東方白狼伝説   作:青森の桜前線

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 昨日、人が死んだ。

 今日、赤子が生まれた。


 明日、果たして僕は生きてるだろうか。

 今を、生きれてるだろうか




第三章 諏訪大戦篇
第二十七話 目覚め


『なあ、ハク』

 

 …なに父さん。

 

『俺たちは何で生きてると思う?』

 

 …は?突然なんだよ。………考えたこともないなぁ、産まれたから生きてるんじゃないのか。

 

『“産まれたから生きてる”か…。それじゃあ母さんはなぜ生きてると思う?』

 

 …そんなもん母さんも産まれたから生きてるに

 

『じゃあ母さんの母さんは?』

 

 ………。結局何が言いたいんだよ

 

『わははは!すまんな、怒らせたか。…まあつまり、お前は俺と母さんの子だって話だ』

 

 ほんと…意味わからん。

 

 

『生きろよ、ハク』

 

 …?どうしたんだよ急に立ち止まって。

 

『辛いこと、悲しいことがあっても、()()()()()()()()何とでもなる。…死んだ俺と違ってな』

 

 お、おい…。一体何のはなしっ

 

『俺は、あの時から心が止まったままだ…。死んじまった俺にはもう後悔することも泣くことだって出来やしない。でもよハク、お前は生きてる。…それが救いだ。』

 

 とう…さん?

 

『諦めんじゃねえぞハク。道は、必ず前にある。…まあお前なら大丈夫だ、何たって』

 

 父さんッ!

 

 

 

『俺の、息子だからなっ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「父さんッッ!!!」

 

 ハクは勢いよくその身体を起こす。薄暗い、彼が初めに感じたことはそれであった。とくとくとくと、水の流れる音がどこからともなく聴こえる。ひんやりとした空気を吸い込んでは吐き出し、無意識に首を動かして周囲に目を向ける。

 そこは、洞窟であった。水分を多分に含んだ苔が岩肌を覆い、天井には外に続いているのだろう所々に穴が開いて光が漏れている。彼が今まで寝ていたのは円形のドームのような空間だった。そしてその中央、ハクの横。そこでは、()()()()()()がハクのことを見つめていた。

 

主「ッ!?」

 

 一瞬ぎょっとしたハクだったが、冷静に考えを巡らせてみると、ある一つの答えが浮かんでくる。

 

主「…もしかして、助けてくれた?」

 

蛇?「………。」

 

 よく見てみるとハクの身体には包帯がぐるぐるに巻かれており(ちょっと雑)、刺さっていた脇差もしっかりと抜かれている。目の前の蛇にこんなことが出来るとは思えないが、少なくとも相手から敵意は感じず襲ってくる様子もない。信用はしてもいいようだった。

 

主(…それにしても、さっきのは夢?なんかすげえリアルだったな………ていうか)

 

 

主「ここ、どこよ…」

 

 至極もっともな感想であった。ハクは先程まで妖怪軍のど真ん中にいたはずである。

 

主(オレはかあさ…“ヒルコ”の前に倒れて、それから…それから?それから…、どうしたんだっけ?確か………あーくっそっ頭痛てー…)

 

何とか自分がここに至るまでの経緯を思考してみるが、ない袖は振れないのと同じであの後どうなったのか、ハク自身全く見当がつかない状態であった。そんなこんなでうんうん唸っていると、この空間から伸びている道らしき横穴から誰かが歩いてくる音が聞こえる。ハクはそこに目線を向けると、変な帽子を被った金髪の幼女がこちらに走って来ていた。

 

主「お、………てっ…ぐ!?」

 

 その少女に声をかけようとしたハクは、走ってきた彼女によって胸ぐらを掴まれて地面に押さえつけられた。突然のことにハクはなすすべがない。

 

「動くなッ!!」

 

 少女は息を荒げながら怒鳴りつける。今の状況が理解できないハクは、自分を押し倒している彼女へとその疑問をぶつける。

 

主「痛てて……。おいおい、怪我人相手にいきなり押し倒すなよ。それに、動くなって言われても動いてねえし、動くつもりもねえよ」

 

「噓つけ、そうやって私を騙すつもりだろ。それに…妖怪お前ッ、“ミシャグジ様”に何もしてないだろうな!!」

 

主「“ミシャグジ様”?」

 

「…私の横にお坐す御方だ。」

 

 そう言った少女はちらりと横に視線を送る。その先にはさっきの蛇がいた。

 

主「何もしてねえよ…」

 

「噓つけッ!!」

 

主「噓じゃねえよ!!ていうか、ここは何処なんだよ!オレ目が覚めたら突然こんなところにいて…!」

 

「それはこっちの台詞だ!お前、いきなり上の天井から降ってきたんだぞ!?そんな得体の知れない奴のことッ本来ならば手当てせずに殺すものを…、ミシャグジ様が助けよと仰ったから私は渋々包帯まで巻いてやったんだ!寛大なミシャグジ様に感謝するんだなッ!!」

 

 少女がそこまで発すると、先程まで彼女と同じように声を荒げていたハクは、押さえつけられたことで全身に入っていた力を抜く。それに合わせてハクの胸に置いていた少女の握りこぶしが少し沈んだ。

 

主「…ありがとう。」

 

「………は?」

 

主「だから、助けてくれてありがとう。結構な重傷だったろ?まだ少し痛むけどさ、こうしてオレが生きてんのはアンタとそのミシャグジ様のお陰だ、ありがとう。」

 

 ハクがお礼の言葉を最後まで伝えると、少女はきょとんとした表情を浮かべて両手を彼の胸から離す。そうしてしばらくの沈黙の中彼らが見つめ合っていると、ハッとした少女がまた険しい顔でこちらを睨みつけてきた。

 

「だ…、騙されないぞ妖怪っ!!そんな言葉で私を篭絡しようだなんて思ってるんだろ!」

 

主「思ってないけど。…というかさっきから妖怪妖怪って…オレの名前は狗剱ハク、アンタは?」

 

 

洩矢(もりや)諏訪子(すわこ)…。」

 

主「おう、ほんじゃ諏訪子。助けてもらって本当に感謝してるし恩も返したいところだが……生憎()()()()()()()()が残っててな。…あれから何日経ってるかは分からないが、月の都ってどっちの方角にあるかだけ教えてもらってもいいか?」

 

 ハクから問われた諏訪子はしばらく考えた後に、怪訝そうな顔で彼に返す。

 

諏訪子「………月の都?は、何それ?」

 

主「え…?い、いや月の都だよ!人間たちが住んでる…って住んでたか。とにかく、でっかい壁に囲まれた天孫が治める都市のこと!」

 

諏訪子「…そんなとこ、ないけど」

 

 諏訪子の一言を受けてハクは固まる。

は?月の都がない?いやいやいや…流石に知らないだけってことはないでしょ…、人妖大戦で有名だし。というと…

 

 

主「どういうこと…?」

 

諏訪子「ああ…もう!こっちの台詞だってば!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

主「“諏訪国(すわのくに)”…?」

 

諏訪子「そう。それがここの名前」

 

 あの後、ひと通り諏訪子から今オレがいるこの場所について教えられた。

“諏訪国”___。巨大な湖である諏訪湖のほとりに建てられた国で、俺の前にいる少女“洩矢諏訪子”がここを治めている。話によるとこの国の人々は皆“ミシャグジ様”を信仰しているらしく、その信仰共同体によって形成されている国だそうだ。勿論オレは諏訪国なんて生まれてこの方聞いたことないし、諏訪子もオレが話す地名などは知らないと言っている。うーむ………オレは異世界にでも飛ばされたのか?

 

諏訪子「…兎に角、話はこれで終わり。だからさ………さっさと出てってくれない?」

 

主「え…」

 

 

諏訪子「どれだけ話しても貴方は()()()()()()()()()に過ぎないし、何より…私の国に妖怪の居場所はないの。分かったら今すぐ出てって」

 

 諏訪子がハクに対して殺気を向ける。ヤバいと思いつつも、ハクは何とかできないかと彼女に反論する。

 

主「…人を襲うかもしれないって思ってるのか?信じてくれるかは分からないが、オレがいた世界ではむしろ人を食べる妖怪そのものが稀だ。そんなことしなくても生きていけるからな…それに」

 

諏訪子「出てって」

 

主「………もう少し話を…」

 

諏訪子「出てけぇッッ!!!」

 

 しんとした洞窟内に諏訪子の悲鳴にも似た声が響き渡る。その反響した音が消えて彼女の息遣いだけが残ったところで、ハクは腰を上げた。

 

主「…分かった。出てく」

 

 彼女は本気で怒っている、否拒絶している。そんな心からの叫びに、ハクはこの場から去る以外の選択肢を選べなかった。

去り際、出口へと向かうハクとその場に立っている諏訪子がすれ違う際に、彼女はハクに対して言い放った。

 

 

 

諏訪子「覚えておいて。私、妖怪がこの世で一番()()()()()()()()()大嫌いなの。」

 

主「…そーかよ」

 

 ハクはそのまま洞窟を出て、先ほど諏訪子から聞いていた諏訪国の領域外へと向かった。

 

 




【補足】

ミシャグジ様:諏訪国で崇め奉られている白蛇の精霊。言葉を発することはないが、諏訪子とは意思疎通ができる様子。今回、ハクを助けるよう諏訪子に言った。

諏訪国(すわのくに):巨大な湖“諏訪湖”とその南に位置する神奈備山(かんなびやま)である“守矢山”を頂く国。領民全員が土着の神ミシャグジ様を信仰しており、また山神である諏訪子も信仰している。基本的には洩矢諏訪子が国内の政を執り行う。
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