ハリー・ポッターと合理主義の方法   作:ポット@翻訳

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12章「衝動制御」

()()()はどうかしたのかな。」

 

◆ ◆ ◆

 

「ターピン、リサ!」

 

ヒソヒソヒソ…ハリー・ポッターが…ヒソヒソ…スリザリン…ヒソヒソ…ほんとうだって…一体なにが…ヒソヒソ…

 

レイヴンクロー!」

 

その子がレイヴンクローのテーブルにおずおずとあるいてくるのをハリーはまわりにあわせて拍手でむかえた。そのローブの縁どりが群青色にかわる。リサ・ターピンはハリー・ポッターからできるだけ遠くに座ろうとする衝動と、そのとなりの席に割りこんで根掘り葉掘り話を聞こうとする衝動とのあいだで、ゆれているように見えた。

 

非日常的で興味深いできごとの中心にいたあとでレイヴンクローに〈組わけ〉されるというのは、バーベキューソースにつけられたあとで飢えた子猫の穴にほうりこまれるのに酷似している。

 

「だれにも言わないって〈組わけ帽子〉に約束したんだ。」とハリーは何度となく小声で言った。

 

「ほんとだって。」

 

「いや、ほんとにだれにも言わないって〈組わけ帽子〉に約束したんだ。」

 

「わかった。〈組わけ帽子〉に約束したのは()()()()()だれにも言わないことで、のこりの部分はぼくの()()()()()()()だ。きみだってそうだろう。だから()()()()()()()()。」

 

「なにがおきたか知りたい? わかった。その一部はこれ!〈帽子〉を火にかけるというマクゴナガル先生のおどしを〈帽子〉につたえたら、邪魔をするな生意気な小娘という伝言をマクゴナガル先生につたえさせられたんだよ!」

 

「ぼくの言うことを信じないなら、そもそもなぜ質問するんだ?」

 

「いや、ぼくがどうやって〈闇の王〉をたおしたのかも知らない。わかったら教えてほしいくらいだ!」

 

()()()!」とマクゴナガル先生が〈主テーブル〉の演台で声をはりあげた。「〈組わけの儀式〉が終わるまで私語はつつしむように!」

 

マクゴナガル先生はなにか具体的でもっともらしいおどしをしようとするのだろうか、と見きわめようとするあいだ、あたりの音量はしばらくさがったが、やがてささやき声は再開した。

 

つぎに銀色のひげをした老人が立派な金色の椅子から立ちあがった。ほがらかな笑みをしている。

 

すぐさまあたりがしずまった。ハリーがささやき声で話しつづけようとすると、だれかがひじでつつき、ハリーは文の途中で言いやめた。

 

老人はほがらかなまま、また座った。

 

自分へのメモ:ダンブルドアにちょっかいをだすな。

 

ハリーはまだ〈組わけ帽子事件〉のあいだのできごとすべてを咀嚼しようとしていた。とりわけハリーがあたまから〈帽子〉をはずした瞬間におきたことのことを。あの瞬間、どこからでもない場所から聞こえてくるような、小さな、妙に英語っぽいようでいて同時にシューシューという音のような、ささやきが聞こえたのだ。「すりざりんカラ すりざりんヘノ アイサツ:ワガ 秘密ヲ 知リタケレバ、ワガ 蛇ニ キケ

 

ハリーはこれは公式な〈組わけ〉手順の一部ではないのではないか、となんとなく推測した。〈帽子〉の製作中にサラザール・スリザリンがちょっとした魔法をかけたのではないか。〈帽子〉自身もそのことを知らなかったのではないか。帽子が『スリザリン』と言うなど、いくつかの条件があえば起動する魔法なのではないか。自分のようなレイヴンクローは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のではないか。もし秘密を口外しないとドラコにちかわせる信頼度のたかい方法がみつかったら、彼にきけばいいのではないか。コメッティーを活躍させる最高の機会なのではないか。

 

〈闇の王〉への道をあゆまないと決心したかと思ったら、〈帽子〉をあたまからはずした瞬間に宇宙からちょっかいをだされる。運命にさからうのは損なこともある。〈闇の王〉にならないという決心はあしたまで延期したほうがいいかもしれない。

 

グリフィンドール!」

 

ロン・ウィーズリーは拍手を()()()()もらった。しかもグリフィンドールからだけではなかった。どうやらウィーズリー家はここではひろく好かれているようだ。ハリーは一瞬遅れて、笑みをうかべてほかの人にあわせて拍手をしはじめた。

 

そうは言っても、ダークサイドに背をむけるのうってつけの日ではある。

 

運命も宇宙も知るか。〈帽子〉よ、見てろ。

 

「ザビニ、ブレイズ!」

 

沈黙。

 

スリザリン!」と帽子がさけんだ。

 

ハリーはザビニにも拍手をした。ザビニ自身をふくむ全員から怪訝そうな表情をむけられたが、意に介さずという態度をつらぬいた。

 

そのあとに呼ばれる名前がなかったので、『ザビニ、ブレイズ』はたしかにアルファベットの最後のほうだろうな、とハリーは気づいた。やったね。ということは自分はザビニ()()()拍手をしたことになる……あーあ。

 

ダンブルドアはまた立ちあがり演台へむかいはじめた。どうやらこれから演説がはじまるようだ——

 

ハリーはその瞬間、()()()実験的テストをひらめいた。

 

ハーマイオニーによれば、ダンブルドアは当代最強の魔法使い、だったはず。

 

ハリーはポーチに手をやり、小声で言った。「コメッティー。」

 

コメッティーがちゃんと機能するとすれば、ダンブルドアはなにか()()()、現在のハリーのこころの準備を()()()()()()()むせてしまうほどに、ばかげたことを言うことになる。たとえば、全ホグウォーツ生は今年一年服をきてはいけないとか、全員がネコに変身させられるとか。

 

といっても、もし()()()()()()()()コメッティーのちからに抵抗できる人がいたとすれば、それはダンブルドアだ。つまりこれがうまくいけば、コメッティーは文字どおり()()だということだ。

 

ハリーはすこし目立たないように、コメッティーの輪っかをテーブルのしたで引いた。缶は小さなシューシュー音をだした。何人かがくびをちらにむけたが、すぐにもどし、そこで——

 

「ようこそ! ホグウォーツでの一年へようこそ!」とダンブルドアが言った。両腕をひろげて、まるで生徒たちをここでこうやって見ることがなによりの楽しみであるかのように、にこやかな笑みをみせている。

 

ハリーはコメッティーの最初のひと口をふくみ、缶をおろした。ダンブルドアが()()()言おうがむせないよう、これから一度にすこしずつ飲みこむことにしよう——

 

「うたげのまえに、ひとこと言わせてもらいたい。それでは。ハッピー、ハッピー、ブーン、ブーン、スウォンプ、スウォンプ、スウォンプ! 以上!」

 

全員が拍手喝采し、ダンブルドアは席に腰をおろした。

 

ハリーは口のはしからジュースをこぼれさせながら、凍りついた。すくなくとも、()()()()むせることはなんとかできた。

 

こんなことはほんとうに()()()()()ほんとうにするべきじゃなかった。()()()()になってから()()()になるといかに()()()()()()()()ことか。

 

ふりかえれば、おそらく、全員がネコに変身させられると考えたときになにかがおかしいと気づくべきだった……あるいはそのまえの、ダンブルドアにちょっかいをだすな、というこころのなかのメモをおもいだすべきだった……あるいは他人の気持ちを尊重するという自分のあたらしい決心を……あるいは自分に()()()()()()()()でも()()があれば……

 

どうしようもない。自分は骨の髄までくさっている。〈闇の王〉ハリー万歳。運命にはさからえない。

 

だれかがハリーに大丈夫かと声をかけた。(ほかのひとたちは食べ物をとりわけはじめていた。食べ物は魔法によってテーブルに出現していた。どうでもいいが。)

 

「大丈夫です。」とハリー。「すみません。えっと。さっきのは……総長のスピーチとしては()()でしたか? みんな……あまり……おどろいていないような……」

 

「ああ、もちろん、ダンブルドアはあたまがおかしいのさ。」と、となりに座っていた年上らしいレイヴンクロー生が言う。自己紹介はしてもらっていたが名前をちっとも思いだせない。「おもしろい人で、非常に強い魔法使いだけど、完全な狂人だ。」そこで言葉を切る。「きみのくちびるから緑色の液体がなぜこぼれてから消えたのかについて、いつかそのうちにきかせてほしい。きっと、それも秘密にすると〈組わけ帽子〉に約束したんだろうけど。」

 

ハリーはかなりの努力をして、その犯人であるコメッティーの缶に視線をおとすのを思いとどまった。

 

けっきょく、コメッティはあのとき、ハリーとドラコについてのクィブラーの見出しを勝手に()()()したのではなかった。ドラコの説明では、あれはごく……自然におこることのようにきこえなかったか。まるでそれに()()()()()()()()()()()()かのように。

 

ハリーはこころのなかでテーブルにあたまをうちつける自分を想像した。こころのなかで、あたまがウォンウォンウォンと鳴った。

 

別の生徒が声量をささやき声にまでおとして言った。「ダンブルドアは裏では人をあやつる天才で、いろんなことを操作していて、あの狂気はあやしまれないようにするための偽装なんだそうだ。」

 

「それはぼくもきいた。」と第三の生徒がささやくと、テーブルの一帯がひそやかにうなづきあった。

 

ハリーはこれにおもわず注意をうばわれた。

 

「ということは、」とハリーも声量をおとしてささやく。「つまりダンブルドアが裏で人をあやつっているとだれもが知っていると。」

 

その場の生徒の大半がうなづいた。ハリーのとなりの年上の生徒をふくむ一人か二人は急に思案するような顔になった。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と口にだすのをハリーはなんとか思いとどまった。

 

「なるほど!」とハリーがささやく。「だれもが知っているなら、だれにも秘密だとあやしまれないね!」

 

「そのとおり。」と生徒の一人がささやいたが、眉をひそめた。「いや、なにか変だな——」

 

自分へのメモ:七十五パーセンタイルまでのホグウォーツ生の集団、すなわちレイヴンクロー寮は、世界有数の天才児教育プログラムではない。

 

だがすくなくともハリーは今日重要な事実をまなんだ。コメッティーは万能である。()()が意味するのは……

 

ハリーは自分のあたまがこの見えすいたつながりにようやく気づいたことにおどろき、目をしばたたかせた。

 

……()()が意味するのは、自分のユーモアの感覚を一時的に変える呪文を身につけた時点で、自分は()()()()()()()おこせるようになるということだ。ただ、()()()()()()()()だけが自分にとって()()()()ふきだす程度におどろくようにおもえるようにしておいて、それからコメッティーを一杯飲めばいい。

 

ずいぶんはやく神の領域にたどりつけたものだ。いくらぼくでも、学校一日目よりはあとになるだろうと思っていた。

 

考えてみると、〈組わけ〉されてからわずか十分以内にホグウォーツを完全に台無しにしてしまったばかりでもある。

 

ハリーはそのことについては一定の後悔を感じてはいた——つぎの七年間の学校生活で、狂った総長からなにをされることかはマーリンのみぞ知る——が、かすかな誇らしさも感じずには()()()()()()()

 

明日だ。おそくとも明日までには〈闇の王〉ハリーにむかう道をすすむのはやめる。刻一刻とその展望がおそろしくきこえるようになってきた。

 

なのに同時に、なぜか魅力もましてきていた。こころのかたすみですでに手下の制服をイメージしてさえいる。

 

「食べろ。」ととなりの年上の生徒がうなり、ハリーのわきばらをつついた。「考えるな。食べろ。」

 

ハリーは無意識に、とにかく自分のまえにあるものを皿によそった。光る粒いりの青いソーセージだろうがなんだろうが。

 

「あの〈組わけ〉のとき、あなたはなにを考えて——」とパドマ・パティルが言いかけた。レイヴンクロー一年生の一人だ。

 

「食事中に質問はなし!」とすくなくとも三人が唱和した。「寮の規則だ。」と別の一人が言う。「そうしないと全員飢え死にするはめになる。」

 

ハリーは自分がさっきの巧妙な発想が()()()うまくいかないことを心底祈っていることに気づいた。コメッティーは()()()は現実を改変する万能のちからではなくてなにか別のやりかたで機能していてほしい。万能に()()()()()()わけではない。ただ、そのように機能する宇宙に自分が住むということが考えられないのだ。炭酸ジュースを巧妙につかうことによって昇格するというのはどこか()()()だ。

 

だが実験的にテストするつもりは()()

 

「そうだな。」ととなりの年上の生徒が愉快そうに言う。「きみみたいな人を強制的に食事させる方法だってある。どういう方法か知りたいか?」

 

ハリーはあきらめて青いソーセージを食べはじめた。けっこうおいしい。とくに光るつぶがいい。

 

夕食はおどろくほどのはやさで終わった。ハリーは目のまえの奇妙な食べ物すべてをせめて少量ずつは試食しようとした。好奇心ゆえ、なにかの味を()()()()()()でいるということは想像できない。これがひとつのものだけが注文できて、メニューにあるほかのすべてのものの味を知らないままでいなければならないレストランではなくてたすかった。ハリーはあれが()()だった。ほんのすこしでも好奇心のある人にとってはあれは拷問のようなものだ。ここにならんだ謎のうち一つだけを解いてみろ! ハハハハ!——みたいな。

 

そしてデザートの番になったが、ハリーは余力をのこすのを完全にわすれてしまっていた。彼はトリークルタルトのひとかけを試食したところであきらめた。きっとこのどれも、この一年のあいだにすくなくとももう一回はでてくるだろう。

 

さて学校で当然やることのほかに、やるべきことといえば?

 

やることその一:精神改変魔法を調査し、コメッティーをテストし、実際に万能になるための道すじを自分がみつけたのかどうかたしかめる。というより、手あたりしだいあらゆる精神魔法を調査する。精神は人類としてのぼくたちのちからの根源だ。精神に影響する魔法はすべてもっとも重要な魔法だ。

 

やることその二:というよりこれがその一でさっきのはその二だ。ホグウォーツ図書館とレイヴンクロー図書館の書棚をひととおりチェックし、つかいかたに慣れておき、全冊のせめてタイトルくらいは読んでおく。二巡目では、全冊の目次を読む。自分よりずっと記憶力のいいハーマイオニーと協力する。図書館間貸借システムがホグウォーツにあるかどうか調べ、ふたりが、特にハーマイオニーが、ほかの図書館にいけるかどうかも調べる。ほかの寮が内部に図書館をもっているなら、そこに合法的にもしくはこっそりと入る方法をみつける。

 

オプションその三・A:ハーマイオニーに口外しないよう誓わせ『スリザリン カラ スリザリン ヘノ アイサツ:ワガ 秘密ヲ シリタケレバ、ワガ 蛇ニ キケ』の調査をはじめる。問題点:これはかなり極秘っぽいし、ヒントがはいった本に偶然いきあたるのは、ずいぶんあとのことになるかもしれない。

 

やることその〇:そういうもの存在すると仮定してのことだが、情報検索呪文について調べてみる。図書館魔法は究極的には精神魔法ほど重要ではないが優先度がずっと高い。

 

オプションその三・B:ドラコ・マルフォイが秘密をまもるよう魔法的に強制するか呪文か、秘密をまもるとドラコが約束したときにそのことを魔法的に検証する方法(〈真実薬〉? )をさがす。そして彼に()()()()()()()()()()()()()()()()()……

 

正直に言って……オプション三・Bについてはかなりいやな予感がする。

 

考えてみれば、オプション三・Aについてもあまりいい予感はしない。

 

ハリーの思考はおそらくいまのところ人生最悪といえるあの時間、〈帽子〉のしたでのあの長い恐怖の数十秒間にまいもどる。あのとき自分は失敗してしまったと思い、数分時間をまきもどして、手おくれになるまえになにかを変えたいと願った……

 

そして結局はさほど手おくれではなかったということがわかった。

 

願いはかなった。

 

歴史を変えることはできない。だが最初からただしくすることはできる。()()()()ちがうやりかたでやればいい。

 

スリザリンの秘密の解明に関するこのすべては……数年後になれば、ふりかえってみて「ものごとがおかしな方向にすすみはじめたのは()()()()だった。」と言いたくなりそうなことに見えてしかたがない。

 

そして時間をさかのぼってちがう選択をする能力があればと必死で願うのだ。

 

願いはかなった。さあどうする?

 

ハリーはゆっくりと笑みをうかべた。

 

どうも()()()()()()考えかただ……けれど……

 

でもそうすることは()()()。していけない理由はない。つまり、あのささやき声をそもそも聞かなかったことにすることは()()()。あの決定的な瞬間がおこらなかったかのようにして、宇宙をそのままあゆませつづければいい。二十年後の自分は、二十年前にそうであったならと願うだろう。そして二十年後の二十年前はいまなのだ。遠い過去を改変するのは簡単だ。そのぶんだけ先まわりして考えればいいだけだ。

 

あるいは……これは()()()直観的でないが……このことを、ドラコ()ハーマイオニーではなく、そうだな、たとえば()()()()()()()()あたりに知らせてもいい。そうして有能な人を何人かあつめてもらって、あの呪文の小細工を〈帽子〉からとりのぞいてもらうことができる。

 

おっと、これは。これはひとたび()()()みると()()()()妙案のように思えた。

 

あとから考えるとあたりまえの案だが、なぜかさっきは、オプション三・Cとオプション三・Dをまったく思いつかなかった。

 

ハリーは対〈闇の王〉ハリー計画に成功した自分にプラス一点を進呈した。

 

〈帽子〉がしかけたいたずらは非常に残酷だったが、帰結主義的な観点からみた成果には反論できない。たしかに被害者の視点が以前よりよくわかるようになった。

 

やることその四:ネヴィル・ロングボトムに謝罪する。

 

よし。いい感じだ。この調子でいこう。『日々あらゆる面でぼくはますます〈光〉のがわにひきよせられていく』……〔訳注:エミール・クーエの自己暗示法〕

 

この時点でハリーのまわりはほとんど食べるのをやめていた。デザートの器と、使用ずみの皿が消えはじめた。

 

すべての皿がなくなると、ダンブルドアがまた席から立ちあがった。

 

ハリーはコメッティーをもう一杯のみたくなる衝動を感じずにはいられなかった。

 

冗談はやめてくれ——とハリーは自分のその部分にむけて思考した。

 

でも実験は再現しないかぎり意味がないだろう? 損害はすでにだしてしまっただろう? ()()()どうなるかみたくないか? それに()()はないか? ちがう結果になったりしたらどうする?

 

やあ。きっときみはネヴィル・ロングボトムへのいたずらをやらせた部分のぼくの脳とおなじやつだな。

 

うーん、そうかもしれないけど?

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということが、どうしようもなく()()()()()()()()()()()

 

うーん……

 

うん。じゃあ、なしね。

 

「オホン。」とダンブルドアは演台にたって言い、銀色のながいひげをなでた。 「みながたっぷり食べて飲んだところで、もう一言。学期のはじまりにあたって、諸君にいくつか告知がある。」

 

「どの生徒も校内の森へ立ち入りは禁じられている。このことを一年生はおぼえておくように。 だからこそ〈禁断の森〉とよばれているのであって、もし許されているなら〈許容の森〉という名前になっているところじゃ。」

 

そのまんまだ。 ()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「もうひとつ、管理人ミスター・フィルチからの伝言で、授業と授業のあいだは廊下で魔法をつかうべきではないとこころしてもらいたい。残念ながら、『どうすべきか』と『どうであるか』とがふたつのことなる概念であることは周知のとおり。このことはどうか忘れぬようにしてもらいたい。」

 

えっ……

 

「クィディッチ選手の選考会はこの学期の第二週におこなわれる。自分の寮のチームに参加したい者はマダム・フーチに連絡しなさい。クィディッチのすべてを改革したい者はハリー・ポッターに連絡しなさい。」

 

自分のつばをのみこんでしまってせきこんだところで、ハリーに全員の目がむけられた。 ()()()()どうやって! ダンブルドアと一度も目はあわせていない……と()()。 そのときにもクィディッチのことを考えていなかったのはまちがいない! このことはロン・ウィーズリー以外のだれにも話していないし、ロンがほかのだれかに話すとも思えない……いや、ロンが先生のだれかにかけこんで報告したとか? ほんとうに()()()()()……

 

「さらに今年はもう一点言っておかなければならない。三階の右通廊は、痛いたしい死をむかえたい者以外は立ち入り禁止じゃ。この通廊には複雑で危険で命にかかわりうる罠がしかけられており、とくにまだ一年生の諸君は、とおりぬけられるのぞみはない。」

 

ハリーはこの時点で感覚が麻痺していた。

 

「そして最後に、クィリナス・クィレルが勇敢にもホグウォーツで〈闇の魔術に対する防衛術〉を教えることに同意してくれたことにこころから感謝する。」ダンブルドアの視線がするどく生徒全体をみわたした。「生徒諸君はこの特別な奉仕をしてくださるクィレル先生に対して、礼儀ただしく()()()接してもらいたい。先生に関する()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ようにしてもらいたい。()()()彼のかわりに仕事をしようと言うのでないかぎりは。」

 

いまのは何が言いたいんだ?

 

「それでは着任したクィレル先生から一言あるそうなので、発言の機会をゆずる。」

 

〈リーキー・コルドロン〉でハリーがはじめて目にした、わかい、やせた、神経質そうな男が、ゆっくりと演台にむかって、おびえたように全方向をみまわしながらあるいていった。ハリーが後頭部をちらりとみたところ、クィレル先生は一見わかそうに見えるのに、もうはげはじめているようだった。

 

()()()はどうかしたのかな。」とハリーのとなりの年上らしい生徒がささやいた。テーブルのまわりのほかの場所でも、おなじような意見が小声でかわされた。

 

クィレル先生は演台にたどりつき、目をしばたたかせながらそこにたった。「えー……。えー……」 クィレル先生は勇気がすっかりくじけてしまったようで、ときどきびくりとしながら彼は沈黙したままそこにたった。

 

「こりゃあいい。」と年上の生徒がささやく。「どうやらまた()()()一年の〈防衛術〉の授業になりそうだ——」

 

「少年少女生徒諸君、こんにちは。」クィレル先生がかわいた、自信にみちた口調で言う。「みな知っているように、この職に応募した者に関してホグウォーツはとある()()にみまわれている。今年のわたしにどんな破滅がやってくるのだろうと考えている諸君もおおいだろう。その破滅がわたしの無能さではないことは保証しよう。」彼はかすかに笑った。「信じられないかもしれないが、わたしは長年、ここホグウォーツ魔術学校で一度〈闇の魔術に対する防衛術〉教授をつとめたいと願ってきた。この授業を最初にうけもったのはサラザール・スリザリンそのひとだ。おそくとも十四世紀には、あらゆる流派の偉大な魔法戦士がこの教育職をつとめておくことがひとつの慣例になっていた。過去の〈防衛術〉教授には伝説的な流浪の英雄ハロルド・シェイだけでなく(引用)不死(引用終わり)のバーバ・ヤーガもいる。ああ、死後六百年がたってもいまだに諸君のなかにはその名前にみぶるいする者もいるようだ。あの時代はホグウォーツでまなぶのにはおもしろい時代だった。そう思わないか?」

 

ハリーはクィレル先生が話しはじめたときに自分をおそった突然の感情の波をおしこめようとして、ごくりとつばを飲みこんだ。その精密な口調は非常につよくオクスフォードの講師をおもわせた。そのことでハリーは痛感して、自分はクリスマスまで自宅もママもパパもみることができないということに気づいたのだった。

 

「諸君は〈防衛術〉教師が無能、ろくでなし、不運な人物であることに慣れている。歴史を知る者にとって、この職の評価はまったく異なる。ホグウォーツでこの職についた人物すべてがもっとも有能ではなかったが、もっとも有能な人物はすべてこの職についた。偉大な先人たちのあとをつぐため、そしてこの日をこれだけ待ちわびたからには、完璧といえる水準に達しなければわたしは自分を恥じるだろう。諸君全員が今年をいままでで()()()〈防衛術〉授業であったと記憶するようにするつもりだ。わたしのまえとあとの教師がだれであれ、今年諸君がまなぶことは〈防衛術〉のたしかな基礎として永遠に役立つだろう。」

 

クィレル先生の表情が真剣になった。「われわれはすでに()()()量の損失をこうむっている。一方でとりもどすための時間はあまりない。したがってわたしはホグウォーツでの教育の慣習からいろいろな点で逸脱するとともに、選択式の課外活動も導入するつもりだ。」彼は一旦話しやめた。「もしそれで不十分なら、諸君を動機づけるための新しい方法をみつけることもできる。諸君はわたしの待望の生徒だ。諸君は()()でわたしの待望の〈防衛術〉授業にいどむ()()()()()。ここで『もしひどく痛めつけられたくなければ』といったおそろしげな脅迫をつけくわえてもいいが、それでは陳腐すぎる。そう思わないか? わたしはもうすこし想像力のある男だと自負している。以上。」

 

すると活力と自信がクィレル先生から流れおちていくように見えた。まるで突然こころがまえのないまま観客のまえに立たされたかのようにして口をぽかんとあけ、痙攣(けいれん)して向きをかえ、足をひきずりながら席にもどった。そこでからだをまるめ、まるで自分のうえにたおれこんで内破してしまうかのようにした。

 

「あの人はすこし変だね。」とハリーがささやいた。

 

「いや……」と年上らしい生徒が言う。「あんなのまだまださ。」

 

ダンブルドアが演台にもどった。

 

「それでは就寝のまえに、この学校の校歌をうたう! 各自好きな音程と歌詞をえらんで、はじめ!」

 

◆ ◆ ◆

 

原作品の著者:J. K. Rowling

ファンフィクションの著者:Eliezer Yudkowsky

 




今回の非ハリポタ用語:「図書館間貸借システム」
利用者の申請に応じて、ある図書館に所蔵されていないが近隣の別の図書館に所蔵されている本を融通する制度。日本の場合、大学同士や地域内の図書館同士でやっているらしい。略称ILL。

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