「世界征服という言葉は響きがわるい。世界最適化というほうがぼくの好みです。」
グリンゴッツ銀行は雪のように白い大理石でできた重厚な高層建築だった。場所はダイアゴン小路のなかほど、ノクターン小路という通りとの交差点のちかくで、あたりの店の上にそびえるように立っている。 魔法世界がまねしているように思われる『マグルがわの』ブリテン式建築とは、微妙に様式がちがうようだったが、ハリーは建築をまなんだことがないので、差をはっきり指摘することはできなかった。
それに銀行の装飾つきの両開きの扉の両脇に立つ、二人のゴブリンに注意をうばわれすぎてもいた。
二人は完璧に仕立てられた赤と黄金の制服をきて、銀行のまえをとおる人をすべてさりげなくチェックしていた。ハリーはそれがゴブリンだとわかった。ドラゴンをもし見たとしても同じようにわかっただろう。あまたのファンタジー小説で知ったものと、完全にでないにせよ、ほとんどの点で一致しているからだ。 このゴブリンは緑色の皮膚などではないけれど身長のひくい
ハリーはそれを凝視しないようにつとめながら、マクゴナガル先生に連れられて扉のまえに階段にちかづいていった。 自制心を限界まで使ってやっと、さまざまな問いをこころのなかにとどめることができた。 みたところ人類とおなじように知性のある、しかしどうみても大幅にちがった系統からきた生物がここにいる! ゴブリンのDNAは人類とどれくらい違うのだろうか。両種は交雑できるほど遺伝的距離がちかいだろうか。 ゴブリンの骨数本を目にしただけでリチャード・ドーキンスは学術的錯乱状態におちいるだろう。実物を見せればどうなるか想像にかたくない。
大扉の上には、黄金とマホガニーでできた盾があり、装飾つきの鍵のシンボルの上に『Gringotts』という文字がはいっていた。 その下には『Fortius Quo Fidelius』という文字があった。 うろおぼえのラテン語を思いだしてみると、『忠誠は力』のような意味だろうか。
「こんにちは。」とハリーがゴブリンに言うと、ゴブリンはどちらも会釈をした。 扉は厚く重い大理石にみえたが、ゴブリンの一人は下にある取っ手のひとつをにぎって、軽がるとひらいた。ハリーより筋肉があるようには見えないのだが。
こころのなかのメモ:魔法世界では体格と腕力は相関しない。
ハリーとマクゴナガル先生がならんで扉をくぐると、うしろでゴブリンが扉を閉めた。 そこは小さな玄関ホールになっていた。ほとんど無人だが不思議と両側にひとつずつ暖炉がおかれていた。目のまえにはまた扉があり、ゴブリンが両側に立っている。 ちかづくと、そこに刻みこまれた文字が見えた:
来たれ客人よ ただし
強欲の報いを知れ
とるべきでないものをとった者には
厳しい代償がある
他人の宝物を目指し
忍び込む裏口を探し
来たる盗人を待ちかまえるのは
宝物だけではない
ハリーは息をのんだ。 それはおとぎ話からでてきたような、ばかげた言葉のはずだった……だが、まさにゴブリンの要塞と言うべきこの場所に立ってみていると、その言葉は静かな自信にみちた脅迫に感じられ、ハリーの脊髄に悪寒が走った。
「こんにちはマダム・マクゴナガル。」と右のゴブリンが言った。リードのようにひびく声で、はじめて聞くなまりだった。「こんにちはマスター・ポッター。」
「こんにちは。」と言ってハリーはマクゴナガル先生を不思議そうにみた。
「あなたの一族の金庫の鍵を準備してもらうために、きょう来ることを伝えておいたのです。十何年もあけられていない金庫ですから。」
「ああ。その、ぼくの遺産を保管してくれてありがとうございました。」 あったことのない両親のおかねをうけとるのはどうも変な気分だが、高価であるにちがいない学校用品を買うのに必要になるからしかたない。 真正の魔法アイテムをマグル世界で売ったらいくらになるだろうか。 動かないまがいものにさえ法外な金額をしはらう人がいるのだ。店に陳列されていた、歯をきれいにするという魔法薬は数百ポンドか、もしかすると数千ポンドになるだろう。 せめて杖と本が買えるくらいのおかねはあるといいな、とハリーは思った。
「務めをはたしたまでです。マスター・ポッター。」と言ってゴブリンはまた会釈した。 わずかにあざけるような言いかたにきこえたのは気のせいだろうか?
二人のゴブリンが扉をあけ、ゴブリンと魔法使いでいっぱいの細長い広間がみえた。 魔法使いは列にならび、ゴブリンは急がしそうに歩きまわるか、客より頭ひとつ分たかくなる台と机のむこうに立っていた。 みるからにやりすぎなほどの高さだが、ハリーはとうてい文句を言う気にはなれなかった。
そのすべてが、薄い水の膜のようにみえるものを通して見えていた。その幕は、扉のむこうがわの上のどこかからそっとたれさがり、細かい格子となって床の上に落ちている。
「これは〈盗人おとし〉とよばれています。」と、ハリーがためらうのをみて、マクゴナガル先生が言う。「あらゆる魔法による変装をあらいおとし、見ためと中身が一致していることを保証します。ここをとおると、あなたのひたいの傷あとも元どおり見えるようになりますが、出るときにまた消してあげます。」 魔女は水をとおりぬけ、向きをかえてハリーを待った。
ハリーは深呼吸してそこに足をふみいれた。目をとじ、肩を緊張させ、冷水にそなえた。 しかし水はぬるく、すぐに蒸発し、 数秒で完全に乾いた。ハリーは髪の毛を手でかきまわしながら、おどろいて目を見ひらいた。
マクゴナガル先生はみじかく笑みをみせ、『予約者』という名前の台へとハリーをうながした。 どの部分も長く見すぎないように気をつけながらハリーはそのあとについていった。 まわりにはじゃらじゃらと音をさせながらポーチの重さを手ではかる魔女、長い羊皮紙と羽ペンでなにかを書くゴブリン、ハリーの手のおおきさのエメラルドをとりだす魔法使い、窓口でそれをうけとり片めがねで調べるゴブリンがいた。
二人がむかったさきのゴブリンは、ほかのゴブリンより年配のようだった。ほとんどなくなりかけている白い髪の毛は細く、小さなめがねが細ながい鼻にかけられている。 「なにか?」 ゴブリンは、手のなかにある羊皮紙から目を離さないままの姿勢でたずねてきた。
「ハリー・ポッターが金庫にはいるためにきました。」
一瞬間があいてから、ゴブリンはハリーに目をむけた。 「鍵はおもちで?」
マクゴナガル先生が鉄の鍵をそでから出した。持ち手部分に『P』の文字がある。 彼女はそれを窓口にかざした。
年配のゴブリンは鍵を手にとり、一瞬怪訝そうにそれをみて、刻みの部分をほそい指でなで、返した。 「よろしい。」 ゴブリンはわきにさがって呼び鈴をとりだし、意味ありげなパターンでならした。 キンカンコン、キンキン、コンキン! そして「グリプークがおつれします。」と言うと、羊皮紙をすこし丸め、つづきを読みはじめた。 ハリーはその羊皮紙が床までのびているのに気づいた。 あきらかに冊子本を入手できる社会で、なぜまだ巻き物が使われるのだろう。 万年筆をこばむのとあわせて、ゴブリン独特の習慣の一部なのかもしれない。
グリプークは会ってみると若いゴブリンで、肌は比較的すべすべしていて、完全に黒いつやつやした髪の毛が頭をおおっていた。そして近づいてきて会釈とあいさつをした。 「マダム・マクゴナガル。マスター・ポッター。こちらへどうぞ。」
案内について大広間の通用口から出ていくと、そのさきには下り階段がつづいていた。 階段は最初真っ白な大理石だったがすぐに黒い石にかわり、輝くシャンデリアは火のたいまつにかわった。 煙のないのを見て、これは魔法がかかっているにちがいない、とハリーは思。 だいたいこのトンネルは煙の逃げみちがないから、そうでもなければいずれ煙にみたされてしまう。
ぼくはゴブリンのトンネルをくだっている——。そう思って、これがいかに現実ばなれした状況か、ハリーはあらためて実感した。 トンネルはすぐに平坦になり、壁はなくなり、ながく曲がりくねった道がみえた。道にそって、地面の上にレールがつづいている。そして主線からわかれた分線のいくつかに鉱山のトロッコがおかれていた。グリプークはそのひとつへと二人をうながした。
「お乗りください、マスター・ポッター。」
ハリーはゴブリンと視線をあわせた。 「ミスターでお願いします。」 ハリーは以前、両親と高級ホテルに泊まったときのことを思いだした。 圧倒的なまでの敬語をつかってくる従業員に給仕される経験は楽しかったが、ときに居ごこちがわるくもあった。 召し使い(子分ならもっといい)をもつという発想はハリーにとっていろいろな点で魅力的だが、異種族から『
ゴブリンは一瞬無言でハリーを見かえして、もう一瞬無言になった。 ハリーが視線をそらさずにしていると、ゴブリンはようやく軽く首肯した。 「おのぞみとあれば。ミスター・ポッター゠エヴァンズ゠ヴェレス。」
マクゴナガル先生の不思議そうな視線を無視して、そのあとについてトロッコにのると、 手すりやシートベルトがないことに気づく。 グリプークがはいってきて側面の扉をしめると、ハリーは緊張しはじめた。 「銀行のとりひきをするのに、ほんとにこれ以上安全な方法はないんですか?」
「ありますが……」と言って、グリプークはにやりとして、とがった歯をみせた。ベストのポケットからマクゴナガル先生がもっていたのとおなじ鍵をとりだし、それをトロッコのうしろの鍵穴にいれる。「安全すぎては困りますので。」 彼が鍵をまわすと車は震え、主線にむけてすこしずつすすみはじめ、そして
ハリーはおどろいて大きな声をだしたが、その声は口をでてすぐに風にさらわれ、うしろに吹きとんだ。 指の骨が浮きでるほど強くトロッコの両側をつかみ、マクゴナガル先生をとがめるような目つきで見る。 魔女は無頓着に腕ぐみをしたまま、まゆをあげて、くちびるのはしをぴくりとさせただけだった。 ハリーは歯ぎしりをしてゆっくりと両手をからだの側面にもどし、胃がとびだしそうになる感覚を無視した。 トロッコは曲がりくねった洞窟を下へ、下へと飛んでいく。
『安全というのは、乗りこなせる人にとっては安全、っていう意味だぞ』、とハリーは自分をたしなめた。 三人はぴかぴかの水晶の突起、さまざまな大きさの金庫の扉をとおりすぎ、もうひとつの〈盗人おとし〉を抜けた。こんどのはずっと大きく冷たかったが、やはり数秒で乾いた。
車輪のガタガタ音にまけないよう、ハリーは声をはりあげた。 「魔法使いはみんな、ここにおかねをあずけるんですか?」
「
「黄金?」
「銀と銅も!」とマクゴナガル先生も叫んだ。「金貨はガリオン、銀貨はシックル、銅貨はクヌートです。二十九クヌートで一シックル、十七シックルで一ガリオン!」
とりわけ大きなかどをまわるあいだ、ハリーはこのことの意味を咀嚼しつづけていた。そしてつぎの質問は、炎があたりの闇を照らしだししたことで中断された。 ハリーはくびをまわしてみたが、その部屋はもうとうに見えなくなっていた。 「いまのは?」
「ただのドラゴンですよ!」とグリプークはにやにやした顔で言い、ハリーはそれが冗談なのかどうかわからなかった。まったくあたらしい種類の問題に遭遇したせいで、ハリーのこころのなかでおかねの問題はしばらくあとまわしになった。
まもなく車の速度がおちはじめ、ギシギシ音がすこしずつ静かになり、最後に分かれ道にはいった。 トロッコはその道にそって惰性でくだり、比較的小さななにも印のない金庫の扉のまえについた。 グリプークは車からとびおりて扉のまえまで歩いていき、トロッコにつかったのと同じ鍵をそこにいれた。 それと並行にあるもうひとつの鍵穴へ、マクゴナガル先生が自分の(というよりハリーの)鍵を差しこんだ。 二人はいっしょに鍵をまわし、ガタンという重い金属の音がして、扉がうちむきに開いた。
ハリーがなかにはいると、そこはあかるい大理石の部屋だった。ハリーは呆然としてあごがはずれるのを感じた。
ガリオン金貨の山。シックル銀貨の房。クヌート銅貨の束。 一カ所にこれほどの量のおかねがあるのを見るのははじめてだった。青ひげ〔訳注:ヨーロッパの童話〕さえうらやむほどのぴかぴかの宝の山。
マクゴナガル先生がなにげなく壁によりかかって立ち、じっとこちらに目をむけている。ハリーはそれをなんとなく感じた。 自分は見られている。 まあ、無理もない。 金貨の山のまえにほうりだされたときなにをするかというのは純粋な、いや典型的とさえいえる性格診断だ。
ハリーは口をとじた。最初にすべきことは……いまみえているのが実際どれくらいの量のおかねなのかを自分に把握できるしかたで推定することだ。 「ここの硬貨は純度百パーセントですか?」とハリーはグリプークにきいた。
「は?」 しきいからグリプークがとげとげしい声で返事した。「グリンゴッツの誠実さをおうたがいですか、ミスター・ポッター゠エヴァンズ゠ヴェレス?」
「いえ、そうではなく。言いかたがわるかったらすみません。 ここの金融システムがどうなっているのかまったく理解していないもので。 一般論としてガリオンは純金でできているのか、ということが聞きたかったんです。」
「もちろんそうですよ。」
「そして貨幣はだれでも鋳造できるんですか。それとも通貨発行権は独占されているんですか?」
グリプークはにやりとした。 「ゴブリン製でない貨幣を信頼するのは愚か者だけです!」
「言いかえるなら、貨幣はその材料となった
グリプークはハリーをみつめた。マクゴナガル先生は困惑しているようだった。
「つまり、もしぼくがここに大量の銀をもってきたとして、それで大量のシックルを作ってもらうことはできますか?」
「手数料をちょうだいしますよ、ミスター・ポッター゠エヴァンズ゠ヴェレス。」とゴブリンは目を光らせてハリーをみた。 「一定の手数料がかかります。どこに大量の銀があるんでしょうな?」
「たとえばの話ですよ。」
グリプークの目は強い興味をしめした。 「そのご質問は、わたくしの一存ではお答えしかねますが……」
「おおざっぱな予想でけっこう。これでグリンゴッツの責任は問いません。」
「地金の二十分の一もいただければ、鋳造料には十分でしょう。」
ハリーはうなづいた。 「ありがとうございました、ミスター・グリプーク。」
つまり、魔法世界の経済はマグル経済からほぼ完全に切りはなされているということだ。そればかりか、だれひとり
マグルの金銀交換比率はたしか五十対一くらいだったか? ともかく十七ではないはずだ。 それにみたところ、ここの銀貨は金貨より
とはいっても、ハリーはこのドラゴンの護衛つきの金庫に自分のおかねを文字どおり預けている。おかねを使いたいときにはここに来てコインを金庫からとりださなければならない。 市場の非経済性の細かい部分で裁定取引をしようにも、機会はそこでうしなわれてしまうかもしれない。 なんて原始的な金融システムだろう。ひとこと当てこすりでもしてやりたいところだが……
悲しいことに、実はこのやりかたのほうがいいのかもしれない。
ただ、可能性としては、有能なヘッジファンド屋を一人もってくるだけで一週間で魔法世界全体を所有できてしまうかもしれない。 ハリーはおかねがなくなったときや一週間暇ができたときにそなえて、このアイデアをしまっておくことにした。
直近の資金としては、ひとまずこのポッター家金庫の金貨の山で不自由はなさそうだ。
ハリーは一歩ふみだし、金貨を片手でとり、もう片手につんでいった。
二十をかぞえたとき、マクゴナガル先生がせきばらいした。 「学校用品にはそれで十分すぎると思いますよ、ミスター・ポッター。」
「え?」と別のことを考えていたハリーは言った。 「ちょっと待って。ぼくはフェルミ推定をしようとしてたんです。」
「なんですって?」とマクゴナガル先生がどこか警戒して言った。
「数学用語です。エンリコ・フェルミの名前をとったもので、 あたまのなかでおおまかな数のあたりをつけるための方法で……」
ガリオン金貨20枚で重さはおそらく100グラムくらいかな。 金の価格はたしか、1キログラムで1万ポンドくらいになるだろうか。 ということは1ガリオンはだいたい50ポンドに相当する金額だ……。 金貨の山はだいたい高さ60枚、幅はどの方向でも20枚くらいで、どれもピラミッド型。ということは立方体の3分の1くらいだ。 1山だいたい8000ガリオン。その大きさの山が5つあるから、4万ガリオン。つまり200万ポンド。
ハリーは皮肉な満足を感じて笑みをうかべた。 いま自分が魔法の新世界を発見しつつある最中で、金持ちの新世界を探検する時間がないのはとても残念だ。 簡単なフェルミ推定をしてみると、およそ十億倍ほど魔法のほうがおもしろいようだから。
とはいえ、たかが一ポンドのために芝かりをするのとはおさらばだ。
ハリーはおかねの山からふりむいた。 「マクゴナガル先生おたずねしてもいいでしょうか。ぼくの両親は二十代で死んだと理解しています。 若い一夫婦がこれくらいのおかねを金庫にもっているのは魔法世界では
マクゴナガル先生はくびをふった。 「あなたのお父さんは旧家の跡取りでした。それにもしかすると……」 魔女はためらった。 「このおかねの一部は〈例の男〉をころ……倒した人への賞金だったのかもしれません。 もしくは、賞金はまだだったのかもしれません。正確なところはよく知りません。」
「おもしろい……」とハリーはゆっくり言う。「それならこの一部は、ある意味、ぼくのものだということになる。つまり、ぼくがかせいだものだと。みかたによれば。もしかすると。ぼくがそのできごとを覚えていないとしても。」 ハリーの指がズボンをたたいた。「おかげでこのうちの
「ミスター・ポッター! あなたは未成年です。ですから、
「ぼくは分別
ハリーはマクゴナガル先生に視線を固定し、無言の見つめあいの試合をした。
「たとえば?」 マクゴナガル先生がやっと言った。
「見ためよりも中が広いトランクとか?」
マクゴナガル先生の顔がけわしくなった。 「それは
「ええ、でも——」とハリーは懇願する。 「大人になったらきっとぼくはそれをほしがります。そしてぼくは
マクゴナガル先生は視線をそらさなかった。 「そのようなトランクがあったとして、なにを
「本です。」
「でしょうね。」とマクゴナガル先生はためいきをついた。
「もっとはやくああいう魔法アイテムが存在すると教えてくれていれば! それを買うおかねがぼくにあると教えてくれていれば! これからお父さんとぼくはあと二日間、
「ミスター・ポッター! わたしを
「え? そんな、まさか! ただ、ぼくがもちこむ本のなかにホグウォーツ図書館での所蔵にあたいするものがあったら、寄贈してもいいと思いまして。 どれもやすく入手するつもりですし、ぼくとしてはただ近くにあればそれでいいので。
「家のしきたりですか。」
「そのとおりです。」
マクゴナガル先生はローブのなかで肩をさげ、からだがしぼんだようにみえた。 「否定したいところですが、たしかに理屈がとおっていることは否定できません。百ガリオン追加でひきだすことを許しましょう。」 彼女はもう一度ためいきをついた。 「あとで後悔させられるのはわかっているのですが、それでも許すことにします。」
「その調子です! 『モークスキン・ポーチ』はぼくの考えているとおりのものですか?」
「トランクほどのものではありません。」と魔女は目にみえてためらいがちに言う。「ですが……〈取り寄せの
「やった!」ハリーは興奮でぴょんぴょんとはねながら目をかがやかせた。 「それもぜったいほしい! バットマンのベルトみたいだ! 十徳ナイフどころか、工具箱をまるごともちあるける! それに
「……あと十ガリオン追加してもかまいません。」
「それとおっしゃっていたように、多少のこづかいも。 そのポーチにいれておきたいものをもういくつか見たような気がします。」
「そのくらいにしておきなさい、ミスター・ポッター。」
「ああ、どうして水をさすんですか? きょうはぼくが魔法のものごとにはじめて遭遇する
「
二人はそれ以上もめずにそとに出た。
原作品の著者:J. K. Rowling
ファンフィクションの著者:Eliezer Yudkowsky
編集・加筆:Daystar
今回の非ハリポタ用語:「フェルミ推定」
たとえば「100人中おそらく○○人くらいが○○を毎月○回買ってもおかしくないから……」というように、しばしば確率(比率)をともなう近似・推測をくりかえして自明でないなにかの量を推測すること。数学者エンリコ・フェルミがこれを得意としていたらしい。英語では back-of-the-envelope calculation (封筒裏の計算)というほうが通りがよい。