2011年。まだ小学生だった私は、この歌に強く勇気を貰いました。
あのメロディは今でも鮮明に思い出せます。
線量測定器を首から下げ、マスクをしての登下校。
外出は必要最低限、農作物は食べれずに、日々何かに怯えて。
これでも私はまだ幸運な方で、現在でもあの時から時間が止まった場所があります。車をお持ちの方はどうぞ国道6号線へ。以前よりだいぶ綺麗にはなりましたが、学べること感じられることが多くあります。南にはら・ら・ミュウ、北には松川浦などもございますので、観光ついでにでも是非。
諏訪子「…と、このような運びとなりました。ミシャグジ様。」
ミシャ「………」
諏訪大戦より三日後。一昨日は諏訪子も神奈子も身体の回復に努め、昨日は大和国の支配下に置かれることとなった諏訪国がどのような統治体制を布くかを話し合った。
先ずは政。これは大和本国の意向に沿う形で、八坂神奈子が執り行うことになった。更には軍も駐屯し、治安維持と防衛の任に就くとのこと。
次に信仰。これは元来の御石神信仰・諏訪子の信仰と併せて神奈子も祀ることになった。そして東風谷宇歌を現在の巫女から、“
詰まる所、こういった感じである。そして現在、諏訪子・宇歌・神奈子・ハクの四人は今回のことを洞窟の奥に鎮座するミシャグジ様に報告していた。
神奈子「ミシャグジ様、私からもひと言…。御身に危害が及ぶことは一切ありませんし、この私がさせません。………どうか、この八坂神奈子の入諏を認めては頂けないでしょうか?」
神奈子が膝をつき礼をする。その様をミシャグジ様が見つめている。
ミシャ「………。」
神奈子「………諏訪子、ミシャグジ様は今何と?」
諏訪子「…“よく励め”、だってさ。良かったね神奈子」
ミシャグジ様の言葉を諏訪子が伝え終えると、彼は神奈子から視線を外して頭を自身のとぐろの上に乗せて眠り始めた。神奈子はその様子にすくりと立ち上がり、再度深々と一礼をした。
神奈子「ありがとうございます、ミシャグジ様。…八坂神奈子、全身全霊粉骨砕身務めさせて頂きます!」
神奈子の決意にミシャグジ様は不動を以て答える。一連の報告を終えた彼女たちはこの場から立ち去った。
神奈子「そういえば」
ミシャグジ様の洞窟から外に出る途中、神奈子はふと思い至ったかのように声を上げる。
神奈子「今までバタバタして気にも留めなかったけど、ハク。アンタ、何者なんだい?」
主「ん、オレ?」
神奈子「ああ!聞いた話じゃ宇歌の婿でもないんだろう?「ふえ!?」…だから、アンタが此処にいる理由がわからなくてね。で、何者なんだい」
グイっと顔を近づけてハクに詰め寄る神奈子。自分の正体を明かしても良いのだろうか…、そんな風に思案していると、諏訪子が彼女たちの会話に入ってきた。
諏訪子「なーに言いよどんでるのさ…。はっきり言ったらいいじゃん、妖怪ですって」
神奈子「む、…妖怪?」
諏訪子の言葉を聞いた神奈子はその身をハクから引くと、その場で押し黙る。この様子にハクは怒らせてしまったかと焦るが、そんな彼の肩をむんずと掴んだ神奈子は自身の方へと引き寄せた。
神奈子「何だいっ
主「え?追い出そうとかしないの?」
神奈子「まさか!諏訪子がそこまで信頼してるアンタのことを追い出すなんてできないよ、仁義に反する。」
神奈子はハクの肩を掴んだまま大いに笑う。彼女らの前を歩く諏訪子は、うるさっと呟きながら耳を塞いだ。
神奈子「はは……、それにしても神社に妖怪とはな。一体全体どういった経緯で此処に来たんだい?アンタ」
主「うーん…経緯かあ。言っても信じて貰えるかわからないけど、どうやら過去から来たみたいだよオレ。」
そう言うと神奈子は一瞬首を傾げるが、直ぐにハクの背中をばんばん叩きながら笑った。
神奈子「はははっ!“過去から来た”とは、少し冗談が過ぎるぞ!」
主「いやマジ」
神奈子「………え?お、おい…諏訪子」
諏訪子「ん?…ああほんとみたいだよ、ソイツの言ってること。ミシャグジ様が言ってたんだけどね」
神奈子は腕を組んで深く息をする。
神奈子「…分かった、信じるよ。それで、何年前から来たんだいアンタは…」
主「それも詳しくはわからないんだけど…えっと、人妖大戦って知ってる?」
神奈子「は?」
主「いやだから人妖大戦…」
神奈子「………ちょ、ちょっと待ってくれ…!“人妖大戦”、その時代から来たって言うのか…?」
主「まあ、正確にはそれから十万年後だけどね」
神奈子「…それじゃ、“第二次人妖大戦”か?」
主「っ!!知ってるのか!?」
神奈子「ああ……と言ってもハク。そりゃあ………
主「は」
神奈子「いやだから140万年前…」
主「はあああああああッ!!??」
宇歌「140万年前………って」
諏訪子「噓でしょ…!?」
衝撃の事実が神奈子からその場にいた四人に伝えられる。140万年前…オレはそんな遠い昔から来たのか、そう悲観するかのように驚愕したハクはその表情を引きつらせる。
というか、何で諏訪子は知らなかったのに神奈子は知ってるんだよ。
主「………神奈子は、何でそんな昔のこと知ってるんだ?」
神奈子「…大和国は
主「くにつかみ?あまつかみ?」
諏訪子「国津神は私やミシャグジ様のように、この大地で人々の信仰によって生み出された神のこと。そして…」
神奈子「天津神は端的に言えば天から降りてきた神…、造化三神然り神から生み出された神然り。ハクが生きてた頃だと………月の都のツクヨミ様なんかがそうだな」
主「“ツクヨミ”…。なあ神奈子、月の都ってまだ月面にあるのか?」
神奈子「無論、あるぞ。」
主「なら、どうにかして行けないかな?…オレ世話になった人がそこにいて…」
神奈子「…残念だがハク、それは無理だ。月の都は今や
主「そうか………、でも」
ハクが急に立ち上がり、周りの三人が彼の方を見る。
主「諏訪子」
諏訪子「はえ?」
まさか自分の名前が呼ばれると思っていなかった諏訪子がきょとんして首をかしげる。ハクはそんな彼女を見つめ破顔一笑して語る。
主「やっぱ
諏訪子「は…はぁ!?別に私何にもしてなっ!ていうか、受け入れたのは宇歌でしょ!宇歌宇歌!」
諏訪子は宇歌の名前を連呼しながら彼女の背中に隠れてハクの前へと押し出す。
宇歌「ちょ、ちょっと!諏訪子様!?」
主「うん、ありがとね!宇歌ちゃん!」
宇歌「へ、はははいっ!こちらこそどういたしましてありがとうございました!?」
神奈子「…宇歌、言ってることがごちゃごちゃだぞ…。」
主「ともかく、色々わかってスッキリしたよ。ありがとうみんな!神奈子も!」
神奈子「まあ、役に立ったならよかったよ。」
諏訪子「…それでハク。貴方のことが少し解明されたところで、これからどうする?旅に出るの?」
主「………うん、そうだね。あれからどれだけ経ったとしてもやっぱり…そうしたい、かな。」
諏訪子の質問にハクは俯きながらも、しっかりとその意思を示す。そしてそのまま洞窟の出口へと向かう。
主「んじゃ!あと半月ちょっと、よろしくな!!」
ハクの一言に皆微笑み、彼らは揃ってその洞窟を出た。
【補足】
風祝(かぜはふり):かぜはふりと書いて“かぜほうり”と読む。東風谷宇歌以降の東風谷家が代々継承することとなった役職。新しく諏訪国国主となった八坂神奈子が風神でもあったため、彼女を祀る者として相応しい名称として、大和朝廷より贈られた。行う仕事はほぼ以前と変わらず、新たに祭神に神奈子が加わったことによる大和式の神事が増えるだけである。
天津神(あまつかみ):定義がしにくいのですが、国津神じゃない神全てとした方が分かりやすいと思います。造化三神から三貴子(みはしらのうずのみこ)、邇邇芸命(ににぎのみこと)まで天津神らしいです。
造化三神(ぞうかさんしん):天地開闢の際に高天原に最初に現れた3柱の神々のこと。天之御中主神(あめのみなかぬしのかみ)、高御産巣日神(たかみむすひのかみ)、神産巣日神(かみむすひのかみ)。
国津神(くにつかみ):高天原の神々“天津神”に対して、葦原中国(あしはらのなかつくに:日本の古称)に元々住んでいた神々の総称。大国主命(おおくにぬしのみこと)、洩矢神などがそう呼ばれる。