「だがそれなら問題は——だれなのか?」
「ハリー、あなたにここに来なきゃいけない責任はないっていうことは覚えておいてね。」
「わかってるよ、ママ。」
「家にかえりたかったら電話して。すぐにむかえにくるから。」
「わかったよ。」
ペチュニア・エヴァンズ゠ヴェレスは車のバックミラーからハリーのほうを見ていた。まるでハリーの考えは簡単に読めていて、その内容に困っているというように。今日までの数週間は、かなりの大騒ぎだった。ハリーはまずお母さんのわずかな魔法の実体験を問いただし(「ママ、ママが考えたことや読んだことはいいから
あきらかになんらかの組織的な力によって、
おとといになってやっと、もう一通の手紙が家にとどいた。 マクゴガナル先生からの手紙で、学校用品を買いにいくために合流する時間と場所が指定されていた。 そしてこの朝、ハリーはママの運転する車にのせられてロンドンにきた。 ママはめずらしく口数がすくなく神経質な様子だ。 きっとハリーがわるい第一印象をあたえることを心配しているからだろう。だが、魔法世界への招待をだいなしにしかねないトラブルは起こすまいとハリーはこころに決めていた。 この数週間で確認されたことがあるとすれば、ハリーは謎があることを知ってからそれを解決せずにいられない性分だということだ。 これ以上魔法のことを知らずに人生をすごすことを思えば……どんな科学の分野を研究しようとしても、ハリーが垣間みた真の現実を思いうかべれば、とても手につかなくなるだろう。
書かれていたとおりの住所に到着すると、お母さんは店のならびのわきに駐車した。 ハリーは車からおりてあたりをみわたし、お母さんは車の窓をしめた。
ペチュニアはいったんとまってから「ええと……」と言って歩道のあちこちを見た。「マクゴナガル先生は見あたらないけれど……まだ時間になっていないものね。お店はどこにあるのかしら? 名前は〈
ハリーはゆっくりとおおまわりして、道ぞいにならぶ店をみまわした。どの店も
「え?」とお母さんはよくわからないようすでハリーがさした方向を見た。「どこかに先生がいた?」
ハリーはもういちどゆびさし、それをやめてママを見て、また
「どういう意味? 裏手の道のこと?」
「見えない。そこにパブがあるっていうの?」
ハリーは電気が脊髄をかけのぼるのを感じ、もう我慢できなくなった。 車のまえを通りすぎようとするカップルに近づいていって、「すみません、ちょっと度のあわないめがねをかけてしまって、看板がよく見えないんです。右から左にひとつずつ読んでもらえませんか?」と手でさした。
男はけげんな顔をしたが、女は名前を読みあげはじめた。その人が本屋とレコード屋の名前を読みあげ、〈リーキー・コルドロン〉をとばしていくあいだ、ハリーはその目をながめていた。 その位置にさしかかったところで、女性の視線はただなにも認識することなく、それていくように見えた。
「たすかりました。」ハリーはお母さんのところにもどり、片足から片足に体重を移動して神経をつかいながら、車のよこからパブの様子を見た。 「ママだけじゃない。あの人たちにも見えないんだ。」 これだ。小さいながらも、自分がほかの人とちがうという証拠だ。 もう慣れはじめたふらつきの感覚に襲われ、ハリーのあたまのなかにこの隠蔽のしくみを説明するさまざまな可能性がうかんできた。 石をパブの窓になげたらどうなるだろうか。 ガラスが急に道ゆく人にも見えるようになるのだろうか。 そう思うと、はやくパブにかけこんで、お母さんがどう知覚するかを実験したくてたまらなくなる。
魔法使いたちがこういうことをできるなら、本がみつからなかったのも無理はない。 こうなると、魔法世界の記録を隠すのに大それた陰謀はいらなかったのかもしれない。 魔法を使えない人は、そもそもその本を見ることができないとしたら? これまでの人生でも無意識のうちに、自分はほかの人に見えないものを見たことがあったのだろうか。 もしかすると、ほかにも安全装置がついているのかもしれない。たとえば、店の名前も知っている必要があるとか——
「おはようございます、ミスター・ポッター。」
ふりかえって見るとマクゴナガル先生がいた。魔女的な気品につつまれ、通りすがりの人のいぶかしむ視線をまったく意に介していない。
「おはようございます。ママに〈リーキー・コルドロン〉が見えないのはなぜですか?」
「マグルに気づかれないようにするための魔法がかけられているからです。」 先生はお母さんのほうをむいた。 「おはようございます、ミセス・エヴァンズ゠ヴェレス。お待たせしてすみませんでした。」
「いえ、わたしたちもついたばかりです。」 ペチュニアはハリーのほうをふりかえった。これまでとかわらず神経質なようすだ。 「夜にむかえにくるから。いい子にしなさい、ハリー。」
ペチュニアはさよならのキスをし、車で去った。ハリーはそれをみおくり、マクゴナガル先生のほうをむいた。「『マグル』とはなんですか?」
マクゴナガル先生のくちびるがぴくりとうごいた。 「よく来てくれました、ミスター・ポッター。マグルとは魔法力のない人のことです。ではいきましょうか?」
ハリーはあとを追ってパブにむかった。 「それならパパはマグルですね。でもママも? 魔女の妹がいたなら、家系的に多少の魔法力があるのでは?」
「いえ、そうではありません。両親がマグルなら彼女もマグルです。」 マクゴナガル先生は簡潔なスコットランドなまりの声で説明した。 「あなたがいま考えているものは『スクイブ』と呼ばれています。魔女か魔法使いの子でありながら、かわいそうに魔法をつかえない人のことです。スクイブも多少の魔法的な事物を感知したり魔法の道具をつかったりといったことはできます。」
ハリーはこの情報を自分の遺伝学の理解にてらしあわせようとしていたが、その途中で〈リーキー・コルドロン〉にはいったので、注意がそがれた。 はいるときになにか特別なことがおこっていないか、首をまわしてみたが、不可視の結界がおりてくる雰囲気はなかった。道のがわでは、ふたりの人が消えるのに気づいた人はだれもいないようだった。
パブのなかはやや暗く、内装は粗末だった。暗がりに木のテーブルがあいだをおいておかれ、奥のかべ一面に汚れたバーがある。 客は十数人で、とりどりの色のローブを着ている人が大半。
「こんにちは、マクゴナガル先生。」とバーテンダーが笑顔で言った。
「こんにちはトム。」
「いらっしゃい。今日はなにを——これはこれは。」とバーテンダーはハリーのほうをのぞきこみ、ハリーのひたいに注目する。「この子は……まさか……?」
ハリーは〈リーキー・コルドロン〉のバーにできるだけもたれかかった。といってもバーはハリーの眉毛のさきあたりまでとどく高さだったのだが。 こういった質問には最高の自分で対応しなければいけない。
「もしかしてわたしの——いや——たぶん——ことによると——しかしもしや——だがそれなら問題は——だれなのか?」
「……なんということだ。」 店主は小声で言う。「ハリー・ポッターがこの店に……光栄です。」
ハリーはまばたきをしてから、反撃した。「ああ、うん。なかなか鋭いね。たいていの人にはこれほどはやく気づかれないんだが——」
「そこまで。」と言ってマクゴナガル先生がハリーの肩を強くつかみ、裏口のほうにおしはじめた。「この子をからかわないで、トム。まだそういったことに慣れていないんですから。」
「でもその子が……?」とバーのまえに座っていた年配の女性が声を震えさせた。「ハリー・ポッターなの?」 椅子を引いて音を出しながら立ちあがる。
「ドリス——」とマクゴナガルが警告するように言った。そのにらみによってその女性以外のほとんど全員がつぶやいたりながめたり以上のことはできなくなった。腰をあげる途中で停止した人もいた。
「握手くらいさせて。」と小声で言うと、その女性はかがんで、しわのあるやわらかい手をつきだした。ハリーはこれまでの人生で最高に困惑し居心地のわるさをかんじながら、おそるおそる握手した。なみだが女性の目から握った手へとおちた。 「わたしの孫は〈闇ばらい〉の仕事をしていて、」と彼女はハリーにささやいた。「七十九年に死にました。ありがとうハリー・ポッター。ほんとうにどうもありがとう。」
「どういたしまして。」とハリーの口がかってに言った。ハリーはおどろいたような、お願いするような視線をマクゴナガル先生におくった。
ほかの人もまた二人に近寄ろうとし、マクゴナガル先生は足で地面をたたいた。 そのときの音はハリーにとって『最後の審判』という言葉のあたらしい参照点となった。ほかの客は全体としてなだれになりかけたところで、またかたまった。
「先を急ぎますので。」とマクゴナガル先生がおちついた声で言った。
二人はすんなりとバーをあとにした。
そとに出たところで「マクゴナガル先生?」とハリー。二人は高い煉瓦の壁で四方をかこまれた中庭にいた。そして、あれはなんだったのかと聞くつもりが、気がつくとなぜかまったく別の質問を口にしていた。 「あの店のすみっこにいた、青じろい人は誰ですか? 目をぴくぴくさせながら席に座りこんでいた人ですが。」
「あら?」 マクゴナガル先生はすこしおどろいたようだ。おそらく彼女もこの質問を予想していなかったのだろう。 「あれはクィリナス・クィレル先生です。ことしホグウォーツで〈闇の魔術に対する防衛術〉を教えることになっています。」
「あの人を知っていたようなとても変な感覚がある……」ハリーはひたいをこすった。「それにあの人とは握手してはいけないという変な感覚が。」 まるで以前友だちだった人が大きくかわってしまったような……いやそれもちがう。どう表現していいかわからない。 「それでさっきの……さわぎはなんだったんですか?」
マクゴナガル先生はおかしな目線をハリーにおくった。 「ミスター・ポッター……ご両親の死についてですが、どのくらい聞かされていますか?」
ハリーはじっと視線をかえした。 「ぼくの両親は健在ですのでよろしく。ぼくの
「感心すべき忠実さです。」 マクゴナガル先生は声をひそめた。「ただそのように言われるとつらいのです。リリーとジェイムズはわたしの友人でした。」
ハリーは急に恥ずかしくなり目をそらして、小声で言った。 「すみません。でもぼくにはもうママとパパがいます。その現実と……自分の想像でつくった完璧ななにかとをくらべても、自分を不幸にしてしまうばかりですから。」
「たいへん賢明な考えかたです。」とマクゴナガル先生はしずかに言う。「けれどあなたの生みの親はあなたを守って立派に死んだのです。」
ぼくを守って?
ハリーの心臓がなにか変なものにつかまれた。 「つまり……自動車事故ではない? ほんとうは
マクゴナガル先生はためいきをついた。杖がハリーのひたいをたたき、視界がいっしゅんぼやけた。 「目くらましの一種です。あなたに用意ができるまで、もうああいうことがおこらないように。」 そして杖がまた飛びだし、煉瓦の壁を三回たたくと……
……そこに穴が生まれ、振動しながら広がって巨大なアーチ門となり、そのむこうに歩道が見えた。 ずらりとならぶ店にはほんものの大釜、『ドラゴンの肝』などの看板がはっきりと見え、店みせのあいだを魔法使いと魔女がせわしなく行き来している。あざやかな色の小さなローブをきた子どもをつれた人もいる。
ハリーはまばたきしなかった。これはだれかがネコに変身するのとはわけがちがう。
「ミスター・ポッター、ダイアゴン小路へようこそ。」
そして二人はいっしょに、魔法世界へと歩きすすんでいった。
この場所こそ、魔法による隠蔽方法がいかに効果的かをみごとに示している、とハリーは思った。 ロンドンのシティ区に、住民からまったく知られないまま、まがりくねった長い通りがまるごとひとつ存在する。強力な魔法か高度の政治的合意でもなければ、このような場所を飛行機や人工衛星からかくすことはできない。 こちらにはバウンス・ブーツ(「フラバー本革!」)のよびこみが。あちらには見たものをすべて緑にしてしまうゴーグルが、緊急脱出用シートがついた各種の肘掛け椅子が。一階建てや二階建のたてものもあるが、何階もあってあたかも磁石でくっつけられたようにおかしな構造の建物もある。
ハリーのくびはまわりつづけ、胴体から抜けおちてしまいそうなくらいだった。 ダンジョンズ・アンド・ドラゴンズの上級ルールブックの魔法アイテム欄のなかを歩いているような気分だ(ハリーにはこのゲームをする相手がいなかったが、ルールブックを読んで楽しむことはあった)。 売りもののどれかが、願いをかなえられる呪文を無限につづけるループを完成させるのに必要な三アイテムのうちの一つであったりするかもしれない、だからなにひとつ見のがすわけにはいかない、とハリーは必死だった。
そこでハリーはなにかを目にして、なにも考えないままマクゴナガル先生のそばをはなれ、青い煉瓦に銅色のふちの店構えをした店にまっすぐと向かった。 ハリーをやっと現実にひきもどしたのはマクゴナガル先生の声だった。
「ミスター・ポッター?」
ハリーはまばたきをし、そしていま自分がなにをしたのかに気づいた。 「すみません! いっしょにいるのが家族でなく先生だということを一瞬わすれていました。」 ハリーは手ぶりで店の窓をさした。そこには距離があるものの刺すように明るい炎の文字装飾つきで『美書・ビグバム書店』という名前がでていた。 「はいったことのない本屋にとおりかかったときは、はいってチェックしないといけない。これがうちの家訓なんです。」
「これほどレイヴンクロー的なことははじめて聞いたわ。」
「え?」
「なんでもありません。最初の目的地はグリンゴッツ。魔法世界の銀行です。 あなたの生みの親の一族の金庫とあなたにのこされた遺産がそこにあります。 学校用品を買うのに必要になりますから。」 彼女はためいきをついた。 「それに、ある程度の金額までであれば本代につかうことも許されるでしょう。 しばらくあとにしたほうが賢明だと思いますが。ホグウォーツには魔法の分野に関してはかなり大きな図書館があります。 ある塔には専用図書室があり、もっといろいろな分野の本があります。わたしが見るかぎりあなたはその塔に住むことになりそうです。いま本を買っても、おそらく重複になるでしょう。」
ハリーはうなづいて、二人はまた歩いた。
「いまのはいい横道でしたから、勘違いしてもらいたくないんですが。」と言って、ハリーはくびをまわしつづけた。 「おそらくぼくがそらされたことのある横道のなかでいちばんよかった。でもぼくがさっきの議論をわすれたとは思わないでくださいね。」
マクゴナガル先生はしばらく無言だった。 「ご両親が——すくなくともお母さんが——あなたに教えるのをひかえたのはおそらく賢明でした。」
「つまりぼくにはおめでたい無知のままでいてほしいと? その計画には穴がありますよ、マクゴナガル先生。」
「不毛でしょうね。」と魔女は声をしぼって言う。 「道ばたのだれかに頼むだけでその話をしてもらえるとあっては。よろしい。」
そして彼女は〈名前をいってはいけない例の男〉、別名〈闇の王〉、ヴォルデモートの話をした。
「ヴォルデモート?」とハリーは小声で言った。笑わせられてもおかしくなかったが、そうではなかった。感じたのは、冷たい感覚、残酷さ、ダイアモンドのような透明さ、肉にふりおろされのめりこむ純チタンのハンマーだった。 その言葉を口にだすと寒けがハリーのからだをかけぬけた。その瞬間からハリーは〈例の男〉など安全な用語をつかうことにした。
〈闇の王〉は魔法世界側のブリテンで狂ったオオカミのように大暴れして、人びとの生活をずたずたに引きさいた。 他国はそれに気をもんだが、利己主義にせよ単なる恐怖からにせよ、介入はしたがらなかった。抵抗する最初の国がどれであったにせよ、〈闇の王〉の狂行のつぎの標的になっただろうから。
(傍観者効果だ、とハリーは思った。ラタネとダーリーの実験によれば、
〈死食い人〉は〈闇の王〉の後追いであり、斥候であり、傷ぐちをつつく死肉あさりのハゲワシであり、獲物をかみつき衰弱させるヘビだった。 〈死食い人〉は〈闇の王〉ほど恐ろしくはなかったがやはり恐ろしく、数が多かった。そして〈死食い人〉の武器は杖だけではなかった。 陣営のなかには裕福な者、政治力のある者、脅しに使える秘密を持つ者がいて、陣営をまもるために社会を麻痺させることができた。
年配の高名な記者であるヤーミー・ウィブルが、増税と徴兵をうったえた。多数が少数におびえるのはばかばかしいとさけんだ。 翌朝、ウィブルの皮膚、ただ皮膚だけが、彼の妻と娘ふたりの皮膚といっしょに、報道室のかべにくぎで打ちつけられたのが見つかった。 だれもがもっとなにかできればと思ったが、さきに立って提案しようとする者はいなかった。 めだてば、つぎの見せしめにされるからだ。
ジェイムズ・ポッターとリリー・ポッターがそのリストの最上位にかけあがるまでは。
そして杖を手にして死のうとも二人は自分たちの選択を後悔しないつもりだったかもしれない。二人は英雄だったからだ。 だが、二人には生まれたばかりの息子ハリー・ポッターがいた。
ハリーの目になみだがうかんだ。ハリーは下手をするとやりすぎなほどに強く涙をぬぐった。 二人のことをぼくはほとんど知らない。二人はいまぼくの両親ではない。二人の死をこんなに悲しんでも意味がない……
ハリーはマクゴナガル先生のローブに顔をうずめて泣いたあと、顔をあげて、そこに見えた目にも涙がうかんでいるのをみて少し楽になった。
「それでなにが起こったんですか?」と震える声でハリーが言った。
「〈闇の王〉はゴドリックの谷にきました。」と小声でマクゴナガル先生が言った。 「あなたたち一家はかくまわれているはずでしたが、誰かがうらぎりました。 〈闇の王〉はジェイムズを殺し、リリーを殺し、さいごにあなたのベッドにきました。 〈死の呪い〉をあなたにかけましたが、そこで話が終わりました。 〈死の呪い〉は純粋な憎悪でつくられ、魂に直接あたり、魂をからだからはがします。 防ぐ方法はなく、あたった人はつねに死にます。 なのにあなたは生きのびた。これまで生きのびた人間はあなただけです。 はねかえった〈死の呪い〉が〈闇の王〉にあたり、あとには彼の燃えつきた遺体とあなたのひたいの傷あとだけがのこりました。 恐怖の時代は終わり、わたしたちは自由になりました。 あなたを『死ななかった男の子』と呼んだり、ひたいの傷あとを見たがったり、握手しようとしたりする人がいるのはそのためです。」
なげきのあらしはハリーをかけぬけおえ、涙はつきた。ハリーはもう泣かない。
(そしてハリーのこころのすみのどこかに小さな、小さな困惑の兆候、その話はどこかおかしいという感覚があった。 そんな小さなことも見おとさないのはハリーの特技のはずだったが、いまは気が散ってしまっている。合理主義者としての技量がもっとも必要になるときほどそのことをもっとも忘れやすいというのは悲しい法則だ。)
ハリーはマクゴナガル先生から距離をおき、 「すこし……考えさせてください。」と抑制したつもりの声で言った。ハリーは自分の靴をながめた。 「その。二人のことを『ご両親』と呼びたければどうぞ。『生みの親』とかいう必要はありません。お母さんとお父さんが二人ずついてはいけないという理由はなさそうですから。」
マクゴナガル先生はなにも言わなかった。
道ゆく魔法使いたち、魔女たち、子どもたちのあいだを抜けていきながら、二人は無言で歩いた。
原作品の著者:J. K. Rowling
ファンフィクションの著者:Eliezer Yudkowsky
編集・加筆:Daystar
今回の非ハリポタ用語:「反証可能性」
仮説にもとづく予測をして、予測の結果によって仮説がただしかったかまちがっていたかを判断できるようになっているかどうか。予測をせず、「あなたがいままで不幸だった原因は実は……」などとあとづけで説明をつけるやりかたは反証可能性がない。