東方白狼伝説   作:青森の桜前線

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 彼は伝説となった。


世界を救って

 彼の背後にはこの言葉があった。
この言葉こそが彼を彼たらしめんとする言葉であり命題であった。

 伝説の真の始まりとは、
ひとりの少女の心根に灯った、一種の気づきにも似た、彼に対しての定義づけだったのだ。


第三十七話 怨嗟の円環

「“狐燐火(こりんか)”」

 

宇歌「…破ァッ!!」

 

 妖狐から放たれる火球を、宇歌は霊力を纏ったお祓い棒で弾き返す。キッと鋭い眼光で相手を刺す宇歌とは対照的に、終始その妖狐は不敵に笑っていた。

朗らかな昼下がりに似合わぬ殺伐とした気配と騒ぎに、諏訪国国門には多くの民衆が集まってきていた。その様子を見て、更に表情を険しくさせた宇歌は、その妖狐に向かって恫喝するように言葉を発する。

 

宇歌「ッ、貴様!……私の後ろの人たちには手を出さないと、誓えますか!」

 

「ハッ!…誰がそんな野暮なことすっかよ。俺の目的は元よりただお前ひとりだ」

 

主「宇歌ちゃん!!」

 

 騒めく民衆たちを背に、ハクは宇歌の名前を呼び彼女を振り向かせる。

 

主「大丈夫だ!…もしものことがあってもこの人たちはオレが責任もって守る!だから目の前の戦いに集中しろ!!」

 

宇歌「…っ!はい!!ありがとうございます!」

 

 そう彼女はハクに向かって軽く一礼すると、再び妖狐を睨みつけてお祓い棒を構える。そしてそれを縦横無尽に振り空中に印を結ぶと、大量の霊力の弾を周囲に出現させて、それを相手に向けて乱れ撃った。

 

「“狐狸隠れ(こりがくれ)”」

 

 妖狐はぴょいっと跳びあがって一回転すると、そのまま霞のようにその場から消えてしまった。

 

宇歌「くッ…!?ど、どこに!」

 

「ここだよ、諏訪の巫女。」

 

 急に自分の後ろから聞こえた声に背筋が凍りつき、瞬間思いっきりお祓い棒を声がした方へ向かって振りぬく。しかし、それは妖狐の身体を捉えることはできなかった。彼は宇歌から距離を取るようにバク転しながら離れていく。

 

 

宇歌「……どういうつもりですか」

 

「…あー?」

 

 低い声でそう呟く宇歌は俯いて目元が見えない。対して妖狐は頭を搔きながら眉をひそめる。

 

宇歌「先程、私を後ろから攻撃できましたよね?…何でしなかったんですかッ!!」

 

 そう語気を強めて宇歌は叫ぶ。妖狐は口角を上げて静かに笑いながらこう言った。

 

「……言っただろ?これは殺し合いじゃなくて()()()()だって。お前にとっては俺を殺して親の敵を討つことが目的だろうが、俺の目的は少し違っててな…。ま、ちっとばかしこっちから仕掛けねえとアレか…」

 

宇歌「……ふざけないで…ッ!」

 

 

 そこからは妖気を纏った赤い弾と、霊力を纏った白い弾がぶつかり合い衝撃波が巻き起こる。砂塵が吹き荒れて空の青さが霞みゆく下で、狗剱ハクは彼らの戦いを見ていた。

 

…正直話の見えない戦いだ。宇歌ちゃんは目の前に母親の仇が現れたことで、相手を殺すことしか考えていない。対してあの赤毛の妖狐は何を考えている?オレたちがここに来るまでの国門での沈黙の居座り…、なぜそうする必要があった?ただ人を襲いたいってわけでも、宇歌ちゃんを真っ先に殺したいってわけでもない。あの妖怪は今、一体何のために戦っている?

 

主「“過去の事を片付けに来た”。…確かそう言ってたよな」

 

過去の事とは、おそらく宇歌ちゃんの母親を殺したことを言っているのだろう。では、片付けるとはどういうことであろうか?その過去の時点で既に、片は付いているのではないのか?

 

主「…何にせよ、過去のどうこうはオレには知る由もないことだ。」

 

だが、奴の表情を見るに()()()()()()()()気がする。…それが何なのかは、もちろん見当も付かないが。

 

 

「“独狐伽羅(どっこきゃら)”ァ!」

 

 カラフルな狐火の弾幕が妖狐の周りに展開される。その大技に合わせて、宇歌もお祓い棒を目の前で構えて印を結び始める。

 

宇歌「……“封魔陣”ッ!!」

 

 その狐火を取り囲むようにして無数の霊符が展開される。妖狐の攻撃が宇歌に向かって飛んでくるのを、その霊力の陣が抑え込む。そして、互いの攻撃同士がぶつかり合った衝撃で封魔陣内で爆発が起こった。

 

「グッ…!?」

 

 妖狐はその場から逃げようと先ほどの技を繰り出そうとするが、間に合わずにそのまま飲み込まれていった。

爆発が収まると、宇歌は彼が倒れているであろう場所へと駆けていく。右手にはお祓い棒を、左手には先ほど約束していた小刀を、律儀に拾い持っている。そして、砂煙の中から倒れている相手を探し出すと、お祓い棒を喉元に当てがい馬乗りになって押さえ込んだ。

 

 

宇歌「…ははっ。何か、言い残すことはありますか?」

 

 宇歌は静かに笑って、そう倒れている相手に溢す。問いかけられた妖狐は荒く呼吸をしながら、特に組み付かれてることに対して抵抗もせずに、ゆっくりと答える。

 

「最期に…っ、教えてくれ…!はあ……はあ……。」

 

 時折咳き込みながら何処か遠いところを見るようにして、その妖狐は次のように述べた。

 

 

「お前は、“死ぬ時に笑う”のか…?」

 

宇歌「………は?何を言っているんですか?」

 

 

「くっははは…。そうだよなあ、普通笑わねえよなあ?……でもよ、お前の母ちゃんは笑ったんだ。それに、俺に“ごめんね”なんて言葉なんて残していきやがって…。ホント、意味わかんねえ」

 

 

「ど、どういうこと…ですか…ッ!」

 

「…知りてえよな。お前は遠くで見てただけだもんな。……いいぜ最期に話してやるよ、あの日の。俺が()()()()()()()()()()あの日の出来事を。」

 

 

 

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

~12年前 諏訪国~

 

 

「うーかーちゃー-ん!!!」

 

 玄関先から発せられる大音響が空気を震わす。それを聞きつけて二人の対照的な表情をした者たちが、一人はトタトタと走ってきて、もう一人は不機嫌そうに歩いてきた。そうして走ってきた方の子が、その大音響の主に抱きつく。

 

 

「母様っ!」

 

「おーよしよし、起きてたかー我が可愛い娘よ!」

 

 一片の曇りもない清純そうな灰色の瞳に、腰まである緑の髪をひとつに結ったその女性は、自分に抱き着いてきた女の子の頭をそう言ってわしゃわしゃと撫でまわす。そうして高い高いと、その子を抱き上げていると、もう一人家の奥から歩いてきた幼女に愚痴を溢される。

 

「…お務めご苦労様だけど、朝っぱらからあんたの大声とテンションは頭が痛くなるんだけど…。そゆとこ、どうにかしてくれない?“稲禾(とうか)”」

 

 

 第二十三代目諏訪国巫女“東風谷(こちや)稲禾(とうか)”。彼女が上記の言葉を聞くか聞かないか、抱きかかえていた子に向かって言葉を投げかけた。

 

「宇歌ちゃん!今日はお母ちゃんと一緒に出掛けるよっ!」

 

「え!?どこ!ねえどこに行くの!」

 

「あっはは!それはねぇ……お楽しみだよー!!」

 

 

「ねえ、ちょっと稲禾!聞いて…」

 

「ごめん諏訪子様!そんなわけだからさっ、ちょっと宇歌ちゃんとお出かけしてくるねー!」

「くるねー!!」

 

「あっ!?おいちょっと待て!!」

 

 くるりと宇歌を抱きかかえたまま身を翻した稲禾は、そのまま町の方へ脱兎の如く駆けて行った。その袖を捕まえようと諏訪子は裸足のまま外へと飛び出すが、稲禾たちがもう社前の階段を下りて行ってるのを見て諦める。

 

「…まったく、何であの子はあんなにも自由奔放に育ったかなー…。まあ巫女の仕事自体は真面目というか、それ以上に頑張ってくれてるからあまり強く言えないんだけどさ…。あーうー」

 

 

 

 

 

 

 

 

「わああ……!!」

 

「どう?綺麗でしょ?」

 

「うん…!」

 

 朝焼けに照らされた黄金色の稲穂。それが目の前いっぱいに広がる田んぼ畑。秋の肌寒い風がその稲の一本一本を梳くように流れていく。ざわざわ、ざわざわと、稲同士が擦れあう音がその風に運ばれて鼓膜を振動させる。嗚呼…胸をすくような焦燥、そしていっぱいに弾ける高揚…。神々までもがこの光景に恋をしてしまいそうな色めく秋。その只中を二人の親子は歩いていた。

 

「秋っていいよね」

 

 不意に隣を歩く稲禾がそう呟く。

 

「人間たちが頑張って植えて育てた作物が実を結ぶ季節だよ。汗水たらして働いていたみんなが一斉に笑顔になるんだ、そして互いにその喜びを分かち合う………アタシそんな秋が大好き。」

 

 

「……わたしも大好きー!」

 

「あはは!宇歌にそう言ってもらって、みんなも嬉しいと思うよ!」

 

「んんー-?…どうして?」

 

「それはね、宇歌の名前の由来が…」

 

 瞬間、稲禾は自分たちの行く手を遮るようにして立つ者が前方にいることに気付く。そしてそれに目を向けた彼女はその者の正体を認識した。

 

妖怪____ッ!

 

 その者がこちらへと近づこうと歩みを始めるのとほぼ同じタイミングで、稲禾は宇歌を自分の後ろへと守るようにして隠す。そして互いの顔が見える距離までその妖怪が来ると、稲禾に向かって話しかけてきた。

 

「…お前が諏訪の巫女だな」

 

 褐色の毛をたなびかせた妖狐の少年は、そうドスのきいた声色でこちらを威嚇するかのように睨みつける。稲禾は宇歌の手をギュッと握りしめて、その場の殺気をぶち壊すようなあっけからんとした表情でそれに答えた。

 

「うんっ、アタシがそうだよ!」

 

 その言葉を聞いた途端に先ほどから発せられていた殺気がより鋭さを増す。毛が逆立ち、目がつり上がり、口が三日月に裂ける。

秋風に揺れる鬼灯。漂う狐火に、辺りは朝だというのに徐々に薄暗くなっていく。刻は正に丑の刻、妖怪の時間が始まる。

 

「そう、か…ッ!」

 

 

「……逃げなさい宇歌」

 

「え…?」

 

「いいから早く!!」

 

「っ!!」

 

 母の迫真めいた声に、宇歌は反射的にその場から駆け出す。少女の足音だけがデクレッシェンドしていく不思議な空間、そこにピンと張った殺気という名の琴線。それを掻き鳴らしたのは妖怪の吼噦(こんかい)だった。

 

「お前、一か月前に狐の妖怪を二匹退治したよな」

 

 質問であった。

 

「…確かに退治したわ。……それがあなたのお仲間だから復讐しに来たと、そう言いたいのかしら?」

 

 漂う妖気が一段その禍々しさを上げる。

 

「違え。…お前が殺したのは俺の両親だ」

 

「ッ!……でも、あなたのご両親は人間たちに危害を加えていた。確かにあなたに恨まれる動機は分かるしアタシを殺そうとすることも理解できる。…でもね、アタシだってタダでやられる訳じゃない。それにあなたみたいな妖怪の子供なんて、私の相手にもならないと思うけど?」

 

 懐から取り出した護身用の小刀を抜き放ちながら、稲禾は自身の霊力を高め始める。対して妖狐は左手の人差し指をビシッと自身の左方向へ向けて指す。その突然の行動の意図に、稲禾は理解が追い付かずに固まっていると、再度吼噦。

 

「あの山を見てみろ」

 

 言葉につられて彼が指す方を見てみると、そこには木が伐採されて禿げた山が存在していた。

 

「あの山は俺たちが暮らしていた山だ。…そしてお前が父と母を殺した山だ!」

 

「!」

 

 確かに…!あそこは自分が依頼を受けて退治に向かった山だ。……でも何かおかしい。あんなに禿げた山だったか?

 

「…俺たちはあそこの山で静かに暮らしていた。ここら辺の人間に手を出しゃアンタが黙ってないからな、山の恵みで自給自足しながら暮らしてたんだ。」

 

 濃い妖気が微かに霧散して朝の光が差し込んでくる。昔語りをするように妖狐は歩き始めた。

 

「そこの山には上質な檜が生えていて、この辺りじゃ珍しいだろ?だからちょいちょい人間が伐採しに来てたんだ。そいつらは精々二、三人だったんで、俺たちとしても干渉せずにいたんだが……ある日を境に全てが変わった」

 

 水の中に墨滴を落としたかのように徐々に周囲が暗くなっていく。妖狐はこちらに背を向けて立ち止まる。

 

「…あの日、俺たちの山に人間たちが大挙して押し寄せてきた。そして俺たちにこう言った“山から出ていけ”。資源を独占するんだとさ、迷惑な話だぜ。……俺たちはこの山に依存した生活を送ってたからな、もちろんソイツらの命令には従えないわけさ。そうして妖術で化かしたりして山を守ってるうちに…、アンタが来たってわけだよ。」

 

「………」

 

『あの狐どもにヨメを傷つけられただ…、巫女さん助けてくれ!』

 

 

「アンタは騙されてたんだ、あの人間たちに。……到底信じられないってか?そういう顔してるぜ…アンタ」

 

『あそこの山に新しく住み着いた狐のせいで新しく橋も架けられないよ…』

 

 

 

「……正直、あなたの言葉をそのまま鵜吞みにはできないわ…。あなたが噓をついてる可能性だってあるもの」

 

 稲禾は小刻みに震えそうになる手を握りこんで抑える。心臓の鼓動が速くなる、やけに息苦しい。

 

「そうだよな」

 

 あっさりとその妖狐は引き下がる。

 

「…そういえば、お前の国の門が新しくなるんだってな。何でも丈夫な()の材木を使って……アンタそれがどこから運ばれてきてるか聞いたことはあるか?」

 

『巫女様…え、えーっとそれはですね…。この前巫女様が退治してくださったあの山から…』

 

『それにしては大量だねー』

 

『あっ、えと、他にも檜が見つかったもんで!はい!』

 

 

「諏訪の社も改築されるそうじゃねーか。随分と急な話だな、おい!」

 

『諏訪子様っ!改築とは随分と急な話ですね!』

 

『うーんそうだね、私もついこの前聞かされたんだ。…材料が足りないって言ってたのに不思議だなあ』

 

 

「俺たちが暮らしてた山は今やまっさらだ!お前たちが森を踏み荒らして動物たちもどっかに行っちまった!!木を伐られすぎたあの山は()()()()()()んだよックソォー-!!!」

 

『『ヒソヒソヒソ』』

 

『あれ…、あなたたちそんな大人数でどこに行くんですか?』

 

『っ!…いえ巫女様、そんな大した用でもありませんよ。時間がないんで失礼します…』

 

『???』

 

 

「………」

 

『…後悔するぞ人の子よ、こんな蛮行…ゆる…されッ!』

 

「っ」

 

『私はお前を恨むッ!!!』

 

 

「ごめんなさい!!!」

 

 稲禾は地面にその頭をこすりつけていた。

 

「……別に俺はお前を恨んでないとは言わないが、お前を殺すためにここに来たんじゃない」

 

 妖狐はぐいっと顔を近づける。

 

「俺が本当に殺したいのは、お前に指図した人間だ。」

 

「…っ!!」

 

「何人かいるはずだよなァ…、ソイツらの居場所を教えろ。そしたらお前と、向こうで隠れて見てる()()()()には手は出さないでやる…どうだ?」

 

 娘…? 瞬間稲禾はハッとして後ろを振り向く。するとそこには先ほど逃がした自分の子である宇歌が、草葉の陰に身をひそめながらこちらを見ていた。

 

「…あの子ッ!」

 

「おっと!動くなよ…、口だけ動かせ。俺の質問に答えろッ!!」

 

 物凄い剣幕で、今にも嚙みついてきそうな空気を纏わせながら、妖狐の眼光が鋭く稲禾に突き刺さる。目を閉じて歯を食いしばり、暫く小刻みにその肩を震わせていた彼女だったが、不意にすんとその全ての動作が収まると、右手に持っていた小刀をカランカランと妖狐の目の前の地面に放り出した。

 

「……おい、何の真似だお前」

 

「…彼らにも家族がいる。いずれあなたのように肉親を失った憎しみに駆られて、あなたの前に現れるでしょうね」

 

「それがどうし…」

 

「だからアタシを殺して。」

 

 

「………はあ…?」

 

 稲禾は立ち上がる。

 

「アタシひとりの死をもって、この憎しみの連鎖を断ち切りたい。これ以上の犠牲を出したくない。」

 

「詭弁だ!!」

 

 妖狐は声を震わせて反論する。

 

「お前を殺したら、お前の後ろにいるお前の子が!復讐に駆られるんじゃねえのかッ!それじゃあ断ち切ったことにはならねえだろよ!!」

 

「うん。だからあなたはここを離れて」

 

「はあッ!?」

 

「ここから西、都よりももっと西にいったところに。…あなたのような妖怪たちが集まる()()がある。身勝手なお願いなのは分かってる、でもここで暮らすよりもずっといいわ。だから…」

 

 

「アタシを殺して」

 

 辺りに漂っていた妖気は完全に霧散し、風光明媚な黄金色の景色が広がる。向き合う二者の間に一陣の風が吹き抜けた。

 

「いかれてるよ、アンタ」

 

 妖狐は落ちている小刀を拾い上げる。

 

 

「約束しよう…。お前ひとりを殺して仇討ちとし、両親への手向けとする」

 

「約束して…。アタシを殺したらあなたは西の果ての山へと向かうの」

 

 刹那、妖怪は駆けだした。

 

 

「…父と母の仇だァァァッッ!!!」

 

「ごめんね…」

 

「っ…!ッッ!!」

 

「……宇歌!!!」

 

「……へ…?」

 

「“            ” ッッ!!!」

 

 

 鮮血が舞った。

そして、それは朝焼けに染まる地面に同化するように、辺りへと飛び散る。その時の妖狐の瞳に映った彼女の顔は、最初に会った時のような天真爛漫な笑顔だった…。

 

 

 

 

 

 

そこの記憶が、母が最期に私に向けて言った言葉の記憶が、今の宇歌()にはない。

 

 




【補足】
東風谷稲禾(こちや とうか):第二十三代目の諏訪国の巫女で宇歌の母。自由奔放で活発的であり、困っている人はほっとけない性格。やや破天荒な面も見られるが、社の仕事自体は真面目にこなす。多くの人に慕われていた彼女だったが、妖怪に殺されて若くして亡くなった。

吼噦(こんかい):狐の鳴き声のこと。
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