東方白狼伝説   作:青森の桜前線

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喜びは、勇み
怒りは、狂い
哀しみは、暮れて
楽しみは、合う

 日進月歩、一日千秋。人は感情の連鎖でできている。







第七話 絶望の始まり

~???~

 

夢を見ていた___。

 

 

 世界は白く、淡く、厳かに、そこにあった。

 

 天は低く、雲は沸き立ち、風はない。

 

 天からは、純白の筒のみが地上へと延びていた。

 

 地は荒れ、脆く、海を揺蕩う。

 

 地には、二つの者のみ歩く。

 

 人、彼らを神と呼ぶ。

 

 人、彼らを崇め奉る。

 

 神は、影を生み出した。

 

 神は、光を生み出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

~鬼の里~

 

信虎「もう行くのか」

 

 虎千代と再戦の約束をして数刻、オレたちは鬼の里入り口の櫓門に来ていた。ここに来るまで多くの人に、熱かった、頑張ったな、また来てくれ!、などの言葉をかけて貰った。里の中はまだ昨日の興奮で盛り上がっており、オレと虎千代の真似(たぶん)をして遊ぶ子どもたちや、それを肴にして酒を呷る大人たち、余興なのか決闘が行われてもいた。

 熱いが、温かい…。皆総じて笑顔であり、ここの輪は天下の輪である。そして、そんな処ともお別れが近づいていた。

 

主「はい、名残惜しいですが…。お世話になりました。」

 

信「ウム、…君には色々と驚かされたよ。正直に言うと君があそこまで虎千代と張り合えるなどと思っていなかった。娘の良き友人として、これからもよろしく頼むぞ」

 

虎千代「私からも、近いうちにまた会いましょう、ハク」

 

主「ああ」

 

タダノ「では族長殿、これにて」

 

モブオ「熱き試合を、ありがとうございました」

 

 そう言い残し、オレはタダノとモブオ(そういえばこんな奴等いたな)と共に彼らに背を向ける。ここからの道は帰り道…、しかしオレにとっては未来への飛躍の道だった。

 

 

 これから先、オレは虎千代と共に切磋琢磨し、虎千代は次の族長をオレは父親の職、親衛隊隊長を目指すのだろう。そしていつかはオレたちも年老い、自分たちの子どもへとその役割を継いでいく…。これが命の理であり、これが生命の歴史である。

 

 しかし、恐竜が隕石で絶滅したように、彼らの繫栄は永遠ではない。いつしか終わりがやって来る。それが今日なのか、明日なのか、一年後なのか、はたまた百年後なのか、誰にもわからない。諸行無常___、理は予期せず突然に、無情に彼らを襲う。

 

 狗剱ハク。過酷な運命を歩む者よ。君にとってはそれが、今日であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~白狼の里~

 

主「え…………」

 

 言葉を失った。ここは彼が知っている世界ではなかった。彼はここまでどす黒く、強烈な赤と黒を、その深淵を、生まれて初めてここで感じ取ったのだ。

 

 風光明媚な風水がのさばっていた彼の故郷は、阿鼻叫喚の渦にあった。

 里の前を横切るように流れている川には、無残にも切り裂かれた骸が、飛び石の様にその流れを邪魔している。その躰から流れる血液は川下へと帯を曳き、異様な雰囲気を醸し出していた。

 その上に架かる橋にも、腕や腹を抉られた死体が天をみている。皆その眼に生気は無く、虚ろをみ、虚空をみ、獄に囚われているかの様で、彼らを横目に進むハクたちは哀しみや怒りに震えながらもこの光景に恐怖していた。

 

 里の出入り口であり防衛拠点でもあった櫓門は、何があったのか最早骨組みを残すのみであり、地面は抉れて血反吐と混ざり、正に地獄の様な臭いを発していた。

 その奥。普段であれば白狼の者たちが住んでいる屋敷が見えるのであるが、今は轟々と音を立てて燃える炎に遮られ影が揺らいでいる。その光景にハクたちは体内の血液が沸騰し、頭の中にはそれぞれの家族を思い浮かべた。彼らの笑顔が脳裏に張り付く、絶望を振り切って彼らは駆け出した。___向かうは白狼の里、中央広場。

 

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

「クソッ……!」

 

 白狼族長 橘貴治は嘆いた。地面へと叩きつけられた彼は左腕を大きく捻り、その痛さに悶えていた。彼が悲観したのは里の悲惨さ故であろうか、己が不甲斐なさであろうか、否そのどちらともであろう。彼の先祖が永く治めてきたこの村は最早以前の形なくてこの世の地獄と化していた。そんな彼に一つの影が近づいていた。

 

???「………」

 

貴治「貴様、ここまでの力を…隠しておったとは…。この儂が見抜けんとは何とも不甲斐ない…!」

 

 そう言い拳を地面へと突き立てる貴治は、傷に痛む身体を起こしながら目の前の人物に向かい構えた。

 

貴「…しかし、誇り高き白狼の一族としてここで何も出来ずに死ねば、先祖への顔向けが出来ぬ。仲間の仇だァ…!!」

 

?「………!」

 

貴「“流転”ッ!!!」

 

 貴治がそう叫ぶとたちまちに辺りに水飛沫が舞う。それは大きな水流を形成し、彼の周りに渦を巻いた。

 

貴「破ッッ!!!」

 

 右手を前に出す構えを取っていた彼は瞬時に掌をぐるんと反転させると、その動きに操られて彼の周りを渦巻いていた水流は踵を返すかのように相手に向かい、その圧を以て制そうとした。___しかし、

 

?「………」

 

 その人物が貴治の放った攻撃に手を触れた瞬間。()()()()()()()。文字通り水泡に帰した、のである。貴治はその様子に驚きもせず、唯その口角を上げた。

 

貴「…ふ、やはりな。お前にはどう攻撃しようと()()()()()()()()。是非もなし…か。」

 

 貴治は不敵に笑うと、天を見上げ目の前の敵をそれでも倒そうと水流を穿ち続ける。それでもその者の歩みは止まらず、彼へと近づていった。

 

 

?「…もういい、死ね」

 

 拳が貴治の身体を打ち抜く。

 

貴「グっ!? がはッッ!!」

 

 バキバキブチ。骨と内蔵が潰れる音が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

貴「待て」

 

 その場から立ち去ろうとするその者を、辛うじて息があった貴治が呼び止める。

 

貴「…貴様、“八咫鏡”が目的であろう。しかし、朧山には彼奴が、來寄がァ!いるぞ! そう易々と渡さぬと心得よッ!!このこm」

 

 ぽんっ。彼は息絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~朧山~

 

「来たか…」

 

 そう呟くのは狗剱來寄。“変”が起きたのと同時に彼は朧山へと登り、社の奥に眠る御神体の防備にあたっていた。それが親衛隊長の使命であり、族長からの命令でもあった。視界に捉えた影を見て、彼は唇を噛む。

 

タケ爺「…大丈夫か、來寄」

 

 隣で共に防備にあたっていたタケ爺が声を掛ける。それに來寄は腰の大太刀を抜き放ちながら、至って冷静に答えた。

 

來寄「はい、先生。…里があの者によって破壊され、多くの者が無残にも殺されました。あの者がどのような者であれ、断じて許すことは出来ません」

 

 光を失った瞳は正面しか捉えていない。追い詰められた餓狼の眼光はこちらへと向かってくる者へと突き刺さり、辺りはその覇気にざわめいていた。

 

タ「そうか…。覚悟を決めたようじゃな。…恐らく、貴治は無事ではないだろう。だが、奴の死を無駄にせんようにここを死守するぞ!よいか來寄ッ!!」

 

來「はいッッ!!!」

 

 

 

?「………」

 

來「…もう、語ることなどない。君をここで殺すッッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

~白狼の里 中央広場~

 

主「族長ォッ!! うっ…」

 

タダノ・モブオ「「貴治様ァァッ!!!」」

 

 中央広場へと駆け込んだオレたちの目に入ったのは、外と変わらぬ虐殺の有り様と、…白狼族長の遺体であった。胸に大きな(あな)が空き、首が胴体と切断されている様は、オレたちの絶望を更に搔き立て嘆くのに容易かった。タダノとモブオが族長の元へと駆け寄り慟哭する。オレは余りの光景にそこで立ち尽くすしかなかった。

 

「気の毒だな」

 

 不意に彼らの後ろから声がする。振り返るとそこには異様に長い直刀を左手に携え、空色の髪に豪華絢爛な(かんざし)を差した女性が立っていた。彼女はハクたちに一瞥もせず族長を見ながら続けた。

 

?「さぞかし無念であった事だろう。冥福を祈るよ。」

 

 手を合わせ礼儀正しく頭を下げる女性。たまらず族長の隣でしゃがんでいたタダノが、立ち上がり彼女に問いかけた。

 

タダ「…貴治様を殺したのは貴様か?」

 

?「いや、私ではない。殺したのは私の()()だ」

 

 ガキィン!。タダノはさっきまでいた場所から瞬時にいなくなり、結界操術を使って生み出した槍を手に持ち彼女目掛けて突き出した。しかし彼女は一切そこを動くことなく抜刀した刀を以てそれをいなした。タダノは回転しながら距離を取り槍を構えた。

 

タダ「つまり、貴様の仲間という事だなぁッ!!」

 

?「そういう事になるな」

 

タダ「ふざけるなッ!」

 

 タダノは柄を身体に走らせ、払いを繰り出す。突き上げ、振り下ろし、三段突き、払い。このすべてを彼女は不動を以て刀で受ける。強い___、それを肌で感じ取ったタダノはモブオに声を掛けた。

 

タダ「モブオ!コイツは貴治様の仇だ!!手を貸せ!」

 

モブ「おうッ!」

 

 

タダ「ハクッ!!」

 

主「っ!」

 

 次にタダノは余りの出来事に放心していたハクに声を掛ける。ハクはビクッと身体を震わせ、タダノの方を向く。

 

タダ「お前は今すぐ朧山に向かえっ!あそこには御神体を護るためにお前の父ちゃんとタケ爺が居る!早く行けッ!」

 

主「で!でもっ、タダノさんたちは!」

 

タダ「…俺たちなら大丈夫だ。わかったら走れ!」

 

主「ッ! はいッ!!」

 

 ハクは一瞬戸惑いを見せるも、タダノの気迫に押されて朧山へと駆け出す。直刀を構える彼女から目を離さずにタダノは背中でそれを感じ取ると、モブオへ再度声を掛けた。

 

 

タダ「モブオ!あれやるぞッ!!」

 

モブ「任せろっ!!」

 

 タダノにそう答えるとモブオは両掌をバチンと合わせて、周囲におびただしい数の結界を形成する。タダノは槍を天高く掲げ、一点に力を集中する。

 

タダ・モブ「「おおおおおおおおおッッ!!!」」

 

?「…ほう」

 

 

 数多の結界たちはタダノの槍の切っ先に集まっていく。そしてそれらは凝縮に凝縮を重ねてより強度が高く、より鋭くなっていく。やがて、辺りの結界がなくなるとタダノは槍を構えた。

 

タダ・モブ「「喰らいやがれッ!!」」

 

?「…ッ!」

 

 

タダ・モブ「「タダノモブオ!アターーックッッッ!!!!」」

 

 白蒼(はくそう)が空間を切り裂いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 私事ですが、本日誕生日でした。
おめでとう、俺。

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