スネイプは自席で茶をすすった。やけに甘かったが、作業に熱中していたので深くは考えなかった。
彼と彼のクラブは、いままで考えたこともなかったようなタンダリン・ポーションの画期的な改変版をもうすぐ作れそうなのだ。発想力のある新入りがこの科目に興味をもってくれるというのは、とても価値があることのようだ。スネイプは共有の釜をのぞきこみ、混合物がただしく濁っていくのを確認した。つぎは第三段階だ。
「よーし♪つぎーはー♪イモリだー♪」
自分の口から流れでた音楽的な声を聞き、薬学教授は恐怖に凍りついた。
非難をあらわにし、双子をするどくにらみつける。取り引きをしたはずではないか!
しかし二人は純粋にショックをうけた表情で、目を見開き、手をわずかに挙げて懇願した。
「おれたちじゃないぜ先生」
「本当だって」
なぜかスネイプはこれを信じる気になった。二人の頭のなかはあのジョーク・ショップのことでいっぱいだ。唯一の資金提供者をはやくも怒らせてしまうようなリスクはとらないだろう。ほかの可能性がなかったので、にらみつける視線は質問するような視線へとやわらぎながら、残り一名の方向にゆっくりと向けられた。
ルーナは純粋無垢な表情でスネイプを見返した。
「ごめんなさい、ただ……すごく素敵な声だから。やってみないのがもったいなくて」
名誉のために言っておくと二人は崩れ落ちながらも少なくとも手を口にあてて、笑いだすのを我慢しようとはした。
スネイプは二人にむけてほんの一瞬だけ目をまわしてみせた。
意識はほぼ完全に目のまえの女の子へと集中させながら。頭がぐるぐるとまわる……。もしこれがほかのだれかなら……だれかなら……だが……
スネイプの頭のなかの反抗的な部分がつい、こう考える。何の害がある?
ここにはこの四人しかいないし、スネイプはこの生徒たちには、この数年どんな相手にもなかったほど気を許している。
効果が切れるまで沈黙することもできる。だがこのポーションはとてもおもしろいし、ぜひ完成させたい。もちろん指示を書きだして三人に完成させてもらうこともできるが……。気にするのも不本意だが……だれかに自分のことを褒められたのはいつ以来だろうか?
つまり、自分は次の一時間ほど、若干ばかばかしい姿を晒すことになる……しかしこの人生でもっとつらい経験はしてきたし、世界中でこの三人ほど自分をばかにしたりしなさそうな人はいないだろうという気がなぜかする。
大きく息を吸って気を落ちつけて、スネイプは決心した。
「くそったれ」と言いながらイモリを手につかんで、それをすばやく混合物に追加した。
「さー♪みぎー♪まわしにー♪かきまぜろ!」
ルーナはほほえみ、双子は勝利の歓声をあげたが、セブルス・スネイプは表面上何の反応もしなかった。ただ、心のうちに生まれた奇妙な温かさは、歌声のポーションの効果が切れてからも長く残った。