東方白狼伝説   作:青森の桜前線

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『戦争が悲惨なのはいいことだ。でなければ我々は戦争を好きになりすぎる。』

 これは、アメリカ南北戦争で活躍した南軍の将軍“ロバート・E・リー”が言ったとされる言葉である。

戦争では何の脈絡もなく人が死ぬ。何の道理も、意義も、想いも、凶弾の前では無いに等しい。そんな、神が坂を転げ落ちていくような環境に立ち、人は何を思うのだろうか。





第二十話 戦場の再会

虎千「は、ハク…。その、すみません…突然抱きついてしまって」

 

主「いや、それは大丈夫だけど。虎千代が抱きついてる間、オレずっとお前の仲間から攻撃受けてんだけどさ…。まずそれを止めるように言ってくれない?」

 

 虎千代がハクに襲われてると思い、我が姫を助けようと突撃してくる鬼たちをいなしながらハク言う。そのことに気付いた虎千代は慌てて周囲の鬼たちに呼びかけた。

 

虎千「ま、待って下さい皆さん!この人は敵では有りませんっ!ハクですよ、白狼族の狗剱ハク!!」

 

 その名前を聞くと周囲にいた鬼たちはピタリと攻撃を止める。そして一人一人が驚愕した表情を見せるが、やがて怪訝そうな顔をする。

 

「ですが、姫様…。ソイツ人間では?」

 

虎千「へ?………あ、あーっ!本当です!どういうことですか、ハク!」

 

主「い、いやあ…薬の作用でね。話すと長くなるんだけど………まあ1日経てば元に戻るから」

 

虎千「そ、そうなんですか…?。それにしても………生きてっ、いたんですね…!白狼の里をいくら探してみても姿がないから…し、死んだんじゃないかって!!」

 

主「うん、心配かけてごめん。…あの時は父さんがオレだけでもって逃がしてくれて」

 

虎千「そう…ですか、來寄さんが」

 

主「って、そう悠長に話してもらんねぇぞ…。」

 

 ハクが虎千代に周りを見るようにジェスチャーを送る。周囲では依然として妖怪と人間の骨肉の争いが繰り広げられていた。

 

主「ま、そういう訳で。場所変えねぇと満足に話もできん。」

 

虎千「そう、ですね…。どうしたら……っ!?」

 

 瞬間、ハクと虎千代の間に一閃が走る。

 

健人「大丈夫!?ハク君!」

 

 ハクが襲われているとでも思ったのか、健人がハクの隣に跳び込んでくる。

 

健人「ハク君!塚原からの指示だ、僕たちは一旦下がって重装歩兵を配置して守りを固める。だから、早く退くよ!」

 

主「待ってください師匠!」

 

 ハクの大声に健人は驚いた顔で彼を見る。

 

主「あの、オレ一緒には行けません。前に話した仲間と出会えたんです!オレは彼女たちについて行こうと思います、だから」

 

 そこまで話すとハクの状況を察したのか、この場には似合わないほどの爽やかな笑みを浮かべた。

 

健人「そっか…、分かったよ。それじゃあこれでお別れだね」

 

主「はい!師匠には本当にお世話になって、でも!また会えますから!」

 

健人「うん。じゃ、僕は退くね。…頑張りなよ、ハク君」

 

主「はい、ありがとうございました!!近いうちに、また!」

 

 やり取りを終えると健人は辺りの兵士をまとめ上げ後ろに退いていく。その後背を追撃しようと、さっきまで押されていた妖怪たちがチャンスとばかりに襲いかかる。しかし_______、彼らは突如として空から飛来した銃弾に貫かれて倒れていった。

 

虎千「!? 退けッ!一旦退けェ!!」

 

 虎千代の叫び声に、一緒になって追いかけていた鬼たちも命の危険を感じてその身を翻す。銃弾の雨を受ける妖怪軍前線は、大混乱状態に陥っていた。

 

虎千「兎も角、ハク!」

 

 体を張って味方の撤退を支援している虎千代がハクに呼びかける。

 

虎千「このまま隊を纏め父上の所まで退きます!貴方も付いて来て下さい!!」

 

主「ああ、わかった!」

 

 

 ある程度の鬼の集結を感じ取った虎千代は撤退を決定。彼女を先頭に妖怪軍中を後ろに進んで行く。

 

「坊主、すまんが手を縛らせて貰うぞ」

 

 そんな最中に1匹の鬼がハクに近づきそう言う。彼の言葉に疑問を持ったハクはその理由を尋ねる。

 

「…残念ながら、お前は一見するとただの人間だ。妖怪だらけの軍の中だと目立っちまうからよ、捕虜ってことにさせて貰うぜ。姫様もそれでいいよな!」

 

 ハクの両腕をロープで縛りながら、その鬼は先頭を進む虎千代に自身の行動の是非を問う。虎千代はチラッと後ろを向き、事の次第を確認すると

 

虎千「ええ!それで構いません」

 

 是の言葉を返した。やがてロープを結び終わると、その鬼はハクの隣に立って走った。

 

主「すみません、ありがとうございます!」

 

 ハクが彼の機転に対する感謝の言葉を述べると、その鬼は照れ臭そうに笑った。

 

「おう!…へへっ、この前の武闘祭は楽しませてもらったからよ。そのお礼…なんてもんじゃねぇが、助けになったなら良かっへぶッ」

 

 

 横で彼が突然奇怪な言葉を発して倒れる音がし、ハクは反射的にその方を見る。そこでは、さっきまで笑いながら話していた鬼が地面に脳漿をぶちまけながら死んでいた。………あまりのことに声が出ない。不運にも、流れ弾にでも当たったのだろうか。呆然として彼を見ながら足を止めていると、異変に気付いた虎千代が走ってきてハクの手を引っ張った。

 

虎千「ハク!ここはまだ危険ですッ!止まってる暇なんてありませんよ!」

 

主「で、も…。この…」

 

 ハクは倒れた鬼を見ながら虎千代にそのことを訴えかけた。虎千代はそんな問答など時間の無駄だと言うかのように、無理やりにでも彼を走らせ撤退を急いだ。その鬼の姿が無数の妖怪たちの雑踏の中に埋もれて見えなくなる。そこからある程度走っていると、不意に虎千代がハクに語り掛けた。

 

虎千「78…」

 

主「………え」

 

 

虎千「先程の方で78名。…今回の戦闘で亡くした仲間の数です。」

 

主「………っ」

 

 虎千代は決して振り返って語ろうとはせず、頑として前に進む。

 

虎千「彼らを想うことは立派ですが、それも己の命あってこそ。…今は、彼らを胸に抱き進みましょう」

 

 

戦場に雨が降る。決して袖を濡らすことのない乾いた雨。しかし、袖の内の心はずぶ濡れで。それは、私たちを弱くも強くするのだ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 場所は変わり、人間軍司令部。前線の戦いを有利に進めていた彼らであったが、他の戦場では劣勢を強いられていた。

 

「右翼!第一陣が突破されました!!」

 

「救援要請!左翼でも同様に第一陣が突破されそうであります!」

 

 人間軍は道幅いっぱいに横陣を敷いていた。これはなぜそうするのかというと、陣の横に相手軍隊が入り込むスペースを作ればそこからなだれ込み、結果的に三方を囲まれる状況に陥るからである。それを防ぐための陣立てをしたつもりである。しかし現状人間軍は三方を囲まれるという、兵法における最悪の形で戦いを進めていた。

 

塚原(…まさか、相手がこの深い森の中を行軍して来ようとは。)

 

 森からの突然の奇襲は、塚原の命令が前線に届き部隊が撤収するその時に起こった。両翼にはもしもの場合に備えて配置していた重装歩兵がいたのが不幸中の幸いであった。彼らがいなかったら今頃我が軍は両側からの挟撃を受け、前と後ろとで分断されていただろう。それでも敵軍の圧力は凄まじく、今なお司令部には援軍要請を告げる兵士がひっきりなしに駆け込んで来る。

 

塚原「右翼には司令部の守備兵半数で抑え込み、出来るならば押し返せ!!左翼には抜刀隊500兵で向かい戦列の維持に務めよ!!」

 

塚原(糞……こんなもの、何時迄もは持たぬぞ…!)

 

 命令を下した塚原は、苦悶の表情を浮かべて状況の打破の為にその肝脳を絞る。その時、兵士長のご帰還ですっ、と見張りの兵士から報告が来る。そのあとに続いて、まるで疲れた様子などない健人が塚原の前に姿を現す。

 

健人「やあ、塚原。ずいぶんと怖い顔してるね」

 

塚原(この人、本当に前線で戦ってきたんだよな…。汗一つないとは、矢張り化物…)

 

塚原「…兵士長、状況をお解りで?兵士長のご活躍もあり正面は何とか優勢ですが、両翼は崩壊間近。そんな時に険しい顔をするなという方が無理です。」

 

健人「まったく君って人は、ドが付くほどの頭でっかちだなあ。そう下ばかり向いていてもいい考えは浮かんでこないよ。例えば…そうだなぁ、たまには上でも向いてみないと」

 

 そう言いながら健人は都の城壁の上を指差す。この仕草につられて塚原は健人の指が指し示す先を見やる。

 

塚原「………冗談ですよね?」

 

健人「いや、大真面目だけど」

 

 塚原は深いため息を吐きながら左手で頭を抱える。

 

塚原「()()は、昨年の会議で廃棄になりましたよね…」

 

健人「うん。けど、永琳さんに無理言って準備してもらった」

 

 塚原は二つ目の深いため息を吐くと、頭を抱えていた左手をどかした。

 

塚原「…もういいです。時間がありません、やるならやりましょう」

 

健人「お、さすが塚原話が分かるねー。んじゃあ…妖怪どもを蹴散らそうか、あの“アルキメデスの鏡(ソーラー・レイ)”を使って、ね」

 

 

 




【補足】

アルキメデスの鏡:昨年の月の都の会議において、耐久性と安定性への懸念から採用を見送り後に廃棄が決定。今年中に順次実行される予定であったが、第二次人妖大戦時には6機だけ残っていた。多面鏡を利用して集めた光をレーザー砲として発射する。元ネタは、紀元前の発明家アルキメデスが作ったとされる“アルキメデスの熱光線”から。
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