パドマ・パティルはその日、夕食を食べおえるのがすこし遅くなった。七時半ちかくまでかかってしまったので、急いで大広間を出て、レイヴンクローの寮と自習室がある方向へむかう。 噂話は楽しいし、グレンジャーの評判を落とすのはもっと楽しいが、やりすぎると学業にさしつかえる。 ロミリアラ材のレポートを六インチ書くという明日朝までの〈薬草学〉の宿題がある。先送りしてしまっていたので、今夜しあげなければならない。
それは長く細い、曲がりくねった石の廊下を通りぬけているときのことだった。ささやき声が、自分のほとんどすぐ後ろから聞こえたような気がした。
「パドマ・パティル……」
パドマは電撃的なすばやさで振りかえり、杖をぱっとローブのポケットから取りだして手にとった。ハリー・ポッターなんかに、そう簡単におどかされてなるものか——
後ろにはだれもいなかった。
パドマはすぐさま反対を向いた。〈腹話の魔法〉を使ったのなら——
そちらにも、だれもいなかった。
おなじささやき声が、また聞こえてきた。弱く、危険そうで、すこしだけシューシューする音も混じって聞こえる。
「パドマ・パティルよ、スリザリンの子よ……」
「ハリー・ポッターよ、スリザリンの子よ。」と彼女は声にだして言った。
パドマはポッターと〈カオス軍団〉を相手にして何度もたたかった経験がある。これはかならずハリー・ポッターのしわざだと、なぜか確信できた……
……もちろん、〈腹話の魔法〉は視認範囲でしか使えないし、この曲がった廊下では前方の角も後方の角も楽に見わたせる。見たところ、だれのすがたもない……
……それでも分かる。敵はあいつだ。
ささやき声がくすくすと笑った。こんどはすぐそばから。彼女はふりむいて、声の方向に杖をむけ、「ルミノス!」と叫んだ。
赤い閃光が飛びだし、壁にあたった。その部分がまぶしく赤熱したが、やがて薄れていった。
本気で効果があるとは思っていなかった。 ハリー・ポッターが透明に、不可視になっているわけがない。そんな魔法は
ささやき声がまた笑った。さっきとは反対がわで。
「ハリー・ポッターは断崖の上に立っている。」 その声は彼女の耳のすぐちかくで聞こえた。 「足もとをぐらつかせている。だがおまえはすでに、落ちはじめたではないか。スリザリンの子よ……」
「〈帽子〉にスリザリンと言われたのはわたしじゃないでしょうが、ポッター!」 彼女は壁に背をあて、背後をまもる必要がないようにした。杖を手に、攻撃姿勢をとる。
また小さな笑い声。 「ハリー・ポッターは三十分まえからレイヴンクロー談話室にいて、ケヴィン・エントウィスルとマイケル・コーナーが〈薬学〉の調合手順を練習するのに付きあっている。 だがそのことはいまはよい。 わたしは警告をさずけるために来た。この警告を無視したければ、パドマ・パティル、それもおまえの自由だ。」
「けっこう。さあポッター、警告してみれば。わたしは怖くない。」
「スリザリンはかつて偉大な寮だった。」 ささやき声は悲しげになった。 「スリザリンはかつて、おまえがよろこんで選ぶような寮だった。 だがなにかが狂った。腐りはじめた。なにがスリザリン寮のあやまちだったか。わかるか、パドマ・パティル?」
「知らない、わたしには関係ない!」
「関係あると思うべきだ。」 こんどは自分のあたまのすぐ後ろから声が聞こえるような気がした。あたまはほとんど壁にくっついているのに。 「あのとき〈組わけ帽子〉からその選択肢を提案された以上は。 レイヴンクローを選んでおけば、自分はパンジー・パーキンソンでなくなる、いや、パンジー・パーキンソンにならなくてすむ、と思ったか? あとはどんな態度をとろうが関係あるまいと思ったか?」
感じまいとしていたにもかかわらず、パドマはわずかに恐怖を感じた。背すじから寒けが生まれ、それが肌にまで広がってきた。 パドマはこの手の話も知ってはいる。ハリー・ポッターは隠れた〈開心術師〉だ、という噂があるのだ。 それでも彼女は背すじをのばしたまま、できるかぎりとげのある声でこう言った。 「スリザリンはみんな強くなりたくて〈
「そう言って、なんの罪もない女の子を標的にして、悪質なうわさを流すことはするのだな。そうしても、おまえの野望を実現する役には立たないというのに。その女の子に協力する有力者を立腹させるかもしれない、ということを忘れて。 それはかつての誇りあるスリザリンではない。サラザールが誇りとすることではないぞ、パドマ・パティル。それはむしろ、腐ったスリザリン。パドマ・マルフォイではなく、パドマ・パーキンソン……」
パドマはこれほどぞっとさせられた経験がなかった。もしかすると、これはほんとうに
「ハリー・ポッターは暴力で打ち負かされたとき、復讐などしてくれるな、と自分の協力者に命じた。おぼえているか、パドマ・パティル? ハリー・ポッターは揺れているが、まだ落ちてはいない。落ちるまいとしている。自分が危うい立ち位置にいると知っている。 だがハーマイオニー・グレンジャーは、ハリー・ポッターのように自分の協力者を止めようとしなかった。 ハリー・ポッターはおまえに怒りを感じている。自分自身のために感じたことがないほどの怒りを感じている。そして彼にもまた別の協力者がいる。」
背すじがぞくりと震えた。見てわかるほど震えてしまったことに気づき、パドマは自分を嫌悪した。
「おお、恐れることはない。わたしは傷つけるために来たのではない。 知ってのとおり、ハーマイオニー・グレンジャーにはなんの罪もない。 彼女は断崖にいないし、落ちてなどいない。 協力者にパドマを傷つけるなと頼んですらいない。そんなことをされる可能性があるということ自体、彼女の想像の範疇にないのだ。 ハリー・ポッターも自分がハーマイオニー・グレンジャーのためにパドマを傷つけたり、ほかのだれかにパドマを傷つけさせればどうなるかを、よく心得ている。そんなことがあれば、ハーマイオニー・グレンジャーは太陽が燃えつき夜空の星がすべて墜落するまでハリー・ポッターと絶交する。」 声はとても悲しげな調子に変わった。 「彼女はとてもやさしい子だ。わたしもおなじようにできればどんなによかったか……」
「グレンジャーは〈守護霊の魔法〉も使えない! もし親切なのが、見せかけじゃなくほんものなら——」
「おまえはどうなのだ、パドマ・パティル? おまえは〈守護霊の魔法〉に挑戦しようとすらしなかった。結果を知るのが怖かったのだろう。」
「そんなことはない! わたしはただ、時間がなかっただけ!」
「だがハーマイオニー・グレンジャーは挑戦した。友人たちが見ているまえで挑戦し、失敗して愕然とした。 〈守護霊の魔法〉にはほとんどだれにも知られていない秘密がある。おそらく、いまその秘密を知っているのはわたしだけかもしれない。」 ささやき声が小さく笑った。 「はっきりさせておこう。光を生みだすことができなかったからといって、彼女のこころが汚れていると思ってはならない。 ハーマイオニー・グレンジャーはたしかに〈守護霊の魔法〉を使えない。だがその理由は、この建て物を作ったゴドリック・グリフィンドールが〈守護霊の魔法〉を使えなかった理由となんら変わりがない。」
パドマは廊下の温度が着実に下がりつつあるのを感じた。まるでだれかが〈冷却の魔法〉をかけているように。
「しかも、ハーマイオニー・グレンジャーの協力者はハリー・ポッターだけではない。」 ささやき声のなかに、乾いた愉快そうな声色が垣間見えた。急にクィレル先生のことを思いだして、パドマは恐ろしくなった。 「フィリウス・フリトウィックとミネルヴァ・マクゴナガルは彼女のことを、それは気にいっていることだろう。 ハーマイオニー・グレンジャーにおまえがなにをしているかが、あの二人に知られたらどうなると思う。二人はおまえのことを、いままでより気にいらなくなるのではないか。そのことに気づいていなかったのか? おおっぴらに介入しはしないかもしれない。だが、おまえに寮点をあたえるまえに少しためらうようになるかもしれない。おまえの指導にすこし身がはいらなくなるかもしれない——」
「ポッターが告げぐちしたって言うの?」
ハ・ハ・ハ、と幽霊っぽい笑いがかえってきた。 「あの二人が頭と耳と目を使えることをお忘れかな?」 ここからは悲しそうなささやき声で、 「あの二人がハーマイオニー・グレンジャーを大切にしていないとでも思うのか? 彼女の苦しみを見逃すと思うのか? あの二人も一度はおまえのことを……若く優秀なパドマ・パティルを気にいったかもしれない。だが、おまえはそれを棒にふった……」
パドマはのどがからからになるのを感じた。言われるまで、そういう風には考えていなかった。
「その道をすすみつづけたとして、いったい何人が最終的におまえのがわに残って気にかけてくれるのだろうな、パドマ・パティル。 姉と距離をおくために……パーヴァティの光の影となるために、そこまでする価値があるのか? おまえのこころの奥底の恐怖は、いつのまにか姉とおなじことをしてしまうこと。そう、かつての自分がそうであったように。 だがそのために……自分はちがう人間だと主張するためだけに、なんの罪もない女の子を傷つけていいのか? おまえは善悪の双子の悪になると決めてしまったのか? 別の種類の善をめざせばいいのではないか?」
心臓がばくばくする。それは……その話はまだ、だれにもしていないのに——
「わたしは生徒のあいだでなぜいじめが起きるのか、いつも不思議に思っていた。」と言って声がためいきをつく。 「なぜ子どもたちはみずからを生きづらくするのか。なぜみずからの手で学校を牢獄に変えるのか。 なぜ人間は自分の人生をみじめにするのか。 そのこたえの一部はこうだ。 それは、だれかに苦痛をあたえようとするまえに、立ちどまって考えないからだ。自分自身も傷つくかもしれないと想像できないからだ。自分自身の悪行により自分自身が苦しむのだと気づけないからだ。 そう、パドマ・パティル、おまえも苦しむ。この道を歩むのをやめなければ、おまえは苦しむ。 孤独の苦しみ、他人に恐れられ疑われる苦痛、いまおまえがハーマイオニー・グレンジャーにあたえているのとおなじ苦しみが待っている。 ただし、おまえの場合は自業自得だ。」
パドマの手のなかで杖が震えた。
「レイヴンクローをえらんだ瞬間に陣営が決まったのではない。 人生をいかに生きるか、他者のためになにをするか、自分のためになにをするかで陣営は決まる。 他者の人生を明るくするか、暗くするか。 それが〈光〉と〈闇〉の分かれ目だ。〈組わけ帽子〉がなにを言うかではない。 むずかしいのは、『光』を宣言することではない。むずかしいのは、どちらがどちらであるかを見きわめること。そして自分がまちがった道を歩んだとき、まちがったと認められること。」
静寂がおりた。静寂がしばらくつづいて、それがもう行ってよいという合図であることにパドマは気づいた。
杖をポケットにもどそうとして、杖を落としかけた。 この場を去るために壁から離れようと一歩踏みだして、倒れかけた——
「わたしも〈光〉か〈闇〉かの選択にいつもただしく答えられたとは言わぬ。」と言うささやき声はいままでより大きく、パドマの耳に直接、耳ざわりに響いた。 「わたしの助言を確実なものと思うな。疑問を持つことを恐れるな。わたしも努力はしてきたが、失敗したこともある。ああ、何度失敗したことか。 だがおまえはまったく罪のない人間を傷つけている。傷つけたところで、ほんのすこしも自分の野望を達成する助けにならないし、狡猾な計画の一部にもなっていないにもかかわらず。 おまえが苦痛をあたえるのは、ただ純粋に自分の愉悦のためだけだ。 わたしも〈光〉か〈闇〉かの選択にいつもただしく答えられたとは言わぬ。だがこれが暗黒であることには疑いない。 おまえはなんの罪もない女の子を傷つけている。仕返しされずにすんでいるのはひとえに、自分の協力者がおまえに手をだすことすら見すごせないほど彼女がやさしいからだ。レイヴンクローの娘よ、おまえはスリザリンと呼ぶにあたいしない。早く行って〈薬草学〉の宿題をやるがいい!」
最後の部分はほとんどヘビがシューシューいう声のように聞こえた。パドマはあわてて、まるでレシフォールドに追われるようにして廊下を走りぬけた。廊下を走るなという規則にもかまわず、走りつづけた。他の生徒を通りすぎたとき、おどろいた顔をされても、止まらずに、首もとの脈をどくどくさせながら、レイヴンクロー寮にまっすぐに走りこんだ。ドアに「太陽が夜ではなく昼に光るのはなぜか?」という質問をされて、三度失敗してからやっとまともに答えることができた。ドアがひらくと、そこには——
——女子と男子、下級生と上級生が何人か、彼女に目をむけていた。すみにある五角形のテーブルでは、ハリー・ポッターとマイケル・コーナーとケヴィン・エントウィスルが教科書から顔をあげようとしていた。
「どうしたの、いったい! パドマ、なにがあった?」とペネロピ・クリアウォーターが声をあげてカウチから立ちあがった。
「ゴ……ゴ、
「〈血みどろ男爵〉じゃないでしょうね?」と言ってクリアウォーターは杖をだし、コップが手にあらわれた。そして『アグアメンティ』をかけると、水がコップに満ちた。 「ほら、これを飲んで。座って——」
パドマはすでに五角形のテーブルのほうに歩みはじめていた。 ハリー・ポッターを見ると、むこうもこちらを見ていた。落ちついているが、けわしく、少し悲しげな目つきだ。
「あんたがやったんでしょう! あれは——よくも——よくもあんな!」
レイヴンクロー寮が急に静まった。
ハリーはただ彼女を見つづけた。
そして、こう言った。「なにか助けになれることはある?」
「否定しようとしても無駄。」 パドマの声は震えている。 「あんたが幽霊をしかけたんでしょうが。あんなことを言うのは——」
「まじめに言ってるんだ。」とハリーが言う。 「なにか助けになれることはある? 食べものを持ってこようか。ソーダをとってこようか。それとも、宿題の手つだいとか、なにかしてほしいことは?」
全員が二人をじっと見ている。
「どうして?」 パドマはそう言うほかなかった。意味がわからなくなった。
「このなかに、いま断崖に立っている人がいる。そこから落ちてしまうかどうかは、ほかの人のためになにをするかで決まる。 だから、パドマ、なにかきみの助けになることをさせてもらえないか?」
彼女はその顔をじっと見て、はっと気づいた。きっと彼もおなじ警告を受けとったのだ。
「じゃ……じゃあ、これからロミリアラ材のレポートを六インチ書かなきゃいけないから——」
「寝室から〈薬草学〉の本をとってくるよ。」と言ってハリーは立ちあがり、エントウィスルとコーナーのほうを見た。 「悪いけど、しばらく失礼するよ。」
二人はなにも言わず、ほかの全員といっしょになって、ただハリー・ポッターが階段にむかうのを見つめた。
階段をのぼろうとした瞬間に、ハリー・ポッターはこう言った。 「本人が自分から話そうとしないかぎり、パドマを問いつめないでほしい。みんな
「わかった。」と一年生の大半と、上級生数人かが言った。そのうち何人かは、やけに怖ごわとしていた。
彼女はロミリアラ材以外にもいろいろなことをハリー・ポッターに話した——知らずにパーヴァティとおなじふるまいをしてしまうことが怖い、ということさえ話した。そのことはこれまでだれにも言っていないが、ハリーの協力者の幽霊はすでに知っているのだから、かまわない。 ハリーはポーチに手をいれ、
九時になり、ハリーがもう帰ると言ったとき、レポートは半分しかできていなかった。
ハリーは外に出かかったところで立ちどまり、きみはスリザリンと呼ぶにあたいする人だと思う、と言った。そう言われていい気分がしたが、一分後になってやっと、いま自分がだれになんと言われたかに気づいた。
その朝、朝食のためにそこに来たとき、パドマはマンディが目をむけてきたのに気づいた。マンディはそれから、レイヴンクローのテーブルでとなりの席にいる女子になにかをささやきかけた。
ささやかれた女子が席を立ち、自分のほうに歩いてくるのが見えた。
昨晩は、自分とその女子が同室でないことにほっとしていたが、いま考えてみると、この状況のほうが気まずい。これをみんなの目のまえでやらなければならないとは。
パドマは汗をうかべはじめていたが、自分がなにをやらなければならないかも分かっていた。
その女子が近づいてきて——
「ごめんなさい。」
「え?」 それはこちらのせりふだ。
「ごめんなさい。」とハーマイオニー・グレンジャーがくりかえす。 その声は、だれもが聞きとれるほど大きくなっている。 「あれは……あれはわたしが頼んだんじゃないの。ハリーがあれをやったのを知ってから怒ったし、もう二度
ハーマイオニー・グレンジャーの背すじはこわばっている。表情もこわばっている。顔には汗が見える。
「ええと」と言いながら、パドマの思考もすっかり混乱してしまっている……
パドマはレイヴンクローのテーブルのほうをぱっと見た。そこでは少年が一人、両手をひざの上でかため、緊張した面持ちでこちらを見ていた。
そのすこしまえの時点:
「思いやりをもつこと、って言ったでしょう!」とハーマイオニーが叫んだ。
ハリーは汗をうかべはじめた。 ハーマイオニーにどなられるのはこれがはじめてだ。それも空き教室だから、ずいぶんとよく声が響いた。
「いや——でも——でも、あれは思いやりだよ! ほとんど
ハーマイオニーは自分の巻き毛をつまんでいる。ハリーにいままで見せたことのない仕草だ。 「クィレル先生はなんて? 殺せばいい、とか?」
クィレル先生は、一年次内外の影響力がある生徒を全員調べあげて、ホグウォーツ全体のあらゆる噂の流通を支配する手立てを考えろ、と言った。そしてこれは真のスリザリン生にいつも推奨できる、有益で楽しい練習問題だ、とコメントした。
「そんなんじゃないよ。」とハリーはあわてて言う。 「一般論として、噂を流している人たちへの影響力を持て、と言われただけ。それでぼくは、もっと親切なやりかたを思いついた。パドマに自分がやっていることが何なのか、どういう代償が待ちうけているかを知らせてあげればいい、って。だからパドマをおどすとか、そういうことはちっとも——」
「
「う……うん、まあ、多少は恐ろしく感じたかもしれないけど。でもね、人間は逃げ切れると思えばなんでもやってしまう。自分が傷つかないかぎりは、ほかの人がどれだけ傷ついても気にならない。もしうそを広めてもなんの代償もないと思っているなら、パドマは
「それで
ハリーは急に不吉な感覚におそわれた。
ハーマイオニーはいままで見たこともないほど激怒している。 「これでほかのみんなに自分がどう思われたか、わかってるの?
ハリーは口をひらいたが、ことばが出ない。それは……正直、そんな風には考えていなかった……
ハーマイオニーは手をのばし、テーブルにぶちまけてあった本をさらっていった。 「これから一週間、あなたと絶交する。一週間ハリーと絶交してるっていうことを、みんなに言う。その
「
少女は教室のドアをひらいたところで、振りかえり、ハリーのほうを見た。
「ハリー……」 その声は怒りの声ではあったが、震えも垣間見えた。 「クィレル先生はあなたを暗黒に引きこんでいる。わたしは本気でそう思う。」
「今回は……そうじゃない。先生に言われたんじゃない。ただぼくが思いついただけ——」
ハーマイオニーの声はほとんどささやきのようになった。 「いつか、あなたがあの人といっしょに昼食を食べに出かけたりして、そしたら帰ってくるのは暗黒面のほうになる。いいえ、帰ってこないかもしれない。」
「約束するよ。昼食からは帰ってくるって。」
ハリーは無意識のうちにそう言った。
ハーマイオニーはただ背をむけて、のしのしと部屋を出て、乱暴にドアを閉めた。
みごとなまでに、劇におけるアイロニーの法則どおりになってしまうな——とハリーの〈内的批評家〉が言う。 おまえは今週土曜日に死んで、そのときの最後のことばは『ごめん、ハーマイオニー』。そして彼女は乱暴にドアを閉めたのが二人の最後のやりとりであったことを一生悔やむ……
もうだまれ。
パドマはハーマイオニーとならんで朝食の席についたとき、ほかのみんなに聞こえるほどの大きな声で、あの幽霊は言ってくれたことはだいじなことだったし、ハリー・ポッターがそうしたことはただしかった、と宣言した。それを聞いておびえが少しおさまった人もいたが、余計におびえさせられた人もいた。
それがあってから、ハーマイオニーの悪口を言う人はたしかにあまりいなくなった。すくなくとも、ハリー・ポッターが聞いているかもしれない場所で、一年生が公然と言うことはあまりなくなった。
フリトウィック先生が、パドマの身に起きたことはハリーのしわざか、とハリーにたずね、ハリーは肯定したので、フリトウィック先生は二日の居残り作業の罰を課した。 ただの幽霊にすぎず、パドマにけがをさせるようなことでなかったとしても、レイヴンクロー生の行動として看過することはできない。 ハリーはうなづいて、フリトウィック先生がそうせざるをえないのは理解します、と言い、抗議しなかった。 かわりに、実際パドマを改心させることができたように見える点を考慮するなら、非公式な意見として先生はどう思いますか、やはりまちがったことだったと思いますか、とたずねた。 フリトウィック先生はすぐに返事せず、本気で検討してしているようだったが、厳粛そうな甲高い声で、きみはほかの生徒とふつうの方法で交流できるようになるべきだ、と言った。
ハリーはそれを聞いて、つい、クィレル先生ならこういう助言は絶対に言わない、と思ってしまった。
そして、もしクィレル先生の言うとおりの方法をとっていたら、どうなっていただろうか、ということも考えてしまう。ふつうの
……その場合、パドマは改心しなかった。道をあやまったままになり、最終的には本人が報いをうけることになった。 ハリーはパドマになにも
それでも、自分のとった方法以上にただしいやりかたはなかったのか、という点には自信がない。それにハーマイオニーは絶交をつらぬいている——かわりにパドマとはよく話すようになっているようだが。 昔のように一人で勉強することは、思っていた以上につらい。ハリーの脳には長年みがきをかけた孤独に生きるという技能があったのに、もうそれを忘れはじめてしまったかのようだった。
クィレル先生と昼食に出かけるのは土曜日。そのときまでの日々が、とてもゆっくりと進むように感じられた。
原作品の著者:J. K. Rowling
ファンフィクションの著者:Eliezer Yudkowsky