夢を見た。
灰色の霧に覆われた世界。闇が全てを覆いつくし、淀みに沈んだ世界は、深海のような静けさを得ていた。
生命の概念を奪われた、かつて人だったものたちはゆらゆらと漂い続けていた。
あるものは愛を。あるものは友情を。あるものは思慕を。そしてあるものは郷愁を。死ぬこともなく、生きることもなく、ただあるだけの世界。人間以外の全ては死んでいた。草も無く、木々も無い。荒涼とした大地が広がり続けているだけの代わり映えの無い世界。もはや赤子は生まれず、老いることもない。
古い時代。世界はまだ隔たれず………。
そして、闇にいくつかの火が生まれた。人間たちはその火に怯え戸惑い、次々と飲まれていった。
―――だが、いつか火がおこり………。
後悔はある。
火を継いで世界を延命させることに対してだ。
私は私であり、彼であり、多くの、名も無き戦士達の遺志を継いだものだ。もはや故郷を思い出すこともできない。私は火の時代を延命させるためだけに多くを殺し、自らを薪とし続けてきた。
私は騎士だ。王から剣を授かった。
私は魔術師だ。ソウルの業を極めんと旅に出た。
私は狩人だ。弓だけを手に、家を焼き、故郷を捨てた。
私は呪術師だ。沼地から追放を受けた。
私は聖職者だ。火の使命を受け、巡礼の旅に出た。
私は戦士だ。森をさ迷い、いつしか闇のしるしを受け、それを捨てるために旅に出た。
私はなにも持たなかった。何かを得るために旅に出た。
私は、私は………。
そして、私の役割も終わる。
振りかぶられた剣が私の胴体深くに刺さる。私の力が四散していく。燃え尽きていく私を尻目に、その騎士は歩みを進めて行った。
傍らには、火を繋ぎとめるものを補佐する火防女が立っていた。
火継ぎの偉大な業を終わらせようというのか。
これでよかったのだろうか。よかったのだろう。
世界が暗くなっていく。こうして神の時代、人の時代は終わりを告げた。永久にも思えた人の歴史にも終止符が打たれる。だが、いつかよみがえる。太陽が昇るように。全てを失った私は、世界の理とも言われるソウルへと還元され、二度と戻らなかった。
はずだった。
■■■■の世界にサーヴァントとして召還されています。
誰かが呼んでいる。
私は、救い手などではない。倒されるべき化け物なのだ。そんな私を呼ぶ物好きがいるとすれば、それは、世界を救おうと大真面目に考えている大ばか者か。
私が拒否するよりも早く、それが私を強引に呼び出した。
意識が覚醒すると同時に燃え盛る都が見えた。豪華絢爛であろう建築物も火に飲まれてしまえばたどる末路はいつも同じ。構造が耐えられなくなり崩落し、頑丈なところを残して燃え尽き、魚の骨のような有様だけが残る。
巨大な盾を構えた少女がいた。大勢の怪物に立ち向かおうとしている。動きこそ人間離れしているが、立ち回りは素人のそれだ。攻撃に夢中になり平民らしき男が腰を抜かしてへたり込んでいることへ対応できていない。
私は、騎士だ。私の中の声がそういっていた。平民を守らずして何が騎士であるかと。
同時に、魔術師が言った。あいつこそが俺を召還した男だと。
私は偉大なる白い竜から切り落とし手に入れた剣を握り、二度振るった。花緑青色の光波が雑魚をなぎ払う。
「………!?」
目を見開く少女をよそに、私は横合いから接近してきた骸骨を一太刀で粉砕した。弱い。所詮、大昔の戦士の魂が宿っているとされるロードランの骸骨戦士とは異なり、人形のような存在にすぎないのだろう。だが、数が多い。私は四方八方から槍を突き出してくるそれらを一切無視して、次の道具を手に握った。
全身を貫かれる。これしき、なんてこともない。二刀流を得意とした鬼神とも呼ばれた戦士たちは、矢で全身を貫かれても立ち止まらなかったという。私の中にも、そのものたちがいるようだった。
次の瞬間、地面から無数の刃が生えた。
かつて、最初の死人を崇拝した戦士たちがいた。彼らは多くのものを狩り、その瞳をくりぬいたという。この業はそれの一端を再現するものだ。
私は骸骨が消滅していくのを見て、自分自身の体を見つめた。火の粉のくすぶるぼろ布じみた体。歩めば煤が落ちる異形。
私はつとめて優しい声を作ると、盾を構えたまま唖然とする少女に軽く一礼をしてから、腰を抜かしている少年の元に跪いた。
「召還に応じて参上した。……名を…………
名を思い出せなかった。私はとっさにそのように名乗ると、召還者らしき少年に手を差し伸べた。
2の主人公は火を継がず旅に出ている(絶望をくべた者)ので化身さんたちの中にはいません