※活動報告の方にキャラクター募集を投稿しているので、興味があれば覗いてみてください。
1話:僕とおじさんとFクラス
ジリリリリリッジリリリリリッと目覚まし時計の音が、明久の自室に鳴り響いていた。時刻は朝の4時25分であり、なにか行動を起こすにしては少し早い時間帯である。
布団から伸びる明久の腕は、正確に目覚まし時計の音を止める。自動車の放つエンジン音も、自転車のペダルを漕ぐ音も、人々の喧騒も何も聞こえない、そんな静寂の中、明久はゆっくりと立ち上がった。
半袖と長ズボンの運動着を見に纏い、明久は体操を始めた。彼の習慣である朝のランニングの為の準備体操である。
中学でテニス部に入部したての頃は、体力もなく周りについていくことができなかった。その現状をおもいしった明久は、体力作りの為にランニングを始めた。それを未だに続けているのだ。
高校ではテニス部に入っていないが、腕は衰えておらず、体育の時間にテニスを行った際には、体育教師ダブルスをシングルスで破るなど、プロを目指せるような実力を誇っていた。
体操も終え、玄関扉を開き大きく息を吸う。まだ4月の頭である為、少し肌寒く感じた明久だったが特に気にすることもなく住宅街を軽快に走り出した。
誰もいない道を走るのは、まるで自分だけの世界に入り込んでしまったかのような不思議な感覚だと明久は昔から思っていた。
そんな時、不意に明久に声をかける者がいた。
「おお、明久くんではないか、久しぶりやのう」
「あっ、槙原のおじさんお久しぶりです! 今まで全く姿を見なかったんで、心配してたんですよ?」
槙原のおじさんと呼ばれたこの人は、ランニングをよく一緒に行っていて、明久にとって年の離れたライバルのような存在であった。
2人が出会ったのは明久が中学の2年生の時であり、レギュラーになっても驕らずにランニングを続けているときに、隣に並走するような形でやってきたのが槙原のおじさんだった。
おじさんと同等にしか走れないのかい、少年よという煽りを与えてそのまま明久を抜かしていった。それに対抗するように明久もスピードをあげる。しかし、距離はいっこうに縮まることはなかった。
少し走っていると、おじさんはゆっくりと減速し明久の横についた。
「若いのにここまでついてくるとは、中々骨のあるやつだ」
そう言いおじさんはニッと笑った。その表情からまだまだ余裕があるのだろうということを、明久は瞬時に察した。もうあれから8kmは走っているのにもかかわらず、おじさんは息をあげてもいなかった。
「おじさんは、何か運動をしてるんですか?」
そんなおじさんに我慢できずに明久は訊ねた。
「そうだねぇ……今から40年前は陸上部の長距離を走っていたね。それからずっと、私はこうやって走っているね。走ることは私の数少ない趣味でもあり、生き甲斐でもあるんだよ」
話し方はゆっくりで穏やかそうな雰囲気を感じたが、おじさんの身体はスラッとしていて、むき出しの腕や足は、中々に筋肉がついていた。それは運動を始めたばかりの明久に大きなインパクトを与えた。
「その身体が、40年の努力の結晶なんですね」
「まあ、そうだね。今年54歳のおじいだが、そこらのおじさんと同じに見られる訳にはいかないからね。これからも走るのは続けるよ。それじゃ、これからも頑張りたまえよ、少年!」
おじさんはそう言うと、再び加速し、先程までのスピードを遥かに越える速さで朝の住宅街に消えていった。
それから幾度となく明久はおじさんに出会い、いつしかおじさんの横を並走できるまでに成長した。
「ふぅ、若いやつの成長幅ってもんをバカにしてたよ。まさかこんな短期間でここまで成長するとはな」
「おじさん、ありがとうございます。でも、まだ抜かすことはできないです……」
「はっはっは! 私の隣を走れているだけで、並の人より速いことは決まっているさ、そう落ち込むな明久くん」
そう言っておじさんは明久の肩を数回叩いて近くのベンチに腰かけた。それに合わせて明久もベンチに腰をかける。首にかけたタオルで顔を拭いていると、おじさんはバッグから水を取りだし、明久に手渡した。
「ほれ、水分をとるタイミングを知っとらんと、身を滅ぼすぞ」
おじさんはやはり穏やかな笑みを浮かべながらそう言った。
明久はその好意を無下にはできないと思い、水を受け取り口に含んだ。特に味もない普通の水ではあるが、運動して疲れた体に冷気が広がり、心地よくなっていた。
すると、遠くの方から声が聞こえてきた。始めは何を言っているか聞き取れなかったが、近づいてくるごとに内容が聞き取れるようになってきた。
声の主は少し若めの女性で、手を振りながらこちらに向かって走ってきていた。
「んっ、あぁ女房じゃないか」
「あ、おじさんの奥さんですか?」
おじさんは少し照れながら頭を掻いた。
おじさんの奥さんが明久の目の前までやってきた。近くで見ると、顔にシワや染みは無く、遠くで見るよりもかなり若く見えた。
「あら、あなたは?」
奥さんが至極当然の質問を投げ掛けてきたので、明久は丁寧に答える。
「夫が迷惑をおかけしました……。あなた、こんな小さい子に煽りをしたのね、中々ひどいのね」
「というか、おじさん……随分若い奥さんだね。歳の差がすごそうだけど……」
そう言うと、奥さんは照れながら明久の肩を強めに数回叩いた。
「あらやだー、そんなに若く見えるかしらぁ? 私これでも今年で48よ?」
「えええっ!?」
「はっはっは、やはりお前は若く見られるんだな」
この日から明久とおじさんは世間話のようなこともするようになり、奥さんとも近所であったら立ち話をするような仲になった。
しかし、それから2ヶ月が過ぎた頃から、明久は槙原夫妻を見かけることは無くなった。明久は近所の人に聞き込みを行い、理由は不明だが引っ越してしまったということがわかった。
明るく元気な2人ともう会うことは無いということに少し淋しさを感じた明久だったが、それを理由にランニングを辞めるということはしなかった。
今まで続けてきたからということもあったが、もしまた会えたときに、劣化した自分を見せたくはないということも、明久がランニングをし続ける理由となった。
そして今、目の前にはそのおじさんがいて、元気そうに話しかけてきた。約3年ぶりの再開に明久は胸を躍らせた。
「いやぁ実はな、腰を悪くしてしまってな。実家の方にある腕のいい整形外科の方に通っていてね、当分帰れそうに無かったから引っ越してしまったんだよ」
3年前と変わらない穏やかな表情でそう言ってきた。歳を実感してしまったねぇと呟きながら、おじさんは未だに太陽の登っていない暗い空を眺めていた。
「じゃあ、もう走ることはやめてしまったんですか?」
その言葉を聞いたおじさんは昔と変わらない笑い方で首を横に振った。
「言っただろう、ランニングは私の趣味なのだよ。そう簡単に捨てるわけないだろう?」
「そうですよね、当たり前の事でしたね」
その場で少しおしゃべりをしていると、おじさんの元に誰かが走ってきた。
「あれ、お父さん。こんなとこで何してんの?」
「おお、蘭。実家で話していた明久くんと久々に再会してなぁ。懐かしくて長い時間話してしまったよ」
蘭と呼ばれた女子は、明久の近くにまで駆け寄り、じーっと全身を見つめ始めた。
「えっと、槙原のおじさん、この子は?」
「私の娘だよ。今までは実家で過ごしていたのだが、今年から高校生ということで、こっちの方に連れてきたんだ」
「あー、槙原蘭です。文月学園に今日から通い始めます」
簡単な自己紹介をして、蘭はゆっくりと明久から離れていった。意外に優しそうな顔してる……という呟きを明久は聞き逃さなかったが、特に追求もしなかった。
明久はふと腕時計を見ると、中々いい時間になっていることに気がついた。明久はその場から駆け足で離れ、自宅に帰宅した。
「まさか槙原さんに娘さんがいたなんてなぁ。奥さんに似て中々の美人さんだったなぁ」
そんなことを言いながら明久はすぐにシャワーと着替えを済ませ、軽めな朝食を食し、再び外に出た。
先ほどまで暗かった空は姿を変え、青空と白い雲が延々と広がっていた。
春の爽やかな風は、桜の花びらを舞わせ、辺りを美しい桃色に染め上げていた。
「相変わらずこの季節になるとここら一帯は桜の花びらでいっぱいになるなぁ。これを見るともうこんな時期になったんだなと実感するね……」
家の鍵を閉め、桜の雨の中をゆっくりと歩き始めた。明久はゆっくりと回りを見渡すが、視界の中に学生の姿は1人もなかった。学校が始まるにはまだまだ時間があるため、当然と言えば当然ではある。
小鳥の囀りを全身に受けながら、明久は校門の前にたどり着いた。そこには1人の男が立っていた。
「鉄人先生、おはようございます」
「んっ、吉井ではないか。相変わらず早めの登校だな、関心だ」
西村宗一。明久が1年生の時に観察処分者を言い渡した生徒指導の教師であり、趣味がトライアスロンということから、生徒達からは鉄人先生という愛称で呼ばれている。見た目などで怖がられがちだが、生徒の事を一番よく考えていて、正義感に熱い理想の教師と言えるだろう。
そんな彼が、朝からこんなところにいるには訳がある。
「しかし、先生も大変ですね。2年生だけでも300人いるのに、3年生もいるからその倍の600人にわざわざ手渡しで振り分け結果を配布するなんて」
「ふっ、確かに大変だが、生徒の事を考えるとこのくらいは苦でもないさ」
そういいながら明久に振り分け結果を手渡した。
「開封するまでもないんですけど……? 紙の無駄遣いですよ、先生」
そこには明久の予想通りFクラスと記載されていた。
「お前も、あの件がなければ確実にAクラスだったんだがなぁ」
「後悔はしてないですよ? 確かにフィードバックがあるから試験召喚戦争は危険だと思います。しかし、観察処分者の利点として現実の物を運搬できますし、何せ2年生で召喚獣を召喚したことがあるのは僕だけじゃないですか。これは他人と大きな差がありますよ、攻撃を避けれる操作技術があればフィードバックも怖くないですしね」
「ふっ、観察処分者さえも、お前にとっては自分を強くする1つということか。まあ、3年になるときには、学園長に俺の方から振り分け結果の確定を変えられないかという話をしておこう。とりあえず、この1年は頑張ってくれ、吉井」
その言葉を聞いた明久は、軽く頭を下げ、教室に向かって歩いていった。
「ここが、Aクラスか。噂には聞いていたけど、デカいなこれ。本当に教室なのかこれ」
明久は教室の出入り口の小窓から中を覗いてみた。まず始めに驚いたのは黒板が無いということだった。黒板があるべき場所には大きなスクリーンがあり、その前には投射機があった。
椅子も電車の個人席のようなソファーであり、机はオフィスなどでよく見るタイプのものであり、個人の冷蔵庫まで完備されていた。近くの壁には【設備に不備などがある際は申し出てください。すぐに新しいものと交換します】と書かれたポスターが貼ってあった。
「こりゃ皆Aクラスに入りたいって言ってた気持ちが今になってすごくわかったよ……。これは憧れるよ、正直」
明久はそう呟き、Fクラスの方へ歩いていった。その数十秒後、ある女子生徒がAクラス前にやってきた。
「どうやら私がAクラス一番乗りのようね。……はぁ、Aクラスの名簿に吉井くんの名前が無かったわね……。やっぱり別の高校に進学したのかしらね。テニス部にも所属してないみたいだし、元気にしてるかしら、吉井くん……」
その女子生徒は、明久を大きく成長させた張本人である木下優子であった。入れ違いで離れていった明久の事に気づくこと無く、優子は教室に入っていった。
2人がお互いの存在に気づくのは、もう少し先のことである。
「……えっと、物置部屋にでもたどり着いたのかな、僕は」
Aクラスを見てからこのFクラスを見てしまうと、どんでもない格差を感じるであろう。教室の壁は木材で出来ており、所々腐敗している。窓も割れている箇所があり、床は畳になっていて、机も卓袱台と明らかに授業を受けるような環境ではないことは一目瞭然であった。
畳を踏むと、明久は何か違和感を感じた。どうやら床も所々腐敗しているようだ。
「(あまりにも劣悪な環境過ぎる……。これを許容しているなんて、教師陣は腐っているのか……? これじゃあ体調不良も続出だろうな)」
そう思いつつも明久は自分の席に座った。窓から外を見ると、続々と生徒がやって来ているのが見え、ここにもすぐに人が来るだろうと明久は思い、くつろぎながらクラスメートが来るのを待った。
……to be continued
中途半端な場所で終わってしまい申し訳ないです。次回からは原作キャラクターも続々と登場していきます、楽しみにしていてください。
前書きでも書きましたが、活動報告の方でキャラクター募集をしていますので、是非覗いてみてください。
それでは、次回また会いましょう
※誤字脱字、矛盾点等ありましたらご報告ください