東方白狼伝説   作:青森の桜前線

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 ゆらり、ゆらり、ゆらり、ゆれる
 言ノ葉 現ノ君
 感情溢れ 振りかざす
 人は
 ゆらり、ゆらり、ゆらり、ゆれる
 真理 それは幻
 何を掲げ 血を流すのか






第六話 血に染まる鬼

虎千代「あああああああああッ!!!!」

 

 虎千代の右腕から噴き出す“血”。その鮮血は彼女の無垢な衣装に朱を走らす。パックリと割れた腕からは中の肉が見えており、その様子に観客たちも少し動揺した。

 しかし、それはすぐに歓声へと変わる。

 

主「!?」

 

 滴る血が宙へ浮き始め、彼女の身体に朱の“華”を形づくったのだ。凄惨なるまでに傷を負っていた右腕もいつの間にか元通りになり、そして___その右腕を動かしたのだった。バカな、ハクは驚愕した。あそこに掛けた重力は10倍、そう易々と動かせるものではない!しかし、現に彼女の腕は動いており、こちらへと話し始めた。

 

虎「ふう、…驚きました?これが私の能力“血を力に変える程度の能力”。血を代償に私はこれまでとは比べ物にならないパワーを得ました。あなたの結界も、ほら、意味を成しません」

 

 フラフラと手を振って見せる彼女は得意そうにそう語っていたが、最後に苦い顔をした。

 

虎「まあ、最大の欠点は凄く痛いのと、周りの皆んなが引いちゃうことですけどね…」

 

主「…そうか?オレはスゲーカッコいいと思うぜ」

 

虎「ふふふ」

 

 虎千代は上機嫌そうに笑い、そして体内の妖力を解放した。

 

虎「ここからの私は強いですよ?覚悟して下さいね」

 

 

 

 

 

 

 激烈_________正にその通りであった。空気が振動し、大地は揺れ、(ハク)(虎千代)が互いを削り合っている。虎千代が拳を振り抜けば、ハクはタイミングをずらすかの様に一瞬周囲に重力をかけて、相手の攻撃を結界をもっていなす。ハクが結界を拳に纏い、また重力結界を応用して己の足にかかる重力を軽くしても、手数の多さで補えないほどに虎千代の豪壮なる構えは一寸の狂いもない。

 互いに決定打を得ないまま一進一退の攻防が続いていた。

 

信虎「…もう20分になるか」

 

 信虎が感嘆とともにそう溢す。虎千代は若いながらも里の中ではかなりの実力者である。勿論、私や側近の者と比べればまだまだ未熟なところが目立つが、それでもその辺の妖怪十人を同時に相手にしても決して遅れは取らないであろう。だが、あの少年は何だ。修業期間はたったの一月、圧倒的な力があるわけでもないのに何故あそこまで戦えている。いや、待てよ。この気は? あの子から僅かに感じる()()()は何だ。我々妖怪のものとは似て非なる___、まさかこれは

 

貴治「神の気、だろ?」

 

信「…貴治。あの子は、妖怪では、ないのか…?」

 

貴「儂も詳しいことは知らん。何せハクから神力を感じられることが分かったのはつい半月程前のこと故。しかもタケ爺が言うには『激しい戦いの中に於いてその兆候が見られる』のと、『神器を前にしても同様』とのこと。これらに何の関係があるかは分らんが、少なくともあの子が“神の血”を引いてるのは明白であろう。」

 

 淡々と語る貴治に信虎は一つの疑問が浮かぶ。

 

信「しかし、最後に高天原が天から降りてきた先の大戦___“人妖大戦”より早10万年。この間神と妖が交わることはなく、その子孫である天孫も我々と交わるところか、“血の境界線”を以て住む世界を分けておる。10万年前なら未だしも、今になって神の血を引く者が現れることは何とも考え難い。だが、現にこうして目の前におるのだからなあ…、ううむ」

 

貴「幸い、()()を感じ取れる者は少ない。…明日、内々にて事の解明に当たる。故に本日は祭りの結末を見届けた後に帰らせて頂きたい。」

 

 貴治は硬い意思で信虎を見つめて頭を下げた。

 

信「…おぬしの事だ。今日帰らねばならない理由があるのだろう。相分かった、皆には私から伝えておく」

 

貴「忝い」

 

 

 

 …眼下では試合が動いていた。

 

 

虎「“血離華(ちりばな)”!!!」

 

 

 勝負を決めにきた。虎千代の背に咲いている朱い華の花弁がひらり、ひらりと落ちていく。その度に虎千代は絶叫し、その眼が朱黒く染まっていく。刹那___

 

虎「ウガガガあァアッッ!!!!」

 

 虎千代はハクに飛びかかる。その様に理性なくて、先程までの流麗な体術とは対照的に、ただ本能のままに相手を喰らい尽そうとしていた。

 

主「結界!!」

 

 ハクは両手を目の前でクロスさせて結界を張り、虎千代の攻撃に備えた。

 一度は受け止めるものの、ハクの眼前には亀裂が走っていた。

 

主「!?」

 

虎「アアアア!!」

 

 そのことを理解したと同時にハクの視界がブレる。天地天地と回転しながら血の尾を引き、壁へと激突した。

 

 勝負は決した。誰もがそう感じ、賛辞の歓声を送ろうと肺を膨らませた時、獣がそれを遮った。

 

虎「ウガァッ!グギぃ!ガアァッ!!」

 

 理性を知らない獣はハクへと留めを刺すべく彼の前へと跳んだ。そしてその凶悪な拳で頭を破壊しようと振り上げた瞬間。

 

信「そこまでだ、虎千代」

 

 そこには獣の腕を押さえた信虎がいた。獣は大いに暴れ、その拘束から逃れようとするが、信虎は涼しい顔で直も抑え込んでいる。

 

虎「ウガガガッ!!??」

 

信「これは決闘だ、相手を殺そうとする馬鹿がどこにいる、だからお前は未熟なんだ。その様な(てい)を、來寄殿に見せるつもりだったのか」

 

虎「グぎるるるぅ!!??」

 

信「反省しなさい」

 

 ストン、と信虎は虎千代の首裏に手刀を当て気絶させた。その瞬間、虎千代を覆っていた禍々しい朱い華は砕け散り、身体からも朱い血潮は引いていった。

 

信「…皆の者!待たせたな。これにより、勝敗は決した。武闘祭優勝者は、鬼門寺虎千代!!者共!天の祖霊にも聞こえるように大きな声で叫ぶのだ!!!」

 

「「「「うおおおおおおおおおッッ!!!!!!!!!!」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

「うぅんん…?」

 

 ハクは目が覚めると自分が泊まっていた部屋の布団の上にいた。障子からはやけに明るい光が漏れており、今は何時なのか、あれからどれぐらいたったのか、その様な疑問に溢れた。

 

主「ツっーー…!、ああ痛って…。………負けた、か。 ん?」

 

 悔しさに包まれながらもどこかやり切ったような清々しい気分でいると、ふと自分が寝ている右側に違和感があることに気付く。

 

主「え…?」

 

「すう、すう、」

 

 そこには気持ちよさそうに寝息をたてながら添い寝をしている虎千代の姿があった。

 

主「ぎゃあああああああっ!!??」

 

虎「ふえ?…きゃああああああっ!!??」

 

 

 この後、めちゃくちゃ殴られた。

 

 

 

 

 

 

 

虎「申し訳ございません!!!」

 

 虎千代はばつの悪そうな顔で縮こまって土下座していた。その頭の低さはまさに背中に重しが乗っているようであり、恥じらいも相まってか、こちらが頭を上げるように言っても頑なにそれを拒否し続けていた。

 

主(参ったな…)

 

 さて、何があったのか説明しよう。虎千代に負けたオレはそれはもうボロボロで直ぐに目を覚まさずに眠りこくっていたと。そうしてたところに一足先に目を覚ました虎千代が、己の甘さと力量の低さに責任を感じて、オレを介抱してくれていたらしい。しかし、虎千代自身の疲れも未だ抜けておらず、夜中まで世話をしていた虎千代は襲ってくる睡魔には勝てずに眠ってしまいました。そうして次の日の朝、目覚めたオレが隣で眠る虎千代を発見して、叫び声を上げて虎千代も起き、状況を理解できていなかった彼女はオレの顔面を殴り続けましたとさ。…うん、痛いね。 ←顔面ボコボコ

 

虎「本当に、申し訳ございませんでした!!!咄嗟の事とはいえ、怪我人に更に怪我をさせるようなことをしてしまい、この鬼門寺虎千代!一生の不覚に御座います!!」

 

主「う、うん。わかったって。ていうかそれ言うの何回目かな、オレは大丈夫だからさ、その、手に持ってるものだけこっちに渡してもらえば?ありがたいってゆうかなんていうか」

 

 

虎「つきましてはっ!!!些細なものではありますがこの命!お詫びとしてハク殿に献上致します!!!…父上、母上っ!今生の別れに御座います。どうか、健やかにお過ごし下さいますようこの虎千代、冥府より祈らせ頂きます。では、いざッ!!!」

 

主「いやいやいやいや!だめ!死なないで!頼むから、何でもするからーーっ!!!」

 

 

信「五月蠅いぞお前たち!何やっとんじゃあ!!」

 

 信虎のとりなしで何とかなりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

虎「そういえば、ハク。先程あなた、何でもすると、そう言いましたよね?」

 

主「え?いや、それは咄嗟に出た言葉というか」

 

虎「言 い ま し た よ ね」

 

主「アッハイ」

 

虎「それでは、これからあなたは私のライバルです!今回のことで私もまだまだ未熟であると思い知りました。ですが、次はそう行きません。必ずやあなたを超え、そして來寄さんを超えて見せます!精々、首洗って待ってろ!ですっ♪」

 

 そうおどけて見せる彼女は、初めて会った時よりも大人びて見えた。

 

 

 

 




【補足】
 神器:人妖大戦終戦に尽力した民族に、高天原の神々より下賜された宝物のこと。白狼・鬼・天孫に与えられた。

 高天原:世界を創造した神々が住まう処。140万年前には月の裏側にそれがあった。

 人妖大戦:150万年前に人間と妖怪の間で行われた戦争のこと。三大妖怪の一つである“大蛇族”が他の妖怪たちを扇動し、天孫と人間たちが住む“月の都”を攻撃しようとした。しかし、白狼族・鬼族が天孫側と結託して大蛇族の背後を脅かした為、妖怪軍の士気は乱れて天孫軍の正面突撃により敗走した。

 月の都:高天原の神々の子孫である“天孫”と、元々そこに暮らしていた人間たちが住んでいる城塞都市。月の都(月にあるとは言っていない)。

 血の境界線:天孫・人間と、妖怪たちの住む場所とを分ける境界線。元々ここは人妖大戦における最大激戦地であり、その後に天孫と妖怪との間で結ばれた条約によって、ここを以て互いに不可侵・不干渉の約束がされた。

 血離華:鬼門寺虎千代が使う切り札のような技。能力を発動した際に自身の背中に形成される朱い華の花びらを徐々に散らせて、理性が失われる程の激痛と引き換えに段々とパワー・スピードが上がっていく。虎千代はこの技をまだ完全には使いこなせていない。
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