「でも総長……」と言ってハリーは自分の絶望的な気分をいくらか声にこめた。「ぼくの全資産を金庫いっぱいの金貨にしたまま多様化しないなんて——狂っていますよ! 言ってみれば、権威ある専門家に相談せずに
しわのはいった老魔法使いの顔は——そのうえにあるクリスマス用の帽子の、緑と赤の布製の自動車が二台正面衝突したような、にぎやかな意匠と対照的に——暗く悲しい表情でハリーを見つめている。
「すまない。ほんとうに申し訳ないが、きみが自分の財産を管理してよいことにすると、あまりにも自由な行動を許すことになってしまう。」
ハリーは口をあけたが、声がでない。 文字どおり、ことばにならない。
「クリスマスプレゼント用に五ガリオンを引きだすことは許そう。きみのような年齢の男の子がする買い物にしては高額すぎるとはいえ、これなら脅威となる心配はない——」
「
「操作?」と言って老魔法使いはわずかに笑みをうかべた。「いや、操作するつもりなら、白状するわけがなかろう。あるいは、裏の目的を隠して言いつくろったというだけのこと。 これはなにもややこしいことではない。 ハリー、きみはまだゲームに参加する準備ができておらん。そんなきみに、ゲーム盤を混乱させてしまいかねない何千ガリオンものおかねをわたすのは、愚かしい。」
ダイアゴン小路の明るい喧騒はクリスマスが近づくと、百倍、二百倍になり、どの店もみごとな魔法の光や火花でうめつくされ、まるでクリスマスらしさが暴走して燃えあがり、あたり一帯をお祭り用のクレーターに変えてしまいそうな勢いだった。 どの通りも魔女と魔法使いでいっぱいで、みなの服ははなやかで
その明るくにぎやかな雰囲気にかこまれて、ぽつりと漆黒の夜の冷たく暗い一点があり、はげしい人通りを排して数歩分の空間をつくっている。
「ない。」と強い嫌悪の表情でクィレル先生が言った。ひとくち食べたものの味が悪かっただけでなく、倫理的に耐えがたいので吐きだしたい、というような態度だ。 ふつうの人なら、ひとくち食べたミートパイが腐っていて、具に子猫の肉がはいっているのに気づいたときのような表情だ。
「そんな。なにかひとつくらい思いつくでしょう。」とハリーが言った。
「ミスター・ポッター。」と言ってクィレル先生はくちびるを細くむすんだ。「わたしが引きうけた役目は、保護者の代役としてきみを買い物に引率することだ。 プレゼントを考える手つだいをする役目ではない。 クリスマスをする習慣はないものでね。」
「ニュートンマスはどうですか?」と明るくハリーが言う。「アイザック・ニュートンの誕生日はほんとに十二月二十五日なんです。某歴史上の人物とはちがって、これは単なる通説じゃありませんよ。」
クィレル先生は興味を示さなかった。
「とにかくですね、ぼくはフレッドとジョージに
クィレル先生は思案するように鼻をならした。 「ならば、二人が家族のうちでだれを一番嫌悪しているかをきいて、それから暗殺者をやとうのはどうだ。 とある亡命政府に仕えている有能な人物を知っている。ウィーズリーの暗殺なら、何人か依頼すればセット割引きをしてくれるぞ。」
「この冬、」と言ってハリーは低い声をだす。「あなたのお友だちに最適のクリスマスプレゼントは……
それを聞いてクィレル先生は笑みをうかべた。目も笑っていた。
「まあ、さすがにクィレル先生でも、ペットにどうぞ、と言ってネズミを贈れとまでは——」 ハリーはぴしゃりと口をとじた。ネズミという一言が口から出るかどうかの時点で後悔した。
「なんのことだ?」
「いえ。長くてくだらない話です。」 なぜか、この話はしないほうがいい気がした。ビル・ウィーズリーが回復せず、すべてもとどおりにならなかったとしても、クィレル先生なら笑ってしまいそうな気がするからだろうか……
それにこの話を知らないなんて、クィレル先生はどこに行っていたのだろう? てっきり、ブリテン魔法界の住人は全員知っている話だと思っていた。
「これはですね、
こういうことを売り込むにはこつがあるものだ。
またしばらく歩きつづけたあと、クィレル先生が口をひらき、不愉快さをしたたらせるような声をだした。 「ウィーズリー兄弟の杖はどちらも中古だ。 これなら二人は以後魔法を使うたび、きみの寛大さを思いださせられるだろう。」
ハリーは思わず興奮して手をたたいた。 オリヴァンダーの店に前払いして、返金はことわるように言っておけばいい——いや、それより、つぎの学年がはじまるまでにウィーズリー兄弟がこなかったら、ルシウス・マルフォイにプレゼントするように言っておけばいい。 「それは名案ですね!」
クィレル先生は賞賛されても不本意そうだった。 「そういう趣向でなら、クリスマスを許容してやってもよい。かろうじてだが。」 と言ってクィレル先生はわずかに笑みをうかべた。 「だがいまの案には十四ガリオンかかるな。きみには五ガリオンしかないぞ。」
「たった五ガリオン。」と言ってハリーはフンと鼻をならした。「総長はぼくがだれだと思ってるんでしょうね?」
「おそらく、きみの才能が資金調達にふりむけられたとき結果として生じうる事態の深刻さに、総長は思いがいたっていないのだろう。 直接的な脅迫をするより、ここは負けておくのが賢明だと思うがね。 ところで参考までに、ミスター・ポッター、きみが子どもっぽい
「一番簡単なのは、ドラコ・マルフォイから借金することでしょうね。」
クィレル先生はみじかく笑った。「冗談はよしてもらいたい。」
「あれだけきちんと数えたのだから、あの五ガリオンで間にあってほしいものだ。 今回の失態がばれれば、総長は二度ときみの金庫の鍵をわたしにあずける気にはならないと思う。」
「できるかぎりのことはしていただいたと思います。」とハリーは深い感謝をこめて言った。
「それだけの量のクヌートだ。安全な保管場所を探すのを手伝ってほしいか?」
「そうですね、すこし。クィレル先生は、よい投資案件をごぞんじだったりしませんか?」
二人はまた小さな球形の沈黙と隔離の空間をつれて、活気にあふれた人通りのなかを歩きはじめた。 目をこらして見れば、二人が通りすぎた背後では、青あおとした枝がしおれ、花がしぼみ、子どものおもちゃがだす軽快な音が不吉な低い音色へと変わっていくのがわかる。
ハリーもそれに気づいていたのだが、口にはせず、一人ほほえんだ。
祭日の祝いかたはひとそれぞれだし、いじわるグリンチだってサンタとおなじ、クリスマスの一部だ。
原作品の著者:J. K. Rowling
ファンフィクションの著者:Eliezer Yudkowsky