そのため本編のエピローグには繋がっていない可能性があります。
その点ご注意ください。
ヤンはオーベルシュタインから上がってきた報告書に目を通していた。
「人類の今後の繁栄のために」と題されたその報告は、重要な内容を含んでいた。
オーベルシュタインは旧地球教団、挙国一致救国会議、神聖銀河帝国の関係者で生存の可能性のある者をリスト化していた。
例えば、バーミリオンの会戦でMIAとなった3人のアッシュビークローンが生きている可能性があった。昨今同盟の基地が襲われ、艦艇や物資が強奪される事件が続発していた。その際に「ライアル・アッシュビーによく似た男」が目撃されていた。
また、地球アーカイブに眠る500万人分の保存細胞の存在の件もあった。黒旗軍の攻勢の末に予想される破綻に備えるため、地球統一政府要人や大きな業績を上げた人物の細胞を保管し、来るべき地球再興が成った時にクローンとして復活させる計画が立てられていた。この計画は神聖銀河帝国の滅亡により頓挫したが、細胞自体は保存されたままだった。この凍結細胞の一部が使用あるいは持ち出された形跡があったのだ。
ここまでの情報は各独立保安官にも既に情報が共有されており、彼らが動いてくれることが期待できた。
しかしその後にはヤンに対してだけの短い報告が続いていた。
それは、未解明、未解決案件のリストだった。
それを並べれば以下のようになる。
・人類の人口学的衰退
人類はこの500年、その数を減らし続けている。その理由は何故なのか?
・地球統一政府時代の開拓域拡大の停滞
地球統一政府時代の人類による植民域は地球から半径百光年を出なかった。その原因を当時のワープ技術の限界に求める説が一般的となっている。しかし、それは地球を出発地として見た場合の話であって植民星から考えればそのような制限は存在しないに等しい。圧政者たる地球から遠く離れた場所に彼らが向かわなかったのは何故なのか?
・劣悪遺伝子排除法制定の経緯に関する疑念
これはルドルフ大帝が自発的に定めたものだったのか?それを後押しした人物あるいは集団がいたのではないか?いるとすればそれは地球教団だったのか?
・科学技術の長期停滞の原因
国家の革新、人類の永遠の繁栄を唱えたルドルフが、科学技術の停滞を放置したのは何故なのか?
・地球アーカイブの情報欠損問題
地球教団の保有していた情報、地球アーカイブの情報は完全なのか?情報には意図的な欠損が存在し、人類の歴史には我々が把握できていない何かが存在するのではないか?
・存在しない皇帝の謎
ゲオルグ2世、ルードヴィッヒ3世。時たま人々の口から正史に残らぬ皇帝の名が語られることがある。彼らは本当に存在しなかったのか、それとも何らかの理由で歴史から消されたのか?
この他オーベルシュタインの報告は、未解明の領域である航行不能宙域や、人類の精神的脆弱性についても触れていた。
報告書は、「以上の事項が未だに解明されていないままとなっている。情報局はこれに関して調査を行なっていきたい」と結ばれていた。
ヤンにはオーベルシュタインがどこまで本気なのかわからなかった。
一部歴史学志望のヤンの興味を刺激するものもあったが、大部分はオカルトに属する話にも思えた。
しかし、地球教団のことを考えると、完全に笑い飛ばすこともできなかった。
ヤンはマルガレータの言葉を思い出していた。それに連合を離れる際にウォーリック伯に言われた言葉も。
「地獄の釜が開いているのかもしれない。十分に気をつけてくれ」と、ウォーリックはそう言っていた。
神聖銀河帝国の終焉とともに人類は悪夢から覚めたはずだった。
しかし、その先にあるのは、さらに深い悪夢なのだろうか?
「まあ今考えてもしかたがないか」
ヤンはさしあたってすべきことを考えた。
ヤンは新しい副官、スールズカリッター中佐を呼び、いくつか指示を与えた。
最後にヤンは言った。
「今から昼寝に入るから、敵襲以外起こさないでくれ」
ユリアンにも、協力依頼とともにその報告書が回ってきた。
読み終えたユリアンは、護衛官のマシュンゴに、補佐官のシュトライトと副書記のアイランズを呼ぶようお願いした。
マシュンゴが対応を終えた後、ユリアンは、長い付き合いの彼に何気無く質問した。
「マシュンゴ中尉は地球教団以上の闇がこの銀河に潜んでいると思う?」
マシュンゴは答えた。
「私には何とも。ですが、ひとは運命には逆らえませんから」
ユリアンとしても、まともな答えを期待していたわけではない。
「そうだよね。ありがとう」
ユリアンは、シュトライトとアイランズを待つことにした。
その様子を見ながらマシュンゴは声に出さず口の中で再度呟いた。
「
番外編その2、こちらもあり得る続編に繋がる話になります。