時の女神が見た夢   作:染色体

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第四部 30話 最後の対決

ユリアンはヤンにこれまでの経緯をなるべく手短に説明した。

 

「説明ありがとう。いろいろ納得出来ないが、とりあえずわかった。本題に戻ろう。要件は何だい?」

 

「そうしてもらえるとありがたいです。要件は単刀直入に言って、講和の条件交渉です」

 

ヤンは途端に態度を硬化させた。

「講和?今更そんな話が通ると思うのか?今君達が置かれている状況をわかっているのか?地球教団のやって来たことを考えれば、滅亡するか、滅亡させられるか選べと言われても仕方がない立場だと思うがね」

 

ユリアンは動じなかった。ヤンの見せた態度がただのポースだと理解していた。伊達に海千山千の曲者達に揉まれて来たわけではなかった。

 

「私は神聖銀河帝国の全権として、話をしています。ですから、その中の一集団である地球教団のことは別に話をさせてください」

 

「……とりあえず、続けてくれ」

 

「神聖銀河帝国の置かれた状況ということであれば、今神聖銀河帝国は根拠地である月要塞に攻め込まれている状況です。既に指導者であったルドルフ2世陛下は逃亡され、月要塞は質量攻撃によって徐々に地球との距離が近づいていっている」

 

ヤンは、ユリアンが氷塊攻撃の効果に気づいていたことを確認できた。

「その通りだ。追い詰められているな」

 

「そうですね。まあ、ゆっくり紅茶を飲みながら話をしていられる状況を追い詰められていると表現するならばですが」

図らずも二人の手元には共に紅茶が用意されていた。

ヤンは司令官室でマルガレータの淹れたブランデー入り紅茶を。ユリアンは自ら淹れた紅茶を。

スクリーンを挟んで優雅なティータイムとでも言った趣きだった。お互い、余裕を見せるための演出だった。

 

「人間、銃を突きつけられたってその気になれば紅茶ぐらい飲めるさ」

 

「半年経ってもこうやってお茶を飲んでいられる気もしますけどね」

 

ユリアンの何気ない発言に、ヤンはティーカップを揺らさないようにするのに苦労した。

ユリアンがそこまで気づいていたことは、ヤンにとって計算違いだった。

 

ヤンは多少苦労して笑みをつくりながら答えた。

「いや、そんなに余裕はないと思うよ」

 

ユリアンは悠然と答えた。

「そういうことにしておいてもいいですよ。ところで、それもふまえて、私があえてヤン提督、そして独立諸侯連合に話を持ちかけた意味はおわかりですか?」

 

「新帝国では話をしても、講和など許してもらえないと思ったからだろう?」

 

「私はジークフリード帝の人柄を考えればそうとも限らぬと思っていますよ。ミュラー上級大将に特使になってもらう手もあると考えていますし」

 

「では、どうして?」

 

「連合が主導でこの戦いを終わらせるということが、連合にとって利益になると思ったからです。戦後を考えた時にね。そして、連合にとってそれが可能なタイミングは今しかない。そしてそれならばささやかな条件交渉に乗ってもらうこともできると思っているのです。講和という言葉が問題でしたら、条件付き降伏と言い換えても構いません」

 

「……一介の軍人には手に余る話だな」

 

ユリアンは笑った。

「ご冗談を。連合軍からも、さらにその上のウォーリック伯からも、一定の裁量権を与えられているでしょうに。それに、英雄ヤンの言葉なら、ウォーリック伯も、ジークフリード帝も耳を傾けるでしょう。両国の首脳に話を通せるという点でもあなたを交渉の相手に選んだのです」

 

 

ユリアンは状況をほぼ正確に把握していた。

 

独立諸侯連合にとって、自分達主導で短期間で終戦を図れることが、連合の国力的にも、戦後のパワーバランス的にも、もっとも望ましかった。

 

一方で、氷塊攻撃を続ければ月が地球に落ちること自体は事実だった。より正確には、ロシュの限界により、地球に落ちずとも地球から約2万km弱の距離まで近づいた時点で、強まった地球の潮汐力によって月は破壊されてしまう。

 

しかし、そのためには、氷塊攻撃を長期間続けなければならない。必要な氷塊とラムジェットエンジンの数は五千を超える。そして、それだけの数のラムジェットエンジンを、ヤン艦隊は持っていなかった。

 

つまるところヤンの氷塊攻撃はブラフだったのだ。

無論、五千個のラムジェットエンジンを用意すること自体は可能だった。しかし、そのためには新帝国の協力が必要であったし、相応の準備期間が必要となる。

月要塞の破壊に長い期間がかかることになるのだ。そうなると神聖銀河帝国側にも対応策を準備する余裕を与えることになるかもしれない。

 

ヤンも準備の時間さえあれば事前にそれだけの数のラムジェットエンジンを用意していただろう。しかし、月が神聖銀河帝国の根拠地だと気づいたこと自体が直前だったのだから準備のしようがなかった。

そのことを神聖銀河帝国の面々は知らなかったわけだが、ユリアンにだけは読まれてしまっていた。

 

その時点で連合にとって最も望ましい、連合主導での短期終戦の望みは少なくなったはずだった。それにも関わらず、ユリアンはそれを受けようと言っているのだ。

 

ヤンは苦笑して言った。

「私が悪かった。妙な腹の探り合いはやめにしよう。君が提供できるのは、連合主導での早期終戦というわけだな。それに対して君は何を要求するんだ?」

 

ユリアンも苦笑した。

「助かります。ヤン提督相手の心理戦は疲れますからね。まず前提としてお伝えしておきたいのは、神聖銀河帝国の臣民のことです。この月要塞には八千万人の臣民がいます。門閥貴族の所領の元領民もおりますが、その多くは元々は地球教団に属する者達です」

 

ヤンは流石に驚いた。

八千万人。この時代、惑星でもそれだけの人口を抱えているところは少ない。

商工業の基盤を担い得る人口である。

そして、兵士の供給源としても……

 

「驚くことではないと思います。シリウス戦役終結時の地球人口が10億人。その殆どが内乱で死亡したり、あるいは、太陽系外に流出したと考えるのも逆に不自然ではありませんか?太陽系内の、より近い場所に逃げ延びた者達が相当数いてもおかしくないでしょう」

 

「そうかもしれないが」

 

「また、元々の月面都市の生き残りの子孫も中には含まれています。彼らや、古い時期に地球から月に移住した者達は月の低重力環境に適応してしまっており、1G環境では生きていけません。彼らの今後の扱いも大きな問題となりましょう」

 

その通りだった。月要塞に集団で留め置くのも危険である。しかし、移住させるとしても、通常の可住惑星では彼らは生きていけないのだ。

 

「まあここまでが前提情報です。私が要求するのは、第一に、同盟、連合、フェザーン、そして新帝国の四国による神聖銀河帝国の国家承認です」

ユリアンはヤンの表情に気づいて付け加えた。

「これは国家の存続を保証せよということではありません。降伏前に神聖銀河帝国という国家が存在し、その参画者、臣民はその国家の国民であったということにして頂きたいのです。……新帝国の中のただのテロ加担者、反乱加担者という扱いではなく」

 

ヤンはユリアンの意図を理解した。

テロ、反乱の加担者ということであれば犯罪者である。しかし別の国家に所属し、国家の意思に従っていたとなれば、少なくとも犯罪者という扱いではなくなるのだ。ユリアンは八千万人に明日への希望を与えるつもりなのだ。

実際のところ、八千万人の犯罪者など、どの国家でも到底扱いに困る数だった。

また、ヤンは気づいていないが、ユリアンはルドルフ2世やその他の神聖銀河帝国の中枢人員についても、テロリストではなく国家の指導者として後世に伝えるつもりだった。

 

「連合は既に我々の特使であるフンメル氏を国賓待遇でお迎えくださっているし許容可能ではないでしょうか」

 

連合が特使をもてなしたのは失着だったかもしれぬとヤンは思った。

「……一考に値する。だが、先に他の要求を聞こうか」

 

「あと二つです。四国監視下での地球の自治と地球再建事業の推進です。形式にはこだわりません。何らかの形で現神聖銀河帝国臣民八千万人と、地球教団のコミュニティを残し、穏健化を進めるのです。

月の八千万人だけではありません。銀河全土には億単位の地球教徒がいます。彼らの拠り所を潰して、かえって先鋭化させるような真似は避けるべきかと思います」

 

「穏健化などできるのかな?」

 

「僕ならできます」

 

「へぇ」

 

我ながら大きく出たものだとユリアンは思いながらも話を続けた。

「穏健化のために必要なことが、地球再建です。地球が今の荒れ果てた姿から人類の故郷として思慕されるに相応しい姿を取り戻し、さらにその再開発事業によって注目され、自然と一定の尊敬を集めるようになれば、彼らの中の怨念もゆっくりとですが解消されていくでしょう。……人に認められないということは人を大きく歪ませるものですから、その要因を取り除きたいのです」

 

その言葉は妙に実感がこもっているようにヤンには思えた。

 

「最後の一つは?」

 

「神聖銀河帝国の指導者層に対する処分の軽減。特にルドルフ2世陛下に関してです。いかに神聖銀河帝国が国として認められようと、指導者層は私も含めて何らかの形で戦争の責任を取らされることはあり得ると思っています。しかし、ルドルフ2世はまだ子供です。彼の出自がどうあれ、そのことは変わりません」

 

ヤンはすべての要求を聞いて考え込んだ。その末に答えた。

 

「一つ目の降伏前の国家承認、これは連合はまあ許容出来るだろう。連合を国家として認めたことを考えれば、新帝国も許容する可能性はある。しかし、同盟はわからないな」

 

ユリアンはここで一つ手札を切った。

「すみません、言っておりませんでしたが、既に同盟からは内諾の返事をもらっています。無論挙国一致救国会議ではなく、同盟政府からです。先に挙げた三条件、いずれも同盟は反対しないでしょう」

 

ヤンは衝撃を受けた。だが、不愉快なことながらも納得はできた。ヨブ・トリューニヒトの演説のことはヤンも知っていた。トリューニヒトが同盟で影響力を増大させている今、トリューニヒトとユリアンに繋がりが維持されているとすれば、あり得る話だった。

 

実はユリアンの語ったことは事実ではなかった。同盟から内諾を得るような時間はなかったし、同盟政府とは連絡も取れていなかった。しかし、トリューニヒトが影響力を増大させた以上、そうなるだろうと予想しており、それを確定した事実ということにしてヤンに伝えたのだった。

 

「一つ目はわかった。次に二つ目だが、新帝国がそれを認めると思うか?この地球は新帝国領だ。それに新帝国では各地で反乱が起こっている。ここで甘い顔を見せることは新帝国にはできないだろう」

 

「新帝国は反対するかもしれないですが、連合、同盟にはそれをするべき理由があります」

 

「どういうことだ?」

 

「地球教原典」

 

「何だって?」

 

「正確には地球教原典を起動キーに設定された、月要塞内の地球アーカイブ。そこには人類が失ったはずの知識が残されています。それだけでなく、貴重な植物の種子や動植物の細胞標本、古代地球の工芸品、美術品まで。ちなみに、最後の一つは、貴重な地球教の収益源ともなっていたのです。銀河に流通する古美術品の多くがこの地球アーカイブ由来です。以前お話頂いたヤン提督所有の万暦赤絵もこのアーカイブ由来かもしれませんね。それに、貴重な歴史書も大量に」

 

ヤンは食指が動いたが、危ういところで立場を思い出した。

「貴重なものが納められているのはわかった。だが、それは月を落とすのを躊躇う理由にはなっても、新帝国による接収を否定する理由にはならないのでは?」

 

「失われた科学技術、特に軍事技術」

 

「む……」

ヤンの顔が険しくなった。

 

「地球統一政府が所有しており、今や失われた様々な技術も地球アーカイブには納められています。特に生物兵器の知識は脅威かもしれません。当時より生命科学のレベルは低下していますから。それを新帝国が独占する危険を、連合は許容できますか?」

 

「なるほど。四国管理にできるならその方が無難だね。しかし、そうすんなりといくものかな。新帝国は難色を示すだろう」

 

ユリアンはさらに手札を切った。

「四国合同の国際協調組織」

 

「……」

 

「公表されたものとしては同盟での提案が初めてですが、連合でも考えられていたようですね」

ユリアンはトリューニヒトの名前を出さないようにした。ここでヤンを不快にするメリットはないからだ。

しかしヤンは舌打ちしたくなった。連合とフェザーンの上層部のみで議論されていたはずのその話が神聖銀河帝国に漏れていたからだ。

 

「その本部はどこに置くべきでしょうか?できるなら四国のどこかではない方がよいでしょう。新たに中立地帯をつくった方がよい。候補となるのは、無人の地となっている北部旧連合領一帯。それに今や難治の土地となった旧神聖銀河帝国領、特に地球周辺地域。そこに含まれるアルデバランなどは銀河連邦への郷愁を誘う意味でも、本部に適しているのではないでしょうか?この辺りを新銀河帝国から切り離すことができれば、長期的に見て連合と新帝国の国力比も大分変わるでしょうね。新帝国にしても余裕のない現状で統治コストのかかる地域を切り捨てられるメリットがあります。同盟と共に、新帝国に圧力をかけてでも実現すべきだと思いませんか?」

 

「……ひとまず三つ目に移る。これは連合には何の利益にもならない話だ。再び乱を招くことになる危険性もあることを考えればデメリットも大きい」

 

「今までの話は双方にメリットのある話でした。三つ目が、降伏にあたっての条件とお考えください。それに死刑になるところを終身刑にしてほしいとかその程度のことで、大それたことをお願いしようというわけではありません」

 

ヤンは考え込んだ。だがほぼ結論は出ていた。ユリアンの提案は理にかなっていた。多少無理が発生する部分も連合の利益という点では積極的に進める意味はあった。それに、同盟の同意を得られている時点で外堀が埋められているのも同然なのだ。

 

しかし、ヤンは即答を避けた。

「ウォーリック伯と相談する。しばらく時間をくれ」

ユリアンは同意した。

「いいでしょう。そう言えば氷塊攻撃が止まりましたね」

 

「止めたんだよ」

 

「そういうことにしておきましょう」

 

通信は一旦終了した。

 

ヤンは息を吐いた。

「いやあ、参った。参った。数年前はもう少し可愛げがあったんだが。一体誰の影響を受けたんだか」

アッテンボローあたりがいれば、「先輩の影響も大きいと思いますよ。でもその前に、自分の腕を斬り飛ばした相手を、可愛げがあると表現するなんて、先輩、マゾですか?」などという言葉が飛んできたかもしれないが、あいにく司令官室には、ヤンと副官のマルガレータしかいなかった。

 

そのマルガレータは黙り込んだままだった。マルガレータはユリアンに嫉妬していた。ヤンと心が通じ合っているように見えたし、マルガレータと同年代にも関わらず、ヤンと対等に交渉を行なえるだけの力量を備えていた。

ユリアンがヤン艦隊の一部の者の間でペテン師ヤンの一番弟子と呼ばれる理由がよくわかった。

マルガレータは自分こそがヤンの一番弟子と呼ばれたかった。その感情を自覚した。

 

「負けぬぞ……」

マルガレータの中でユリアンが明確にライバルだと認識された瞬間だった。

 

「どうしたんだ?ヘルクスハイマー大尉?」

ヤンがマルガレータの様子を心配して尋ねた。

 

「妾、あ、いや、小官は、あのユリアン・ミンツなどには負けません!」

 

ヤンはマルガレータの気迫に圧された。

「そ、そうか。いや、もう戦いは終わる気がするけど、頑張って」

 

「はい!」

 

これが、後の世に「金色の女提督」と謳われることになるマルガレータ・フォン・ヘルクスハイマーと、「黒衣の宰相」ユリアン・フォン・ミンツの長い因縁の始まりだった。

少なくとも、マルガレータは後にそう思ったが、ユリアンがマルガレータのことを意識するのはもう少し後の事であった。

 

ヤンは、マルガレータに紅茶のおかわりを頼んだ後、ウォーリック伯に連絡を入れた。

 

ヤンはウォーリック伯にユリアンの提案を説明した。受け入れるべきという個人的見解と一緒に。

ウォーリック伯は憮然としていた。

ヤンは尋ねた。

「気に入りませんか?」

 

「気に入らない」

 

意外な答えにヤンは驚いた。連合の利益になるという点ではヤンよりもむしろウォーリック伯の方が賛成すると思っていたからだ。

「しかし……」

 

「誤解しないでほしい。提案自体は多少の条件をつけた上で、基本的には受け入れるべきだと考える。気に入らないのは同様の提案が同盟からもあったことだ。ついでにフェザーンからも。ヨブ・トリューニヒトとユリアン・ミンツ、あいつらに謀られたかもしれんぞ」

 

トリューニヒトの名前が出てきたことでヤンは急に不快になった。

そしてウォーリック伯から同盟の提案の詳細を聞き、さらに不快になった。

 

ウォーリック伯は嘆息した。

「特に気に入らないのが、これが連合の利益にかなうことだということだ。受け入れざるを得ない。ヤン提督、連合は同盟の提案を受け入れる。ミンツ……伯及び新帝国との交渉はヤン提督に全て任せる」

 

「承知しました」

 

ヤンはジークフリード帝に連絡を入れた。

神聖銀河帝国の条件付降伏とその条件、終戦後の銀河体制に関する同盟、連合、フェザーン三国の共同提案を説明した。

ジークフリード帝は当初当然ながら難色を示した。しかし、各国が結託した提案という名の要求をはねのけるのは今の新帝国には難しかった。

首席秘書官ヒルデガルド・フォン・マリーンドルフを加えた話し合いの結果、内乱集結への各国の協力、軍事的経済的支援と引き換えに提案を受け入れることになった。

 

ヤンはユリアンに回答を伝えた。

一点目と二点目はほぼ提案通りだったが、三点目、神聖銀河帝国指導層の処分の減免については、死刑にはしないということだけが約束された。

 

ヤンは回答と同時にユリアンに訊かずにはいられなかった。

「君は最初からトリューニヒトと組んでいたのか?」

ヤンの声には不良になってしまった息子を嘆く父親のような響きがあったため、ユリアンは何故か弁解しないといけない気持ちになった。

「組んでいたというのは少し違います。たしかにトリューニヒトさんには大分前に自分の考えていることを伝えていました。しかしあの人がどう動くかなんて僕は知りませんでした。だから暗黙の連携という方が正しいです」

そう伝えてもヤンの表情は一向に改善しなかったため、ユリアンは言葉を重ねた。

「それに、暗黙の連携ということでは、ヤン提督と僕だって連携していたと言えますよ。早期終戦が可能になったのも僕がヤン提督のご協力によって、神聖銀河帝国の中枢の一員になれたからです。言いそびれておりましたが、マシュンゴ中尉を地球に派遣してくださってありがとうございました。お陰で地球で死なずに済みましたし、この場でまたヤン提督に会うことができました」

 

ヤンは少し照れた。後ろで何か骨の軋むような音がしたがヤンは気づかなかった。

「いや、お礼を言われるようなことは。しかし、そうなるのか?私は君と連携していたのか?」

 

ユリアンはヤンを言いくるめられる機会を得て、ここぞとばかりに同意した。

「そうですよ。僕とヤン提督は連携していたんです。間違いありません」

 

ヤンは何やら考えていたが、一つ嫌な可能性に気づいてしまった。

「待ってくれ。そうなるとまるで私が、君を介してトリューニヒトと連携したみたいになるじゃないか!断固否定する!」

 

それをヤンの後ろで見ていたマルガレータはぽつりと呟いた。

「なんだかんだで、仲がよさそうじゃのう。羨ましいことじゃ」

 

 

ともかくも、ユリアンはヤンからの回答に納得し、正式に降伏を伝えた。

宇宙暦802年1月17日のことだった。

ここに、2ヶ月を超えた神聖銀河帝国との戦いが終結した。

 

2月後半に太陽系木星において、正式な終戦条約の締結が予定された。

 

しかし、1月17日の前後では、複数の場所でさらに複数の事態が発生していた。


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