戦場は、熱風に包まれた_________。
鬼門寺信虎の元へと帰還中だった虎千代、ハク、鬼たち。彼らは妖怪軍正面部隊の戦列を抜けて、その後ろの空間へと出る。平原が広がるその眼前に、大きく3つに分かれた軍隊を発見する。
主「なぁ虎千代、あの3つの軍は何なんだ?」
虎千「…あれは妖怪軍の後続部隊です。私達から見て一番左の手前が父上が指揮をとる鬼軍で、その奥が
そう虎千代が暗い調子でハクに説明をする。彼女のその声色からはほのかに怒りの感情が読み取れた。
主「そうか…」
虎千「…必ず來寄さんの仇を討ちましょうね」
主「ああ」
そんな時だった。
突如としてハクたちの後方から轟音とともに熱波が吹き寄せる。あまりの強風に目を開けていられなくなり、思わず腕で顔を覆った。やがてそれが過ぎ去り目を開けると、都の正門両端の森から火の手が上がっていた。
主「なにが、起こっ…た」
そしてその火を更に燃え上がらせるように、いくつかの竜巻が木々を薙ぎ倒しながら地面を這っている。
虎千「何事ですかっ!?」
前線で起こった異常事態に虎千代は声を荒げる。それについて確信を持った様子のハクは、彼女に自身の意見を言う。
主「…おそらく師匠の仕業だ。」
虎千「師匠?」
主「オレの剣術の師だ、あっちの軍の大将をやってる。…さっきの轟音の正体は分からないが、今見えている竜巻は師匠の能力によるものだろう」
ハクの説明を聞き、ある程度の理解を示した虎千代は隊の皆に呼びかける。
虎千「…何がともあれ、今は余り関係がありませんね。私達は早く父上の所へ向かいましょう。」
虎千代の言葉に鬼たちとハクは同意し、信虎の元へと駆けていった。
信虎「ええいッ!まだ虎千代たちの安否は分からんのか!!」
「も、申し訳ございません…。なにぶん情報が錯綜してまして、一体何処にいらっしゃるのか…」
鬼門寺虎信虎本陣。ここでは前線に送り込んだ虎千代たちの行方が分からず、各軍に使者を派遣して情報収集に努めていた。
信虎「もうよいッ、こうなったら我だけでも探しに行く!!」
「お!お待ちください信虎様!」
?「父上!!その必要はございません!」
信虎が狼狽し、単身前線へ向かおうかという時、遠くから声がした。やがて虎千代が部隊を引き連れて本陣の中に入ってくる。娘の顔を見るや信虎は誰よりも早く駆け出して彼女を抱きしめた。
信虎「おお、おお!虎千代っ!よくぞ無事に戻った!」
虎千「はい。鬼門寺虎千代、只今戻りました。しかし……っ、78名の同胞を失ってしまいました…。申し訳ございません!」
信虎に抱きしめられていた彼女はストンと地面に膝を落し、そこで初めて涙を見せた。ぽたぽたと土を濡らす涙、そんな彼女を信虎は優しく抱き寄せる。
信虎「…いいか虎千代、お前も族長になるのならよく覚えておけ。戦争とは、大事な者たちが皆死んでゆく、昨日までは笑っていた者がいなくなってしまうなど
虎千代の両手を取り、その顔を上げさせる。
信虎「今のっ…お前が感じているその気持ちだけは…!!どれだけの同胞を失おうとも、忘れてくれるなよっ…!」
虎千「…!父上ぇ…!!」
信虎「よく、よく頑張った…!まだ若いお前に辛い役目を背負わせてしまって…………だが、大儀だったぞ!!」
虎千「っっ!!はいっ…!」
信虎「さて…。ハク、おるのだろう。」
しんみりとした空気の中、急に自分の名前が呼ばれたハクは驚いて声が裏返りそうになるが、何とか堪え信虎の前に出た。
主「な、何でオレがいるって…?」
信虎「ウム。…どれだけ外見や力が変わろうとも、
主「は、はいっ。一人の人間に助けられまして、その者に匿われてました。…しかし、なぜ鬼族が九頭龍晴景の軍に?」
その問いを投げかけられた信虎は一気に顔が青ざめる、そして面目なさそうに俯きながら答えた。
信虎「…父や仲間を失ったお主には、唯の言い訳に聞こえるかもしれぬが。………虎千代を人質に取られた。それだけだ」
そこまで言うと、信虎は地に自分の膝をつけてハクに頭を下げた。
信虎「我如何なる罵詈雑言も受け入れよう」
主「………虎千代はオレの友人です」
信虎「…?」
主「そしてあなたの娘です。………元よりあなたを責めるつもりはありませんよ。さ、もうこんな湿っぽいことはやめにしましょう。それよりも論じるべきことがあるはずです」
信虎「…忝い」
その一言を信虎は嚙み締めると、スクリと立ち上がりいつもの豪壮な
信虎「さて、これから我らは如何にすべきか。それが議題であるな」
主「はい。最終目的としては、九頭龍晴景と木花咲耶姫を討つこと…ですが」
虎千「兵士たちに囲まれている今、それは容易なことではありません。」
信虎「我が現状指揮できる鬼族の兵力は3千」
虎千「前線部隊と私たちを省いても、この後続部隊にいる敵の兵力は約4万」
主「正面切って戦うには、無謀か…」
3人が頭を悩ませていると、唐突に他の妖怪の声が響いてくる。
「伝令ェー!伝令ェーーーー!!」
その妖怪はたちまちに周囲の鬼たちをかき分けて3人の前に姿を現す。
「信虎殿、晴景様からのご命令である。既に聞いてもいるだろうが、森に入った奇襲部隊が敵の光線兵器に散々に蹴散らされてその数を半数に減らしたという。よって、貴殿ら3千兵には右翼奇襲部隊の救援に向かって頂きたい。ご了承願えるかな?」
信虎「ははっ!友軍救援などという大任、この信虎、確とお受けしました!」
「おおっ!流石は勇猛で知られた信虎殿じゃ!同じく、左翼の奇襲部隊にも木花咲耶姫様から3千兵を向かわせる約束を取り付けて頂いた上、貴殿にまでもご出馬頂けるとは!この私も使者としての役目を果たせるというもの、晴景様に良い報告ができそうじゃわい!わははは!」
ではっ、と言い残してその妖怪は晴景本陣へと帰って行く。その様子を見届けた信虎は一言呟いた。
信虎「…時は今」
主「へ…?」
信虎「雨が下しる 皐月かな…」
虎千「…何ですか?父上それは」
信虎「ふふ…、唯の戯言よ…。皆の者!!聞いたかっ!これより我らは右翼奇襲部隊の救援へ向かう!各々準備せいっ!!」
信虎が声を張り上げると周囲の鬼たちはすぐさま身支度を整え行軍体制に移行する。その様を見ていたハクたちはやけに生き生きとしている信虎に疑問を感じながらも、自分たちも移動のための準備を始めた。
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健人「塚原っ!一大事だ!」
光線兵器“アルキメデスの鏡”と健人の能力“地震雷火事親父を引き起こす程度の能力”のお陰で、人間軍は何とか危機を脱した。敵軍の攻撃が比較的緩む中、健人は声を荒げながら司令部に駆けこんできた。
塚原「一体どうしたんですか?兵士長がそのように焦るなど珍しい」
健人が深刻な面持ちで事を伝える。
健人「…実はさっき捕らえた捕虜からの情報で、都の中にスパイが紛れ込んでいるらしい。しかも、どうやらツクヨミ様のお命を狙ってるらしいんだ!」
塚原「何と!!………真ですか、その情報。我らを惑わす為の罠である可能性も…」
健人「うん…、もちろんある。でも、それでもこれは看過できない情報だ。ツクヨミ様の御身が関わってる」
だから、と健人は提案とばかりに言葉を続けた。
健人「敵の攻撃が弱まっている今がチャンスだ。大人数で動くと目立つ上にここの戦力も薄くなる、だから僕一人でスパイを探しに行くよ」
塚原「なっ!?指揮官が戦場を離れるなどっ!」
健人「実質的に指揮をとっているのは君だ。君がいれば、少なくとも一つの軍として機能する。頼む」
塚原「…はぁ、そうなった貴方は頑として譲りませんからね。…分かりました。」
健人「…!そうか!すまない、恩に着るっ!」
そう言い残し、健人は都へと駆けて行った。
塚原「………誰か」
「はっ」
塚原「兵士長が言っていた情報を吐いた捕虜を見つけ出せ。見つけたら、ここに連れて来い」
「心得ました」
命令を受けた兵士は本陣を離れていく。一人残った塚原は椅子にもたれかかり目を瞑る。
塚原(杞憂だと…良いが)
外では未だ、兵刃の音が絶えなかった。
書きたい欲が高まっております。明日も一話投稿する予定ですが、来週は忙しいのでどうなるかは分かりません。
56ーちゃん「ま、不定期更新。誰気にすることなし」