北斗の拳メロン味 ~ただし人工着色料で緑色なだけでメロン果汁は入っておりません~   作:far

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一発ネタの予定、だった。


物語を開始します。よろしいですか?

 気付けば、そこは荒野だった。

 風は強く、乾燥していた。さえぎるものが無い日差しは、さほど強くは無いのに眩しく、暑い。

 遠くに見える山には、緑があった。川くらいはあるのかもしれない。

 

 さて。ここで、問題です。

 

 自分が誰であるのか、わかりません。

 ここがどこなのかも、わかりません。

 

 だが。とりあえずは、どうでもいい。

 別に今すぐわからねば、死ぬというわけでもない。だから、とりあえず今は置いておく。

 

 問題なのは、だ。

 今、またがっているバイクの運転の仕方がわからないことだ。

 

 種類はわからないが、おそらくは大型バイクではなかろうか。

 一度上に曲がってから、折り返しているハンドル。その位置は妙に高い。

 フレームが太く、全体的に無骨な印象を受ける。

 何となくではあるが、アメリカンなバイクではなかろうか。

 

 取り合えず、キーは刺さっている。

 だがバイクのエンジンとは、どうやってかけるものなのだろうか。

 

 目的地である山は、遠い。そこまでの距離は、途中に基準になるものが何も無いのでわかりにくい。だが徒歩で行くのは、確実にしんどそうだ。

 

 そういうわけで、あれこれといじってみたのだが、これがまあ動かない。

 ガソリンが入っていないのかとも思ったが、キーをひねった結果、メーターが動いたので入っているはず。

 

 このキーをひねった状態で、何かをすればいいのだとは思うが。

 さて。どうすればいいんだろう。

 スイッチを押してみたが、クラクションだったり、反応が無かったりするし。

 

 ええい、全部押しだ! 左右のレバーとテキトーなスイッチたちをオン!

 

 ドウン!!

「おわっ!」

 

 かかった。急に反応がきたので、ビックリした。

 よし。これで…… アクセルは、ハンドルをひねればいいんだっけ?

 

 そう思ったところで。目の前に、四角い何かと文字が浮かび上がった。

 

「ハ?」

 

P:10 バイク取り扱い:1を習得しますか?(Y/N)

 

「ハァ?」

 

 誰かの仕掛けかと周りを見回したが、誰もいない。

 それどころか、ウィンドウと文字が追いかけてきて、視界の中央にあり続けるんですけども。

 なんだ、これは。どうすればいいのだ。

 

 本気でどうすれば正解なのかわからないので、無いはずの記憶を引っかくと、言葉を思い出した。

 

 泣くよか ひっ飛べ

 

 言葉の意味はよく分からないが、とにかくやってやれってことは分かった。

 実際に、今一番欲しいスキルではあるからな。

 

「Y!」

 

 

 ………………………………

 

 

 勢いを込めて言ってみたが、何も起きなかった。

 どうやら、音声入力式ではないらしい。

 いや、待てよ。

 

「イエス! はい! 習得します!」

 

 

 ………………………………

 

 

 

 やはり、何も起きなかった。言葉が違うと言うわけでもなかったようだ。

 ならばタッチパネル式かと、Yの部分を通り抜けるように指を動かすと、表示が変わった。

 

P:10→9 バイク取り扱い:1を習得します。本当によろしいですか?(Y/N)

 

 Pというのは、ポイントか?

 そう思いつつ、再びYの部分に指を通す。

 

「イタッ」

 

 ツキン、と頭が痛んだ。刺すように鋭いが、一瞬だけであとを引かない、そんな痛みだった。

 

バイク取り扱い:1を習得しました

 

 そう表示すると、ウィンドウは消えた。

 

「…………」

 

 確かに、バイクの運転方法が分かる。知っている。

 その自分の持つ知識のままに、クラッチを切ってアクセルを吹かし、半クラッチにして前へと進む。

 再びクラッチを切ってシフトアップ。

 踏み固めさえされていない、道無き荒野を、抑え目の速度で走る。

 

 心地よい走りだ。だが気持ちが悪い。

 ほんのついさっきまで、知りもしなかったはずの知識が頭の中にある。

 たぶん、道具さえあれば、整備もできるだろう。

 

 なんなんだこれは。

 俺は誰なんだ。ここはどこなんだ。それで、何が起きているんだ。

 あのウィンドウはなんだ。ポイントって何のポイントなんだ。これからどうすればいいんだ。

 ぐるぐるぐるぐると、疑問が頭の中を回る。

 考えても答えの出ないそれらが、同じ所を回り続ける。

 

「ひとまずは、水。それとメシ。それから……」

 

 それから、何だろう。カネ?

 生きるのに必要なのは、食う寝るところに住むところ。

 どんな状況だろうと、とりあえず生きられるだけ、生きないと。

 誰だって、死ぬのはゴメンだ。そうだろう?

 

 何も分からない不安を吹き飛ばすために、叫んだ。

 

「俺は生きるぜ! ヒャッハーー!!

 

 うん? ヒャッハー?

 なぜか今の叫びは、勝手に出てきたんですけども。

 やっぱり、俺の頭っていじられてる?

 

 そう不安に思って、頭に手をやると、そこに毛は無かった。

 

「えっ」

 

 バイクを止めて、両手で頭を探る。

 毛はあった。一部だけあった。

 前後を貫く、中央部だけ残されたその髪形は。アメリカ先住民族の一部族の名前を取って、モヒカンと呼ばれるものだった。

 

 ハゲではなかったが。ハゲのほうがマシだったのかもしれない。

 

 

 

 そして、次の日。

 

 

 

 俺の残りポイントは、2にまで減っていた。

 そして旅の連れが出来て、バイクはサイドカー付きのものに代わり、俺は拳法使いになってしまった。

 それと、人を一人、殺したな。

 

 順に、説明しよう。

 

 山を目指す途中で、俺の同類。つまりはモヒカン族にからまれた。

 やつらを見かけて、同族かな? とバイクを止めたのが悪かった。

 どうやら奴らにとっては、同じモヒカンでも、チームが違えばエモノであるらしい。

 

 無論、逃げた。しかし奴らもモヒカン。俺と同じくバイク持ちがいた。

 しかも俺よりも腕が良かったのか、バイクが良かったのか。段々と追いついてきた。

 「ヒャッハー」の声が聞こえるまでに追い詰められ、どうすればいいのか、必死に考えていた時だ。

 

 モヒカンとは、一味違う姿をした男が歩いていた。

 

 一瞬で、様々な考えが浮かぶ。

 

 見た目からして、モヒカンの仲間じゃないな。よし。ヤツがエサになっている間に逃げられるかも。いや、ヤツは歩きだ。まずこちらを優先して、ヤツの事は後回しにする可能性も。待て。ヤツも肩パットは付けている。戦闘力はあるだろう。それなら。

 

「そこのアンタ! 乗れ! 襲われるぞ!」

 

 バイクを急停止して、ジーンズの上下を着たその男に、そう呼びかけた。

 男は意外そうな顔をした。俺もモヒカンなので、後ろから追いかけてくる奴らの先駆けだとでも思っていたのかもしれない。

 

「いいから! 逃げるぞ! 急げ!!」

 

 急かす俺をよそに、その男はバキリ、ボキリと拳を鳴らすと、低い声で言った。

 

「必要ない」

 

 結果から言えば、確かに必要は無かった。

 しかし当時の俺は、焦っていた。とにかく逃げねばと、それだけしか頭に無かった。

 その男の声にも姿にも、気付いていなかったのだ。

 

「ひゃっはー!! 追いついたぜー!」

「手こずらせてくれやがってよー!」

「汚物は消毒だー!」

「ちみゃ!」

 

 俺の視点での話だが。男がもたもたしている間に、モヒカンらに追いつかれてしまった。

 イヤな予感しかしなかった。

 なにせ、わけもわからず荒野に放り出されていて、わけのわからないシステムに頭をイジられて。

 そこへ持ってきて、どう見ても穏やかじゃないモヒカンの集団に襲われているのだ。

 これで奴らが、実は善意の集団で町への道案内をしてくれようとしていたら、シュールすぎる。

 

 だが可能性はいつだって残されている。ワンチャンかけてみるか。

 

「はじめまして。何の御用ですか?」

 

 先ほど話しかけたときは、俺のバイクを見て「いいモン持ってんじゃねえかよー」と言いながら、鉄パイプなどを持って近付いて来たので逃げ出したのだが。

 ひょっとしたならば、単に「いいバイクですね」という世間話であったのかもしれない。

 

 まあ、そんな希望は存在しなかったのですが。

 

「ご用だあ? お高く留まってんじゃねえ! 決まってんだろ! 持ってるモン、全部出しな!」

「命だけは助けてやるぜー! 身包みはいで、この荒野で生きられるかどうか、チャレンジだー!」

「ヒャッハー!」

「たわばっ!」

 

 山賊だ。野盗だ。

 現代社会では、まず見かけない―――いや、そうでもないか。一昔前は、オヤジ狩りなんぞがあったことだ。

 しかしそれでも、珍しいことには違いない。

 

 ところで、一人さっきから叫びがオカしいヤツがいる件について。

 

 俺がそんな具合に、混乱していると。今まで黙っていた男が、動き出した。

 ゆっくりとモヒカンたちに向かって歩き、俺の前に出ると人差し指を立てて、奴らをスッと指差した。

 

「お前たちに、明日を生きる資格は無い」

 

「なんだと、コノヤロウ!」

「お前ら!トリプラーをしかけろ!」

「ヒャッハー! ジェットストリームアタックじゃねぇとこがマニアックだぜー!」

「ヒャッハー! だがそれがいい!」

「ヒャッハー! いやお前もやれよ」

 

 チンピラは、基本的に挑発に弱い。

 馬鹿にされた。逆らった。笑われた。そう感じたら、即反応して殴りかかる。

 そこに思考は挟まれない。ただの反射で、習性みたいなものだ。

 

 そんな習性を抱えて生き残るために、必要な能力がある。

 相手の強さを悟るセンサーだ。もしくは、野生のカン。あるいは、なんかヤベーレーダー。

 なんでもいいが。とにかく、ケンカを売ったらいけない相手を見分ける能力だ。

 

 平和ボケした生活をしていた俺に、そんなものはない。

 そして、奴らにも無かった。

 

 飛び掛ってきたモヒカンたち4人は、パンチ以外はむしろゆったりとした動きに見える男を捕らえられず、全てカウンターを入れられて吹き飛ばされた。

 

「やってくれたな!」

 

 一人、そうやって立ち上がってきたモヒカンを、男はつまらないものを見る目で見た。

 

「お前はもう 死んでいる」

 

「はぁん? 何を言って……てててててててててみょん!!」

「アベシ!」「ウワラバ!」「お師さん……もう一度ぬくもりを…」

 

 男の言葉が引き金だったかのように、モヒカンたちが次々と爆ぜていく。正直、グロい。

 だがやはり一人、セリフがオカしいのが気になって、イマイチ吐き気が深刻にならない。

 

「う、うわぁぁぁーー!」

 

 一人、飛び掛ってこなかったモヒカンが悲鳴を上げて逃げ出した。

 遅すぎはしたが、正しい判断だと思う。

 

 しかし、たった今4人を殺してのけた男が俺の方を見ながら、その逃げ出したモヒカンに向けてアゴをクイッとやった。

 

「えっ?」

 

 もしかして、俺に殺れと?

 そういう意味で、聞き返すと、男は一言だけこう言った。

 

「みかん!」

 

 独特すぎてわかんねえよ

 

 しかし殺らねば、俺が殺られるかもしれない。

 覚悟を決めて、バイクにまたがる。向こうはとっさのことだったせいか、走って逃げている。

 このままバイクで追いかけ、そのまま轢き逃げアタックといこうか。

 

 実際、そうした。

 するとまたウィンドウと文字が目の前に現れた。

 

P:9→10 バイク取り扱い:1をバイク取り扱い:2にしますか?(Y/N)

 

 ハッ。モンスターをフィールドで倒して、レベルアップか?

 まさかここは、なんかのゲームの中とでも言うのだろうか?

 だとしたら、少しバグ残ってるぞ。さっきのモヒカンといい、ケンシロウもどきといい。何だよ、みかんて。

 

 ああ、ケンシロウだよ。あの両肩から先が破れたツナギっぽい格好といい、濃い顔立ちに太い眉。肩パットに、何よりもあのセリフと、北斗神拳。

 でも何か違うんだよな。俺に、逃げたザコの始末を押し付けたりさ。

 本当に、ここはどこで、何がどうなっているんだ。このウィンドウとかも、何なんだよ。

 

 だが、まあいい。今は生き残るのが最優先だ。使えるものは、使わせてもらおう。

 Yに指を通して、2に上げる。

 

P:10→8 バイク取り扱い:2を習得します。本当によろしいですか?(Y/N)

 

 2に上げるには、2ポイントかかるらしい。今のところはまだいいが、後々ポイントは足らなくなっていくだろう。

 

 課金要素だな。

 

 ガチャでない分、有情か。

 いや、きっとスキルガチャとかがあるに違いない。運営なんて、きっとそんなもんだ。

 北斗とか南斗とかの流派は、1%の確率でないと出ないとか、今だけそれが3%とか5%! という売り文句での限定ガチャとかやるに決まっている。

 回すけどな! なんせ、今なら生身で天翔百裂拳とか、飛翔白麗とかやれるんだ。そりゃあ回すだろう。

 

 そう思っていた時期が、私にもありました。

 

P:6→2 北斗神拳:2を習得します。本当によろしいですか?(Y/N)

 

 今、俺の目の前にそんな表示があるわけで。Yっと。

 

北斗神拳:2を習得しました

 

 モヒカンを仕留めてバイクの取り扱いを2にした後、俺はケンシロウもどきのところへ戻った。

 無視して逃げるのが怖かったのと、他に行く当てが無かったからだ。

 そしてバイクの取り扱いに目を付けられた俺は、彼の足として、旅のお供にさせられてしまったというわけだ。

 

 ケンシロウもどきは、意外と俺に親切だった。

 固い地面で寝て、身体が痛いという俺に、ちょっとしたツボを教えてくれたのだ。

 一時的に痛みを抑えるツボと、肩コリに効くツボ。ついでだと、急な腹痛に効くツボも教えてくれた。

 すると、北斗神拳を習得しますか? というウィンドウが出た。もちろん、習得した。

 すると、教えてもらったのとは他のツボの知識を得られた。もちろん、全て押してみた。

 すると、2にしますか? というウィンドウが出て、先ほど北斗神拳:2を習得した。というわけだ。

 

 ただ、さすがに北斗神拳は特別だったのか、かかるスキルポイントがバイク取り扱いの二倍だった。

 バイクは1+2の3ポイントですんだのだが、北斗神拳は2+4の6ポイント。

 最初の手持ちが10ポイントで、モヒカン一体を倒して1ポイントプラスの、11ポイントだったから、残りはもう2ポイントしかない。

 

 しかし戦闘用のスキルが一切無いのに、北斗の拳の世紀末であるらしいと判明した、この荒野を行くのは怖すぎる。

 そこへ振って沸いた、北斗神拳だ。そりゃ、手に入れようとするだろう?

 その拳、どこで教わった。とか関係者の人に出会ったら、問い詰められそうではあるが。

 確か、海を渡った四国だか九州だかの修羅の国では、北斗流星拳だか北斗劉家拳だかがメジャーだったはず。そっちから来た人に、基礎だけ教わったと言えばいいだろう。

 

 というか、ケンシロウもどきにそう言おう。

 

「そういえば、昔似たようなことを教わったことがある。海の向こうから来たって人から教わってたんだが、そのうちどこかへふらっと行っちまったんだよな」

 

 さて、このウソは通じるかどうか。

 このゲームのような世界は、本当に何なのか。

 俺は誰で、何かやるべき事などはあるんだろうか。

 

 そしてこの話は、続くのだろうか。

 

 その全ては、まだまだ先のことだ。

 

 

 




感想で次回作を、というのが多かったので模索してみましたが。
この方向はどうなんだろう。

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