今回は読者様のオリジナルキャラクター同士の戦いがあります。勝敗で気分を害されてしまった場合は謝ります、申し訳ないです。
Aクラス戦からその後のちょっとしたお話まで書きました。次回からは章を変える予定です、よろしくお願いします。
第6試合の合図がされ、Aクラスから1人の生徒が歩いてきた。
「命……」
朝陽は小さく呟いた。明久はそれを聞き逃さず、朝陽に知り合いかときいたがはぐらかされてしまった。
「じゃあ、そこの可愛らしくも良い体つきの男子生徒さん、お願いしますっ」
なにやらご機嫌そうに朝陽を指名した人物、命はあまり背は高くなく、胸もそこまで大きく感じないが、かなりの細身であり、可愛らしい顔立ちをしていた。
「……あれはっ!?」
何かの気配を察したのか、保健室にいるはずのムッツリーニが明久の真横に出現した。当然、驚いた明久は素っ頓狂な声を出してその場に尻餅をついた。
「む、ムッツリーニ……どうしたの? 保健室にいるはずなんじゃ……」
「あの女子生徒は、着やせするタイプだな。俺の目に狂いはない」
キリッとした表情で自慢気に言っているが、中々に最低な発言である。見ず知らずの人物に投げ掛けては、必ず争いになるであろう発言をムッツリーニは何の戸惑いもなく口にしたのだ。おそらく本心なのだろう。先程せっかく止めた鼻血が再び流れで始めていた。
「もう、ムッツリーニ! 出血多量で本当に死んじゃうよぅ! 坂本くん、また手伝って!」
「はぁ? またかよ……大概にしろよ、ムッツリーニ」
「……善処はする。多分、きっと」
気絶まではしないものの大量の血を出しているムッツリーニに血を供給している明久と雄二を横目に、朝陽はフィールドへと、上がっていった。
「さてこの戦い、僕個人としては非常にやりにくいなぁ……」
その言葉を聞いた命はクスリと笑い、召喚獣を呼び出した。科目は、物理である。朝陽の数少ない苦手科目である。
多嘉良 命:404点
天願 朝陽:347点
「自分の得意な家庭科で来ると思ったんだけど、予想外だったな……」
「私があなたの苦手科目を把握してないわけないでしょ、朝陽?」
「腕輪を潰しに来たのか……これは実力勝負になりそうだね」
命は、ミニスカート巫女服に方天戟という服装であり、大剣の朝陽に比べると、微々たる差だがリーチがあり、攻撃速度も高めであるため、実力勝負のこの場合には圧倒的に命の方が有利である。
しかし、命は方天戟を構えるそぶりはせず、ただその場で凍ったように動かなかった。しかし、その行動は物事を長考しやすい朝陽にとっては、効果的な行動だった。
朝陽は静かに汗を流した。今まで戦ってきた生徒とは明らかに違う何かのオーラに、気圧されていた。
「くっ……行くよ!」
大剣と方天戟がぶつかり合い、甲高い金属音が鳴り響く。両者1歩も引くことなく、鍔迫り合いは今までのどの戦いよりも長く続いた。
少しすると、朝陽は瞬時に上に飛び、大剣を降り下ろしながら着地した。その場所には大きなヒビが入り、その威力を物語っていた。
しかし、そこに命の姿は無く、気づいたときにはもう遅く、命は朝陽と同じ攻撃方法で彼を切り裂いた。一撃の威力は朝陽ほどでは無いにしろ、400点を越えた召喚獣の重い一撃は、朝陽の点数を3分の1も削り取っていた。
「あの唐突な動きに反応して、且つカウンターアタックを決めてくるなんて……考えられない」
「朝陽ならもうわかるでしょ? これは私の腕輪の能力、先読みだよ。発動すると召喚獣の動きが完全に止まっちゃうから、大変だけど発動し続けた時間×8秒後の相手召喚獣の動きを見ることができるの。長考してくれて助かったよ、朝陽?」
朝陽の癖を完全に把握している命にとって、今の朝陽は彼女にとって思う通りに動く人形のようなものであった。
朝陽が戦闘開始時に考えていた時間は約10秒。ということは、命には80秒先まで彼の動きを理解できている。どのタイミングで攻撃をし、どのタイミングで防御し、どのタイミングで回避するか……その全てを理解している命は、このフィールドを支配している神のような存在であった。
「これは……勝てないかな? ……いや、待てよ……いや、でもこれはさすがに卑怯……」
「どうしたの、朝陽?」
「あっ! 命胸元はだけてるよ!」
「なにぃぃぃぃぃ!?」
Fクラスのバカ共が反応するが当然朝陽の嘘である。
「えっ、嘘っ!?」
すぐに胸元を見たが、そこには特に変わらない制服しかなかった。嘘じゃんと朝陽のことを見ようとした瞬間に、命の召喚獣は吹っ飛ばされた。
「召喚主の方を油断させる……あんまり好ましいやり方じゃないけど、許してね?」
「やってくれるじゃん……でも召喚獣の動きは読めるから少し反応は遅れたけど、受け身はとれた! すぐに反撃しちゃうよぉ!」
命は方天戟を振るい、朝陽は避けようとする。しかし、当然そうはいかず、逃げた先に攻撃が来る。攻撃を仕掛けても読まれているため、当てることができない。先程のような不正ギリギリの行動はもう通用しないであろう。この状態で、朝陽に勝てる要素は無かった。
しかし、そんな中で一瞬命の動きが鈍くなったのを朝陽は見逃さなかった。そう、80秒という地獄の時間が終了したのだった。
腕輪の効果が切れてしまえばもう朝陽に怖いものはない。点数の差は大きいが、それを踏まえたとしても有り余る程の操作技術の差がある。
「ここから、反撃だよ!」
再び腕輪を使われる事を避けるために、朝陽は急接近し大剣が大きく振った。当たれば大ダメージは確定であろうし、今の2人の距離では、それこそ先読が発動していないと避けることは不可能であろう。
しかし、朝陽に大剣は命に当たることなく、空を切った。目を見開いて驚く彼の後ろに瞬時に移動した命の一撃が首を貫き、彼を戦死へと誘った。
天願 朝陽:戦死
「上手くいった上手くいったー。ここまで上手くいくとはねぇ」
「あれを避けるとか、操作技術すごすぎでしょ、命……」
「あ、あれはただ単にまだ先読が続いてただけだからね? 途中の違和感ある動きはフェイクだよ、朝陽」
「くっそー……命に1本とられるとか、僕もまだまだだなぁ……」
仲が良さそうな2人にFクラスの男子が声を荒げながら叫んだ。
「女子と仲良さそうに話している異端者がおりますぞ、団長! これは成敗するしかないですよねぇ!」
その言葉を聞いたFクラスの男子生徒ほぼ全員が立ち上がり、どこからともなくハサミやカッターなどを取りだし、朝陽に構えた。
えっ、と言いながら後退りをする朝陽に向かって数名が突撃をした。
「う、うわぁぁぁぁ!? ご、ごめんね皆、落ち着いて、落ち着いてぇ!?」
朝陽はそのままAクラスから飛び出し、Fクラスの方向へ全速力で駆けていった。それをまるでネズミを追う猫のように走っていくFFF団を明久達は呆れ顔で見送った。
「……」
悲しそうにも怒っているようにも見える表情をしている命が静かにフィールドから退却し、再びFクラスに選択権がやってきた。
「じゃー次は私が行きますねー」
ゆっくりと立ち上がった零奈がフィールドに入っていくと、1人の男子生徒もほぼ同時にフィールドに入ってきた。
「天羽は吉井と、翔子さんはアホの雄二とやりたがっているようだし、ここは俺で決まりだろう?」
「げっ、幸人……! お前うちの高校にいたのか……」
雄二が少し嫌そうな顔をしながらフィールドに入ってきた男子生徒に声をかける。名前で呼びあっていることから知人であることが伺えた。
「坂本くん、あの人とは知り合いなの?」
「あー……知り合いというか腐れ縁というか……」
雄二と知り合いのこの男子生徒……東 幸人は雄二と霧島の幼馴染みであり、真面目だがマイペースな人物である。雄二の神童時代、悪鬼羅刹時代の両方を近くで見てきた数少ない一人であり、どんな状態の雄二も見捨てることはなかった友人思いという一面も持ち合わせているが、少しおせっかい焼きな所もあり、霧島と雄二の関係性を知っているが故に恋愛の催促をしてくる。本人に悪気はないのだが、雄二にとってはいい迷惑であった。その為雄二は少し苦手意識を持っている。
「まあ、いいさ。とりあえず今はこの戦いを終わらせる」
「じゃー、私の得意科目……ってほどでもないけど現代社会で勝負だー」
園崎 零奈:446点
東 幸人:439点
「現代社会、か。俺としては可もなく不可もなくってとこだな……さぁて、はじめっか! いくぜぇ!」
「! あいつ、俺と同じタイプの人間かぁ! なら今度はあいつと戦ってみてぇなぁ!」
莉苑がそう言う通り、東は戦闘狂気質であった。先程までの大人しく余裕を持った話し方ではなくなっており、荒れてきていた。
「……ふふふ、なら私も真の姿を見せるときっ!行くぞ、東なる者よ!」
「……おい、園崎の方もなんか、おかしくねぇか? なんていうんだ、そう、中二病? っていうやつっぽくねぇか?」
「坂本くんの言う通りだね。あれは中二病だ……僕も昔は少し患ってたけど、まさか未だにいるなんてね……」
零奈の発言に少し引きながらも、明久と雄二は声援を送った。
零奈の武器は自分の身ほどの大剣で、全体的に青っぽいカラーリングになっており、防具は甲冑にマントというRPGの勇者のような格好であり、東の方は打刀に某アニメの格好にそっくりな黒のロングコートであり、身軽そうな格好である。
最初に動き出したのは零奈の方であり、彼女は大剣を一振りした。そのスピードは先程の朝陽よりも早く、あまりの早さに、直撃はしなかったものの、東は回避をし損ねる。
「へぇ……中々にすげー力じゃん。でも、まあ、俺にはもう2度と攻撃は当たらないけどなぁ!」
「っ!? か、体が動かないっ?! 貴様まさか、重力《グラビティ》の使い手かっ!」
「御名答……俺の前では重力なんて玩具なんだよっ!」
東の腕輪は重力操作であり、自分の半径10m以内であれば好きに重力を変えることができる。半径10m全て変えることも出来れば、局所的に変えることができる。消費点数に応じて時間が増減する仕組みになっており、最低でも150点の消費であり、その際は2分、最高は200点で4分となっている。
性能がかなり強めになっているが、使用者自身も多少は重力の影響を受けるためコントロールがかなり難しいという点と、重力操作が解除された後1分は自身の弱体化が付与されるというデメリットがあるが、それを差し引いても強い腕輪である。
その腕輪の力を使い、零奈の体に、とんでもない重力をかけた。体が上がるとごろかまるで地に埋もれてしまいそうになるほどの強い圧が彼女を襲った。
「ぐっ……卑怯だぞっ!」
「なんとでもいいなぁ? 悪いがこれが俺の能力なんでねぇ!」
そう言い、打刀を零奈に放り投げる。重力の影響を受けた打刀は、物凄い勢いで零奈に突き刺さった。
「うっ……中々に惨いことをやってくれるではないかっ!」
「ふっ、この力がありゃ誰にも負けねぇよ」
零奈にかかっている重力を弱め、東は打刀を引き抜く。そして、そのまま振り下ろした。
……が、そこに零奈の姿はなかった。
東は何事かと辺りを見渡すと、上空に浮遊している零奈を発見した。
「おい、俺の重力をどうやって抜けやがったぁ?!」
「私の腕輪の力は神器創造っていう能力でね、自分の想像した武器が出来て、そこに好きな効果を付けられるんだ……。まあ、一か八かだったけど、今回は成功したみたいだね」
神器創造。自分の想像した武器が出現するというものだが、自分が武器だと想像すれば何でも出すことが出来るというこちらも中々に強い腕輪である。武器を出すのに100点、そこに何かの効果を付与するのに100点と、消費点数はかなり大きいものの、使いこなす事が出来れば最強クラスの腕輪である。
そして今回彼女が作り出した武器……それは自分である。そう、彼女は自分自身を武器であると想像したのである。そして、付与させた能力は、見ての通り重力の無効果である。
「ぐっ……まさかそんな事が可能だとはな……。しかし、先程の打刀の一撃、そしてその能力の発動……もうお前に残っている点数なんてたかが知れてんだよ! ここで朽ち果てなぁ!」
しかし、重力の影響を受けている東は、零奈に届かなかった。
「ぐぬぬぬぬぬぬ…… っ! 降りてこいっチキン野郎がっ!」
「重力弄くってなにも出来ない相手に容赦なく打刀ぶっ刺すあなたにだけは言われたくない言葉ですねー……」
呆れて零奈が首を横に降っていると、東が浮遊してきた。どうやら自分にかかっている重力をほぼ0にして飛んでようである。しかし、そんな状態で攻撃が当たるわけもなく打刀は空を切った。
しかし、それは零奈も同じことであり、零奈は完全に重力を失っているため、どんどんと地上から離れていってしまった。そしてそのままフィールドの端にぶつかり、外に出てしまった。
「んなっ!? ちょ、待て、私の召喚獣ぅぅ!!」
フィールド外に出てしまった零奈は、そこで敗戦となった。当然納得のいかない様子の零奈だったが、明久に宥められ、項垂れながらFクラスの陣営に戻った。
「もう、なんなんですかねあの能力! ずるいったらないですよもう!」
東の腕輪にかなりご立腹のご様子の零奈を再度宥めた明久はフィールドに入った。
「さて吉井、俺と勝負せよ! 科目は総合科目だ!」
天羽 来覇:6245点
Aクラスの陣営からも6000点越えに驚きの声が上がっている。それもそうであろう。Aクラスの中の半数以上はBクラスに毛が生えた程度の成績であり、3000点前後であろう。その倍の点数を取っているのだ、あまりにも大きな差がある。
「うわぁ……こりゃ久々にとんでもない人と戦うことになるな……。でも、僕も負けられないからね!」
「(……天羽、今のあなたじゃ吉井は越えられない。なぜなら吉井は……)」
吉井 明久:7426点
「(振り分け試験最高得点者だから……っ!)」
「な、なんだ、と?! この俺が1000点以上の差をつけられている……だと!?」
「悪いけど、僕にも面子があるからね。そう簡単には負けられないんだ!」
明久は木刀を構え、天羽に突撃した。
天羽は日本刀を装備しており、防具は黒と黄色の鎧であり、武者風な姿をしている。その姿からもただ者ではないオーラが漂っている。
「俺もな……Aクラスを引っ張っていく身として負けるわけにはいかねぇ! いくぞ、吉井!」
木刀と日本刀がぶつかり合い、つばぜり合いが起こる。両者真剣な眼差しで、お互いの目を見つめあっていた。
押しきったのは天羽であり、そのまま連続で斬りかかった。数発は受けたものの、すぐに守りの体勢になった明久はその後の攻撃をすべて弾き返した。
「ほう、操作技術がピカイチと聞いたが、確かにその通りのようだな。今まで見た全ての召喚獣の誰よりも早く緻密に動けている。そしてその高得点……少し見くびっていたようだ、すまなかった」
戦闘中にいきなり頭を下げだした天羽に驚いた明久はオドオドしながらも言葉を返した。
「え、えっと、ありがとう。嬉しいよ」
「そして、再び強く思ったぞ。お前を、倒したいとな!」
天羽の腕輪が光りだした。その瞬間、明久は思いっきり吹っ飛ばされた。
彼の腕輪は、滅界。広範囲に衝撃波を叩き込むというシンプルなものだが、殲滅力は絶大であり、並みの召喚獣では2発食らったら戦死であろう。隙も少なく、どんなタイミングでも発動できるため強力だが、消費点数は150点と高めのため、連発はできない。なのでどこでも使えるが、使いどころを吟味する必要がある。
その滅界を食らった明久の点数は、2700点ほど削られていた。総合科目の際は受けるダメージと腕輪の消費点数が個別科目の10倍となっているため、通常では270点も削ることが可能である。その威力を目の当たりにした明久は、固唾を飲み込んだ。
「1回で2700点……文月学園の腕輪の中でも、瞬間火力だったらピカイチだね……。でも、これならどうかなっ!」
明久の腕輪が発動し、前方向の広範囲へ衝撃波が飛んでいく。
「その腕輪の効果はもう調べている! 当たらなければ問題ないっ!」
広範囲に及ぶその一撃を簡単に避けた天羽は、明久に斬りかかった。その刀が明久に触れる寸前、再び明久の腕輪が光り出した。
地面に木刀を突き刺し、再びフルブレイクを発動する。前方に行くはずの衝撃波が地面に直にぶつかるため、木刀を中心に爆発のようなものが起こった。
「よし、これで僕の勝ちだね」
爆発に巻き込まれた天羽は、その場に倒れこんでいた。デバフの効果も受けているので、彼に勝機はもうないだろう。
「くっ、そんな荒業まで使えるとはな。少々見くびりすぎたな……」
天羽は悔しそうに明久を見つめた。
「天羽くんも、強かったよ。正直あの滅界を連発されていたら危なかったよ」
「ふっ……俺ももう少し攻めてみるべきだったかもな。今回の戦いで俺もたくさん勉強になった。良ければだが、また手合わせ願いたい」
そう言いながら天羽は頭を下げた。明久はそんな彼に手を差し伸べ、笑顔で了承した。
「……まさか、Fクラスにここまで押されるとは思わなかった」
「俺も、まさかここまで善戦してくれるとは思ってなかったさ」
勝敗が4対4となった為、フィールドには雄二と霧島が立っていた。この戦争の勝ち負けはこの2人に委ねられた。
「坂本くん、頑張って!」
「頑張るのじゃぞ、雄二よ!」
「……応援、してる」
「アタシたちの雪辱も全部ぶつける勢いで頼むわよ!」
「坂本くん、絶対勝ってくださいねっ!」
「代表、アンタの戦い、未だに見たことねぇから楽しみにしてるぜ?」
「がんばれー、代表ー」
この戦いを繰り広げてきた戦士達の言葉が雄二を高揚とさせる。彼の目にはもう敗北という二文字は見えていなかった。
「行くぜ、翔子。日本史でお前を倒すっ!」
「……雄二、私はこの戦い、負けるわけにはいかない。たとえ相手が雄二でも、全力でいく」
霧島 翔子:479点
主席であるだけあり、点数の高さは安定である。その高得点を見て、いつの間にか戻ってきていたFクラスの男子がため息をついた。
今年のFクラスは、確かに逸材ばかりであった。観察処分者として強制的にFクラスになった明久に、体調不良で途中退席した瑞希。めんどくさいという理由から真面目に受けていなかった莉苑に零奈、そして朝陽。この5人はFクラスにいるような成績ではないが、それぞれの理由がありFクラスにいる。
しかし、Fクラスの代表ということは、無得点扱いではない。ということは実力がその程度しかないということである。それを理解しているFクラスの生徒達は諦めのモードに入っていた。
「ふっ……久々に真面目に勉強したが、中々いけるもんなんだなぁ?」
坂本 雄二:510点
「……ゆ、うじ?」
「昔は、よくお前に勉強を教えてやったよな……。なら、これくらいはできねぇと、お前の教師として失格だからな」
その場にいたのは、高校に入ってバカをやっていた雄二でもなく、中学時代の悪鬼羅刹と呼ばれている雄二でもなかった。霧島の憧れていた、神童と呼ばれていた時代の雄二がそこにはいた。
「まぁ、まだ日本史だけしか勉強してねぇから他の科目はゴミ同然だが、奇数の時の選択権をうちに譲ってくれたときから勝利は見えてたぜ?」
雄二は拳を握りしめ、霧島に伸ばした。
「俺達がこの戦争に勝利して、文月学園の歴史に名を残してやるっ! いくぞ、翔子ぉ!」
「……雄二も、本気みたいね、嬉しい。私も、全力で」
霧島の武器は日本刀であり、防具は赤を基調とした武者鎧のようなものであった。一方雄二は改造学ランに拳と男気溢れる格好である。
先に攻撃を仕掛けたのは霧島であった。日本刀を片手に持ち、全速力で雄二の近くにまで接近し、一閃した。当然見え見えの攻撃であるため、雄二は軽く避ける。が、何故か雄二に避けたはずの攻撃のダメージを受けた。
「……お前の腕輪か、翔子」
「……そう。私の腕輪は神速。雄二が避けたと思った攻撃は、私の残像によるもの。本当はもっと早い段階で攻撃が当たっている」
神速……使用すると一定時間召喚獣の動きが見えないほどのスピードになり、相手が見えていると思っていた召喚獣は、先程までいた残像である。しかし、一定時間が過ぎると、鈍化のデバフがかかり、戦闘を続行するのが困難になる。鈍化中にもう一度使った際には、通常のスピードに戻るという効果になる。消費点数は130点と少し低めに設定されている。
「ほう……中々にめんどくさい腕輪じゃねぇか。だがまぁ、俺の腕輪も中々だけどなぁ!」
雄二の召喚獣を光が包み込んだ。その光が消えた後、召喚獣に異変があった。そう、細身になっているのだ。
「これが俺の能力、フォルムチェンジだ!」
そう叫び、雄二は霧島に向かって突進した。そのスピードは、かなりのもので、神速を使った彼女ですら当てることが出来ないほどである。そして、残像をすり抜け、その前方に回し蹴りを放った。それは見事に霧島に直撃し、彼女の姿が目視できるようになった。
「くっ……さすが雄二。あの状態で攻撃を当てることができる人は少ないと思う」
「へっ、サンキューな。さて、まだ終わりじゃねえよな?」
そう言った雄二の召喚獣は再び光に包まれた。その光の中から筋肉ムキムキの召喚獣が現れた。まるで西村先生のような肉体美である。
「パワーモードだ。神速状態じゃないお前にならこれでも十分に当たる!」
雄二の豪腕からの一振りをもろに食らった霧島は、フィールド外ギリギリのところに飛んでいった。そのあまりの力に、鎧にヒビが走っていた。
しかし、そんな状況でも諦めることなく霧島は日本刀を構えた。狙いを雄二の首に定める。彼女的には神速を使いたい場面であるのだが、先程の雄二の攻撃で、神速を使うことの出来ない点数にまで減らされてしまっている為、使用できない。勝負は決したも同然であった。
接近してきた霧島の日本刀を横殴りで弾き飛ばした雄二は、彼女を上へ放り投げ、アッパーをぶちこんだ。
霧島 翔子:戦死
Fクラスの勝利が、確定した。
「……さすが、吉井が率いているだけあって、強さは相当なものだった。私達も精進しなければと思った」
「いやーあの霧島さん、率いてたのは僕じゃなくて坂本くんの方だよ?」
「……雄二はあまり前線には出てきていなかったときいた。そして、吉井が作戦を練っていたこともきいた。正直どっちが代表だかはわからない……」
霧島の鋭い言葉に雄二は言葉を失った。確かに彼は前線に出てくることは全くなく、それどころか戦争中に彼を見たという人物は誰もいなかった。そう言われても致し方ないところもある。
「まあ、そこは置いといてだな……とりあえず吉井が勝手に設定した言うことをなんでもきくというものを早速だが決めていこうか」
「あー……雄二よ。ワシは姉上に願いなどないのじゃが、この際はどうするべきかのう?」
「まあ、特に望むものがないのであれば無しでいいんじゃないか?」
「わかったのじゃ。姉上、ワシからの願いは特になしじゃ」
「わかったわ。とりあえず今日は秀吉の好きなものでも食べに行きましょうか。得意科目だとはいえ、私に勝ったんだからね」
秀吉が目を輝かせながら首を縦に振っていた。姉弟の仲の良さそうな雰囲気を見て、その場にいるほぼ全員がまったりとした気分になっていた。
他にも瑞希や佐藤が特に願いはなしとしており、及川と東、明久はもう一度ちゃんとした場での再戦を莉苑、零奈、天羽に願った。
ムッツリーニも何かをお願いしようとしていたが、再び鼻血を噴き出してしまい、なしとなった。
「命は何かないのー?」
工藤にそう言われた命は首を横に振り、特になにもないよと言った。
朝陽との関係性を知っている工藤はえーと残念そうに言ったが、命の片手にスマホが握られているのを見て、すぐに理解し、ニヤニヤしながらも口を閉じた。
「こ、これは……わかったよ、命」
朝陽が小さく呟いたこの言葉を聞いた者はいなかった。
「さてと、翔子。俺の言うことを聞いてもらおうか?」
「……嫌だ」
「おい、まだ何も言ってないぞ……」
頭を掻きながらため息混じりにそう言った雄二をじっと霧島は見た。
「……どうせ雄二のこと。婚約届を捨てろとかそういうことでしょう?」
その言葉を聞いたFクラスの生徒は、瞬時に雄二に向かって凶器を構えた。
「霧島さんが好きだって言ってたの、坂本くんのことだったんだね」
「……そう。吉井には恋愛絡みの話題を振られなかったから言っていなかったけれど、私と雄二は幼馴染み」
「まあ、翔子の言ったことは半分正解だな」
雄二の発言に霧島は頭を傾ける。
「……あーその、なんだ。俺もいい加減素直にならないとな、と思ったんだ。正直吉井がこの言うことをきくというのを設定したというのを知った時は、チャンスだと思った。きっとそういう契約がないと俺は言うことが出来ない。こんな場で言うのは正直申し訳ねぇが、出来ればきいてくれ、翔子」
「婚約届なんてもんはいらねぇ。俺と、付き合ってくれ、翔子」
「貴様ぁ! 我らの前でそんな事を口にするとは、よほど死にたいようだなぁ?!」
「すまない、黙ってくれ。俺は今真剣に話をしているんだ。邪魔するんだったら……テメェら全員捻り潰すぞ?」
今までとは比べ物にならない圧がFFF団に襲いかかり、彼らは黙りこんだ。
「……悪いな、邪魔が入った。どうだ、翔子?」
「……断るわけ、ない」
涙を流しながら、霧島は雄二に抱きついた。雄二は照れながらも抱き締め返し、辺りは指笛と拍手で包まれた。
「はー……ようやく素直になったかバカ雄二。翔子さんも、ようやく叶ったな。……おめでとう、2人共」
東のその言葉を聞いた雄二は、驚きながらも感謝を送った。
そんなとても良い雰囲気の中に、1人の女性がやって来た。
「やあやあクソジャリ共。どうやら戦争は終わったようだね」
この文月学園の学園長である、藤堂カヲルが教室に入ってきた。
「で、出たな、妖怪!」
「うるさいよ吉井! アンタは頭が良いのに、時々バカなのがたまにキズだねぇ……。まあそれは置いといてだね、幸せそうなのを邪魔して申し訳ないが、代表の2人よちょっといいかい?」
霧島と雄二は少し名残惜しそうに離れ、学園長を見た。
「さてと、まずはFクラスの代表、坂本雄二。この前提案にきたことだが、慢心せずに頑張るのを条件として了承しようではないか」
そう言いながら雄二に書類を渡してきた。その内容はFクラスをAクラスと同じ設備に変えること、そしてAクラスの教室になんの変更もさせないということが書かれていた。恋人となった霧島をFクラスの環境で勉強させるのが嫌だったのであろう。
その後も学園長の話は長々と続き、結局外が暗くなり始めた頃に解散となった。
翌日の放課後、明久は優子に呼び出され、近所の公園にいた。呼び出された内容は、会わなくなってからどうなったかということであった。
昔の懐かしい話を交えながら話を進めていくと、驚愕の事実を明久は知った。
「木し……優子のお母さん、あの後亡くなっちゃったんだ……」
「ええ……血管から溢れた血が脳に圧をすごくかけちゃってたみたいで、病院に着く前の救急車の中でもうほぼ死にかけだったみたい……」
泣きながら優子は話を続ける。
「お医者さんから、お母さんを生かすには植物状態にするしかない、って言われて、それで、私……」
「……もういいよ、優子。辛かったんだね……」
「お母さんに、死を与えたのは私……私は人殺しと罵られても、仕方ないような事を、したの……」
泣きながらのため途切れ途切れながらも自分を責める優子を昔と同じように明久は優しく包み込んだ。
明久の胸で優子は泣き続けた。
「ごめん、ありがとね明久くん」
涙が止まり少し冷静になった優子が赤面しながら謝る。
「ううん、大丈夫だよ。でも確か優子の家ってあの当時母子家庭だったよね? 今はどうしてるの?」
「あの時は祖父母の家に行っていたけど、あんまり歓迎されていないようだったから、高校に入ったタイミングで秀吉と二人で暮らしてるわ」
「えっ、生活費とか家賃、大丈夫なの?」
「……昔は祖父母の方から僅かだけど支援があったわ。けど半年くらい経ったくらいだったかしらね……全く支援が無くなって、アルバイトの時間をかなりいれてるわ」
そう言ってシフト表を明久に見せる優子。そのシフト表には休みの日にちが殆ど入っていなかった。その惨状を見て、明久は悩んだ。こんなことを勝手にしたらきっと姉に怒られるであろう。けれど、助けたい。その揺れ動く感情の末、明久は決意した。
「優子、もし、もし良かったらだけどさ、秀吉と一緒に家にこない? 遊びとかじゃなくてさ、同棲的な意味合いで!」
その言葉を聞いた優子は目を丸くした。当然であろう、相手は自分と同じ高校生である。通常そんなことは言う人はいないであろう。
しかし、明久は本気であった。自分を成長させてくれた恩人である優子に、今度は自分が恩を返す番だ、と真剣な表情で優子を見た。
「……いいの? こんな私を……」
再び涙を流しながら優子は問いかけた。その言葉を聞いた明久はもちろんだよ、と笑顔で返した。
「じゃあ、すぐって訳にはいかないから、ちょっと先になるけどよろしくね、明久くん!」
嬉しそうに笑う優子を見て、明久は心地よくなった。秀吉に嬉々としながら電話を掛ける優子を横目に近くの自動販売機に向かって歩きだし、ごく普通のお茶を2本購入して優子のもとに戻る。
「あ、ありがとう明久くん」
そう言いお茶を受け取った優子だが、一向に飲む気配がない。明久はもしかして嫌いだったのかなと思っていた。そんな時に優子がいきなり驚いた顔をして明久の方向を向き、指をさした。
「が、学園長と西村先生が楽しそうに歩いているわっ!?」
「なっ、なにぃ?!」
その衝撃の言葉に明久は優子が指をさした方向を凝視した。しかし、そこにはその2人どころか人っ子1人いなかった。
いないじゃんと言いながら優子の方に向き直そうとしている明久の頬に、柔らかい感触が襲った。それを口付けだと気づくまでに、明久は数秒かかった。
「ふふふ、これはお礼よ。それじゃあね明久くん!」
微笑みながら走り去っていった優子の後ろ姿を見つめながら、明久は口付けの余韻に浸っていた。
……to be continued
少し長くなりましたが、お読みいただきありがとうございました。今回で最初の章は終わりになります。あまり笑いの要素を組み込めていない章だったので、次回からはもう少しそちらの方面も取り入れていこうと思います。
そして、相変わらず誰?状態な原作のキャラクター達……
※誤字脱字、修正点、矛盾点ありましたらご報告ください。