作品全体通しての誤字脱字、修正点などなど書ききれないほどのミスがでると思いますが、読者様に少しでも楽しんでいただけるよう頑張っていきたいと思います。
0話:過去と努力と下剋上
夕暮れの教室に、2人の男女がいた。男子の方は真剣な眼差しで、女子の方は何なのかよくわからないような表情で見つめあっていた。
男子の名は吉井明久……通称『ムードメーカー吉井』。彼はずっと片想いをしていた女子、音無冬美に思いを伝えようとしていた。
明久と音無は、小学4年生の時に同じクラスになってからずっと一緒に遊んだりしてきた友人同士であり、いつも楽しそうに過ごしていた。周りの生徒から付き合っているのかという疑問をぶつけられる事が、もはや日常茶飯事だった程に仲がよかった。
その事もあり、明久は今回の告白には絶対の自信があった。
「冬美ちゃん、僕と付き合ってください!」
多くを語らずともきっとこの思いは成就する……そう高を括っていた。
「ごめんなさい、恋人にはなれません」
しかし、そう思っていた本人とは裏腹に、返ってきた言葉は実にシンプルで、拒絶する内容であった。
この言葉を聞いた明久は、呆然としてしまった。理由を聞こうとしたが、声がでなかった。それほどまでにショックが大きく、瞳からは涙が流れていた。
「友人としては、これまでに良い人なんていないと思ってるよ。でも、今後のことを考えると、やっぱりちょっと不安が強いんだ。明久くんって、その、頭悪いし、運動も苦手だし……。私の器が小さいだけかもしれないけど、ごめんなさい、これからも良い友達でいましょう」
そう言って、教室から彼女は去っていった。
教室内に、とても居心地の悪い沈黙が流れた。明久は、そんな沈黙の中、膝をついてただ静かに落涙した。
家に帰った後も涙が止まることはなく、結局その日は一晩中泣き続けた。当然翌日の学校は休んだ。
その日から、明久は虚無と表すに相応しい程の状態になった。授業中にノートをとることは一切無くなり、教師からの評価も、地についてしまうのではないかというレベルにまで落ちてしまった。当然体育の時間もそれが治ることはなく、着替えはするが、ただ突っ立っている事が大半だった。
そんな明久に、誰も声をかけなかった。クラスのムードメーカーであった彼の学校生活は、完全に一転してしまったのだった。
それから2ヶ月、相変わらず虚無だった明久は、ぼうっとしながら下校をしていた。そんな時、彼の耳に彼女の声が届いた。しかし、それは自分宛の声ではなかった。
「もぅ、結羽くんったら、私は逃げないよぉ」
学年一の秀才且つ眉目秀麗という羨ましいものを兼ね備えた嶋崎結羽という人物と仲が良さそうに歩いている冬美を明久は発見してしまった。
もう、昔の冬美は帰ってこない、変わってしまった。そう思った明久は、1つの思いが溢れた。それは……見返してやるという大きな欲望であった。
それから明久は、大きく変わった。
近所にある図書館で必死に勉強をするようになり、テニス部に入って体をたくさん動かすようにもなった。勿論、どちらも全く知識が無いと言っても過言ではないため、明久は周りの人よりも3倍――いや、もっとかもしれない――努力をした。
先に成果が出たのは、テニスの方であった。
「せいっ!」
明久のフラットショットは、相手コートのコーナーぎりぎりを的確に打ち抜いた。
努力が実り、テニス部のレギュラーに一年生ながら選出され、地区大会に団体戦シングルスで出場することが確定した。
明久のプレイスタイルは俗にいうオールラウンダーであり、相手のショットを瞬時に見抜き、前後左右どこに打たれても返球することができるようになっていた。
そして、決め球を数種類会得していた。
その1つがこのコーナーぎりぎりを的確に打ち抜く『角打ち《コーナーショット》』であり、相手はなすすべもなく、静かに球の軌道を見るだけだった。
ゲームセットの声がコートに響き渡り、明久達の中学が無事に勝利した。その後明久は、先輩達の感謝と激励をその身いっぱいに受けた。
「次は県南大会だ、お前ら、勝つぞ!」
部長の言葉に部員の士気もかなり高まる。明久も当然例外ではなく、他の部員達と共に雄叫びをあげた。
そんな明久を、じっと見つめる女子がいた。
「あの人、名前なんだっけ?」
「あの茶髪っぽい人のこと? かっこよかったよね、同い年とは思えないよ。んーと、ゼッケンには吉井って書いてあるけど、どうしたの宏美ちゃん?」
「う、ううん、なんでもないわ。行くわよ美子」
その明久を眺めていた宏美と美子はその場を去っていった。
「だー! もうわかんない!」
部活の方は大成功を成し遂げたのだが、勉強の方に関しては行き詰まっていた。教材とにらめっこをする日々が続き、はや4ヶ月半が経過しても尚、理解が到底追い付かなかった。部活の疲れも相俟って、明久は図書室の机でぐでっとなってしまった。
「(やっぱり、勉強は上手くいかないな……)」
そう思いながら目を閉じる明久だが、不意に声をかけられた。
「あの、勉強をしないのなら、周りの迷惑にもなるのでどいてくれませんか?」
少々棘のあるその言葉を聞いて、明久は瞬時に起き上がった。
振り向くと、そこには明久と同い年位の女子が教材を抱え立っていた。
「あっ、ごめんなさい。すぐに帰ります!」
そう言って急いでその場から消えようとした明久は、その女子の目の前に自分の教材を落としてしまった。
その女子はため息をつきながらその教材を拾おうとした。が、そんな手がピタッと止まった。
落としたのは、小学4年生の算数の問題集だった。それをみて、その女子はさらに声をかける。
「あの、えっとおいくつですか?」
「ごめん、多分君と同じ年齢だよ。その君の持っている教科書学校でみたことあるしね、うん……」
バカにされるのを重々承知の上敢えて本当のことを言った。しかし、その女子がかけた言葉は、明久の想像とは逆の言葉だった。
「……私で良ければ勉強を教えてあげましょうか?」
「えっ?」
明久は目を丸くした。先程までの発言と全く意味の違う言葉だったからだ。
「私双子の弟がいるんですけど、弟は勉強が苦手で、その姿をあなたと重ねてしまって、ほっとけなくなっちゃったので……勿論、迷惑なら断ってくれても問題ないですけど」
「本当に!? もう是非! お願いしますっ!」
「し、静かにしてください! 皆見てるじゃないですかっ!」
声を大にして喜んでしまうほど、明久は困っていたのだ。
不安が一気に吹き飛んだ明久の表情はとても明るく、身体を揺らしながら鼻唄を奏でていた。その姿をみた女子……木下優子はやれやれと額を押さえながらも微笑んでいた。
冬休みになり、学生達、彼氏彼女のいる人々の幸せが世間に蔓延している中、明久と優子は黙々と勉強に明け暮れていた。
優子の教えもあり、明久の学力はみるみる高まっていき、学年全体の半分くらいの順位になるまでの実力がついた。
教えている優子本人が、明久の成長ぶりを一番驚いていた。頭の回転が早く、理解すればスラスラ問題を解けるようになるその能力を、優子は絶賛していた。
勉強に一区切りつけ、休憩スペースに2人で移動した。
「ふぅ、吉井くんも中々に出来るようになってきたわね。もう普通の中学生と同等の知識は身に付いたんじゃないかしら?」
「そうだね、全部全部ここまで教えてくれた木下さんのお陰だよ。本当にありがとねっ」
それなりに長い時間を過ごした2人の会話はとてもフランクになっていた。部活がない日はほぼ毎日図書館に通い続ける生活を送っていた明久と、その日に合わせて図書館に通っていた優子は、その図書館の小さな有名人になっていた。
「日本史に関しては私が吉井くんに教わるようになってるもんね、まさかこうなるとは思わなかったわよ」
優子は苦笑いしながらそう言った。
そう、明久は日本史に関してはもう学年で上位に食い込めるレベルにまで成長していた。
「日本史はなんかやる気がめっちゃでるんだよね!」
「他の科目にもそれなりのやる気をだしなさいよ?」
「わかってるって。教わってるんだし、これからもしっかりと頑張るよ」
そう微笑んでいた2人だったが、ふと優子の顔が陰った。それに気づいた明久は、心配になり何かあったのかときいた。
すると、優子は急に涙を流し始めた。
それを見た明久はおどおどしながらも自分のハンカチを優子に差し出した。ハンカチを受け取った優子は涙を拭き取った。
「ごめんね、吉井くん。私もうしばらくはここに来れないの……」
「えっ、ど、どうして?」
急な優子の言葉に明久は少しショックを受けた。理由を聞くと、優子はゆっくりと話し出した。
「木下さんの、お母さんが倒れた?! だ、大丈夫なの!?」
「正直、まだわかんないの……。くも膜下出血っていう病気で、あんまり生存率は高くない病気で手術はぎりぎり間に合ったみたいなんだけど、後遺症とか何かが残る可能性が高いみたい……。私、どうすればいいのかな……」
明久は返答に困った。ここで証拠もない言葉を投げ掛けたとして、それはそれで優子を傷つけてしまわないか。かといってここでさらに不安にさせる言葉をぶつけてしまったら、メンタルの弱っている今の優子ではさらに辛い思いをさせてしまう……ととても真剣に悩んだ。
その結果、明久は静かに優子を抱き締めた。そこに恋愛感情だの下心だの何もなく、ただただ純粋に優しさで包んであげたいと思った為の行動であった。
「大丈夫だよ、きっと良くなるよ。だけど今は、好きなだけ泣いていいよ、木下さん……」
明久の胸のなかで、優子は子供のように泣きじゃくった。明久は大丈夫、大丈夫と言いながら優しく優子の頭を撫で続けた。
結局、もう勉強できないとなり、解散することになった。
明久は優子と別れる際に、ちゃんとお母さんが治るまで、僕のことは置いておいて、家族を大事にしなと伝えたため、その日を境に優子と明久が会うことは無くなった。
しかし、明久は優子の今までの努力のためにも、結果を出さなきゃとより一層奮起し、中学最後の学年末試験で嶋崎の点数を抜かし、学年首席の座を奪い取ったのだった。
順位が発表されたその日、明久は冬美に呼び出された。
「すごいね、明久くん! 私、見直しちゃったよ。あのさ、1年生の頃、私に告白してくれたけどさ、その気持ちは、まだ変わってなかったりするの、かな?」
明久はその言葉を聞いて、目を見開いた。所詮冬美はそういう人間だったのだ、ということが明久の苛立ちを助長させた。
「ごめん、もうそんな気持ち微塵も持ち合わせてないよ。もう、話すこともないだろうね、じゃあね、“音無さん”」
明久の言葉に、冬美は俯いてしまった。
「でも、君のお陰で僕はここまで上に上がることができた。そこは、感謝しておくよ」
そう言って、明久は教室から去っていった。教室からは、冬美の泣き声が聞こえたが、明久は気にもとめず、自宅へと真っ直ぐに帰った。
その後、文月学園に入学することができた明久は、そこで友人に恵まれ、楽しい生活を送っていた。そこに、転校生がやって来た。
黒板には、ブレブレの線で島田美彼と書いてあった。
「えーっと、し、しま、だみな、みです。よろしくお願、いします」
クラスからは笑いが起こった。自分の漢字も書けないのかよという声があちらこちらから響き渡ってきた。明久は、この現状に酷く苛立ちを覚えた。
「(帰国子女なのに、日本語が話せて漢字が書けるっていうのはそれだけですごいことじゃないか……。自分が出来ていることは皆できるとか思っているのか……?)」
明久は美波に対して大きな拍手を送った。周りからは不審な目で見られたりもしたが、そんなことは気にせず、拍手を送り続けた。
自己紹介が終わったあと、明久は美波を廊下へ連れ出した。
「さっきは、大丈夫だった?」
「だ、だいじょぶ、です」
美波は片言ながら、しっかりと言葉を返してくる。明久はそれを笑ったクラスの皆がよくわからなくなった。
「クラスの人達のことはきにしなくていいよ、仕方ないことだもんね」
そう言うと、美波は首をかしげた。どうやら理解できていないようで、あ、あー?みたいな声を出しながら明久を見つめていた。
「あーそっか、難しかったよね。ちょっと待ってね……」
明久はある機械を取りだし、カチャカチャと、いじり出した。その機械を美波は興味津々な様子で見ていた。
明久はそこに先程言った言葉を話しかけた。すると、その機械から、ドイツ語が発音された。
美波は驚き、その機械をさらにジーっと見つめていた。
「これはね、話した言葉を設定した言語に変換して発音してくれる機械なんだよ」
『へぇ、それはすごいですね!』
美波は目をキラキラ光らせながら、ドイツ語をどんどん話していく。
『さっきはありがとう、とても嬉しかったです』
『あの、学校を案内してくれませんか?』
『ちなみに、どんな食べ物が好きですか?』
機械に興奮しているようで、言っていることの脈絡がほとんどないが、明久は気にせず、美波の言葉にしっかりと答えていく。そして、昼休みになって美波に学校案内をした。
昼休みは無くなってしまったけれど、充実した時間を過ごせた明久は満足そうにしていた。美波にもたくさん感謝されて、嬉しそうにしていた。
放課後になって、近所のことを知りたいと言ってきた美波に明久はすぐにOKをだして、街を回った。そこで、たまたま人形屋さんを見つけた2人は中に入っていった。
「あっ、おねーちゃん!!」
『あ、葉月! どうしたのこんなところで!』
「えーっと、島田さ……み、美波さんの妹ちゃん?」
「はい! 私、島田葉月っていいます、よろしくですっ! えっと、お兄さんは?」
「あ、僕は島田さ……美波さんと同じクラスの友達だよ、よろしくねっ」
葉月はまたよろしくですっと言いながら店内でぴょんぴょん跳ねていた。年相応の雰囲気に、明久は思わず口角が緩んでしまった。そのせいで近くにいた他のお客に変な目で見られてしまった。
明久はんんっと咳払いをすると、葉月にここで何をしているのかという質問をした。
「えっと、おねーちゃんの為にぬいぐるみを買ってあげようと思ったんですけど、お金が足りなくて、困ってたんです……」
葉月の指す方を見ると、そこには、中々のサイズの熊のぬいぐるみがあった。値段も中々の物で、明久も手持ちにそこまでのお金を持っていなかった。
「……あっ、そういえば鉄人に盗まれた僕のゲーム機、今日学校を案内している最中に取り戻したんだよな……。これを売れば、多分買えるかな」
明久は2人にここで待っていてと伝え、急いで質屋に向かい、ゲームを売却した。
そして、そのお金を、ぬいぐるみ屋にいる葉月に渡した。
「このお金で、ぬいぐるみを買ってあげな? でも今日じゃなくて明日また来て買いな? おねーちゃんにプレゼントしたらきっと喜んでくれるよ」
そう言うと、葉月は、またぴょんぴょんと飛び跳ねて、明久に近づいた。そして、頬に口づけをした。
明久は急な出来事に驚きを隠せなかった。あわあわとしていると、さらに追い打ちをかけるように葉月はこう言ってきた。
「おにーちゃんは私のお婿さんになるのです!」
満面の笑みでとんでもないことを言ってきた葉月に、明久は数歩後ろに下がった。
「じゃ、じゃあ僕はもう帰るね! 2人とも気をつけて帰ってね!」
明久は急ぎ足で店内を後にした。
「(葉月ちゃん……中々に恐ろしい子だっ!)」
そう思いながら、帰路についた。
次の日、明久が学校に着くや否や鉄人こと西村先生に呼び出された。
「お前、昨日島田の案内やってるときに俺の机から没収したゲーム機を持ち出しただろう?」
「はい、持ち出しました」
正直に答えると、西村先生は頭を抱えながら封筒を差し出してきた。
その封筒には吉井明久殿と書かれており、丁寧に封までしっかりとしてあった。
「お前は、残念なやつだ。吉井明久、お前を文月学園初の観察処分者に認定する。これからは教師の手足となって頑張るがいい」
観察処分者と聞いて、明久は驚いた。校則に記載されている、停学・退学を除いた中で一番重い処罰であった。
観察処分者になると、2年生から行われる振り分け試験というクラス配属をかけた試験で、点数にかかわらず、確定で最低クラスであるFクラスになってしまうという大きなペナルティがある。
これを知っていた明久は、西村先生に少し抗議をしたが、結果はやはり覆すことができず、観察処分者になってしまった。
「はぁ……これからどうしようかな。まあ、大人しく教師の手足になるしかないかな……」
明久はそう言いながらとぼとぼと廊下を歩いていった。
その姿を近くの柱の影から1人の男子が見ていた。
「……へぇ、あいつがFクラスか。中々に楽しそうじゃねぇか。こりゃ来年が楽しみだぜ、はっはっは」
赤い髪の男子は、明久とは逆の方に歩きだした。
この2人は後にちゃんと出会うことになるのだが、それはまだ先の話である。
………to be continued
はい、第0話、どうでしたか?私的にはここまで暗い話にするつもりは無かったのですが、書いているうちに色々思い浮かんでこんな感じになりました。
次回からは2年生編です、気に入っていただけたら是非また覗いてみてください。ありがとうございました!
※誤字脱字、修正点、矛盾点その他諸々ありましたらご報告ください