バカと仲間とFクラス   作:八舞 六花

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はい、なるべく早め早めの投稿を心がけている八舞六花です。

原作との変更点の1つなのですが、美波は明久に関節技をかけることはありません。1年生の時に明久が頑張って教育した賜物だとお考えください。


2話:バカと赤毛の士気高揚

教室で待っている明久の耳に、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

「あっ、アキ! これから1年間よろしくね」

 

ドイツからの帰国子女、島田美波だ。1年生の時に明久が美波の教育係を担当したからか、美波は明久にかなりなついていた。ちなみに美波が流暢に日本語を話せているのは、明久の教育の賜物であり、1日何時間も一緒に練習していたからである。

 

「おはよう、美波。1年生の時は日本語の読み書きをあんまり教えてあげられなかったから、Fクラスにさせちゃったね、ごめんね……」

 

「何言ってるのよ、アキがいなかったらアタシは未だにこんな流暢に流暢に日本語喋れてないわよ? それに、日本語を話せるようになったからこそこうやってアキとも普通に話せるし、友達だって出来たんだからね? 本当に感謝してるわよ、アキ」

 

そう言いながら、美波は明久の後ろに回り、肩に手を回した。その美波の頭を、明久はありがとうと言いながら撫で始めた。端から見ると恋人同士のやり取りのようだが、お互いにそのような感情は無く、軽いスキンシップのようなこととしか考えていない。

 

「次は読み書きちゃんと教えてあげるから、頑張ってね。日本語を1年でそこまで流暢に話せるようになったんだがら、きっとすぐにどっちも出来るようになるよ」

 

「うん、わかったわアキ。大変かもしれないけど、お願い」

 

「あ、あの、わしはお邪魔かのぅ?」

 

入り口の方から声が聞こえてきたので、明久はそっちの方を向く。そして、驚愕の表情を顔に浮かべた。

 

「きの、したさん?」

 

「わしを知っておるのか? わしは木下秀吉じゃ。演劇部に所属しておる。よろしくお願いしますなのじゃ」

 

名前を聞いて、明久はすぐに察しがついた。優子が言っていた勉強が苦手な双子の弟だ、と。あまりに顔が似ているため、一瞬見間違えてしまったが、記憶にある優子の声よりも少し低く、男子の制服を着こなしている点から明久は確信をもった。

 

「(木下さん、元気にしてるかなぁ……。でも、いきなりそんなこと聞いたら怪しまれるだろうし、もう少し仲良くなったら聞いてみようかな)」

 

一通りの自己紹介を終えた後、たくさんの男子生徒がぞろぞろと教室内に入ってきた。入ってきた男子1人1人が明久の現状を見て舌打ちを鳴らしているのは、当然のことであった。

 

「おーい、明久ー!」

 

「須川くんに横溝くん! 君達もFクラスだったんだね」

 

須川亮に横溝浩二。明久が高校に入って最初にできた友人であり、よく一緒に遊びに出掛けたりする仲である。ただしご飯を食べに行く際は、好物が皆バラバラのため、軽い言い争いになることがある。

 

「ははっ俺達の頭の弱さは、お前がよく知ってるはずだろ、明久?」

 

「全くだぜ。定期テストで散々からかってきたのを忘れたのか?」

 

「あははは、ごめんごめん」

 

この2人は、明久と美波のスキンシップを見慣れてしまっているためか、何の反応も見せずに自分達の席に戻っていった。

 

「……やはり、お前は生かしておけないっ!」

 

急に明久の脇腹に軽い痛みがはしる。下を見ると、三角定規が落ちていたので、これを投げられたのだと察した明久は瞬時に辺りを見渡した。

 

しかし、特に不審な人物は存在しなかったが、何か視線を感じた。視線の先には特に誰もいなかったが、何かを感じた明久はそこに三角定規を投げ返した。

 

壁にぶつかると、刺さった。それと同時にイテッという間抜けな声が聞こえた。

 

「布で壁に擬態してたみたいだけど、まだまだ完全な擬態とはいえないね、ムッツリーニ」

 

その言葉を明久が言い切った時、壁にそっくりな模様の布がはらりとその場に落ちた。中にいたのは土屋康太、またの名を寡黙なる性識者、ムッツリーニ。学校のある場所で、秘密の商売をしていて、明久も行ったことはないが存在は知っている程の有名な販売人であり、写真部の副部長を務めている生粋の写真マニアでもある。

 

「……明久が島田美波といつもいるせいで、彼女のベストな写真が撮れないんだ。たまには離れてくれないか、俺の商売のために」

 

「実際やってることグレーゾーンすれすれなんでしょ? 美波はまだそういうの理解できないんだから、対象に考えるのは止めてあげてくれないかな?」

 

「……くっ、中々に手強いやつだ」

 

そう言いながら康太も席についた。これで、教室の席の大半が埋まった。

 

「お前ら、おはよう」

 

そう言いながら、教室に入ってきたのは赤毛の長身の男だった。明久はその男を見た瞬間、何か危険な雰囲気を感じ取った。

 

「俺は坂本雄二だ。ここFクラスの代表を務めることになった、よろしく頼む」

 

その名前を聞いた明久は、過去の彼の素性を理解した。

 

坂本雄二は悪鬼羅刹と呼ばれた不良であり、中学時代に他校の不良同士の喧嘩で多数の負傷者を出し、少年院に容れられそうになったというこの付近一帯で一番恐れられていた人物だった。

 

そんな人物がクラス代表だなんて、大丈夫なのだろうかというのが、明久の本心であった。

 

「えー、2年生になり、俺達は勉強ができない、欠席したなど様々な理由で最低クラスのFクラスに振り分けられてしまった! しかし、2年生からは試験召喚戦争という一発逆転のチャンスがある。そのため俺達は、下剋上を起こす!」

 

その雄二の言葉に一瞬士気が上がったが、すぐに現実に戻ってきたクラスの男子達は勝てるわけ無い、現実を見ろ、などなどのネガティブな言葉をぶつけた。

 

雄二はそう言われるのも想定通りという具合でニヤッと口角をあげる。

 

「確かに、ただのFクラスなら勝ち目なんてないだろう。だが、今回のFクラスには、たくさんの戦力が眠っている! まず、廊下に立って教室に入ってこない女子、入ってこい」

 

そう言うと、男子の目が一斉に教室の外を向く。男子がほぼ100%の教室ではそうなってしまうのも致し方ないのかもしれない。

 

視線に気づいているのか、中々教室のドアを開けようとしない廊下の女子生徒にイライラしたのか雄二は強引にドアを開けて中に入れさせた。

 

「あっあっ、あの、ひ、姫路、瑞希って言います。よろしくお願いします」

 

入ってきたのは小柄ながらもかなり立派なものを備え付けているピンク髪の女子、姫路瑞希であった。

 

その彼女の登場に、教室は大きな騒ぎになった。姫路瑞希と言えば、学年の中でも上位の方に君臨している才女であり、明らかにこんなクラスに振り分けられるような人物ではなかったからだ。

 

どうやら体調不良で途中退席をしてしまったため、強制Fクラスになってしまったようであり、その事を聞いた男子は理不尽だ、と怒りの声をあげる。

 

「いえ、私の体調管理の能力が無かったから熱を出してしまったんですし、私の落ち度です……」

 

「確かに、俺も熱がでなければもっとちゃんとできたかもしれないな」

 

「あー、化学のことだろ、あれ難しかったよな」

 

「俺も妹が救急車で搬送されただなんて聞かなければ、もっと集中してできたのに……!」

 

「お前、確か一人っ子だよな?」

 

「前の晩に彼女が寝かせてくれなくて……「異端者だ、殺せぇぇぇ!」冗談だ! 夢くらい見させてくれよぉぉ!!」

 

クラスのまとまりが無くなってきたところで、雄二の渇が飛ぶ。それを聞いた男子全員は、黙って雄二のを見つめた。隣にいた瑞希に関しては、急な大声で驚いてしまい、腰を抜かしていた。

 

「さて、話を元に戻すが、この姫路瑞希は誰がどう考えても主戦力であり、かつ名前が知られている。他のクラスのやつも、まさかFクラスにいるとは思いもしないだろう。だから姫路はウチのクラスの切り札とも呼べる存在だ」

 

これにはクラスの誰もが首を縦に振った。当然である。彼女は学年優等生の5本指には間違いなく入る人材である。これを切り札と言わずになんと言おうか。

 

「他にも木下秀吉、土屋……いや、ムッツリーニという2人の男がいる。秀吉は古典、ムッツリーニは保健体育に関しては、Aクラスに対してもひけをとらないだろう」

 

2人は軽く頭を下げた。

 

「そして、今そこの卓袱台で幸せそうな顔をして寝ている佐久間莉苑。こいつは振り分け試験の時間全てを面倒だと言って参加しなかったが、やる気を出せば確実にAクラスに入れるような実力を持っているだろう」

 

「そして……」

 

雄二は教卓の前からゆっくりと移動し、明久の横までやってきた。そして、明久の肩に手を置いた。

 

「観察処分者というバカの代名詞を与えられたが、実際の学力は多分だが学年首席にも並ぶだろう男、吉井明久がいる!」

 

クラスが静まった。当たり前と言えば当たり前だろう。瑞希は有名人であり、男子しかいないクラスにおいて康太は商売人として有名であり、秀吉も演劇部のホープとまで呼ばれる程の実力者である。莉苑に関しても静かになったが、本人が寝ているということもあり、軽くスルーされたが、しっかりと起きている明久にとって、その視線は中々に刺さるものがあった。

 

「こいつは特別なやつだ。観察処分者として教師の手と足になったが、その際に召喚獣を出すことを許可されていた。これだけで、他の誰よりも1歩先にいるだろう。そして、その操作技術に加えて学年首席並の学力だ、明らかに主戦力だ」

 

「へぇ、随分と僕に詳しいんだね。事前に調べでもいれていたのかな、代表」

 

「ふっ、たまたまだ」

 

そういいながら雄二は再び教卓の前に立った。そして、教卓をおもいっきり叩いた。

 

「俺はこの教室を、最高のものに変えたい。目指すはAクラスの設備だッ!」

 

その言葉に、クラスの男子は総立ちし、雄叫びをあげた。その瞬間、教卓が嫌な音をたて始めた。衝撃に耐えきれず、脚が折れてしまったようだ。そのまま音をたてて崩れ落ちてしまった。

 

「……あー、新しい教卓の申請に行ってくる。帰ってき次第作戦会議を行う。少し休んでてくれ」

 

そう言いながら雄二は教室を出て職員室に向かっていった。すると、クラスの男子が明久の元に集まってきた、

 

「お前ってすごいやつだったんだな! よろしく頼むぜ!」

 

「俺らを勝利に導いてくれ!」

 

「え、あっわかった、できる限りのことはするよ」

 

何故かクラスの主戦力になってしまった明久だが、皆から信頼を寄せられることは、嫌な気分にはならなかった。

 

「(さて、色々作戦を考えないとな。正面から挑むのはバカがやることだしな……)」

 

この戦争で、明久はクラスの軍師と呼ばれることになるのだが、それはまだ誰も知らない……。

 

 

 

 

 

……to be continued




はい、今回は少し短めですが、お許しください。

次はDクラス戦です。

キャラクター募集は常に募集しているのでどうぞ、活動報告をお覗きください。

※誤字脱字、修正点、矛盾点諸々ありましたらご報告ください

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