スネイプは机の上に
釜は四つある。
一つはルーナ、もう二つはあの双子、あと一つは自分用だ。
授業ではスネイプはみずから調合をすることはあまりない。生徒がなにかを爆発させないように監視するので精一杯だからだ。だが数人のそれなりに優秀な生徒だけが相手なら、安全だろうと彼は判断した。あの人狼用の調合に随分手間をとらされて、自分自身の作業がいくつか滞っているのだ。ルーピンを教師にするなどいまだにとんでもない考えだと思うが、ダンブルドアはいつもどおり頑固で、一度こうと決めたら頑としてゆずらない。
ラブグッドという少女がみせた将来性はこの薬学教授にとって新鮮だった。あのレベルの才能のある生徒にであうのは何年ぶりだろうか。それだけでなく、あろうことかウィーズリーのあの双子に隠れた薬学の才能があることもわかったのは、奇妙とはいえ不愉快ではない驚きだった。
総合的に見て、おもしろい一週間だった。
そろそろ子どもたち三人がここに着いてもおかしくない。
スネイプはこのクラブを木曜日の夕方に設定した。三人も彼も空いている時間であり、数時間席をはずしても同僚や同級生に呼びだされる可能性は低い。双子の最後の授業は一階で、ルーナは四階だ。だから少年二人がさきに着いた。
「じゃあ先生、はじめるまえにちょっと話がある」とジョージが言いだした。
スネイプは片眉を上げた。やけに挑戦的だ。
「何について?」
フレッドがすばやく自分の番をとりついでこう言った。
「この件が持ちあがってから二人でずっと考えていたんだ。いくつか質問がある」
「このクラブを作ることについてのあんたの動機を知りたい」とジョージが説明した。
「自分の受け持ち科目で有望な生徒の芽をのばしたい、ということ以外にか?」
言うまでもないと思っていたが。
「有望な生徒はたくさんいる」とフレッドが指摘する。
「けれどクラブを作るのはこれがはじめてだな。なぜおれたちを? なぜルーナを? どうみても生徒全員を憎んでいるあんたが、なぜおれたちの芽をのばそうとしたりする?」
セブルスは一連の質問をしばらく検討して、首を振った。
「わたしは生徒を憎んではいない」と彼は正直に言う。
「生徒を憎んだことは一度もない」
「おれたちは憎んでいるだろう」とフレッドは自分とジョージを指した。ジョージも同意してうなづいた。
「いつも分かりやすく憎んでいる」
「わたしの授業をいつも聞こうとせず、寄り道や内職をされるのは腹が立つ。だからといって憎んでいるわけではない」
「おれたちを去年、ほとんど不合格にしかけたじゃないか」とフレッドが防御的に指摘した。
スネイプはこれを鼻で笑った。
「ほとんど不合格にしかけただと? 作るべきだったのと違うポーションを提出しながら合格した生徒はおまえたち以外にない。あのポーションのできのよさを考慮して採点しようとしてやったことだけでも、十分な理由になるはずだ。もし憎んでいたのなら、何の問題もなくその場で不合格にできていた」
「あ」
二人は思いかえして、自分たちが開業しようとしているジョークショップのためのくすぐりのポーションを作る手順を試験の最中に考えはじめ、本来解熱薬を作っているべきところなのにそのポーションの試作品を調合しはじめたのを思いだした。いま思えば、あれをスネイプに提出すべきではなかった。
スネイプはそれを返却し、合格の点をつけ、改善提案までつけた。二人は次の調合でそれを採用した。
「たしかに」と二人はやっと譲歩した。
「あれはまあ、助かったよ」
二人はしばらく静かになったが、ジョージがなにかひらめいた。
「あんたはハーマイオニーを憎んでいる。ハーマイオニーは挙手してもいつも無視されると言ってるぜ」
スネイプはあきれて目をまわした。
「彼女はほとんど手を下げることがない。他の生徒にも学ぶ機会が必要だ。ミス・グレンジャーばかりが授業に参加していてはそれができない」
双子はまた静かになり、しぶしぶその説明を受けいれながらも、スネイプが憎んでいると証明できる生徒を探して頭をしぼった。
「ハリーは?」
「ポッター? わたしはあの父親が憎いし、本人も好かない」とスネイプは認めた。
「だがポッター本人を憎んではいない。この学校の他の教師とおなじ程度には面倒を見てやっている」
またしばらく沈黙。これは二人が思っていたより難しい。
「よし、これだ! ネビル。あんたはネビルを心底憎んでいる。そうだろ」とジョージが宣言した。
「あんたがネビルを憎んでいることは学校の全員が知っている」とフレッドがうなづいた。二人とも、これで自分たちの主張を証明できたという自信をみせていた。
この会話がはじまって以来はじめてスネイプは笑みをうかべた。
「ロングボトムには最初はいらいらさせられたが、最近になって気がかわった。あれの真の価値がわかってきた」
二人は薬学教授の表情を信用していいのかどうかわからず、おたがいを見あった。
「真の価値?」
「そうだ」とスネイプは宣言し、笑みを顔にひろげた。他の人物であれば自然だっただろうが、彼の場合は気味のわるいほど不似合いだった。
「彼のおかげでわたしは金持ちになれる」
また不安そうな視線が二人のあいだでかわされた。
「どうやって?」
「彼にヒントを得て本を書いている。かなり売れると思う」
「どんな本を?」とフレッドが質問したが、ほんとうに答えを知りたいという自信はなかった。
「一見無害なポーションを武器に変える百一とおりの方法。いまのところ四十三番までできた」
室内がしばらく静まり、その静寂に二人は動揺した。いまのはなんだ……? 地下洞のコウモリたるセブルス・スネイプが……まさか冗談を? それとも本気で? 本気のはずがあるか?
どちらにしてもおもしろい。
二人の表情がゆっくりと笑顔になり、すぐに笑いに変わり、一瞬で腹をかかえて笑いだした。スネイプはそれよりはるかに抑制がきいていたがそれでも自分なりの、自然でくつろいだ笑顔にならざるをえなかった。
「あのさ」とジョージが落ちついてから含み笑いをして言った。
「あんたとは気があいそうだ」
「うん」とフレッドが同意した。
「こういう面があるってわかってよかった。このクラブはおもしろくなりそうだ」
「わたしのことを、実はいいやつだったと吹聴しないでいてくれればな」とスネイプは半分冗談で警告した。
ジョージは鼻で笑った。
「したところで、だれも信じないよ」
……
そのあとの授業でスネイプは、ライム色の頭痛薬をつくるはずのところで、ネビルがカラスの爪とピンクっぽいにちゃついた物質を
毒毒しい煙が部屋に充満すると、困惑した薬学教授はローブのそでで鼻をおおって刺激臭のあるその気体を吸わないよう注意しながら、ほかの生徒を先導してすばやく退避させた。煙がおさまりパニックが落ちつくと、スネイプはネビルの使った手順をメモ帳にすばやく書きとめ、上機嫌になった。
これで四十四。
「上物だ」