東方白狼伝説   作:青森の桜前線

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 現代社会に生きる我々は、世界をモニタごしに捉えている。モニタに映るのが世界であり、モニタに映る意見がみんなの意見である。
 古代に生きる人々は、世界を知らない。誰かから伝え聞いた話をもとに世界を広げ、自分が生活する小さな集団が世界である。
 人間は好奇心旺盛。これからの将来、人類はその世界をもっともっと広げるだろう。地球1個支配出来ない人類に宇宙が支配できるものか。






第五話 武闘祭

 熱い___この空間を一言で表すとすればこれだろう。闘技場の観客たちの歓声はまさに空を包み込む勢いである。目下、彼らの視線は西と東に設けられた登場口に向けられていた。西には雄叫びを上げる狼の彫刻が、東には正面を睨み付ける鬼の彫刻がそれぞれ施されている。そしてそれらは互いを威嚇し合うかのように観客たちの声を反響させていた。

 

「きたぞ」

 

 観客の誰かがそう声を上げる。その瞬間大地が揺れた。

 

「「「「ワアアアアアアッ!!!!!」」」」

 

 

「やはり、こうでなくてはな」

 

 鬼族長“鬼門寺信虎”は言う。闘技場北の、客席よりも少し高いところに作られた特別席で。そして後ろから彼に声をかけるものが一人。

 

「相変わらず凄い熱気だな、信虎」

 

信虎「貴治(たかはる)か!よくぞ参ったな」

 

 信虎から貴治と呼ばれた者こそ白狼族長“(たちばな) 貴治(たかはる)”その人である。貴治は信虎と固い握手を交わし、二個並べて設けられていた椅子へと腰掛ける。

 

貴治「先ずは招待ありがとう。最近は何かと物騒故な、里の者共には留守を頼んで居る。」

 

信「残念だが仕方が無いであろうな。弱小妖怪どもの動きも活発であるし、何より大蛇(おろち)族も怪しい動きをしているという。用心するに越したことはないだろう。」

 

貴「ふむ………まあ、今はこの祭りを楽しもうではないか。」

 

 貴治が視線を向ける先には、東口から出てきた少女がいた。彼女は大きく深呼吸をして正面を___西口を見据えている。

 

貴「暫く見ないうちに随分と凛々しくなったものだな、貴殿の娘さんは」

 

信「フハハ!誰かさんのおかげでな!」

 

貴「…來寄には儂からきつく言っておいた、余り娘さんに軽々しい口を叩くなと。今では随分と落ち着いたが、あの頃の彼奴は礼儀というものを知らなんでな。」

 

信「貴治よ、私は感謝しているのだよ。あの者無くば今の虎千代はない。そう思っている」

 

貴「…ふん」

 

 

 そうこうしていると西口に影が見えた。一歩一歩前に、大地を踏みしめるように中央へと歩いてくる。やがて陽の光に当てられてその姿があらわになると、会場はより一層震えた。

 そして両者共に歩み寄り顔が見える距離まで近づいたところで止まった。

 

虎千代「お早う御座います。昨夜はよく眠れましたか?」

 

主「おう、ぐっすり眠れたぜ」

 

虎「ふふっ、それは何よりです。つまり、あなたはベストコンディションということですね」

 

 虎千代はその場で屈伸をし、身体を伸ばし始めた。

 

主「たしかにいい調子だ」

 

虎「いいですね。高揚しますよ、ハク。私も血が滾ります。私の血が、鬼の血が、昨日の夜から滾って滾ってゾクゾクして…、私、()()()()()()()()()ッ!!」

 

 ゴオッ、とハクは威圧をその肌に感じた。ピリピリと気力を吸い取られていくような感覚を、毛の一本一本が感じ取っていた。これが鬼門寺虎千代、そして鬼という種族なのだ。だが、それがどうしたというのだ。何を今さら怖気づくことがあろう。ただ、闘うのみ。さあ、参ろうか!

 

 

 

信「双方!!準備はよいか!!」

 

 信虎の声に静かに頷く二人。信虎はそれを確認し、いよいよ開催の火蓋を切る。

 

信「それではこれより!古くからのしきたりに則り、鬼族・白狼族の友好と平和を願い、霊峰八ヶ岳が望めるこの場所で!相対する鬼方の代表は、鬼門寺虎千代!!」

 

貴「同じく、相対する白狼方の代表は、狗剱ハク!!」

 

信 貴「「我ら、天と祖霊に誓い、ここに武闘祭の開幕を宣言す!」」

 

 

信「両者、構えぃ!!………始めッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

虎「先手必勝ッ!こちらから行かせてもらいます!!」

 

 先に動いたのは虎千代だった。大地を蹴り上げこちらに向かってくる様はまさに弾丸のそれであった。大きく振りかぶり、左足を軸に回し蹴りを叩き込もうとする。___が、しかしその攻撃はハクには命中しなかった。

 

虎「え!? ぐッ!」

 

 虎千代はハクに近づいた途端、バランスを崩して転びそうになる。しかし、彼女は高い柔軟性活かして身体をくねらせそれを回避する。彼の周りは違和感がする、身体が重くなったような…、虎千代はそう感じた。取り敢えず違和感がなくなる距離まで下がり体勢を立て直した。

 

主「ありゃ、初見で転ばない人は初めてだよ」

 

虎「ふう、それがあなたの能力ですね。何の能力ですか?」

 

主「はっ!わざわざ敵に教えるバカがどこにいんだよ。次はこっちからだ!“紡氣練戦装(ぼうきれんせんそう)”」

 

 ハクは両腕に青白い光を纏い、それを硬化させた。そして虎千代に近づき振り上げた。

 

虎「はっッ!!」

 

 虎千代は冷静にハクの拳に対して自身も拳を打ち返し相殺した。その後もハクの連撃がその身体に叩き込まれようとするが、彼女はそれらを全て相殺し、また回し蹴りを叩き込もうとする。ハクは瞬時に右手に結界を展開し、それを受け止めようとするが、彼女のパワーに押されて少し後ろに下がってしまう。

 

 

 

主「流石に近接じゃ分が悪いか…。」

 

 ハクは両腕に纏った結界を解きながら呟く。華奢な身体から繰り出される攻撃は見た目に反して強烈無比であり、結界で拳を硬化した状態でも彼女と渡り合うには少し足りないだろう。

 

虎「穿てッ!!」

 

 虎千代はそう叫ぶと拳を大地に突き立てた。その瞬間虎千代の前の地面が隆起し、ハクに向かい岩石の塊となってその体躯を打ち付けてくる。ハクは大振りな攻撃に対して横に飛んで避けた。しかし、

 

虎「貰った!」

 

 避けた隙を狙って虎千代がハクの懐に飛び込み強烈な一撃を叩き込んだ。

先程の大振りな攻撃は陽動であった。岩石の塊がハクの視界を阻害し、回り込もうとする彼女に気づけなかったのである。ハクはその攻撃をモロに喰らい後ろへと吹き飛んだ。

 

「「「わあああああっ!!!」」」

 

 虎千代の攻撃が決まったことにより会場は盛り上がりを見せる。ハクが吹き飛んだ先、そこでは衝撃で砂煙が舞い、ハクの姿を確認できないでいた。

 

信「先ずは、ウチの一本先取だな。ハク君もよくやってはいるが、相手はウチの娘だ。そう易々と勝たせては貰えんだろなあ」

 

貴「…その言葉、そっくりそのまま返そう」

 

信「…なんだと?」

 

貴「…」

 

 

 

 

虎「…どうしました?まだまだこんなものではないでしょう。さあ!早く立ち上がって来てください!」

 

 虎千代がそう呼びかける砂塵の向こうからは未だ返事はない。こちらから出向こうか、そう思っていたところ。煙の中から青白い結界が猛スピードで飛んできた。そのあまりの速さに避けられないと悟った虎千代は反射的に右腕でそれを受けた。

 

主「“重力結界”」

 

虎「くッ、腕が…」

 

 ハクが言葉を発すると虎千代の右腕に巻き付いていたそれは急に重くなり始め、何とか体勢は維持できているものの、鬼の剛力を以てしても動かせるものではなかった。虎千代は合点がいったかのように語り始めた。

 

虎「…成程、重力、ですね。あなたの、能力は。でも、良かったのですか?“敵に教えるバカはいない”のでしょう?」

 

主「…いいさ。どうせお前にはそんな小手先のもの通じねえし、何よりお前の()()()を封じられた。お前の力は半減だ、なあ虎千代」

 

虎「ふふふ…、そう思いますか?」

 

主「…なに?」

 

虎「余り、見ていて気持ちの良いものではありませんからね。()()は…。でも、最早使うしかないようです。」

 

主「どういうことだよ」

 

 

虎「簡単な話です。あなたにも能力があるように、私にも能力があるんですよ。さて、私の能力は何でしょーか、ハク?」

 

 そう言うと、虎千代は落ちていた小石で自らの腕を縦に切り裂いた。

 

 

 

 

 

 

 




【補足】
 橘貴治:白狼族族長。海を割る程度の能力。

 大蛇族:三大妖怪(白狼・鬼・大蛇)の内の一つ。先の大戦では妖怪たちを扇動して、天孫に対して戦いを引き起こした。上半身が人で下半身が蛇のナーガのような姿。

 紡氣練戦装:結界操術の一つ。防壁を身体に纏い、攻撃にも防御にも転用できる鎧のようなもの。

 重力結界:ハクの能力と結界操術を合わせたもの。重力の作用を働かせた結界を相手の身体の一部に巻き付けて、そこの重力を重くする。移動しながらの使用可。
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