるのはもう少し歳を重ねてからの方が…」
村「來寄…。実は今回の鬼方の代表がな、鬼の里を治める鬼門寺家のご子女なのだよ。だから、こちらとしてもそれ相応の相手を用意しないといけなくてだな…。親衛隊長の息子ならば、それも務まろう。聞けばそのご子女はハクと同い年とのこと、何より本人のやる気もあるみたいだからな。」
村長がハクの方に目を向けると自信満々にこちらを見つめ返していた。その隣では未だ母親が混乱して頭を抱えているが。
來「むむむ、そうですか…。ですが、ハクには戦闘経験などまるでありませんし…。」
村「そこでじゃ。打って付けの相手を考えておる。ゴニョゴニョ」
來「………。おおっ、先生ですか。確かに先生ならば戦えるくらいにはなるでしょう。」
親衛隊長の了承が得られたことで村長は改めてハクに向き合い、告げた。
村「ハク!これからおぬしには北東の
主「へへっ、あたぼうよ。んじゃ早速行ってくる!じゃあな、母さん!父さん!」
そう言うと、事前に準備していたのであろうか大きな風呂敷包みを背負い北東へと駆け出した。母親が止めようとするもその勢いには追い付けず、手をすり抜けて行ってしまった。
母「ああ、なんでこんなことに…」
來「まあまあ若葉、いずれは…と思っていたことだ。それが少し早まっただけさ。アイツを信じて待とう」
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~朧山~
朧山を一言で表すとすれば、それは“霧”であろう。常時濃霧が視界を遮り、前へ進んでいるのかと思っていても出口に戻っていたり、同じところをグルグル回ってしまうなどザラだ。その為ほとんどの人はこの山に近づかないが、一部の力を求める者たちはこの霊山に挑む。その半分以上が先述の通りになり途中でリタイヤしてしまうが、稀にその奥の祠に至り、白狼の秘術を会得する者がいる。その者たちこそが、村長直属の親衛隊に加入することを許可されるのだ。
現親衛隊長“狗剱來寄”の息子である狗剱ハクは、勿論そんなことは父親から聞いていた。
主「だ、だめ………。オレのイメージだともっと楽勝だと思ったのに…。ああ、甘い考えだったなぁ」
そう溢していると、自分の背中の方から声をかけられた。
?「少年、リタイアかね」
主「うわっ」
驚いて振り返るとそこには樫の杖(棍棒?)を片手でついた、細身の
?「随分と若いのう…。その歳でここに来るとは、いかなる理由かね」
主「び、びっくりしたぁ~。なんだよじいさん!オレは武闘祭に出るためにこの山で修行してこいって言われてて…」
武闘祭の語を聞いた瞬間、じいさんの目が開いた。ほう、そうひとつ呟くと、クルリと体を反転させた。
?「…ついて来なさい。」
主「え?いや、じいさん。オレ先を急いで「いいから来なさい」……お、おう」
じいさんは迷いを見せることもなくスタスタと歩を進める。そのあとに続いていくが、何という健脚か。見た目からは想像も出来ないスピードで前へと進むじいさんを全力で追うハク。無我夢中で追い続け、遂にある洞窟の前で止まった。
主「はぁっ、はぁ、はぁっ!ア、アンタ!“タケ爺”だろ?」
タケ爺「ふむ、如何にも…ワシがタケ爺じゃ。白狼の長より言づてを受けておる、稽古をつけてほしいと…」
主「おう!へへっ、何から始めんだ?オレは何でもいいぜ」
タ「では」
タケ爺がその場から消えた。周りを探すと、木の枝の上に立っていた。
タ「鬼ごっこじゃ」
主「は?」
タ「ワシを捕まえてみよ。話はそれからじゃあ“
主「…!」ゾク
【補足】
"白狼"は私オリジナルの妖怪で、真っ白な狼を人化したような姿です。同時期に生きていた鬼と比べると、その能力は「守」に偏っています。
“武闘祭”は白狼一族と鬼一族との間で、八ヶ岳が噴火した時にのみ行われる祭りの事。開催地は白狼の里か鬼の里、毎回代わりばんこに開催される。運営は開催地に一任され、双方から代表者一名を選び、互いの武を競う。元々この祭りは昔、白狼と鬼が争っていたころに停戦の祝いとして行われたことに由来し、出場者はひとりで開催地に向かう。これはかつての風習によるものであり、決闘はひとりで相手の陣地に乗り込むことが美徳とされているため、このような形になった。
狗剱來寄は前回の武闘祭優勝者です。“狗剱”という苗字は狗の剱、つまり代々白狼一族の武力の象徴という家柄であり、親衛隊長という地位を世襲しています。
ハクの母親の名前は“狗剱若葉”です。
朧山で遭難しても死ぬことはありません。タケ爺が定期的に見まわりをしているので、言えば出口に連れていってくれます。