東方白狼伝説   作:青森の桜前線

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 神はサイコロを振らない、いつだってサイコロを振るのは人間だ。

はした金握りしめたギャンブラーが、人類未踏の地へと進む冒険家が、漢の高祖劉邦が。僕らの人生、人世は、不確定要素ばかりだ。

賽の目は丁か半か、世界は二元論、0か1か。

0か1の連続に過ぎないさ人世、失敗もあれば成功もあるさ人生。





第三十四話 諏訪大戦

 地面は今では止んでいるが昨日の雨によって少し湿っており、空は曇天。このような折、諏訪の国天竜川河畔には二つの勢力が集まっていた。

 

 

かたや、諏訪国国主の洩矢諏訪子。

 

こなた、大和国将軍の八坂神奈子。

 

 

 彼女たちの後背にはそれぞれの勢力の者たちで溢れている。諏訪国譲渡は既に決まっておりこの決闘は余興だとはしても、ここで無様な闘いをしたら相手から軽く見られる。だから、ここで勝って!こちらが有利に交渉を進めるんだ!そう意気込む諏訪子に。

 勝って兜の緒を締めよ…ではないが、既に私の責務は果たしたとはいえ気が抜けぬ。ここで無様な闘いをしたら、部下たちからの信望も下がり、何よりこれからの諏訪国統治に支障が出る。あちらにはここの国民までもが見に来ているのだ。と、そう眼差しを強める神奈子。

 

 これら二柱の神が互いに歩み寄りその覇気をあらわにする。その様子に両陣営で歓声が巻き起こり、やまびことなりてこの山間の地に轟き渡る。ニィと口角を上げた神々は天に向かいこう発露した。

 

諏訪子「よく来たね!神奈子ォ!!」

神奈子「こちらの台詞だ!諏訪子ォ!!」

 

 

諏訪子「今一度、闘いの前にルールを確認しておこうか!互いに武器の使用は可!相手を殺すことはせずに、どちらかの降参又は戦闘継続不能によって勝敗を決する!相違ないか!!」

 

神奈子「ああ!相違ない!!」

 

 ざりざりと、お互いの足が地面の砂利を踏みしめる。ころころと、天から吹きさらす風がそれを転がす。

 

諏訪子「では………っ!」

 

神奈子「参ろうか………ッ!」

 

 諏訪子は両手に鉄の輪を持って左手を前、右手を後ろにして構える。一方の神奈子は左足を前に踏み込み腰をググっと下して素手で構えた。互いの両肩に、四肢に、丹田に力が入る。

 

 

諏訪子「はあッ!!!」

 

 先に動いたのは諏訪子だった。彼女は大地を蹴り上げて大きく飛翔すると、その双腕をしならせて手に持った鉄の輪を神奈子の頭上へと叩きつける。その直前、ばちっと諏訪子と目を合わせた神奈子は、身体を左側へと捻りながら側転の要領でそれを避ける。諏訪子の強烈な斬撃はそのまま神奈子がいた地面へと炸裂し、土石をまき散らしながらそこを抉った。

 

神奈子「…ほう、その様な華奢な体からは想像もできない一撃だな。私の予想外の力だぞ諏訪子」

 

 本来、諏訪子にこの様な一撃を出せるだけの腕力はない。しかし、先ほどの大きなジャンプないしその腕をしならせる攻撃方法により、神奈子の予想以上の力を発揮することが出来たのである。詰まる所、位置エネルギーと遠心力の合力というわけだ。先手に打つ奇襲的な一撃として、諏訪子とハクが生み出した技であったが、あっさり神奈子には避けられてしまった。

 

諏訪子「ふッ!」

 

 神奈子の言葉を聞くか聞かないか、間髪入れずに諏訪子は彼女目掛けて鉄の輪による連撃を仕掛けてくる。神奈子は少し驚きつつも、後退しながら自身の神力で引き寄せた大きな木の柱を使ってそれと打ち合おうとする。しかし、その大きな木塊に対して諏訪子の鉄の輪は、ひしゃげるどころかそれを真っ二つにした。

 

神奈子「チッ!?」

 

 またもや予想外、そういった表情を見せ神奈子は諏訪子の武器にではなく、その胴体へと一撃を入れようとする。それに反応した諏訪子も瞬時に身体を縮こませて全身を縦横無尽に回転させる。彼女の両手に握られた刃によって、襲い掛かる木塊の悉くが塵へと変わった。

二人はまた向き合い、互いに構える。

 

 

 

 

 

 

 

宇歌「頑張れ…っ!諏訪子様…!」

 

 その頃諏訪国陣営では、巫女の東風谷宇歌と居候の狗剱ハクが目の前で繰り広げられる激戦を観ていた。両手を合わせて握り、祈るように諏訪子を応援する宇歌に対して、ハクは冷静に戦況を分析していた。

 

主(現状は諏訪子が優勢か…。だが、打ち合いを見るにあの大和の神…、何か隠してやがるな?表情自体は焦っているが、おそらく罠。諏訪子を油断させようとしてるのだろうか…。)

 

 気を付けろよ………諏訪子。

 

 

 

 

 

 

諏訪子(いける!!)

 

 諏訪子は神奈子と打ち合いながら心の中で勝利の期待を強める。自身が持つ鉄の輪に相手の木の柱はほぼ意味を成していない。相手が準備していた木の柱の数が有限である以上、こちらが競り負けることはないだろう。こう思った諏訪子は、力を入れ過ぎて最早痺れてきた双腕を無理やりにでも前へ前へと押し出して、遂には彼女と神奈子を遮るものがなくなる。

 

諏訪子「…貰ったあッ!!」

 

 諏訪子はその間隙に一撃を叩き込んだ。瞬間血しぶきが走り、その先には苦悶の表情を浮かべた神奈子が………いなかった。

 

諏訪子「!?」

 

 諏訪子に身体を斬られた神奈子は笑みを浮かべる。そして彼女の手は自身を斬った鉄の輪を握って離さず、その手からは血が滴り落ちる。

 

神奈子「…貰ったのは、こちらだよ。諏訪子」

 

 神奈子はもう片方の手に溜めていた神力を諏訪子の前で爆発させる。すると突発的に暴風と豪雨が彼女たちを襲い、そのまま包み込む。この状況にその場で戸惑い慌てる諏訪子とは対照的に、神奈子は終始静かに笑う。そして暫く風雨が吹き荒れた後に、彼女たちが再び姿を現すと、遠くで見ていたハクが一つ言葉を漏らした。

 

主「…やられたな。」

 

 

 

諏訪子「な、なんだ…って!?」

 

 諏訪子は気付く、自身の武器である鉄の輪が()()()()()()()ことに。それに驚愕して固まっていると、左手から血を流した神奈子が彼女に説明を始めた。

 

神奈子「…私が“何の”神様か、知ってるかい洩矢神」

 

諏訪子「………何のって、軍神なんじゃ」

 

神奈子「軍神…確かにそうだが、それはつい最近になって呼ばれ始めたものでね。元々、私は“風雨”の神様なんだよ。」

 

 そこまで言うと諏訪子の錆びついた鉄の輪を指す。

 

神奈子「金属の天敵は何だい?…風雨さ。雨の水分によって鉄が酸化して錆び、風の圧力によって朽ち果てる。…さっきのは肉を切らせて骨を断つみたいなもので、圧縮した神力の風雨を近距離でアンタにぶつけたって訳だよ」

 

諏訪子「へえ………やってくれるじゃん」

 

 諏訪子はそう言うと手に持っていた鉄の輪を静かにその場に置く。そして両手をプラプラとさせてほぐすと、正面の神奈子をその両眼にて捉えた。

 

諏訪子「でも貴方、胴体に一撃とその左手の傷、対して私はほぼ無傷。…この差は早々埋まらないと思うけどね」

 

神奈子「フフフ………だからこそ燃えるんじゃあないか…!さあ、素手転(ステゴロ)と洒落込もうかッ!!」

 

諏訪子「ッ!!」

 

 神奈子はそう語気を強めるとどっしりと構えて山の如く力の乗った一撃を繰り出す。諏訪子はそれに対して地面を隆起させて防ごうとするも、神奈子の拳はその障壁すらも貫き通した。歯を食いしばった諏訪子は両腕を目の前でクロスさせてそれを受けるが、踏ん張り切れずに後方に殴り飛ばされる。

 

神奈子「…意味ないよ、そんな姑息な手。さあさあ!アンタも自分の拳で殴り返してきなッ!」

 

諏訪子「なめ…」

 

神奈子「ん?」

 

 

諏訪子「舐めるなッ!!!」

 

 諏訪子は瞬時に神奈子の足元へと接近すると、足払いをかける。この攻撃に一瞬体勢が崩れた神奈子に、続けて諏訪子がその拳を叩き込む。しかし、彼女の拳を神奈子は左腕でいなすと、右拳を握りしめてカウンターをかけようとする。だがしかし、諏訪子が神奈子にいなされた力を利用して回し蹴りを放ったことにより、相殺された。

 

神奈子「何だいッ!アンタ!!結構いけるクチじゃあないかッ!!」

 

諏訪子「あああああッ!!!」

 

 正直苦手だ、殴り合いは。けどハクに教えて貰った、鍛えて貰った。手負いの神奈子、今の貴女なら…

 

諏訪子「ッ……私にだって!倒せるかもしれないじゃんかああッッ!!!」

 

神奈子「ッ!?づああああッッ!!!」

 

 

 互いの乾坤一擲の撃、炸裂す。

 

 一柱が地面に倒れ、もう一柱はその場に屹立す。

 

 唯一つ、立っていた者は…

 

 

神奈子「はあッ、はぁッ、はぁッ…」

 

諏訪子「………」

 

 

 八坂神奈子であった。

 

 

諏訪子「………ぐ」

 

 しかし、顔面から倒れ込んだ諏訪子はその面を上げて、また立ち上がろうとする。そんな彼女を止めたのは、遠くで観戦していた筈のハクであった。

 

諏訪子「…グっ………は、はく…?」

 

主「もう充分だ、休め」

 

諏訪子「へ…?で、でもわらし…まだ、たたかえる…よ?」

 

主「……諏訪子、自分では気付いてないかもしんねぇが、お前相当ボロボロだぞ。…これ以上は命にかかわる、やめとけ。………と、そういうわけだ大和の神様。この勝負はアンタの勝ちってこと「いや」…はい?」

 

 ハクの言葉を遮った神奈子はふらふらとして、後ろに仰向けで転がるように倒れた。

 

神奈子「……血を、流し過ぎたっ…みたいでね…。私も限界だ…。この勝負、」

 

 

 

神奈子「()()()()………だねえ…。」

 

 

 その瞬間、両陣営から二柱の神の健闘を讃える大歓声が轟き叫ばれた。

これを以て、“諏訪大戦”は終わりを告げたのである。

 

 





 『諏訪大戦篇』と銘打って置きながら、ここからが本番みたいな感じになりそうなので、少しばかりこう銘打ったことを後悔しております。
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