ホグウォーツの上層階では部屋や廊下が日々変化する。変化は地図上にとどまらず、建築の様式や堅牢性はそのままに、境界そのものがゆれうごき、ほつれ、夢幻と混沌にとけこんでいく。——そんな上層階で、まもなく戦端がひらく。
いまここには多数の生徒がいる。それだけの観察の目があることで、廊下は一時的に安定する。 ホグウォーツの部屋や廊下は観察者の目のまえで
このように(クィレル先生の言いかたでは)定常性が欠けた場所ではあるが、軍事的な現実味もある。 ここなら来るたびにどのクローゼットにどんな秘密の通路があるか分かったものではないから、毎回いちから調べなおすことを強いられるのだ。
三月の最初の日曜日。模擬戦の監督をできる程度にまでクィレル先生が回復したので、遅れをとりもどすために模擬戦が再開した。
〈ドラゴン〉軍司令官ドラコ・マルフォイは両手にある二つの羅針盤をながめた。 片ほうは〈太陽〉の色、もう片ほうは混ざりあう玉虫色の〈カオス〉の羅針盤だ。 ほかの二人の司令官も、おなじような羅針盤を持たされている。 ハーマイオニー・グレンジャーとハリー・ポッターの手には、火のようにまたたく橙赤色の羅針盤があり、それはつねに〈ドラゴン旅団〉が有する最大兵力集団の位置を指している。
この羅針盤なしにはおたがいの居場所の見当すらつかず、この上層階を何日もさまようことになりかねない。そういう地形上の危険性を考慮した措置だ。
〈ドラゴン旅団〉が〈カオス軍団〉と接触したときなにが起きるかを思うと、ドラコはいやな予感がした。 ベラトリクス・ブラックの脱獄以来、ハリー・ポッターは変わった。〈スリザリンの継承者〉らしくなったというか、〈
〈元老貴族〉マルフォイ家の何百年にもわたる権勢は、自分たちが最強
だから父上はドラコによく言い聞かせていた。明らかに格上の相手に遭遇したとき、腹をたてたり否認したり駄々をこねたりしては、手にはいる地位も手にはいらなくなる。次世代の権力構造で第二位の地位を確保することが至上命題だ、と。
グレンジャーはあの様子だと、両親からそういった教えをうけていないらしい。だからハリー・ポッターが格上であるということを認められないのだろう。
そこでドラコは秘密裏にゴルドスタイン隊長とボーンズ隊長とマクミラン隊長に面会し、〈ドラゴン〉と〈太陽〉はできるかぎりおたがいのあいだでの交戦を避け、〈カオス〉という強敵の排除を優先する、という協定をとりつけておいた。
これは裏切り者を禁じる協定には違反しない。本心から
高らかな開戦の鐘の音が廊下じゅうにひびきわたり、一呼吸おいてからドラコの「走れ!」という声で全員が走りだした。 これでは兵士を疲れさせてしまうし、着いてから一休みさせても完全に回復はできない。それでも自分たちと〈太陽部隊〉で〈カオス〉をはさむ態勢をとらなければ勝ち目はない。
ハリーとネヴィルはゆったりとした歩調で廊下を歩いていく。ハリーは〈太陽部隊〉がいる方向を指す黄金色の羅針盤を注視する役、ネヴィルはそれ以外の何者かがやってこないかに注意する見張り役だ。
よく耳をすませれば、二人の足音はすこし重くひびいている。
「けっきょく、あんな重りをつけて決闘術の練習をさせられたのは、このためだったの?」としばらくしてからネヴィルが口をひらいた。
ハリーは〈太陽〉軍の羅針盤から目を離さずに、うなづいた。もし針の方向が急にかわりだしたら、距離がせまっているという証拠なので、見のがしてはならない。
「ほかのみんなのまえでは言わなかったけど、一、二週間じゃたいして筋肉はつかないし……」とネヴィル。 「これはバランスもちがうし、練習のときより重い……。これって、マグル製品〈転成〉禁止のルールに引っかかるんじゃない?」
「引っかからない。そこは事前にたしかめてある。 この城のなかにもこういうのを着た彫像はある。だから魔法族も
分かれ道になった。やっかいなかたちをしている。いま、〈ドラゴン旅団〉を追う〈カオス軍団〉のあとに〈太陽〉軍がついている。羅針盤で〈太陽〉軍の進行方向は確認できているが、左右どちらの道をたどっても、襲いかかるのに都合がいい位置はとれそうにない。 ハリーはそれでもましなほうをえらぶことにし、ネヴィルもつづいた。
「〈消音の魔法〉をかけてみたらどうかな。これ、けっこう音がするから、勘づかれるかもしれない。」とネヴィル。
ハリーはうなづいた。それから、相手からは表情が見えないかもしれないと思い、「いいアイデアだ。」と言った。
二人はホグウォーツ上層階の石畳の廊下をもたもたと歩いていく。道にはふつうのガラス窓やステンドグラスの窓から光がさしこみ、ところどころに魔女やドラゴンの彫像がある。ときには、甲冑や鎖かたびらに身をつつむ魔法騎士の像まであった。
〈太陽〉軍は幅の広い、長い廊下を、杖をかまえて行軍していた。 移動中なので
ハーマイオニーと士官たちが決めた今回の戦術は、敵軍兵士集団にまっこうから全速で突入して、混戦にもっていく方法だ——こうすれば敵は同士撃ちをおそれて攻撃をためらう。自分たちは同士撃ちせずに支援しあえるよう、部隊内で演習をしてあった。 練習できたのは四時間だけだったが、これだけでも混戦での戦闘をまったく練習していない兵士よりは優位にたてるとハーマイオニーは判断した。 いかにも〈カオス〉軍が使いそうな戦術だが、使ったことはなかった。
有望な戦術だ、とハーマイオニーは思う。けれどいくら説明しても、兵士たちはハリーとネヴィルがやっているという練習のうわさをささやきあって、恐れをなしていた。 なので最後には、〈士気の維持向上〉方面に詳しいゴルドスタイン隊長に頼みこみ、案をだしてもらったのだが、その案というのが——
「変だぞ。」とマクミラン隊長が突然言いだした。アーニー・マクミランは炎の羅針盤と玉虫色の羅針盤を両手に持ち、眉をひそめている(アーニーはハリー風に言えば『空間認識能力に優れている』ので、羅針盤の係と敵部隊の動向を読み取る係の両方をまかせてあった)。 「多分……〈ドラゴン〉は速力をおとしたな……こちらから見て〈カオス〉のむこうがわにまわろうとしていたんだと思う……それで〈カオス〉のほうは……〈ドラゴン〉を攻撃するような動きをしている……はさみうちされない位置に退避しようとしない……?」
ハーマイオニーは理解しようとして眉をひそめた。アンソニーとロンもおなじような表情をしていた。 〈カオス〉と〈ドラゴン〉が正面衝突してたがいの戦力を消費してしまうなら、それはほとんど〈太陽〉に勝ちをゆずっているようなものだ……
「ポッターは、うちとマルフォイが共闘してると思っているんだろう。だからうちが合流しにいくまえに、マルフォイを攻撃しようとしているんだ。」と一兵卒になったブレイズ・ザビニが言う。 「でなければ、両軍を順番に相手して撃破できると思っているのか。」 ザビニはえらそうにためいきをつく。 「そろそろおれを士官にもどしたくなってきたんじゃないか? おれなしじゃ、手も足もでないんだろう。」
ザビニ以外の全員はそれにとりあわず、黙殺した。
「進行方向はこのままでいいのか?」とアンソニー。
「うん。」とアーニー。
「近くなってはいる?」とロン。
「まだもうすこし——」
そのとき、通路の突き当たりにあった黒檀調の巨大な両扉が勢いよくひらき、壁に激突した。そのむこうから、二人の人影があらわれた。人影は灰色のマントをまとい、灰色のフードから灰色の顔布をたらしている。そのうち一人はすでに、杖をハーマイオニーに向けていた。
そして高く緊張したハリーの声で投げつけられたひとことが、試合の流れを決定的に塗りかえた。
「ステューピファイ!」
決闘術で使われる水準のその呪文が自分にむけて撃たれたのを見て、ハーマイオニーはショックのあまり、反応が遅れそうになった。『コンテゴ』の防壁をぶちぬいて飛んできた赤い閃光を、ハーマイオニーはかろうじてかわした。閃光が腕をかすめ、しびれが生じた。視界のかたすみに、スーザンが撃たれて吹き飛び、ロンに当たるのが見えた——
「『ソムニウム』!」とアンソニーの怒声がして、一瞬遅れてもう十人ほどがいっせいに「ソムニウム!」と言った。
ハーマイオニーはあわてて自分の体勢をたてなおしていたが、そのあいだ灰色のマントの人影は二人とも、ただ突っ立っていた。
〈
とはいえ、あれだけの弾幕がすべてはずれるとはとても考えられない。
「『ステューピファイ』!」とネヴィル・ロングボトムがさけび、また赤い閃光が飛んでくる。ハーマイオニーは必死に身をよじって、ぶざまに地面に転がる。それから飛び起き、息を切らして確認すると、ロンが体勢をたてなおす途中で雷撃の犠牲になっていた。
「〈太陽〉軍のみなさんこんにちは。」とハリーがフードをかぶったまま言った。
「われわれは〈カオスの灰色の騎士〉。」とネヴィルの声がした。
「今回はぼくたちがみなさんをお相手する。」とハリー。 「〈カオス〉軍の本隊はいまごろ〈ドラゴン〉軍を虐殺している。」
「ところで……」とネヴィル。「われわれは無敵だからよろしく。」
灰色のマントとローブと顔布をまとった二人は、〈太陽〉軍全兵力を相手に、〈睡眠の呪文〉を十数発うけてもなんら動じていないように見えた。
ダフネはとなりからだれかの吐息を感じた。ふりむくと、ハッフルパフのハンナだった。ハンナは口をわずかにあけ、目をまんまるにして——
ハンナの視線のさきにいるのがだれか分かったとき、ダフネのこころのなかに名状しがたいさまざまな思いが去来した。それはハリーではなく、ネヴィルだった。そういえば、とダフネにも思いあたることがあった。そういえばネヴィルは最近、男の子のなかで目立つようになってきている。それどころか、〈ロングボトム家継嗣〉である彼はいまこの瞬間、文句なく
グリーングラス卿夫人の教えのなかには、〈元老貴族〉家の一員たるもの知らなければ恥ずかしい呪文だとして最近教わった呪文もいくつか含まれていた。
杖を左に大きく振って、ダフネはさけんだ。
杖を頭上にかかげ、詠唱をつづける。 「
最後に杖を両手ににぎり……
膨大な魔法力の流出で、ダフネはくずれおちそうになった。なんとかこらえていると、光かがやく『それ』が実体化し安定したかたちを持った。魔法力の流出もすこしおさまった。
それでも、長くもつとは思わないほうがよさそうだ。
周囲の全員が彼女に注目していることは言うまでもない。髪をなびかせながらネヴィルの正面に飛びでたいところだったが、実際には〈元老の剣〉を手に一歩一歩あるいていくだけで精いっぱいだった。全員が道をあけて彼女を通したことも言うまでもない。
「わが名はダフネ、〈元老貴族〉グリーングラス家の子、〈
もう一度「ステューピファイ!」というハリーの声がした。ダフネはあとになってこのつぎの行動を思いだしてみたとき、どうやってそんなことができたのか、と自分でも不可解になった。とにかく彼女は光の剣をクィディッチのビーターのバットのように一振りして、
「雷光の力と
それから数秒間、全員が止まってネヴィルとダフネのつばぜりあいをじっと見つめた。 どちらもあまり機敏な剣技ではなかった。あの呪文を維持するだけで体力をひどく消耗しているのだろう、とハーマイオニーは思った。 マグル生まれとしては、ある種の映画とくらべてしまうとちょっと迫力に欠ける。
とはいえ、ライトセーバーが実動するというだけでも、かなりすごいとは思う。
「ちょっとルール上の確認。」とハリーの声がした。 「クィレル先生が監視してるから心配ないだろうけど、念のため。あれは当たったら相手のからだがまっぷたつになるようなものだったりしないのか、だれか——」
「しない。」とハーマイオニーはうわのそらで答えた。 歴史の本のなかに、そう書いてあった。魔法の決闘で使うというあの剣が、
「あの呪文の使いかた、知ってるの?」
「え? あれは〈元老の剣の魔法〉よ。だから〈元老貴族〉の人以外が使うのは違法——」
ハーマイオニーはそこで言いやめて、ハリーに目をやった。というか、ハリーの灰色のフードに目をやった。
「それなら、〈太陽部隊〉の残りはぼく一人でなんとかするとしようか。」 ハリーの顔は見えないが、声の調子からすると、笑っているようだ。
「ダフネに呪文を打ちかえされたとき、あなたはよけた。 だからそれがどういう仕組みだとしても、
「おもしろい仮説だね。」とハリーがフードのむこうから言う。 「きみの部隊にそれを検証できる人はいるのかな?」
「わたし。〈
一瞬間があった。そのあいだにも、となりでもう一組の少年と少女が息を切らし、ライトセーバーで切りつけあっている。
ハリーも彼女に杖をむける。「こちらには『ソムニウム』という選択肢があるのもお忘れなく。 『ステューピファイ』よりずっと消耗も少ない。」
ハーマイオニーの正面に、『コンテゴ』の盾があたらしく出現した。ハリーがしゃべっているうちに、ジェニーとパーヴァティが用意した。
ハーマイオニーの杖さきも、空中で小さく動きをしはじめた。菱形をえがき、円で囲う。菱形をえがき、円で囲う。本で読んだはずのその動作のリハーサルをする。 彼女にとっても難しい呪文だが、今回は一度目で成功させなければならない。失敗してエネルギーを消耗しているだけの余裕はない。
「まえから思ってたんだけど……あなたに言ってもしかたないけど、〈死ななかった男の子〉の話を聞かされるのが、だんだんいやになってきたの。みんなまるで——まるであなたのことを
「同感だね。いつもそういう風に過小評価されるのは、ぼくとしても残念だ。」
ハーマイオニーの杖が菱形と円の動きを何度もくりかえす。 ハリーはどうやら、エネルギーを回復させるために時間かせぎをしている。彼女もそのあいだに、できるかぎり練習しておくつもりでいる。 「そろそろあなたも身のほどを知るべきだと思わない? 〈カオス〉軍司令官。」
「そうかもね。」と平静に言って、 ハリーは足と足を交互にかさねる動きをしだした。決闘の舞いとでもいうべき動きだ。 「あいにく、ぼくを負かしてくれそうな人はもういないらしい。ハリー・ポッターがもう一人いれば別だけど。」
「言いなおすわ。
「へえ、たった一人で?」
「あなたは自分がかっこいいと思ってるんでしょうね。」
「そりゃもちろん。思ってるよ。 傲慢だっていう人もいるだろうけど、自分で自分のすごさに気づくことのなにがおかしいのかな?」
ハーマイオニーは左手を空中にかかげ、かたくにぎった。
それは合図だった。 担当の兵士八人がハーマイオニーに杖をむけ、小声で『ウィンガーディウム・レヴィオーサ』をかけることになっていた。
いくら心配ないと兵士に説明してもらちがあかないので、アンソニーに相談した結果が
「あなたはスーパーマンのつもりなんでしょうけど。」と言ってハーマイオニーは左手を上に持ちあげた。八人の兵士たちが上への〈浮遊〉をかけ、ハーマイオニーは地面を離れた。 「……こっちはスーパーハーマイオニーよ!」 手をそのまま前に押しだすと、ハーマイオニーのからだはみごとな速度でハリーにむけて飛んだ。ハーマイオニーはハリーの表情が見えないのが残念だったが、すぐに杖で菱形と円をえがき、全身の魔法力をそそぎこみ、あまりの強烈さに有刺鉄線に(触れたことはないが)触れたような感触を手に感じて、「『ステューピファイ』!」とさけんだ。
赤い稲妻が完全なかたちで杖から放出された。
ハリーはよけた。
それから、練習したときの場所が廊下ではなかったので、ハーマイオニーは壁に激突した。
「『ソムニウム』!」とドラコが叫び、数秒も休まないうちにまた叫ぶ。 「『ソムニウム』! 死ね!」
撃った睡眠弾はセオドアに確実に命中している。だがセオドア・ノットはよけようともせず、父親ゆずりの邪悪な笑いをして、杖を持ちあげ——
セオドアが『ソムニウム!』と言った瞬間にドラコはなんとか横に飛んでかわした。だが消耗がはげしくなってきた。このまま長くはつづけられない。ドラコは動きつづけているのに、セオドアはよけようとするそぶりすらない。なんだこれは。
また撃てるだけのエネルギーがもどったが——
かつてハリー・ポッターは『愚かさとは、おなじ方法をくりかえすだけで結果が変わると期待することだ』と言った。今回のこれはきっとハリーのしわざだ。今回はマグル製品ではありえないが、それならなんだというのか。なにか仮説をだして検証すべきなのだが、笑うセオドアの攻撃を回避するのに忙しく、思考する余裕がない。ぎりぎりのところをかすめた睡眠弾のせいで、脇腹に軽い麻痺を感じる。このままではどうにもならない、もう仮説も検証もあるか、という気持ちになって——
「『ルミノス』!」とさけぶと、セオドアが赤い光につつまれた。 「『デュラク』!」と言うと光は消えた(つまりセオドアにも魔法は通じるということだ)。「『エクスペリアームス』!」と言うとセオドアの杖が飛んでいった(よく考えれば、もっとはやくこの呪文を試すべきだった)。セオドアが体当たりしてきて、腕をのばしてドラコを組み伏せようとしたので、ドラコは「『フリペンド』!」とさけんで相手を引っくりかえらせ——
——セオドアの背中が地面にあたり、ドラコが予想していなかったほど大きな
四つの呪文を高速に連射したせいで、ドラコの視界がぼやけた。セオドアはすでに立ちあがりかけていたので、ドラコは思考を言語化する間もなく、なんとか「『ソムニウム』!」と言うことができた。今回は、セオドアの胸部ではなく顔をねらった。
セオドアはよけて(よけて!)、声をあげた。「
「『プリズマティス』!」とパドマがさけぶ声がして、ドラコのまえに虹色の光の壁ができた。同時に〈カオス〉兵四人が睡眠の呪文を撃ってきていた。
〈ドラゴン旅団〉残存戦力を守る巨大な
ドラコは五つ目の呪文を撃った時点で手とひざを地面についていた。そこからなんとか身を起こして、できるかぎり明瞭な声で「〈睡眠の呪文〉が——効かなければ——顔をねらえ——おそらく敵の士官は金属の服を着ている。」と言った。
防壁のむこうからグリフィンドール生フィネガンが言う。「遅かったな、もう十分兵力は減らせた。……どうせおれたちの勝ちは決まっている。」 そう言って邪悪な高笑いをする。ハリー・ポッター並に板についた高笑いだった。 そのすぐあとにつづいて、ほかの〈カオス軍団〉兵たちも高笑いをしはじめた。
視界のかたすみにグレゴリーとヴィンセントが意識をうしなって倒れているのが見えた。 パドマはまだ〈虹色の球体〉を維持している。パドマがこれほど大きなものを作るのははじめて見た。 だが彼女の呼吸ははげしい。位置につくまで走っていたせいで、まだ汗をかいている。……レイヴンクロー生パドマは魔女として有能だが、肉体派ではない。
はやくグレンジャー司令官に到着して、〈カオス〉を背面から突いてほしい。ポッター司令官とネヴィルがここにいないことは分かっているし、どこに行ったかは想像がつく。それにしても、二人対〈太陽部隊〉全戦力の戦闘がそれほど長びくはずはないはずだが?
ダフネが全力をつくしてくれたのは分かっているし、ダフネを責めるべきではないとは思う。それでも、もうすこし持ちこたえてくれていたら、とハーマイオニーは思ってしまった。
「『ラガン』!」と背後からネヴィルの声がしたとき、ハーマイオニーは空を飛んでいた。〈虹色の壁〉がくだけちる音がして、ハンナが絶望した声で「『ソムニウム』!」とさけんだ。数秒後にネヴィルが落ちついた声で「ソムニウム」と言い、また一人味方がうしなわれる音がした。
ハーマイオニーを滞空させているちからがまた少し減った。〈浮遊の魔法〉の浮揚力はまだ感じられるが、十分ではなくなった。
飛行がとまり、ゆっくりと下降しはじめた。もう『落とせ』という合図をだすべきだったが、ハーマイオニーは怒りと混乱のあまり、そこまで考えることができなかった。それに、ちからをふりしぼって最後の〈失神の呪文〉一発を撃とうとしてもいた。そのせいで、ハリーが杖をまっすぐに向けて呪文を撃ってきたとき、逃げることもできなかった。ハリーのその「ソムニウム」を最後に聞いて、ハーマイオニー・グレンジャーは意識をうしなった。
原作品の著者:J. K. Rowling
ファンフィクションの著者:Eliezer Yudkowsky