無敵系中ボスが過去にしがみつく話   作:竜田竜朗

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新章の開始といいますか、数話で完結していくお話を投稿していきます。
第一回は亮と真衣のお話です。


終わった過去、或いは消された運命
いつかの運命の終点


ペンダントに愛菜の魔力が流された。本屋で注文を受けた商品を梱包していた亮は、間髪入れずに「聖移」で飛ぶ。時間を巻き戻す神術のために、極力神術は使わない様にしていたが、これだけは別だ。

新世界の闇の中で育った愛菜が「自分の手に負えない」と判断したからこそ、亮にとって数少ないあの頃の繋がりと言えるペンダントに魔力を流したのだ。

温存だのなんだのと言ってられる場合じゃない。笹塚未菜と約束した「愛菜を普通の人間にする」ためには、愛菜には生きていてもらわなくてはいけないのだから。

 

聖なる神の意志に世界の位置関係が服従し。そして、次に見た光景は──

 

禁術とされる魔術、「デス」は躊躇なく彼女を殺していた。

 

「っ……」

 

状況は一瞬で理解できた。「リベンジャー」とか自称していた、床下の復讐者の最後の一人が愛菜を攻撃したのだ。

ニーナ・ヴァルバットも、二ーノ・ヴァルバットも、隠田轟も全員亮が殺した。たった一人、最後の一人は手段を選ばず、こんな道のド真ん中で愛菜を殺害した。

 

あの術、「デス」は生物のありとあらゆる器官を停止させ、死滅させる術だ。発動条件である黒い球体に触れた生物は死滅する。生き物にしか効果を及ばさない術だが、生き物に触れれば効果は絶大だ。

たとえ魔人が食らっても、死滅した細胞は戻せない。機能を停止し、死んでいることが基準となる細胞を取り込んでも元の細胞には戻せない。まぁつまり。

 

──根本愛菜は二度と戻らない。

 

自分が扱える術だからこそ、その効能はよく知っている。数百年に一度現れるか現れないかの術だから、警戒が甘かった。

 

その後悔ももう、遅かった。

 

「あの、大丈夫ですか?」

 

視界の先に、死んだ愛菜の遺体に声を掛ける者がいる。肩を揺るとか、そういう事をして、しばらくして誰かが救急車を呼んでいた。

そんな光景は視界に入ってはいる。入ってはいるが、無駄だと分かっているから何とも思わない。

 

『主よせっ!やめよ!!』

 

心の中で、狐が叫んでいる。未だに住み着き、良き理解者となった狐が、全力で訴え掛けている。心の中で溢れ出る「想い」を推し留めようと必死に叫ぶ。が。

 

ただまぁ、限界だった。

 

「…………はっ……」

 

そうして、彼の中の何かが決壊した。

 

『くっ……すまぬ……』

 

決壊した想いが、狐を押し流し、飲み込む。

 

「……クッソ!!!」

 

力いっぱいに。足をコンクリートの床に叩き付けた。

力いっぱい。それは文字通りの力いっぱいだ。体内から流れ出る魔力で空気中の魔力とエーテルを食らい、それがまた別の魔力とエーテルを食らう。その速度は光なんか比較にならないほど早い。彼が無敵たる所以の力は、足踏みのためだけに使われる。

 

だから。

 

それだけで、世界は終わる。

 

音なんかない。そんな衝撃が地球を砕く。悲鳴もない。衝撃だけで新世界は崩落した。亮は深海から流れ込む海水に流され──その直後に地球そのものの爆発──超新星だかなんだかに海水も溶けて消えた。

亮とて例外はない。その爆発に晒される。彼の形も消えてなくなる。元々耐えるように現した体じゃない。彼も含め、世界の全てが終わる。新世界も、旧世界も、それで終わる。もう二度と人類が誕生することは無い。地球だった物は僅かな破片を残すだけとなる。

 

そして、無数の星々だけが在る世界に、亮は再生する。まるで何事も無かったかの様に、亮だけが再生する。たった一人の人類──もはや人とも呼べない化物だけが、宇宙空間に現れる。

 

「……」

 

地球が終わっても、彼は死なない。たとえ全人類が滅ぼうと、彼だけは死なない。

 

「(結局……こうなんのか……)」

 

ただ、漂って考えた。後悔はない。もう沢山だった。

 

「(……疲れたよ)」

 

瞳を閉じて、視界を消せば、無数の意識達が自分に語りかけてくる。それは常に聞いていた、数万の人々の想いだ。楽しかった、悲しかった、嬉しかった、悔しかった、羨ましかった、寂しかった、辛かった、痛かった──絶望した。

そんな想いの数々が映像を伴って再生される。無数の意識に、亮の意識が飲まれていく。それに抗いはしない。

ずっと無視してきた想いの数々に、自分の意識を沈めていく。

 

「(なにも……想わなくて良いなら……もう)」

 

なんて、諦めて。その寸前で。

 

 

 

 

 

 

──真衣に会いたい

 

その『想い(呪い)』が溢れ出る。

 

「(真衣……)」

 

彼女への想いが、自我の消失を許さない。あの時誓った想いが根本亮を取り戻す。やがてそれらが数万の人々の想いを押し潰していき──消えた。

 

「……ン?」

 

その違和感に、亮は目を開けた。いつだって、想いを自分の想いで抑えることが出来ても、それらが消えることだけはなかった。いつだって食らった人々は心にいた。なのに、それらが消えた。

 

今、根本亮の心には根本亮しかいない。

 

その理由は直ぐに判明した。

 

 

 

 

 

「亮」

 

名前を呼ばれて。世界が変わる。無数の星々だけだった世界は、ただただ真っ白な世界に様変わりした。元々そこにいたかのように、白だけしかない世界に亮は立っていた。

 

「……ぁ……」

 

息が漏れ出た。それと共に、ここ数千年流れなかった涙が溢れ出る。

 

「……ま……い……」

 

そして、彼がこの世で最も大好きな人。最初の、大切な人の名前を呼ぶ。

 

「うん、久し振り。で、いい?」

 

目の前に立っていた。あの頃と同じく姿で。同じ声で。ずっと、ずっと求めていた人がいる。

 

「っ!!」

 

だから、迷いなく亮は彼女に飛び込んだ。誰にも邪魔されないこの空間で、自分と彼女の声しかないこの空間で、亮は真衣と再会した。

 

「わっ……」

「真衣っ……真衣……会いたかった、会いたかった……!」

 

自分の腹部にしがみついて、背中に手を回して力強く抱き締めて、涙を流しひたすらに言葉を紡ぐ亮の頭を撫でる。

 

「よしよし……」

「やっと……やっと……やっと会えた……!あぁクソ……」

 

上手い言葉なんて一つも出なかった。ただそれでも、自分だけの想いから溢れ出た言葉だけを発する。

 

「伝えたいことがいっぱいあるんだ。すごい沢山あって……俺、頑張ったんだ……!」

「ん」

 

小さく真衣が頷く。

 

「あれから……炎神を倒して、でも誰も居なくて……なのにみんな俺を殺そうとしてきて……だからどうしようもなくて……ずっとずっと……ただみんなと一緒に居たかっただけなのに……」

「ん……」

 

「ずっと!ずっとみんなが俺を否定して来るんだ……ずっと怖かった……でも、それでも立ち止まったらもう取り戻せないから……だからずっとがんばったんだ……」

「ん……」

 

「どんなに怖くても……痛くても……苦しくても……止まっちゃダメだから……だから……お……れは……想いは力になるって……信じてた!!信じてたんだよ!!」

「ん……」

 

「なのに……愛菜を助けられなかった……分かってた!考えが甘いだけだって……前と……真衣の時と変わんない……全部俺が悪かった!」

「ん……」

 

「分かってる……人を殺した、人の想いを踏みにじった俺が悪いんだって。納得はしてる。これは俺に与えられる罰なんだって。神殺しの業が降り注いでるだけなんだって。でも……でも……!」

「ん……」

 

「……でも……もう……耐えられないよ……助けてよ……」

 

抱えていた物全てを神へ吐き出す。懺悔には程遠い、余りにも身勝手な心中。

神に反逆し、神を殺し、人を殺し、人の想いを踏み躙った彼は、罰を受けて当然の身なのだ。だからコレはその罪を負ってもなお救われたいと願う犯罪者に相応しい惨めさ。他人が指さして笑う事だって許されるだろう。

それでも、神は違う。

 

「ん、大丈夫、わかってる。全部知ってるよ」

「ン……」

 

「ずっと見てたし、分かるから。だから、ごめんね」

「……いや、違う……これは、俺の自業自得で……だから真衣が謝ることじゃ!」

「んーん、その気になれば私はずっと亮の側に居て上げられる筈なのに、私は自分のために亮の前には姿を現さなかった」

「っ?」

「私も、ね。救われたいんだ」

「……」

 

亮は真衣の言葉に耳を傾ける。

 

「どんなに運命を弄ろうと、世界を作り直そうと、私と亮は幸せになれないんだ」

「……」

「亮の隣にいても、世界の全てを理解してしまう。これから亮が話す言葉、行動の一つ一つがね。それも全て私の思うまま。それが嫌だったんだ」

「……そっか」

 

何度か試した。確かに亮が救われた運命はあった。しかし、それは神の望む運命ではなかった。

 

「あの頃じゃなくてもいい。私は、亮と一緒に未来を紡ぎたい。私の書いたシナリオ通りじゃなくて、私と亮でシナリオを作りたい。だから、私のわがままが亮を……不幸にしてるの。だから、謝るのは私の方」

「……そっか……そうだったんだ……」

 

噛み締めるように、亮は真衣の告白を受け止める。神の行いなのだから、不思議な事じゃない。

 

「……よかった……真衣が……まだ、俺の事好きでいてくれて……よかった……っ!!」

「ふふっ、そんなの、当たり前だよ。亮の想いは、いつだって伝わってるか」

「よがった……ほんとよあったぁ……嫌われたらどうしようって……」

「ん、よしよーし。ほらなんか昔みたいになっちゃってるよー。またみんなに煽られちゃうよー」

「……あんなバカ野郎どもなんかどうでもいい……言わせとけってやつ……」

「そっか、そうだね」

 

ゆったりとした時間が流れていくのに、大した時間はかからなかった。

 

「そういえば、ずっと気になってたんだけど、死後の世界ってあるのか?」

「ないよ。そういうの欲しい?あんまりオススメしないけど、亮が欲しいなら作るよ?極楽浄土とか輪廻転生とか」

「別にそういうわけじゃないけどさ。もし、死ねるなら、向こうにみんな居るのかなって……その、師匠とか」

「兄さんか……会えるなら私も会いたいけど、ダメなんだ」

「……そっか……まぁ、真衣がそういうならそうなんだろうな。それに、今の俺じゃ合わせる顔もないし……いいけど」

「もし、私を越えるような奇跡が起きたなら、その時は、もしかしたら胸を張って会える時かもね」

「ン、そうなったらいいなぁ」

 

そうやって、ずっと、ずっと会話を続けた。何日も何日も。話したいことなんて沢山あった。沢山あって、多すぎた。永遠に続いてしまいそうなくらい時間をかけて、二人はただ話して──

 

 

そして、それも終わる。

 

「……だからさ、また、やり直すんだ。私は」

 

真衣が、亮と向き合って告げる。

 

「私はワガママだから。だから、私の都合で、私はまた亮を地獄に落とす。許してなんて言わないけど」

「いいよ。許すよ。ていうか、俺が真衣を許さないなんて、ない」

「本当に、ごめんね」

「いいよ、俺が撒いた種なんだから」

 

亮もそれを受け入れる。

 

「ありがとう。じゃあ……」

「ン」

 

白の空間で、真衣がゆっくりと手を挙げた。

 

 

神の意思に世界が従う。世界が辿った運命は一度消される。

そうして世界は、作り直され、再生する。

 

神が望む未来を掴むため。そのために、何度も何度も世界は作り直される。

全ては二人に取って理想的な世界になるまで。

また一つ、新しい運命が始まるのだ。

 

いつか、救われると信じて。




復讐編の第一話になる予定だったお話。初期構成で由紀は存在せず。八代も出てこぬまま、愛菜は学校行ってませんでしたが、これも神によって消された運命の一つという事で。
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