夏休みも終わり新学期が始まったホグワーツには、賑やかな生徒達の声が戻っていた。ひさひざに見た半透明の幽霊や、気分屋の階段、…そして当たり前のように杖を向けあい早速衝突しているポッターとセブルス。
もう何もかもがなんかすごく懐かしく感じた。
今だったら、面倒ごとに巻き込まれても上手くかわせそうな気がする。
何てさっき思っていたからだろう。私は早速面倒ごとに巻き込まれてしまった。
ピーブズだ。あの腹の立つやつ。
寮で少しウトウトしていたら、授業始まるまでもうあと少ししかないのだ。
「スリザリンの変わり者、お前が浮いている理由教えてあげようか〜」
「邪魔。どいて」
私が通ろうとすると、ピーブズが遮るようにフワーと目の前に降りてくる。
「そんなこと言っていいのかなぁ〜ここ通してあげないよぉ〜」
「お前なんかに構っている時間はないの。」
私は、ピーブズの体を通り抜け、凍るような冷気に耐えながら、廊下を歩いた。
しつこいピーブズは、ついてきて、隣で私を馬鹿にしてくる。
「純血なのにスリザリンで浮いてるお前は〜みんなの嫌われ者〜」
「お互い様ね。貴方も幽霊の中で断トツに嫌われているじゃない。後そろそろいい加減にしないと、血みどろ男爵に言いつけるわよ」
「そんな脅しは効かないよぉ〜出来るもんならやってごらん」
舌を出しながら言ってくるピーブズを見て、我慢できなくなった私は、教科書で思いっきりピーブズを叩いた。勿論当たることはなかったのだが、驚いたピーブズは、体を止まらせた。
「私に構うな。」
自分でも思っていた以上に頭にきていたらしく、低い声が廊下に響き渡った。ピーブズは、きっと私と声の低い血みどろ男爵と重なったのだろう。急に逃げるように私に背を向け壁の中に消えていった。
教室に着いた頃にはもうとっくに、魔法薬の授業は始まっていた。
唯一の救いは、生徒が調合に集中していてそんなに目立たなかったことだ。スラグホーンに謝りながら、ピーブズに絡まれていたと言って、席に戻り、調合を始めた。
何故こんなに、魔法薬の授業はグリフィンドールとの合同授業が多いいのだろうか。
赤色のローブを着ている生徒達を見ながら、材料を小さく切り分けた。
教科書に書かれてある手順通りに進め、少し休憩のつもりで視線をあげると前にいるセブルスが何か観察しているようにグリフィンドールの方を見ているのに気がついた。私はセブルスが見ている方向を目で追いかけてみる。一体誰をそんなに見ているのだろうか。彼が見ていた人物は、リーマス・ルーピンだった。最初は、間違いかと思ったが、明らかにセブルスは彼を睨むように見つめている。
そういえばセブルスがルーピンに何かあると睨み、ブラックにはめられて死にかけるのはいつだろう…
私は、ポッター、ブラック、ペティグリューを見つめた。あの3人はもうルーピンが人狼だということは知っているはずだ。小説の描写を思い出してみる限り、まだ彼らが動物もどきを習得していない今年が怪しいというわけか…
グツグツと煮え出した自分の大鍋の中身を乱暴にかき回した。…となると今年は、ブラックが、セブルスを危険に晒すと……
面倒くさそうににかき混ぜるブラックを睨みながら、助けに行きたいと思う自分に言い聞かせた。
それだと意味がない。これは、今後の物語に大きく関係してくるようなことだ。私が関わってはいけない。
…大丈夫、セブルスはポッターに助けられて死にはしない。
そう思っても不安が押し寄せてきた。でも、万が一何かあったら、もしも物語が上手く進んでいなかったら、セブルスはどうなるのだろうか。
そうだ…干渉しないように、遠くから見守ろう。
そう心から決めて、刻んだ葉っぱを大鍋の中に振りかけた。
今年に起こるかもどうか分からないまま私は、セブルスを見守りながら過ごした。もし本当に今年起こると思うと、セブルスとポッターが決まり事のように杖を向けあい喧嘩をするなんてものは可愛く感じた。いつだと考えながら過ごすのは気が気じゃなかった。ハロウィンのパーティーも、更には今年のクリスマス休暇だって帰らなかった。それほど心配で、本当にこの物語が順調に進んでいるのかさえも分からなかったから。
私は、ルームメイトが寝静まった頃、本を取り出して、開いてみた。
もしここに書いてあることが本当ならば、この本は、私の知らないことを教えてくれる。とりあえず、本を開いてみてはいいものの、どう使えばいいか分からずに、とりあえずハリーの真似事で羽根ペンで書き込んでみた。私が書いた文字が消えることも、またもや文字が現れることもなく、そのままの状態だった。
本のページをめくると、所々に羽根ペンでHelloと書かれている文字があった。大きさもペンのインクの濃さもバラバラだが、1つだけ共通していることがあった、それはHelloという文字でしか落書きされていないこと。不気味にも、私がハリーの真似事をした時に書いた言葉もHelloで、怖くなった。
「……何これ…気持ちわる…」
こんな本捨ててしまいがったが、何故か捨てようとすると、誰か拾ってしまいそうな気がして捨てることも出来なかった。
使い方が分からなくて苛立った私は、本を閉じようとしたが、少しずつ文字が動き出していることに気がついた。
私は、恐る恐る動いている文字に触れてみると、私に触れられた文字は消えていく。
何か起こったんじゃないかと思った私は、焼かれたような文字でできている文章が書かれたページを開いてみた。案の定、そこ書いてあった筈の文章は消え、代わりにさっき私が触れた文字がポツンと書かれてある。
またそれに触れてみると、そのページから消えてその文字は元あった場所に書かれてあった。
「……そういうことか…」
この本に書き込むんじゃない。この本に元々から書かれてある文字を自由自在に組み合わせて、自分で文章を作るんだ。
……だからこんなに分厚いのか…
私は早速、文章を作るように文字に触れていく。
白紙のページを開くと、文章ができていた。
【貴方は本当に全てを知っているの?】
すると、すっーと黒いインクが滲むように浮かび上がってくる。
【私は、貴女がとうの昔から知っていることも知らないことも知っています】
私は、文字を探しながらページをめくって触れ文章をつくっていく。
【今、物語は順調に進んでるの?】
【時の流れを変えるのは、そう簡単なことではありません】
私の問いかけに、この本の回答はなんともはっきりとはしないものだった。
【セブルスが、人狼になったルーピンに襲われるのは今年なの?】
【貴女の知っている物語にこだわるのはそんなに大事ですか?】
私は本の返答を見て父を思い出した。こんな感じだ。聞いたことに対してはっきりとは答えてくれない。この本と会話をしていると、父と会話をしているように感じて、一気に疲れが出てきた。
【記憶に頼りすぎるな】
そう浮かび上がってきたかと思うと、今までの会話文全てが消えていった。
もう一回聞いてみようと思って、文字に触れてみるが、何も反応がないままだった。本を閉じて、表紙を見つめ続ける。この本と全く会話が成り立たなかった。私は、トム・リドルの日記と同じような感じかと思っていたが、この本は、まるで私に一方的に警告をするだけだ。正確なことは何にも言わないまま。
「…記憶に頼りすぎるな……」
最後に浮かぶ上がってきた言葉を口に出してみると、確かになと思い知らされた。確かに、最近の私はずっと記憶だけを頼りに行動してきた。
記憶を思い出す前は、どうやって行動していたのかを忘れてしまったぐらいに、私はただただ物語が上手く流れることだけを考えてきた。
わかってる。
…あんまりこの記憶に頼っては意味がないことぐらい。
でも怖いのだ。自分が愛しく想っている人が目の前で息絶える姿を見てしまったら、更にそれが訪れる未来で、もし、私が思いのままに行動して物語を変えたら、違うタイミングで殺されるかもしれない。
そうなると、悔やむだろう。
なんで余計なことをしたんだろう、と。
せっかく未来を知っているのに、それを無駄にしてしまうなんて、嫌じゃないか。
……セブルスには、絶対に死んでほしくない
そんな気持ちが前に出て、私はいつも臆病になる。