東方白狼伝説   作:青森の桜前線

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 中部、関東、東北、そして北海道へ。日本の奥地へと追い込まれた民族が存在する。それは大和朝廷から“蝦夷”と呼ばれた者たちである。

彼らは一説では日本刀の起源と言われるワラビテ刀を持ち馬に跨って、恭順する事を良しとせずに抗った。そんな彼らに対して朝廷は古くは日本武尊の東征や征夷大将軍の派遣、多賀城などの築城を行って彼らを攻め立てたのである。その中でアテルイとモレの悲劇なども起こった。

そして幕末、北海道にいた彼らは“アイヌ”と呼ばれていた。松前藩の不公平な貿易などや、時代が明治になると政府による開拓使たちの入植による土地の没収などが相次いで彼らはまた追いやられた。その中には松浦武四郎のように彼らに寄り添う者も現れたが、結局政府による対応は変わらなかった。アイヌの人々の保護を謳った1889年の旧土人保護法も結果的に彼らを日本人に同化させ、その文化を衰退させるに至った。

そして現代。1997年のアイヌ文化振興法を始め、多くの差別撤廃のための活動や施策がとられている。中国史を見ていると異民族との戦いなどが描かれるが、我々日本人にも決してそれを他人事とは言えない過去があったのだ。そして今も、である。現在では知らない人も増えてきているが一昔前では沖縄出身の方も差別されていた。その他にも過去日本には山窩や鹿児島の隼人など、異なる文化を持った者たちもいた。

 日本という国の中に住んでいると、時に忘れてしまう。歴史の、多くの、未知の。
その、民族の流動と淘汰を。





第二十八話 人と妖怪

主「案外、暮らしていけるもんだな野宿でも」

 

 諏訪子に追い出されてから3日ほどが経ち、ハクは偶然見つけた山中の洞穴を拠点として、そこを中心に生活していた。

 

主「…ほんと、タケ爺様様だな」

 

 ハクは先程狩った鹿を解体しながらそう呟く。その言葉通りに、朧山での一か月がなかったら彼は空腹で今頃倒れていただろう。しかしそうならなかったのは、彼にサバイバルの知識を教えてくれたタケ爺のお陰なのは明白だった。ハクの朧山での修行中の食事は今のような獣肉や山菜が主であり、それを毎日タケ爺と共にとっていたのである。その様な経験があって、ハクは何とか今日まで生き抜いてこれたのだった。

 血抜きしてひと口大に捌いた鹿肉を沸騰した鍋に入れ込む。味は…勿論塩などはない為、その辺に自生していたニラやサンショウなどを入れて誤魔化す。ま、まあ食えるやろ。でも塩がないのは死活問題だな、どこかで仕入れなきゃ。そんなことを考えつつ、沸々と煮立つ鍋を見つめながらハクは考えに耽っていた。

 

 この世界に来て早三日。これまで色々と調べてはいるものの、オレがいた場所への帰り道などはおろかその残滓さえも見つけることは叶わなかった。

 

主(母さん…っ)

 

 過去を思い出していたハクの両目から涙が溢れる。自分の父や師、仲間たちを殺したのは、あれほどの憎悪の気持ちを抱いていた相手は、自身の母親だった。あの時は気丈に振る舞っていたが、やっぱりつらい。今まで十三年間、時に一緒に笑い、時に褒められ、時に怒られ___。この時間は何だったのだろうか。その時に浮かべていた表情は噓だったのか。ハクには何も分からない。彼女がまだ生きてるのかどうかさえも分からない。それに、共に彼女へと立ち向かった鬼たちは?信虎殿は?虎千代は?………オレは、ここで何をしているのだろうか。

 

主「………」

 

 ぱちぱちと火が弾ける音が鳴る。

手掛かりというか、天から吊るされた蜘蛛の糸というか、そのようなか細い道ならある。…諏訪子だ。いや、正しくは“ミシャグジ様”、かな。諏訪子はオレの話にピンともきていなかったし、何か知ってる可能性があるとすればあの時横にいたミシャグジ様だ。彼は(彼でいいのか?)、諏訪子に()()()()()()と言っていたらしい。唯の気まぐれでなければ理由があるのだと思う、そこに賭けてみるのは無駄じゃないはずだ。だがしかし、ミシャグジ様に会って話すには大きな障壁があるのも事実だ。

 

 洩矢諏訪子。彼女は確かにオレに言った『出ていけ』と、それには『二度と戻ってくるな』の意味も込められている。諏訪子を説得しない限り、ミシャグジ様に会うことは実質不可能だ。もし黙って忍び込んで見つかった際には言い訳のしようがないし、見つかった瞬間殺しにかかって来る、これは避けたい。だから正々堂々と正面から入る必要があるのだが、永琳から貰った人化の薬の効果も切れた以上、妖怪であるオレにその手段は選べない。ううむ………。

 

主「…まあ、明日考えるか」

 

 いい感じに柔らかくなった鹿肉を木の棒で突き刺して食べ始める。明日は明日の風が吹くと言うし、焦っても事態は好転しないよな。

鹿鍋を食べ終わったハクは、洞穴の中へと入り無造作に寝転がってそのまま眠りへと落ちていった。

 

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 翌日。近くの人間の村で何か情報はないかと、布切れで耳と尻尾を隠したハクはそこに向かっていた。

 

主「ん?」

 

 山を下りて平地へとたどり着く。すると何やら前方から騒がしい声が聞こえる。気になったハクは隠れながらその方へと近寄ると、そこには一人の人間の女と二匹の妖怪がいた。

 

 

「おいおいおいッ、どこまで逃げんだよ~」

 

「いい加減に止まれよ、追いかけっこはもうあきたぜ」

 

「あ…ああっ!た、たすけっ………」

 

 女性は転びそうになりながらも死に物狂いで後ろから追いかけてくる妖怪たちから逃げる。しかし、

 

「あッ…!?」

 

 後ろを振り返りながら逃げ続けていた彼女は、前方にある木の幹に気付かず足を掛けて転んでしまった。うずくまり身体を震わす彼女の下にその妖怪たちは笑いながら近づく。

 

「へへへっ、コケてやんのコイツ!」

 

「さあて、おとなしく食われやがれッ!」

 

 女性の首元に妖怪の片方がその腕を伸ばす。だがその動きは彼らの後背からの声によって止まる。

 

主「おい」

 

 妖怪たちが眉間にしわを寄せて後ろを振り返る。そこにはボロ布を全身にまとった少年が立っていた。

 

「アア~?なんだァ小僧。今いいところなんだから邪魔すんじゃねえよ」

 

主「人を食うなど、弱い妖怪のすることだ。」

 

「ハア?オマエ何言ってんの、妖怪が人食うのは当たり前だろ」

 

主「誇り高き白狼の一族として、貴様らは妖怪と呼ぶにも値しない…唯の害虫だ。」

 

「………ケンカ売ってんのか」

 

 女性に手をかけようとしていた妖怪二匹がハクの方へと向き直る。ハクから見て左側の妖怪が指を鳴らしながらこちらへと近寄って来た。

 

「どうやら死にたいらしいなァ…!いいぜ、かかってこぶはッ」

 

 刹那、彼らの目の前からハクが消えて、彼に向かって来ていた妖怪が自分の腹を押さえながら膝から崩れ落ちる。それを見ていたもう一匹の妖怪は驚いて声を上げそうになるが、突如として自身の喉元にあてがわれた小刀にそれを飲み込んだ。

 

 この時にハクは瞬時に自身の両足に重力結界を掛けて俊敏性を上げると、手前の妖怪の腹に一撃。次いでその後ろの妖怪の前へと移動している間に、結界操術を用いて小刀を作り出し彼の喉元にあてがった。僅か三秒の出来事である。

 

主「質問に答えな。そしたら逃がしてやる」

 

 ハクの声に先程の態度はどこかへと飛んでいき、目の前の妖怪は静かに両手を上げた。

 

「うっ………」

 

主「この辺では貴様らみたいに妖怪が人を襲うことは普通なのか」

 

「おっ…そ、そうだ…。この辺というか、どこでもそうだと思うぞ…。」

 

主「もう一つ、月の都って知ってるか」

 

「…月の都?いや、知らねえが…」

 

主「そうか…。」

 

 ハクはそこまで聞くと構えていた刀を下ろす。

 

主「質問は以上だ、…早くどっかに消えな」

 

「す、すまねぇ…!ももうアンタの邪魔はしないから…そそれじゃあなっ!!」

 

 そう言うとその妖怪は倒れている仲間を担いでそそくさと逃げ去ってしまった。この場にはハクと襲われていた女性だけが残る。

 

 

主「はあ………おい、アンタ大丈夫か?」

 

「ひっ…!よ、妖怪来るなッ!」

 

主「うん?………あ」

 

 ハクが声を掛けるとその女性は恐れながらも大声を上げる。え、何で気付かれた?隠してるのに。そう思ったハクであったが、先程の戦闘によって被っていた布がはだけていることに気付く。そこからは彼の白い耳がぴょこんと跳び出していた。

 

主「あー…そゆこと」

 

「くっ…。に、逃げないと………っ!?」

 

 ハクに背を向けて逃げようとした女性は突然うずくまると自身の右足を押さえ始めた。辛そうに呻く彼女にハクは近づき、押さえている部分を見る。

 

主「こりゃダメだね…腫れてる」

 

「ッーー!?い、いや!だめ食べないでぇ!!」

 

主「食べねーよ。…ちょっと貸せ」

 

 女性の足を掴んだハクは懐から薬草を取り出すと、彼女の患部にそれを当てる。そして自身が着ていた服の裾を裂くと、彼女の足首に薬草とともに巻き付けた。

 

 

「えっ………?」

 

主「うん、とりあえずはって感じかな。汚い布しかなくてごめんね、帰ったらちゃんとしたもので巻きなおしな」

 

「………あの」

 

主「ん?」

 

「………何で、食べないんですか…?」

 

 先程まで肩を震わせながら絶望に慄いていた彼女は、打って変わって恐れは感じているものの肩の震えは止まって目の前の妖怪に問いかけた。ハクは一拍呼吸を置いてそれに答える。

 

 

主「食べたことないから」

 

「…へ?」

 

主「オレ人間食べたことないんだよね、妖怪なのにさ」

 

「………ふふっ、何ですかそれ」

 

主「え、なんかおかしい?」

 

「十分おかしいですよ…ふふっ」

 

 女性はハクの言葉を受けて、緊張が解けたかのように口に手を当てて笑い始めた。それにつられてハクも照れた様子で笑う。しばらく二人で笑いあった後、女性はハクに対して頭を下げる。

 

宇歌「遅ればせながら、先程は助けていただきありがとうございました。私の名前は“東風谷(こちや)宇歌(うか)”、この近くの社で巫女をしております。」

 

主「狗剱ハクだ。…なーにお礼はいいよ、それより大丈夫帰れる?」

 

宇歌「少し、無理そう…かもです」

 

主「それじゃあ、君の家の近くまで背負って行こうか?…流石にオレ妖怪だからさ、本当に近くまでだけどそれでもいいなら」

 

宇歌「すみません…。では、お願い出来ますか?」

 

主「おういいよ」

 

 そう言ってハクが宇歌の手を取ろうとすると、遠くから叫んでこちらに走って来る人影を見つける。

 

 

『うーーーかーーーッ!!!』

 

主「げっ…!?」

 

宇歌「え?」

 

 走ってきた金髪の幼女はハクに殴りかかる。

 

主「うわーーーっ!?」

 

 ハクはそれを真剣白刃取りの要領で受け止める。

 

諏訪子「お前ッウチの宇歌に何してんだあーーッ!!」

 

主「す、諏訪子!?」

 

 そこに居たのは、三日前にハクを自分の国から追い出した洩矢諏訪子だった。

 

 




前書き、関係ない話をつらつらとすみません。

諏訪のことについて調べていたらついつい書きたくなって。熱を帯びてあんな長文になってしまいました。

情報・言葉遣い等、誤りがありましたら是非とも忌憚なくお教えください。
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