「ああ、もう何てひどい味だ」と顔をゆがめてポーションの最後の一口を飲むルーピンが、
「それはもう聞いたぞ」と薬学教授があざ笑った。
「ほんとうにこの味はどうにもならないのか?」と希望をこめてというよりは習慣で、人狼がたずねる。
スネイプは返事をしようとすらせずただ向きをかえ、その場を離れた。
月ごとのこの苦情に辟易して、スネイプはこのポーションの味を改良する方策を少なくとも検討しようと決心した。そのためのアイデアを準備していると、あの双子がやってきた。通称〈秘密の薬学クラブ〉のためだ。
「何の作業をしておいでで?」と二人はためらいもせず、机をまわりこんでスネイプの肩越しにメモをのぞきこんだ。この気楽な態度を自分がさほど嫌がっていないことにスネイプはおどろいた。ここにいることを楽しんでいるらしい生徒というのは新鮮だ。
メモそのものはただの材料のリストと準備方法の概要にすぎない。
「あ」とジョージが大声をだして一枚を手にとり、読みとった。
「
二人が羊皮紙のうえの情報からこのポーションを同定したらしいことにおどろき、スネイプの両目が見ひらかれた。そして、同僚の秘密をまもるべきである以上この紙片を隠さなければ、という衝動にあらがった。スネイプがなぜ自分がウルフスベインを調べているかという言い訳をでっちあげようとしていると、もう片方の少年がさらに彼をおどろかせた。
「ってことはルーピン先生のための?」
少年はスネイプのインク入れのよこにあった飾りつきの羽ペンを手にとってもてあそびながら、この質問をなにげなく投げかけた。
スネイプのほうは凍りついた。
「どうやって?」と言ってから引きさがって
「いや……その……」
「だいじょうぶさ、先生。そのことはしばらくまえから知ってるんだ」とフレッドが笑みをうかべて保証した。
「ルーピン先生がダンブルドアに話しているのを今年の最初に立ち聞きしてね」とジョージが同意し、「〈延長耳〉が多少かかわったりしたかもしれない」とにやりとしながら認めた。
「で、なにをしようとしてんの?」とフレッドが質問した。
何人かの生徒がルーピンの人狼症のことを知っていて、それに動じていないということを薬学教授が受けいれようとしはじめていたとき、ルーナが到着した。この少女も知っているとルーピンがすこしまえに言っていた。そこでスネイプはこの状況を活用することにした。
「座りたまえ、ミス・ラブグッド」スネイプは二人の少年にもそうするようジェスチャーし、三人とも机の前面に椅子をならべて座った。
「ここにいる全員がルーピン先生の症状のことを知っている。そこで一緒にブレインストーミングをしてみたい」
彼はいらだちから鼻筋をつまんでこう言った。
「恩知らずな苦情がいつまでも鳴りやまないので、わたしはウルフスベインの口当たりをましにする方法をさがそうとしている」
この発言にふくまれた数々の皮肉を無視して、ルーナは笑みをうかべた。
「先生、わりとやさしい」
スネイプはあきれて目をまわしたが、向きを変えてルーナから見られないようにしておいた。
「はっきりさせておくが、これはあいつを黙らせるためであって親切ではない」
少女はそれでも笑みをうかべつづけ、スネイプはこの件は終わらせることにした。立ちあがって、全員がチェックできるよう、材料と方法を黒板に書く。
「まず思いついたのはタンポポをくわえることだが……そうするとポーションの効果が弱まり、いくつかの材料を有毒にしてしまうおそれがある」
彼はこれを黒板に書いてとなりに「×」をつけ、つづけた。
「つぎに刺激臭の原因であるシーダーマンをとりのぞくことも考えたが、おなじ効力のある代用物はないし、これはコルロットを安定させる役目もはたしている」
彼がいくつかの案を話すあいだ、子どもたちは無言で見ていた。ブレインストーミングというより独り言をしながら考えているようなものだ。そもそもこのポーションは彼らのレベルを若干超えている。
ジョージが自分の席で、材料のリストをみつめながら、なにか考えるようにすこし首をかしげた。
「舌を麻痺させるポーションを事前に飲ませてなにも味が感じられないようにして、麻痺ポーションのハロウ草の凝固効果をおさえるためにウルフスベインにいれるカボチャをミルルートに置き換えて、ミルルートの酸味をうちけすためにメセイタルの粉末をくわえるのはどう?」
ほかの三人がおどろいてそちらを見た。フレッドすら自分の弟をはじめて見るかのように凝視した。
「なに?」とジョージが防御的に聞いた。
「わが弟よ」とフレッドが厳粛そうに言う。
「なにを言ってるのかさっぱり分からん」
「わたしは分かる」とスネイプが割りこみながらすばやく書きとめる。
「これなら……うまくいきそうだ。なぜ思いつかなかったのだろう?」
フレッドは呆然として弟にむけて目をしばたたかせた。
「どうやってこんなことを知った?」
ジョージは肩をすくめた。
「二人で罰則をうけて薬学教室の材料庫を掃除させられたとき、ポーションの材料と相互作用の基本的性質っていう本を見つけただろ?」
「おれは意味不明ないろんな数や単語が書かれていたのしか覚えてない」と言ってフレッドは驚嘆したように首を振った。
おどろいてジョージを見つめながら、
「あの本はどこにいったのかと思っていた」とスネイプがつぶやいた。
「あれは発展的な教科書だ。読んだのか?」
「うん」
「理解できたか?」
「うん。おもしろかった」
「ワオ」とフレッドが賞賛の口笛を吹いた。
「すごいじゃん」
「おまえは昔から
「おれは
「わたしも感心した」とスネイプが本心から言う。
「ついては……」とその可能性を検討しながらしばし無言になる。
「ミスター・ウィーズリーの現時点での理解度をチェックさせてもらいたい。ことによっては
ジョージはショックをうけて叫んだ。
「ニューツ? でもおれまだ五年生だぜ」
「だから現時点での知識をチェックしておきたいと言っている」とスネイプが言う。
「まだ受験にふさわしくないかもしれないが、もしあの本が読めてさきほどのような提案ができる程度に理解できているのなら、ふさわしいかもしれない」
ルーナが喜んだ。
「ニューツを飛び級で受けられるって」と歓声をあげる。
「レイブンクローでは最高の栄誉だよ」
「グリフィンドールでは正反対」とジョージが首をふりながら鼻で笑った。
「特に
スネイプは軽くためいきをついて失望を隠そうとした。有能な生徒がみずからの能力を活用しようとしないのは、いつみても残念なことだ。
「つまり受験したくないと?」
その男の顔にあらわれた感情をジョージはながめ、真剣に傷ついた様子なのにおどろいた。
「ああもう、やってみるよ」
フレッドはジョージの肩をたたいて支持した。
「すげえ。これをママが聞いたらどんな顔をするか楽しみだ」
ジョージは笑った。
「いたずらだと思うだろうな」
「ああ、でも今回ばかりは本当だ。ポーションの天才、ジョージ・ウィーズリー」
スネイプはこの表現を鼻で笑ったが反論しようとはしなかった。あれはたしかにかなり難しい教科書なのだから。最近の生徒たちにはおどろかされてばかりだ。
……
「これを飲め」とスネイプが要求し、小瓶を人狼の両手に押しやった。華奢な指先にはいつものウルフスベインの
「これは何だい?」とリーマスが不安げにきく。
不信感をあらわにしたその視線にあきれてスネイプは目をまわし、
「これはとても強力な毒薬で、飲んだ者は虹の七色に変色してから死ぬ」と皮肉で返事した。(奇妙なことに、彼はちょうどそういう効果のあるポーションの作りかたをネビルのおかげで発見していて、それは著書の十七番におさめてあった)
リーマスはまるで実際に毒薬がわたされてきたのではないかというように小瓶をながめつづけたが、スネイプがついに忍耐をきらしてこう言った。
「ウルフスベインをましにする薬だ」
そもそも自分はなぜこんなことをしようとしたのだろう?
ルーピンは最後にもう一瞥だけ不安げな視線を送ってから彼を信頼する決心をしたらしく、肩をすくめてそのポーションを飲みこんだ。
「うう、これはな゛んな゛んら?」とルーピンは眉をひそめて、困惑して自分の舌をつつきながら言った。
スネイプはウルフスベインの杯をルーピンに押しつけ、飲めという意図が伝わるまで待った。ルーピンはいそいでそれを飲み本能的に顔をしかめたが、すぐにおどろいてその表情をやめ、まるでその強力な薬を味わおうとするかのように唇をかたく閉めた。茶色の瞳がおどろきに見ひらかれて、スネイプをとらえた。
「この麻痺ポーションの効果は数分できれる」と言ってスネイプは杯をとりあげ、去ろうとして向きをかえたが、二歩すすんだところで恐怖を感じて立ちすくんだ。敵襲だろうかと一瞬考えてから反撃しようとすると、重いなにかが背中を打ち、腕が二本、彼の腕にまきつけられた。数秒後、彼は戦慄とともに、自分がハグされたことに気づいた。
「ゼブウズ、あひがどう」とルーピンがなれなれしく言った。
「ルーピン」とスネイプは子どもにさとすようにゆっくりと言った。
「な゛に?」
「離せ」