任務を終えて黒の教団本部へと帰ってきたラビは、アレンの元へと訪れる。
ブックマンの後継者としての‘ラビ’とエクソシスト、‘ラビ’。そしてアレンの恋人である‘ラビ’が心の中で大きく揺れ動いた。



1 / 1
D.Gray-manのラビアレ二次創作BLです。
報われていません。報われません。
ブックマンとエクソシストとしての間で揺れ動くラビの話です。


最悪で最良な選択肢

 

「最悪さ」

 

 怪訝そうに移動するラビの足取りは重たい。

 頬に貼り付けられたガーゼをゆっくりと手のひらで撫でるが痛みで顔を歪めることはない。ただ溜息を漏らすばかりだった。

 ブックマンとともに任務を終え教団本部に戻ってきたものの、エクソシストとしての立場に主軸を置き過ぎたせいか怒らせてしまった。貴様はまだまだ未熟だ、甘いといつになく厳しく叱られてしまったものの、自分自身きちんと反省の色を示したつもりだ。

 黒の教団に身を置いて早数年、この場で出会った仲間とも呼べる存在に心を寄せ過ぎてしまったと頭の中では充分に理解をしているのだ。裏歴史を記録するのが生業のブックマン一族は仲間などいらない。仲間などと呼ばれる存在はただの紙上のインクに過ぎないと──。

 しかしいざ戦闘となると頭よりも先に体が動き、仲間を守るべく奔走してしまうのだ。己の心が弱く、まだブックマンになりきれていないのだとラビ自身は気付いている。師匠であるブックマンに指摘されずとも分かりきっていたことだった。

 遅かれ早かれ黒の教団から退かなくてはいけない時期が来る。いずれノア側につき裏歴史を記録しなくてはいけない未来が訪れるだろう。

 その時のため、エクソシストたちと交流を深め仲間と呼べる存在になってはいけない。

 ブックマンとは何者にも属さず裏の歴史を記録する者。それ以上でもそれ以下でもないとこの身に刻み付けていたはずだった。

 それでもなおブックマンと衝突を繰り返してしまうのは、未だに染まりきれていないからだろう。人生を懸けて全うしなくてはならない役割に。

 だがこの黒の教団に身を置きブックマンではなくエクソシスト、ひとりの人間へと変わってしまったのもまた拭いされない事実。

 任務地へと赴く度に深まってしまう絆。開き許してしまう心。漏れる笑顔の数は過去の比ではない。

 心に変化が生じてしまったからだろう。

 インクではなく仲間どころでもない。それ以上の存在になってしまった。愛を囁く仲にまで至ってしまった。恋心が報われたところでいつか後悔をすることになると理解しながらも、彼に心を奪われてしまったのは己の弱さのせいか。

 

「アレン、今日はお前の部屋で寝てもいいさ?」

 

 就寝間際の来訪にも関わらず扉を開けてくれるアレンの元へと帰ってしまうのだ。

 こういうところもまたブックマンを怒らせる要因のひとつなのだろう。怒りを制御できない子供のようにブックマンの元を離れ、一時的な仲間であるはずの人間が休んでいる場所へと逃げていく。

 その都度アレンとの距離が近付いた現実すらもブックマンが把握しているとは限らないが、歴史の傍観者としては許されざる行為だ。紙上のただのインクと身を交じらわせるなどあってはいけないことだと、アタマでは理解しているはずだった。

 この身にアレンの温もりを知るまでは。

 

「ラビ、またブックマンとケンカでもしたんですか?」

「……うっせー」

「子どもですね」

「オレが子どもなら、アレンだって充分に子どもさ」

 

 深い事情を聞くこともなく部屋に招き入れてくれたアレンを強く抱きしめた。

 彼を抱き留めるとほんの僅かではあるが解消されていく苛立ちの正体を話したことはない。ブックマンという立場だからこそ抱く負担や不安、怒りを理解されることも同情されることも望んでなどはいなかった。

 恋人に対し、隠し事をしていることにはなってしまうが全てを聞き出そうとしないアレンだからこそなのだろう。何も言わずに抱きしめ、抱きしめられる穏やかな時間が尊いものになっていた。

 何も話さずにいた結果でもある、アレンからかけられた「子どもですね」の言葉を否定するつもりはない。

 

「とっとと部屋に戻ったらどうですか。ラビがいうように僕が子どもだとするならば、僕は部屋を貸しませんからね。子どもは早く寝なくてはいけませんから。ラビに構っている時間はありません」

「そんなこと言わないでほしいさ」

 

 本心でないとはいえ、アレンの突き放すかのような物言いに肩を落としてしまったのは、彼の前であれば今はない幼き日の自身をさらけ出せそうな気がしたからだった。

 だが幼い頃から戦場に身を置いてきたラビの記憶には子どもらしく振舞ってきた過去はひとつもない。同世代の子どもと関わっていた時代でさえも、彼らの中に溶け込めるよう努力をしてはいたものの、非情になりきるため子ども心を喪失するべく努めてきた。彼らのように見せるための過去の言動はあくまでも演技だ。

 しかし今になっては決して演技ではなく、周囲に馴染むためでもない。子どものように時に我儘をいい、不貞腐れた態度を取るまでになってしまったのは自分が大人になったからなのか。成長をしたことで意識せずとも他人によく思われよう、距離を詰めようと行動をしているのか。または幼い頃と比較してもブックマンの後継者としての意識が薄くなってしまったからなのか。ラビには分からなくなってしまっていた。

 

「お願いさ、アレン」

 

 ラビはアレンの耳元で優しく囁き縋る。

 我儘ともとれるほど素直に甘え、自分の感情を押し通すような真似をアレンならば許してくれるだろう。

 それさえもが自分勝手な欲だがひとりの人として愛してしまった彼には知って欲しいとさえ願ってしまった。49番目の名前を背負いブックマンとして生きてきた自分自身の中に確かに存在している、‘ラビ’という人間を愛し、受け入れてくれると思いたかった。

 立場から生じる細かな感情を知られたくはないラビだったが、この身に芽生えた愛情だけは理解をして欲しい。

 今はそれだけ。

 

「──アレン」

 

 ブックマンにあるまじき感情に突き動かされた後の結末を記憶する必要はない。ただ脳裏に刻みつけておきたかった。49番目の名前を捨てブックマンとして生きていかなくてはいけない時期がいつ訪れてしまってもいいように、この身が愛した男がいたという事実だけは胸に残していたいとさえ願う。

 そう考えてしまうのがブックマン──パンダじじいのいう甘えのひとつなのだろう。

 

「なぁ、アレン…………オレは」

「ら、ラビ? どうかしたんですか、いつものラビらしくないですよ」

「頼む、アレン。今日だけでいいんさ、今日だけ……アレンの側にいさせて欲しいんだよ」

 

 己の存在意義と仲間との間で揺れる感情。全てを捨てる覚悟などないにも関わらずアレンへの愛に溺れ、師であるブックマンを失望させるラビに残されたのはあの日失ってしまったはずの繋がり。

 互いを信じ、時には厳しく接する関係性は師弟だけでない。愛の名のもとに繋がる恋人へと向けられることすらも知らずにいたラビは、アレンと出会いはじめて師弟以外の関わりを知り得たのだ。

 また彼が厳しいだけでないことも知っていた。恋人になる遥か前から優しさにあふれたアレンは、仲間から恋人へと関係性が変化すればするほどただ厳しいだけでなく、時に甘え、時に優しくラビを包んでくれるのだ。世話を焼こうにも何事にも一途な年下だと考えていたのもつかの間、気が付けばラビ自身よりも大きく、かつより優しさのある人間へと成長をしていった。

 自分はその優しさへと付け込み、ブックマンからの叱責に耐えられない振りをして何度もアレンの部屋へと侵入を図ってきた。

 

「別に無理にとは言わないさ。ただ……」

「ラビっ!? ちょっと、いきなり、なにを──!」

 

 強く抱きしめていたアレンの体を勢いよく持ち上げては足元を浮かせた。

 急な行動に驚いたのか体をめいっぱいに揺れ動かし抵抗を示してくるも、ラビはもろともせずにアレンをベッドへと運ぶ。その間も心の中の子どもらしさを作り出しては必死に甘えようと懸命だった。

 自分ではない誰かを求め、その手中に収めようなどと考えた経験はなかったにも関わらずアレンとの出会いがラビを変えた。周囲の人間には一切知られることのない作り笑顔以外の感情が前面に押し出だされた船上でのあの日以降、彼に対する熱情が静まることはない。

 体全体に伝わる優しく暖かい温もりを離したくはなく、汚れのひとつもない真っ白なシーツの上で思うがままに乱してやりたいと 欲に駆られてしまうほどだった。

 

「アレン」

 

 ゆっくりとベッドに歩み寄りながらも心臓が早く強く脈を打つ。ブックマンから浴びせられた怒りの声など関係ない。負の感情を全て消し、ただその身に生じた狂おしいほどの愛をぶつけてしまいたかった。

 アレンの瞳に浮かぶ醜い獣のような形相をした人間はまごうことなき自分自身だ。 

 

「……怖がんなよ」

 

 狂気に満ちたラビを何度もこの目に映してきたアレンは、なにがあっても離れたいと口にしたことはなかった。

 日々戦場を生きているエクソシストからすれば殺気立つ相手が対面にいるのは慣れていて、恐怖を感じている間もないほどだと戦闘中は割り切ることができる。

 だがこの場は違う。

 想いを寄せ、寄せられているはずの恋人から恐怖を与えられているのだ。殺気とは異なる威圧的で妖しく微笑むその姿は恋人の皮をかぶったケダモノだった。

 ──またやっちゃたんさね。

 

「ごめんって、アレン……」

 

 ふと我に返りアレンをゆっくりとベッドにおろした。アレンは瞬く間に寝返りを打ち、壁側へと向いた。

 時折自分が自分でなくなる感覚に陥ってしまうラビはその都度謝罪を重ねるものの、気が付くと再びアレンの身を虐げようと荒々しい行動に出てしまう。

 何度も後悔をしている、理性を働かせようと努力もしているのだがブックマンとのやり取りがある度に制御ができなくなってしまうのだ。

 しわひとつなかったベッドシーツにいくつものしわが生まれた。ラビから背を背け、静かに震えるアレンには詫びることしかできない。

 

「……やっぱ帰るさ。ほんとごめんな。今日はゆっくり休んでくれさ」

 

 壁をみつめるアレンの背中に声をかけゆっくりと扉へ歩きだした。

 この身から離れてしまった温もりを追うような真似はできない。だからといってブックマンと同じ部屋で眠ることもできない。ジョニーに頼み込んで食堂で寝させてもらおうか、とラビは考えだした。

 結論は出ない。一度唇を引き締めはしたもののなにも。

 

「ラ、ビ……?」

 

 アレンからの問いかけに返答をする余裕もない。更に彼を不安がらせているような気がしてならないが、自分自身の感情に答えを出そうと躍起になる。

 ブックマンであるならば悩む必要すらない。インクと交わる意味などなく、金輪際恋人として関わることは止め一時的に仲間だと偽り直せばいい。立場を踏まえれば一択。

 感情を押し殺さずに‘ラビ’として見つめ返せすのであれば選択肢は無限に広がるだろう。恋人として生きるため、自分自身の雄としての性欲以上に荒々しく黒い感情と決別しなくてはいけない。アレンへの愛を保ち続けたまま彼を傷つけることなく、体を寄せ合うのもまたひとつ。

 そしてもうひとつはアレンを諦める。自分の弱さに負け彼を傷つけてしまう可能性があるのであれば関係を途絶えさせてしまうべきだ。とも心の中の自分はいう。

 ブックマンとして生き、今後もまた弟子として師弟関係を築き上げ、いつの日にかブックマンを継承しなくてはいけないラビにとって、出すべき答えは最初から決まっているはずだった。

 

「アレン」

 

 ひとり繰り広げた末に出た答え。

 身を汚してしまうような愛も、アレンを慈しむ感情も嘘ではないにしろ素直に言葉にするには背を向けるアレンが小さく怯えているようにすら見えてしまった。

 選んだ答えはただひとつだ。

 

「オレ、アレンのことが好きだから……その、なんだ……またオレがさっきみたいにアレンを怖がらせたりしたら……全力で止めてやってくれないか? 自分でも……抑えられないんさ」

「……ラビ?」

「オレはブックマンの後継者だけど……ラビはエクソシストとして黒の教団にいる間だけの名前だけど、アレン、お前は……オレという存在がいたこと、オレがお前を好きだったって事実だけは忘れないでいて欲しいんさ」

 

 勝手にアレンへの感情を、願いを押し付けた。

 ただの我儘だという自覚もある。返答を待たずして次から次へと告げる気持ちに偽りはないが一度吐露しだした感情は今にも爆発してしまいそうだ。

 ここで今、抱いた熱のままに行動をしてしまったら今までと全く変わりはしない。アレンに対する愛が強く増すばかりで、三度傷つけてしまう。またしても同じ選択を取ってしまったのかもしれない。

 それらは分かりきったことだからこそ、悩みに悩み抜いた結論を告げるのだ。──一方的に別れを望み。

 

「……忘れないでくれたら、それでいい。それにアレンが今、オレの元から離れてもいいと思ってる。そっちのほうがアレンにとっては安全だし……得策さ。毎回毎回怖い思いをすんのはヤだろ?」

 

 できれば最後くらいはアレンの傍で眠りにつきたかった。思いもしないタイミングで別れを選択した自分自身に心底驚愕し、彼へと言葉の意味が通じているのか確証がない。

 己の選択をそう簡単にアレンが受け入れてくれるとも思えない。だが出した結論は揺るがなかった。

 

「ラビ、なにを言い出すんですか!? 僕はまだなにも言っていない! 勝手に自己完結をしないでください。僕の気持ちも聞いてっ……!」 

「いいんだよ。これで、いいんだ。オレはアレンを傷つけたくない。ただそれだけ……ただそれだけなんだよ」

 

 ブックマンだから、その言葉で納得ができるほどアレンへの愛情は薄いものではない。許された恋ではないと知りながらも一度は繋がったアレンとの関係性を、立場的な理由だけで投げ出すくらいならば好きになってなどいない。それどころか彼に伝えるはずもない。必死に自分を殺し、ただの仲間‘ラビ’として過ごしていただけだろう。

 伝えてしまったら最後、その身が滅ぶまでアレンとともにするか、黒の教団を去ることになるであろう近い未来ではなにも告げずに彼の前から姿を消す可能性も存在していた。前者はブックマンの意向には沿わない。後者は少なからずアレンを傷つけ、自分も後悔をするだろう。

 全て自分勝手な判断だ。昔失ったはずの子ども心が再び湧き上がる。

 

「オレは子どもなんだろ? 子どもは自分勝手で我儘で……賢ければ賢いほど口を閉ざすんさ」

 

 踵を返してラビはゆっくりとアレンの部屋を出た。

 彼からの返答は何も聞こえない。聞かないフリをする。自分の感情に器用に蓋をして口を閉ざすのだ。

 閉まりきった扉に戻る必要はない。性欲に堪えられず、愛してくれた人を自ら手放した。

 全てにブックマンの後継者だからと理由をこじつけて、

 

「最悪さ」

 

 こんな時ばかりは一度見聞きしたものを覚えてしまうほどに秀でた自分の記憶力が恨めしい。一生忘れることはないだろう。

 だがこれがブックマンとしての決別。己の弱さから目を背けた結末だ。

 

 

 

(おわり)





以上、ラビアレでした。
原作の新刊発売の目処が立たないのは何年前からでしょうか?
続きが気になる分待ち遠しいです。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。