東方白狼伝説   作:青森の桜前線

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 神とは、常に善と悪の二面性を持っているものです。世界各地の神話に見られるように、時には人を救い、時には人を殺すのです。恵みの雨を降らせて豊作をもたらし、日照りによる干ばつで凶作をもたらす。
 自然は神と似ています。私たちの身近に存在しているのに、見えない。自然とは一体誰のことなのか。誰が風を起こし、誰が雨を降らすのか。
この人間の疑問こそが信仰の始まり、そして科学の始まりです。あれはなぜこうなのか、なぜ起こるのか、そのことに理由を付けた歴史的な瞬間です。その時より天地は創造され、開闢され、ヒトは進化を果たしたのです。


第三話 下山、そして…

 ただひとつ、正しくあれ。最後にタケ爺にかけられた言葉だった。

結界操術を何とかものにし、オレは一か月を過ごしたこの朧山を下りる。濃密な一か月だった。鬼ごっこから始まり、体術・妖術・秘術など多くのことを学んだ。タケ爺はもう己の師と言っていいだろう、それくらいに一緒に過ごした時間はかけがえのないものだった。

「力を得、何のために戦うのか」いつもタケ爺が言っていた言葉だ。意志なき(こぶし)は己を濁す、理由なき拳は世を乱す、兎に角お前が戦う理由を見つけろ。それがこの修行でオレに課された宿題だった。

 

 小さい頃から父に憧れた。大太刀を振るい流麗なる足さばきで敵に近寄り、その流れのままに一刀両断する。自分もいつかあのようになると盲目的に追ってきたが、それは所詮子どもの遊戯に過ぎなかった。子どもの遊戯だから、皆に褒めてもらえたのだ。しかし、これからはそうはいかない。力は善にも悪にもなる。そして護にも殺にもなる。そこには、明確な()()というものが必要なのだ。

 俺はこの修行で確実に強くなった。身体的にも精神的にも。しかし、タケ爺の言う“己が戦う理由”というのは結局のところわからなかった。それでも下山を許してくれたのは、大志を見出したからなそうなのだが、オレにはよくわからなかった。そして、久しぶりに顔を合わせる両親に想いを馳せながら、心はこれから戦う相手に向いていた。

 

主「鬼門寺(きもんじ) 虎千代(とらちよ)、ね」

 

 タケ爺からその名前は聞いていた。鬼族長の娘であり、武芸に秀で、学問にも精通する、まさに文武両道を体現した人物であると。何より自分とそれほど変わらない歳と言うのが信じられない。本来なら自由気ままに遊び呆けているであろう時を、勉学や武術の鍛練に彼女は費やしている。たかが一ヶ月程度修行した自分とは、その実力に大きな開きがあるだろう。中でも近接格闘においての勝ち目はほとんどない、とハクは考えていた。元来、鬼族というのはその単純な「腕力」のみで生き抜いてきた民族であり、その血はもちろん彼女にも流れている。まともに打ち合おうものなら、途端に組み伏せられてしまうだろう。故に、何か“策”がいる。

 

主「コレしかないか…」

 

 ハクは自分の掌を見る。タケ爺から強大過ぎるとまで評された“重力”の能力である。この力は単純明快、自分の周囲の重力を操れる。月の上のように軽くすることもできれば、某野菜人漫画のように重くすることもできるのだ。しかし、いくつか弱点もあり、能力発動圏が自身の周囲の半径10メートル以内であるということ、もう一つは移動しながらでは発動できないということであった。ハクはこの弱点を解消するために、タケ爺から伝授された結界操術を活用することにし、この一か月でその術を会得した。

 

主「うまく決まってくれよ」

 

 拳をグッと握り、里へと足を早めた。

 

 

 

 

 

 

來寄「お、来たな。おーーい!ハク!」

 

 父さんの声が聞こえてきた。遠くを見るとこちらへと手を振っているのがわかる。その隣には母さんと村長、他にも多くの人たちがオレの帰りを待っていたようだ。

 

主「ただいま、父さん。母さんも」

 

母「ええ、お帰りなさいハク。どうだった修行は?」

 

主「うーん、すごく辛かったけど、何とか頑張れたよ。それにさ、身につけてきたぜ結界操術!」

 

 そう言うとハクは青白い結界を手のひらの上で展開させた。おお、と群衆から声が上がる。

 

來「俺の息子だ、それくらいしてくれなきゃな」

 

 

村長「ハクよ!よくぞ術を体得し、里へと舞い戻った!だが、本番は近いぞ。明日はゆっくりと休み、その次の日には鬼の里へと向かってもらうことになっておる。」

 

主「おう、村長!親衛隊長の息子として恥ずかしくない活躍をしてくるぜ!みんなもオレに期待してくれていい!」

 

 わはは、そんな笑い声に包まれる。しかし、その笑い声はハクが修行をしに行く前に彼に向けられたものとは違い、温かい気持ちにあふれていた。

 

こうしてハクの修行は終わった。ハクはどこまで強くなっているのか、自身の能力を補うための術とは、すべてはこの後に開催される武闘祭にてその全容が知れるだろう。しかし、今は…、

 

主「あー、つかれた…」

 

 彼には休息が必要なようだ。

 

 

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 時は過ぎ、出発の日。薄暗い蒼穹に弧を描いたような雲が浮かぶ少し肌寒い朝。白狼の里では大勢の人が里の玄関口である橋の前に集まっていた。各々が談笑するなか、その話題の中心は今回鬼の里へと赴こうとする一人の少年にあった。そんな彼だが臆した様子もなく、また高揚している様子もなく、ただ平静と瞼を閉じて時を待っていた。彼の両隣には供としてついて行く二人の親衛隊員が侍っている。

 

陽が昇る。瞳が開く。大地が橙に光る___。出発の時だ。

 

 

主「行ってきます」

 

言葉一つ。

 

來「見せてきな、お前の力」

 

母「気を付けてね」

 

言葉二つ。

 

「「「頑張ってこいよーー!」」」

 

 言葉たくさん。

 

子の成長とは何と輝かしい、狗剱來寄はそう感じた。かつて自らがそうであったように、息子も力を手にして旅立っていく。自身の親もこんな気持ちでいたのか、そう空を見上げたくなる。たった数日の別れでも、息子にとっては青春であり、濃密な人生のひと時であるだろう。願わくば、かの者の道に幸多からんことを…。

 

 

 

 

 

 

 

~オマケ~

 

主「ちなみに名前はなんて言うんだ?」

 

 ハクは供としてついてきた二人の親衛隊員に尋ねた。

 

「タダノと、」

「モブオだ」

 

主「え…あ…フーン(察し)」

 

 

 

 




【補足】
 タダノ:白狼の妖怪であり、親衛隊員。モブオとは幼なじみ。細身。

 モブオ:白狼の妖怪であり、親衛隊員。タダノとは幼なじみ。太め。
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