コードギアス 白蛇は勘違い   作:砂岩改(やや復活)

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ガラス

 

「ライ!」

 

「薫!」

 

 呼び止められたライは心底嬉しそうに薫に抱きつくと彼女もそれを受け止める。

 久々の姉弟の再会と言った雰囲気にカレンは静かに微笑む。

 

「カレン、C.C」

 

「久しぶりね、薫」

 

「久しいな」

 

 久々の再会に全員が喜ぶがなんとなく気まずい空気があった。その原因は言わずもがなルルーシュの事である。

 詳細は聞いていないが戻っても部屋に籠ってばかり、典型的なルルーシュの落ち込み方だが今回はナナリーが絡んでいるため、なんとも言えない。

 

「それで、アレはどうするつもりだ?」

 

「様子見かな。ヤバかったら出張るしかないけど」

 

 取りあえずルルーシュは学校に顔を出さなければならない、それにこれは彼にとっても薫にとっても分岐点となる可能性がある。

 ルルーシュと薫の関係性に…。

 

「あ、ライ」

 

「なに?」

 

「お前のナイトメアだ。流石に持ってこれなかったが取説だ。読んでおけ」

 

「ありがとう」

 

「お前は私の騎士だからな。私を護ってくれよ」

 

「あぁ!」

 

 犬の耳と尻尾が見えそうなぐらい眩しい笑顔を見せてくるライに薫は思わず目を細める。しばらく会わない間に犬っぽくなった気がすると思いながらカレンたちと会わなかった間の話をするのだった。

 

ーー

 

 ルルーシュを学園に返して1日ほど様子を見ていた白蛇だが監視していた弥生からの報告を受け薫は大きな溜め息をつく。

 

「……」

 

「行くのか?」

 

「あぁ。ゼロとルルーシュが共存する必要はないしな」

 

「そうだな。薫、お前は本当に良い女だな」

 

「やっと分かったか?」

 

 C.Cの言葉に小さく微笑むとバレットが用意してくれた私服に着替え、船を降りる。

 向かう先は当然、ルルーシュの元だ。

 

ーー

 

「なに見てるの?」

 

 薫を見送ったC.Cは食堂に足を運ぶと端末で写真を見ていたライとそれを覗き込むカレンを見つける。

 

「純白ちゃん。零子さんから写真貰ったんだ」

 

「へぇ、可愛い赤ちゃんね」

 

「意外だな、赤子に興味を持っているとは。カレンとつくるつもりか?」

 

「なに言ってんの!?」

 

「あ、C.C」

 

 動揺のあまり持っていた飲み物を握りつぶしてしまうカレン。飛び散る飲み物を華麗に躱すライはいつもの調子で返答する。

 

「違うよ。これは薫の子供」

 

「「は?」」

 

 ライの爆弾発言にカレンどころかC.Cさえも驚きのあまりフリーズする。

 

「え、ちょっと理解できない。いつ産んだの?」

 

「産むとすればヨーロッパだろうが…誰との子だ?」

 

「でも薫、元気だし産んでからそこそこ経ってそうだし」

 

「あの…」

 

 カレンとC.Cはお互いに肩を掴み合い話し合いを始める。それを見ていたライは話に入ろうとするが残念ながら彼の声は届いていなかった。

 

「妊娠は日本にいた時か?」

 

「それだ!じゃあ…相手はルルーシュ!?」

 

「あの童貞坊やが?ありえん」

 

「でも薫と仲良かった異性ってルルーシュとスザクぐらいしか」

 

「そこにもいるだろう」

 

「え?」

 

 C.Cに指を指され首をかしげるライと物凄い速度でライに顔を向けるカレン。

 

「この浮気野郎!!」

 

「なにが!!?」

 

 カレンに胸ぐらを掴まれぶっ飛ばされるライは絶叫しながら壁に激突する。

 

「話を…聞いて…」

 

 そう言ってライはがっくりと倒れるのだった。 

 

ーー

 

「兄さん…」

 

「悪いが二人にさせてくれないか?」

 

 新宿再開発区域、そこでロロは密かにルルーシュを見つめていると背後から声をかけられ、警戒する。

 

「兄さんに何の用?」

 

「幼馴染みの端くれとして文句の一つでも言ってやろうかと思ってな」

 

「幼馴染み…」

 

 幼馴染みと言う単語にロロは不快な感情を示すが白蛇はギアスが効かない相手、無用な争いは不利益と考え道を譲る。

 

ーー

 

「随分と無様な姿を晒すじゃないかルルーシュ」

 

「薫…」

 

 誰もいない工事現場、そこでリフレイン片手に黄昏ているルルーシュを見て薫は笑いながら近づく。

 だが彼女の目は笑っていない。元々無表情な彼女の感情を探るには目を見るのが一番だ。

 ルルーシュは長年の付き合いの経験を元に無意識に編み出した方法、それをもってしても彼女の感情を読み取ることはかなわなかった。

 そんな視線を感じてルルーシュも動きを止めて目を剃らす。

 

「童のように泣き伏せるだけならまだ可愛げがあったんだがな…」

 

「悪いか?ゼロはもう必要ない、俺にはなにも残っていないのだから…」

 

「親友のスザクはナナリーの騎士になり、ナナリー自身も自分の道をその意思で進もうとしている。お前が居なくても二人は進んでいけると…」

 

「あぁ…」

 

 やはりと言う風に溜め息をつく。予想はしていたが実際に耳にするとキツいものがある。

 ルルーシュにとって悪気がないのが余計にだ。

 

「それも良いだろう。このまま平凡な学生として生きていくのも悪くない。お前が始めたことだ、お前が終わらせればいい」

 

「……」

 

「残念だ…」

 

「っ!」

 

 完全に失望されたと感じたルルーシュだったが彼女の足元に落ちた雫を見て思わず顔を見る。

 彼女は静かに涙を流していた、失望による軽蔑ではない。ただ彼女は悲しんでいた、悲しみに溺れそうになりながら涙を流していた。

 

「俺は見えないガラスだったんだな…」

 

「薫…!」

 

 ルルーシュは咄嗟に持っていたリフレインを投げ捨て薫の肩を掴む。思考が纏まらずに言葉を紡げないがとにかく違うことだけ伝えたかった。

 

「俺は親友であるお前を見捨てた訳じゃない!」

 

 薫の涙の意味、憔悴しきったルルーシュにも察しはついた。彼女はルルーシュにとってナナリーが何者にも勝る存在であることは承知しているし彼女もそう考えている。

 

 薫とルルーシュの亀裂の最大の原因は彼が相談を一切しなかった事だ。自身がリフレインを使わねばならぬほどひっ迫した状況にありながら薫を頼らなかった。

 彼にとって薫も庇護の対象であり彼女の精神的な負担になりたくなりたくなかったと言えば聞こえは良い。

 

 だが結局のところ、相談どころか顔すら会わせなかった事実は薫にとって、違う意味を持ってくるのだ。

 

《ルルーシュにとって薫は信用に値しない人物》

 

 これまでゼロではなく、ルルーシュ個人に向き合い、良き友人、パートナーとして接してきた薫への裏切りに他ならない。

 

 親友のスザクと決別し、最愛のナナリーを失ったと感じたルルーシュに残されたのはゼロと言う象徴のみ。

 ルルーシュは自身のアイデンティティの崩壊を感じ、心神喪失に近い状態に陥ったのだ。

 側にいる薫を見ないまま。

 

「良いんだルルーシュ。無理をしなくて…」

 

 掴まれた手をゆっくりと離させ薫は告げる。

 

「もう良いんだ…」

 

 優しく振りほどかれた手は空を切り、薫はルルーシュに背を向ける。

 何も言わずに、決して振り返らずにその場を後にする、それをルルーシュはただ見ているだけだった。

 

ーー

 

 すれ違いにロロが入っていくのを見送りながらバレットが待つ車に乗り込むと彼女がハンカチを手渡してくる。

 

「まさか泣くとはな」

 

 個人的に泣くつもりは無かったのだが流れてきてしまった。

 

「自分はそう言う白蛇様も良いと思いますがね!」

 

「言うようになったなバレット」

 

「へへ!」

 

 バレットの眩しい笑みを眺めながら考える。

 少しばかりショックだったがルルーシュに失望したとかそう言う事ではない。今後もゼロをするつもりなら支えていくつもりだしこのまま去ると言うならそれでも良いのだ。

 

(あの様子だと立ち直るのも時間の問題だろうがな)

 

 思考は冷静であるが思わず涙を流してしまったのは時空の管理者からの報酬で思い出した過去の記憶から来る感情が無意識に溢れてきたからだろう。

 

 転生者としての過去とこの世界の人間として生きた過去、この二つを得てしまった薫は感情の制御が追い付かないときがたまにある。

 二つの過去、それは佐脇薫にとって紛れもない真実であり現実である。

 

(向き合わないとな…自分自身と)

 

「白蛇様、カレンから緊急通信が」

 

「ん?」

 

ーー

 

「薫…」

 

 去っていく薫を追いかけるべきだと分かっているがその後どうする?と自問自答を繰り返すルルーシュ。

 ずっと支えてくれていた。ランスロットのパイロットがスザクと分かった時、ユフィが虐殺を始めてしまった時、ナナリーが新総督として赴任すると分かった時だって彼女はずっと側で励ましてくれていたじゃないか。

 

「俺はなんて事を…」

 

「全部捨ててしまえば良いじゃない。白蛇だってそう言った」

 

 薫と入れ換えに現れるロロは言葉を紡ぐ。

 

「立ち止まったっていいじゃない。今はゆっくりと…」

 

「…そうだな」

 

 薫と話し合うにしても一度、冷静になってからだと判断したルルーシュはロロと共にアッシュフォード学園に帰るのだった。

  

ーー

 

 失意の中、学園に戻ってきたルルーシュは打ち上げられる花火を見て屋上を駆け上がる。

 そこには花火を打ち上げているミレイ、リヴァル、シャーリーの姿があった。

 

「おかえり、ルル」

 

「ルルーシュもやろうよ。文化祭で使った余り」

 

「どうして、修学旅行は?」

 

「俺たちだけで言ったら泣くでしょ君?」

 

 久々に聞いた気がするリヴァルの軽口、ミレイもシャーリーも三人ともこちらを見て笑ってくれている。

 

「旅行なんてね、どこに行くかじゃなくて。誰と行くかなのよ」

 

「そうそう」

 

「…それ」

 

 シャーリーが手にしていた折り鶴に反応するルルーシュ。

 

「これ?願い事が叶うって聞いて作ってみたの、誰に教わったかどうしても思い出せないんだけど」

 

「なにを願ったんだ?」

 

「もう叶ったよ。少しだけ、皆で一緒に花火がしたいなって」

 

 ニーナ、カレン、スザク、カオルそしてルルーシュとロロ。それとナナリー。

 期間としては、ほんの僅かな期間だっただろう。だが生徒会のメンバーとして生活したかけがいのない日々は確かにルルーシュにとっても大切な思い出だ。

 

「一羽だけだからルルにしか叶わなかったけど」

 

《俺は見えないガラスだったんだな…》

 

 少し前、薫が悲しげに呟いた言葉がフラッシュバックする。

 昔、スザク、ナナリー、薫たちと話していた幸せの形、それはガラスだと。普段は見えないが角度を変えれば光輝くものだと。

 

(お前はずっと覚えていてくれてたんだな…)

 

 思ったら吉日、ルルーシュは薫のもとに駆け出すのだった。

 

ーー

 

「流石に間に合わんか」

 

 薫は海を眺めながら遠くにいるブリタニア艦隊を見る。

 カレンたちを乗せた潜水艦がスザク率いる艦隊に捕捉され追い詰められている。

 ナイトメアは潜水艦に置いたままだし、詳しい状況が分からんから指示も出せない。

 

「白蛇様、潜水艦と敵艦隊のおおよその位置です」

 

 紙の海図にマジックで描かれた図を見ながら解決策を探す。

 

「薫!」

 

「来たか、思ったより遅かったな!」

 

 海図を眺めていると背後から息も絶え絶えなルルーシュが現れる。

 

「すまない」

 

「ひとまず先にこれを片付けてしまおう。それからだ、ゆっくり話し合おう」

 

「あぁ!」

 

 海図を渡されたルルーシュは地形を利用した作戦で艦隊を撃破、薫が持っていたゼロの服を着てロロのヴィンセントと共に飛んでいった。

 

「ふふっ…」

 

「楽しそうですね。白蛇様」

 

「あぁ、親友が元気なのは良いことだ…」

 

 誰もいない海岸線で笑う薫の姿は心底楽しそうであった。

 

 

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