東方白狼伝説   作:青森の桜前線

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 人間、どうにもならない時が必ずあります。しかし、きらめきを放つ人間というのは、その時に踏ん張ったかどうかで決まります。仕方がないと一瞥して諦めた者と、踏ん張った結果自分が相当なダメージを負ってしまった者。

某漫画ではないですが、麦は踏めば踏むほど強くなります。僕らは強制的に、そんな時代を生かされてるのですかね。風雨に晒され、蝗が蔓延るこの時代を。




第二十五話 ヒルコの目的

「アタシは白狼族の悉くを殺して秘宝“八咫鏡”を奪った。…その後は脱獄するように唆した九頭龍晴景を殺して彼に化け、この妖怪軍を集めた。全てはこの日の為に…ね」

 

 

主「…」

 

 ひと通り過去のことを語った狗剱若葉もとい“ヒルコ”は、左手に八咫鏡を持ちながら感慨深そうに微笑んだ。ハクは俯いておりその表情を読み取れず、また一言も喋らない。

 

信虎「…故に、我らの里の“天叢雲剣(あまのむらくものつるぎ)”も奪ったというわけか。」

 

 信虎がハクの隣に進み出てくる。後ろでは彼の部下である鬼たちが気を失った虎千代を介抱している。

 

ヒルコ「アハっ、娘一人の為にアタシに降伏してくる腰抜けで助かっちゃった。お陰で楽に手に入れられたよ、ありがとっ」

 

 ヒルコは右手で剣を振りながら高らかに笑う。その様に信虎はギリリと歯ぎしりをし、額に血管を浮き上がらせる。

 

信虎「…貴様がァ言うておった“妖怪の祖”とは如何なることや。」

 

ヒルコ「その、ままの意味。アタシがキミたちを生んだんだよ…いや、()()()()()()()()と言うべきかな。」

 

 その途端にヒルコの表情が一変し、暗く鬼気迫った眼を天に向ける。

 

ヒルコ「アタシは伊邪那岐・伊邪那美の第一子として生まれた。でも、生まれたアタシの姿は()()だった。どろどろに溶けたスライムのような形もない、虚ろな喃語を発するだけの存在。それに、神とするにはその力は余りにも禍々し過ぎたの。だから、…アイツらはアタシを捨てたッ!小さな舟に乗せて海に棄てたァッ!」

 

 ヒルコはそう吐き捨てる。そして慟哭するかように話を続けた。

 

ヒルコ「その内に舟が転覆してアタシは海に沈んだ。…遠くなる水面を見ながら、途絶えゆく意識の中、アタシは思ったの。何で死ぬんだろうって、何も悪いことしてないのに死ぬんだろう…。殺してやる殺してやる、そんな感情が沸々と湧いてきてね。気が付いたら…、アタシは大地に立っていた。この足で、“あし”で前へと進んだ。私を棄てたアイツらに復讐する為に、…()()()()()()()()()為にッ!その時の感情から生まれたのかな、アナタたち“妖怪”は」

 

 すぅと大きく息を吸い込んで飲み込んだヒルコは、ケロっとしてハクに歩み寄ろうとする。

 

信虎「グっ、近寄るな!!貴様ッ!!」

 

 信虎はヒルコをハクに近づけさせないために、前に出て彼女を足止めしようとする。効果は無いと知っていても拳を振るい、彼女をこれ以上進ませないようにした。

 

ヒルコ「…言ったでしょ“母に逆らえる子はいない”って。アナタたち妖怪は言わばアタシの一部、無意味なのよ全て」

 

 そう言いながらヒルコは信虎を遠くに押し飛ばす。信虎は呻き声を上げながら横の敵の戦列にその身体を打ち付けられる。

 

 

ヒルコ「さて、ハク。アナタをここまで生かしてきたのには理由があるわ、それはなんでしょ「知るか」…」

 

 

主「そんな理由など知るか。…“子として母を止める”、オレがここで剣を握る理由はそれだけだ。」

 

ヒルコ「アハっ!毅然とした態度!…前みたいに絶望はしないのかしら?つまらないの」

 

主「母さん」

 

 ハクは腰の脇差を抜きながら続ける。

 

主「敢えてそう呼ばせてくれ。…どの様な者であれ、母さんはオレの母さんに変わりはない。だったら受け入れよう、だったら…母さんを止めるのは子であるオレの役目だ。」

 

 ハクは刀を構える。

 

ヒルコ「…話、聞いてなかったの?“母に逆らえる子は「くどいッ!」…ッ!?」

 

 ハクは駆け出してヒルコを一刀のもとに伏せようとする。振りかぶる我が子の刃に合わせるように、懐に差した扇子を持ってハクの攻撃を受け止めようとする。彼らの撃がぶつかる___その刹那、唐突にハクは手に持った脇差を()()()()()()()()()()

 

主「はッ!?はぐぅッ!?ッーーーー!!??」

 

 その鈍痛に悶絶したハクは、堪らずに転んで地に伏せる。息も絶え絶えに血眼で面を上げたハクの目に飛び込んできたのは、衝撃の光景だった。

 

 

「すいません、少し遅れましたー」

 

ヒルコ「“タケちゃん”遅いッ!アタシ今結構危なかったからね!!」

 

「あははー、ごめんなさい。」

 

 頭の裏を搔きながらヒルコに怒られている人物。ハクの剣術の師であり月の都兵士長でもある“鹿島健人”、その人であった。

 

主「な…!なん、でッ…!?」

 

健人「ん?あ、ハク君さっきぶりだね。元気…ってそんな訳ないか。()()()()()()()、お腹に深々と刺さってるもんねー」

 

主「…う、噓だッ!?噓だと言ってくれよ師匠!オレたちを助けに来たんだよなッそうだよなぁ!!」

 

健人「否」

 

主「ッーーー!?」

 

健人「僕は、君が思ってるような人間じゃないんだ。ごめんね」

 

主「しっ!師匠ォーッ!!」

 

 

「おや、随分と賑やかじゃあないか。」

 

 その時、また彼らの元へと一人近寄って来た。異様に長い直刀を携えた着物姿の女性、“木花咲耶姫”だ。彼女は目の前の状況を理解して、ヒルコへと近づく。

 

木花「いやはや、その様子だと万事順調なようで。安心したよ」

 

ヒルコ「コノハナちゃんもっ!いやー、みんないいタイミングだね!」

 

 

主「どういうことだよ…!」

 

ヒルコ「どういう事って…、タケちゃんとコノハナちゃんはアタシの仲間だよ?特にタケちゃんには月の都の方で色々とやって貰っててね…。そう言えばタケちゃん、ちゃんと奪ってきた?」

 

 ヒルコが隣に立っている健人に声を掛ける。健人はそれを待ってたと言わんばかりに鼻を鳴らして、懐から翠色の石を取り出した。ヒルコはそれに目を輝かさせて健人から受け取る。

 

ヒルコ「ふふ♪遂に揃ったわね、三種の神器がっ!」

 

 ヒルコはまるで新しい玩具を買い与えられた子供のように、八咫鏡・天叢雲剣・八尺瓊勾玉を目の前に並べ手を広げて喜ぶ。

 

ヒルコ「これとハクの結界操術があれば…「で、伝令ェーーーッ!!!」…なに?五月蠅いわね」

 

 ヒルコたちの前に下級妖怪が転がり込んでくる。彼は月の都の方を指さすと、焦った顔で事を伝えた。

 

「先程発射されたロケットから何やら爆弾のようなものが投下されましたぁ!!」

 

 

 一瞬でこの場の空気が凍りつく。それを溶かしたのは火山の噴火にも似たヒルコの憤怒の叫びだった。

 

ヒルコ「なんだ…、とォォッッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 時は少し前に遡る。腹心の鹿島健人に裏切られて八尺瓊勾玉を奪われたツクヨミは、彼を追うように指示を出すも、彼が残していった火を纏った竜巻に遮られて動けずにいた。その後に外で戦っていた都の兵士たちが続々と帰還してくる。この時には既に竜巻は止んでいたが、ツクヨミはここでロケット発射を決意。地上に八尺瓊勾玉を残しながら、ここを去ることを決めたのだった。

 

 ロケットその5機全機が打ち上がり、月へと向かう中。地球成層圏へと突入した頃にツクヨミは、隣で負傷した彼を支えている永琳に話し始めた。

 

ツクヨミ「…最早、核しかない。」

 

 ツクヨミの唐突な言葉に、永琳は気が動転して声を荒げる。

 

永琳「な!?何故その様な飛躍した考えになるのですか!…失礼を承知で申し上げますが、たかが先祖伝来の宝石と重臣一人に裏切られたくらいで核攻撃など…!」

 

ツク「違うのだ…永琳よ、あの石は唯の石ではないのだ。…()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それが八尺瓊勾玉だ」

 

 永琳はツクヨミの言葉を受けて驚愕するとともに納得した。だからあの時、健人に勾玉を奪われたことにあれだけ焦ってたのか、と。

 

永琳「で、では…。彼らの目的は高天原にある…と?」

 

ツク「ああ。…何とも皮肉なものよ。永琳、少し我の話を聞いてくれるか」

 

 永琳はツクヨミの手を取りながら強く頷く。

 

ツク「うむ、ありがとう。…これは我が祖父から聞いた話なのだがな。三種の神器が10万年前の大戦終戦を記念して、高天原の神々より天孫・白狼・鬼の三族に下賜されたは、永琳も存じておることだろう?」

 

永琳「は、はい…。」

 

ツク「だがあれは唯の記念品ではなかった、そこには“裏の意味”があったのだ。」

 

永琳「裏の…意味ですか」

 

ツク「うむ。“人妖未だ交わることを知らず。しかし千夜万夜と時の流れにより人妖これ交わることあらば我らのもとに来よ。三種の神器をもって来よ。その時が来たればざっと澄たり平和ここに成り”…これが本当の意味だ。」

 

 

ツク「即ち。我ら天孫は、未だ交わらぬ状態で妖怪どもを高天原に送ってしまうことになるのだ。これは万死に当たる不義であろう、故に」

 

 ツクヨミはすくりと立ち上がり、目の前のコントロールパネルの方へと向かう。そして、複雑な操作をしたのちに画面には赤いボタンと2つのパスワード入力欄が出現する。

 

ツク「今ならばまだ間に合うかも知れぬ。さあ、永琳…。永琳?」

 

 ツクヨミが永琳のパスワードを入力してもらおうと後ろを振り返ると、永琳は泣いていた。口がにわかに開いて、その身体が震えている。だが、決して嗚咽を漏らすこともなく、唯…涙だけがその両目から流れていた。

 

 

 

永琳(嗚呼…、世界とは何とも残酷か…。)

 

 




【補足】

九頭龍晴景:第一次人妖大戦の首謀者。ヒルコに唆され、彼女の助けもあって黄泉平坂より脱獄するが、ヒルコによって殺される。その後はヒルコが九頭龍晴景として味方妖怪を集めるとともに、人間側へのカモフラージュとした。

天叢雲剣(あまのむらくものつるぎ):三種の神器の一つで、第一次人妖大戦後に高天原より鬼族に下賜された。

鹿島健人:月の都の兵士長というのは表の顔で、本当はヒルコに味方して高天原転覆を狙う集団の一員。月の都にて軍事のトップという地位を利用して、情報操作やハクへの細工など様々なことを行っていた。因みに彼が“月移住計画”などの情報をヒルコたちに流していたので、ヒルコたちは細かいことを知ることができた。永琳とは幼なじみであり月の都の人々にも慕われていたが、何故裏切ったのかは謎。

木花咲耶姫:第一次人妖大戦の折には大蛇族の長“九頭龍晴景”と協力して戦争を起こすが、失敗して投獄される。その後、高い実力を買われてヒルコの仲間になる。また、個人的な高天原への恨みもあり、今回の計画に参加した。


※次回、月の都篇最終話です。
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