東方白狼伝説   作:青森の桜前線

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 今回、少し長くなります。初の4000字超えです。

白狼族が皆殺しにされた“あの日”の回想話となります。





第二十四話 真実

 ___時は、運命の“あの日”。その前日に遡る…。

 

 

 

『『『ワアアアアアッッッ!!!!』』』

 

 歓声が未だに止まない鬼の里闘技場。観客たちは先程の武闘祭で優勝を果たした虎千代を讃えている。そのような声が響く廊下を、鬼族長 鬼門寺信虎と白狼族長 橘貴治は歩いていた。

 

貴治「…良き戦いをありがとう」

 

 貴治が隣を歩く信虎に感謝の言葉を掛ける。それを聞いた信虎は機嫌よく豪快に笑った。

 

貴治「突然どうした?貴殿の声は大きい故、隣で騒がれると五月蠅いぞ…」

 

信虎「それはこちらの台詞というものだっ!貴治よ!本当にあの親子は、我が娘をどれだけ成長させれば気が済むのだ!それと声が大きいのは余計だ!」

 

 信虎が笑い続ける中、貴治は呆れたような表情を浮かべるがその心は穏やかだった。

 

貴治(…見事だ、ハク)

 

 想像以上だった。ハクの実力は來寄の跡取りと言われても何ら遜色は無いであろう。勿論今回は虎千代姫に負けこそはしたが善戦し、何よりもハクは闘い方を学び始めてまだひと月、異常とも言える成長速度だった。…そこにハクの“神の気”がどれ程関わっているか。これから里へと戻り確かめねばならぬだろう、彼の母“狗剱若葉”に…。

思えば、彼女は何処から来たとも知れぬ境遇の者であった。ある日里の前に倒れているのを來寄が見つけ、同族ということでこの里に受け入れた。里の皆が彼女にここに来る前のことを聞こうとしたが、辛そうな顔をする彼女を気遣った來寄により止められた。故に、何も分からぬのだ。その後、彼女と來寄は恋に落ちて結婚。そしてハクが産まれた。………。

 

狗剱若葉は、果たして“神”なのだろうか。

 

 

貴治「では、これにて」

 

 暫くして、2人は鬼の里入り口である櫓門にたどり着いた。

 

信虎「ウム!また近いうちに会おうではないか、その時には酒でも」

 

貴治「…ふふ。ああ、そうだな」

 

 貴治は待っていた従者2人と共に鬼の里を発ち、白狼の里へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 明くる日。白狼の里には朝霧にかかった朧げな日光が細く降り注ぐ。うだつの上がらぬ亭主の白昼夢のように、もしくは天地創造の7日目のように、荘厳に見えて自堕落に時が過ぎている。そのような中、貴治は里へと帰ってきていた。

 

來寄「早いお着きで、貴治様」

 

 門の前にそこを塞ぐように立つ一匹の妖怪の姿を見つける。握り拳を片方に手のひらにつけ目の前で構える大太刀を背負った男、親衛隊長“狗剱來寄”であった。

 

 

貴治「…準備は整っておるか」

 

來寄「万事抜かりなく。…しかし」

 

 來寄は俯いてこの状況について苦言を呈する。

 

來寄「ここまで大事にする必要があったんですか。確かに若葉はその出自こそは分かりませんが、今日まで共に暮らしてきた仲間ですよ?武装した親衛隊を家の周りに待機させるなんて…」

 

貴治「すまぬ」

 

 間髪入れずに貴治が頭を下げて謝罪の言葉を述べる。その様に少し目を見開いた來寄は驚いて顔を上げた。

 

貴治「…お主の奥方が、この里に害を与える存在でないと分かった時には、すぐさま武装を解かせよう。それまではどうか我慢してくれ」

 

來寄「………。むむむ、…まあ仕方がありませんね。最近は他の妖怪どもの動きも活発ですし、族長が不安になるのも分かります。とんだ失言でした。」

 

 里のことを顧みた來寄は己の態度を改める。そんな彼に近づいた貴治は彼の肩に手をのせ、気にするなと一言掛けると、狗剱若葉がいる來寄の自宅に案内させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 水を打ったかような静けさが辺りを包む。鳥のさえずりさえもが吞気に聴こえる家の周りには、息を殺した隊員たちが潜み有事に備えていた。

そしてその家の中。朝ごはんの準備をしている狗剱若葉に、外から帰って来ていた狗剱來寄が声を掛ける。

 

來寄「若葉、話があるんだ」

 

若葉「あら。…何かしら、そんなに改まって」

 

 來寄の言葉を受けた若葉は料理をしていたその手を止めて、洗った手を拭きながらこちらに近寄って来た。來寄は飽くまでも普段通りを心掛け、自然な感じで話を続けた。

 

來寄「いや、なんだ。もうおまえがこの里に来て20年にもなるなと思ってな。…そろそろ話してくれてもいいんじゃないか?君の故郷のこと」

 

若葉「………。」

 

來寄「…ごめんっ、やっぱこの話はなs「待って」…!」

 

 

若葉「待って…。ええ…大丈夫、もう20年だものね。いいわ話させて」

 

 若葉は來寄の話を遮ると、唇を少し噛んで、意を決したかのように話し始めた。

 

 

若葉「最初に、…()()()()()が疑っている通り私は妖怪ではないわ」

 

 きっぱりとそういう彼女に、驚いた來寄は堪らず口を挟む。

 

來寄「…っ!き、気づいていたのか…。」

 

若葉「ええ、証拠に」

 

 若葉は不意に玄関の方へ歩いて向かうと、途端に戸を開けた。

 

若葉「いらっしゃい貴治様。さあ、上がって」

 

 戸を開けた先には、橘貴治がいた。彼は大きく目を見開き若葉を凝視するが、彼女の誘いを無視できずに家に上がった。

 

來寄「族長…。若葉、なぜ分かったのだ?」

 

若葉「妖力くらい、私なら検知できるわよ。…そう、“神族”である私ならね」

 

 若葉のその言葉に2人は身を震わせる。“神”___矢張りなと思う反面、それでも解せないことがあった。

 

貴治「若葉殿。しかしながら神はここ10万年、この大地に降り立ってはおらぬ。如何なる経緯でこの里に参ったのだ?」

 

若葉「私は…その、神々が住まう天上界から追放されてしまって…、それでこの地上へと送られたのです。地上には危険な妖怪だらけ、非力な私ではこの身を守ることは出来ないと感じました。それで昔に書籍で見た三大妖怪の白狼族に化けて、妖怪たちを怯えさせて何とか生きながらえようとしたんです。しかし、お二人も知っての通り、食べ物を碌に口にできなかった私は遂には空腹によって倒れてしまいました。この白狼の里の前で」

 

 そこまで話すと若葉は彼らに対して深く頭を下げる。

 

若葉「今までお話しできず申し訳ございませんでした。…白狼族でないと知られた今、私がここにいる義理などありません。すぐにでも荷物を纏めて…」

 

來寄「若葉」

 

若葉「なに?あな…、きゃ!」

 

 唐突に立ち上がった來寄は彼女の名前を呼ぶと、戸惑う彼女を強引に抱き寄せた。

 

來寄「よくぞ、よくぞ話してくれたっ…!独りで抱え込んで、背負いこんで…、辛かっただろう。でも、それも今日までだ」

 

若葉「へ?…で、でも私!あなたたちのことを騙して!」

 

貴治「若葉殿、」

 

 貴治も立ち上がり、抱き合っている彼らの横に寄る。

 

貴治「誰が出て行けと言ったのかな?我らはもう、共に暮らしてきた仲間ではないか。今更種族の違いなど些事でしかあるまいよ。それはこの男もそうであろう。」

 

 貴治が來寄を見ながらそう言った。若葉は思わず口に手を当てて、目には涙を浮かべる。

 

貴治「これからも、來寄の良き妻として彼を支えてやってくれ。では儂はこれにて、これ以上夫婦水入らずの空間にお邪魔するのは忍びないでな。では」

 

若葉「待ってください貴治様!私から渡したいものが…」

 

來寄「若葉?」

 

 若葉が來寄を優しく引きはがすと、貴治の元へと駆け寄った。

 

貴治「どうしたのかな、渡したいものとは一体」

 

 そこまで言うと、

 

 

貴治「ぐっ」

 

 

 ()()()()()()()()()()()

 

來寄「な!何をしてるんだ若葉ッ!!」

 

 瞬間、來寄の大声を聞きつけた親衛隊員が玄関から突入する。來寄が若葉を後ろから羽交い締めにして貴治の元から引きはがし、その間にも隊員たちが続々と貴治を護るために彼の前に立ちふさがった。

 

若葉「…ふふふ」

 

 羽交い絞めにされている若葉は包丁を握りしめながら不気味に微笑む。來寄がいくら彼女に声を掛けても不気味に微笑む。そして、

 

若葉「あははははは!!」

 

 狂ったような笑い声を上げ始めた。それを聞いた親衛隊員たちはより警戒心を強めて、來寄はそんな彼女を抑えようとする。一触即発の空気が流れる中、彼女の不協和音にも似た笑い声だけが響く。しかし次の瞬間、彼女は急に理性を取り戻し愚痴を零すようにこう言った。

 

 

若葉「あーあ。疲れちゃった、()()()()()

 

來寄「ど、どういう事なんだ!若葉ッ!」

 

若葉「あら、そんなに耳元で騒がれると五月蠅いわよ。ご近所迷惑かも」

 

貴治「若葉よ」

 

 貴治が、腹の刺し傷などまるで意に介さずにすくりと立ち上がった。

 

貴治「先程のお主が申したことは全て噓なのか?」

 

若葉「噓って言えば噓ね。でも、本当のこともあるわ。現に私は神様だし」

 

貴治「…目的は何だ。」

 

若葉「この里の秘宝“八咫鏡(やたのかがみ)”の譲渡と白狼族全員の私に対する従属」

 

貴治「嫌、と言ったら…」

 

若葉「皆殺しね」

 

 公然と、皆殺しという物騒な言葉が彼女から発せられる。それを受けた貴治との間で鋭い眼光同士がぶつかる。そんな中、貴治を護っていた一人の隊員が声を上げる。

 

「最早問答など時間の無駄です!貴様ァ!よくも貴治様を!!あの世で後悔するがいいッ!」

 

 そう言った隊員は、貴治の制止の声も聞かずに若葉へと斬りかかる。しかし彼は、彼女へと刃を振り落としたのだが、その身体に当たることなく寸前で止まった。それに驚く暇なく、彼の頭は爆発四散した。辺りに血液と肉塊が飛び散る。その様子に室内には動揺が走る。

 

 

若葉「これは…。“断る”ということの意思表示、かしら」

 

 血を被った若葉がニタリと笑ってそう述べる。しかし、貴治はこの状況に動じた様子を見せることなく言葉を発した。

 

貴治「最後に…、()()()()()()()

 

 

 

若葉「“何者”?…ああ、そう言えばまだ名乗ってなかったわね。コホンっ………アタシの名は“ヒルコ”。伊邪那岐(いざなき)伊邪那美(いざなみ)の最初の子であり、()()()()である。…我が子らよ、せめて啼き喚き苦しみ悶えてそのことごとくが死ねッ」

 

 ヒルコは禍々しい妖気を垂れ流して、それを爆発させた。家の屋根が吹き飛び、強風が室内に吹き荒れる。

 

貴治、親衛隊員、そして來寄は構えた。

 

それに対して、ヒルコは不敵に笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「始まったか…。どれ、私も行こうか」

 

 里の入り口である川に架かる橋に立つ、()()()()()()()()()()()()()は、里の奥から発せられる強大な妖力を感じ取った。それを受けて刀を抜き放ちながら里の方向へ、その門に向かって行った。

 

『待てっ!止まれ!』

 

 門番である白狼族から制止の声が掛かる。しかし、彼女はそれに応じずに歩みを止めない。

 

「さて、少しは楽しめそうな奴はいるかな」

 

 




【補足】

天上界:神々が住まう世界のこと。四次元世界にあり、こちら側からでは観測できない。

伊邪那岐・伊邪那美:日本を形造った夫婦の神。国を産み、また多くの神々を産んだ。天照大御神・月読命・須佐之男命などは伊邪那岐の子。
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