ハリー・ポッターと合理主義の方法   作:ポット@翻訳

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80章「交換不可能な価値(その2)——(ホーン)効果」

ウィゼンガモートの議場である〈元老の会堂〉は暗く冷たい。中央の最下部から摺り鉢状にもりあがる石の段の各段には簡易な木製の長椅子が設置されている。 どこにも光源はないが、場内には十分な明かりがある。一見して説明のつかない明かりが、ただある。 壁も床もおなじ暗色の石できていて、内部から湧き出てくるような謎めいた優美な模様が表面に浮かんでいる。 この〈元老の会堂〉は魔法界に現存する最古の建築物である。このほかの主だった建築物は過去幾多の戦争を経て崩壊した。 この会堂の建造をもって戦争の時代は終わった。それが最古である所以である。

 

ウィゼンガモートの議場といえば、これ以外にない。これ以上に古い部屋はあれど、どれも隠蔽されている。 伝説によれば、マーリンの意思と魔術によってこの暗色の石壁が生みだされたのだという。マーリンは当時の世界に残っていた有能な魔法使いをすべてこの場にあつめ、その離れ業で驚嘆させ、みずからを彼らの長として認めさせたのだという。 その後も(やはり伝説によれば)このままでは世界と魔法の終焉をふせぐことはできないと予言する〈予見者〉があいつぎ、ついにマーリンはみずからの命と魔法力と時間とを犠牲にして、〈マーリンの禁令〉を発効させた。 代償は小さくなかった。魔法族は以後、このようなものをふたたび建造するすべを持っていない。 そして破壊するすべも持っていない——この会堂は核爆発の爆心にあっても傷ひとつつかず、温度すら変わらないだろうと考えられている。 それだけに、建造法がうしなわれたことが惜しまれる。

 

半円をなして広がる黒石の段の最上段に演台がある。 演台には、しわの深い顔と腰まであるひげの老人がいる。アルバス・パーシヴァル・ウルフリック・ブライアン・ダンブルドアである。 右手にはものものしい杖、肩には火の鳥。 左手には黒壁とおなじ色の石でできた地味な短杖。これが〈マーリンの不断の線条〉——主席魔法官(チーフウォーロック)の座に付随する魔法具である。 アルバス・ダンブルドアはこれを死のまぎわにいたカレン・ダットンから受け継いだ。命からがらでグリンデルヴァルトを倒してからわずか数時間後のダンブルドアが、不死鳥を連れて参上したときのことだった。 カレン・ダットンは完璧主義のニコデムス・カペルナウムからこれを受け継いだ。マーリンがみずからの身を犠牲にして以来ずっと、継承者が次代の継承者を指名する連鎖はとぎれることがなかった。 ブリテン魔法界はこのような仕組みで、コーネリアス・ファッジを大臣として選出しながらも、アルバス・ダンブルドアを主席魔法官の座においている。 評議会とは名ばかりのウィゼンガモートにおいて、議長の選任方法は最古の時代から、法律ではなく(というのも、法律は書き換えられることがあるので)伝統で決まっている。その方法は選挙ではない。 マーリンが身をささげて以来、主席魔法官の最大の任務は細心の注意をもって適切な後継者を指名することだった。後継者には善良な人格とそのつぎの代の後継者をえらぶだけの能力とが求められる。 数百年の時が過ぎるあいだ、一度はどこかでこの光の連鎖が崩れたのではないか、あるいはそのまま二度とあるべきすがたにもどれなくなったのではないか、という疑問はもっともだが、 実際には〈マーリンの線条〉は一度も断たれることなく、いまに至る。

 

(すくなくともダンブルドアの派閥に属する者はそう言う。 マルフォイ卿は別の考えかたをする。 アジアではまったく異なる伝承がつたえられているが、かといってブリテンの伝承がまちがっているということにはならない。)

 

議場の中央最下段に、背もたれの高い椅子がしつらえてある。黒い金属製の椅子で、足と腕をのせるためのむきだしの台がついている。これは石壁とちがい、マーリンが作ったものではない。

 

この会堂のまわりに形成されていった〈魔法省〉の庁舎は、木材が敷かれていたり、金細工や灯火がついていたりと、無用な装飾に満ちた内装がほどこされている。 ここはそうではなく。 木も金も火もない、石だけの地味な会堂。それがブリテン魔法界の心臓部である。

 

『W』の字がはいった濃紫のローブに身をつつむ魔法使い(おとこ)魔女(おんな)が幾人も、おごそかな歩調で議場に入場する。 自分たちは非常に重要な人物なのだと言わんばかりの態度である。 〈元老の会堂〉につどうウィゼンガモート評議員の男女は——男は『ロード』、女は『レイディ』の称号を持つ——自分たちのことを世界でもっとも偉大な国のもっとも偉大な魔法族だと思っている。 富も権力もある彼ら貴族に、下じもの民は平伏して懇願する。偉大でないはずがないというわけだ。

 

アルバス・ダンブルドアはこの場にいる全員の名を知っている。直接の教え子も多いが、教えを身につけた者は少ない。 ここにはアルバス・ダンブルドアと陣営をおなじくする者も対立する者もいる。どちらにも属さない中立者とは絶妙な距離感をたもっている。 アルバス・ダンブルドアはそのすべてを人間と見なしている。

 

現在ホグウォーツで〈防衛術〉教授を務める人物に言わせれば、ここにいる男女は野心的であるにせよ野望のない人たちだという評価になるだろう。 彼の意見では、ウィゼンガモートというのはそういう人たちが——ほかにすることもなく、ただ機会をうかがうばかりの人たちが行きつく格好の場所である。 そういう人たちはつきあっておもしろくはないが、利用しがいはある。真のゲームに興じる者にとって、あやつるべき駒、かせぐべき得点のようなもの。

 

半円状に列をなす評議員席ではなくその(ふち)の傍聴席のなかに、とんがり帽子の顔をしかめた魔女と、手もちのローブでできるかぎりの正装をした少年とが肩をならべている。 少年の緑色の目は冷たく、ぼんやりとしていて、次つぎと入場する議員たちのことは眼中にない。 彼にとってそれは木製の長椅子を色どる濃紫のローブの群れ——〈元老の会堂〉の外観の一部でしかない。 ここに敵か、あるいは彼が利用できるものがあるとすれば、それは『ウィゼンガモート』そのもの、つまり ブリテン魔法界の裕福な権力者層そのもの。それは総体として権力を行使するが、個人としての主体性はない。権力者層総体としての目的は、個人が参画するには異質かつ瑣末すぎる。 現時点では、濃紫のローブの群れに対して少年は好悪の感情を持っていない。少年の頭脳は彼らが善悪の判断をなしうる主体であると認識していない。 こちらはPC(プレイヤー・キャラクター)、あちらは背景。

 

その認識はまもなく変わる。

 

◆ ◆ ◆

 

ハリーはウィゼンガモートの議場全体をぼんやりと見わたした。いかにも歴史のありそうな建て物で、ハーマイオニーなら何時間も延々とハリーに解説を聞かせただろうことは想像にかたくない。 濃紫のローブを着た人たちはすでに入場を終えており、半時間ごとに三分間余計にすすむハリーの懐中時計によれば、開廷の時刻はまぢかだ。

 

となりの席にいるマクゴナガル先生は、二十秒まえからずっとハリーから目を離そうとしない。

 

今朝読んだ『デイリー・プロフェット』紙を思いだす。 見出しの文字は『元老貴族家断絶を狙うマグル生まれの凶行』で、本文もそういう論調だった。 〈アイルランド共和軍(IRA)〉が英国軍の兵舎を爆破したころ、ハリーは九歳だった。テレビで政治家たちがだれよりも激しく怒ろうとして競いあっていたのを覚えている。 それを見てハリーは——まだ心理学をよく知らなかったその当時でさえ——こう思った。()()()()自分の怒りを見せつけようと競いあっていて、たとえほかのだれかの()()()()()()()()()()と思うことがあっても、きっとだれもすすんでそう認めようとはしない……仮にそのだれかが『アイルランド全土を核爆弾で爆撃しろ』と主張したとしても。 そして同時に——当時のハリーにそう表現するだけの語彙はなかったものの——政治家の怒りはつねに真摯さのない怒りだということ、ほかのみなのまねをして安全な標的を攻撃して点稼ぎをしようとしているだけだということも実感した。

 

ハリーはもともと、政治的な怒りは空虚なものだと思ってはいた。それなのに、ハーマイオニー・グレンジャーを糾弾する『デイリー・プロフェット』の十数の記事を読むと、なぜかそのことがいっそうはっきりと感じられたのだった。

 

トップ記事はハリーが知らない人物による記名記事で、アズカバンの年齢下限を引き下げるよう求めていた。狂った泥血(マッドブラッド)が、神聖なるホグウォーツ城内で、なんの罪もない〈元老貴族〉家の継嗣に手をかけるという暴挙を犯し、スコットランドの名誉を失墜させた—— 言語道断の重罪であり、ディメンターの刑をもってつぐなわせるほかない—— これをひとたび許せば、また別の狂った不届き者がおなじような暴挙をくわだてるであろう—— ウィゼンガモートは神聖な貴族の名誉を貶めようとする不遜な輩に断固とした裁きを——云々。

 

そのつぎの記事にも、おなじようなことがもっと貧しい語彙で書かれていた。

 

ここに来るまえに、アルバス・ダンブルドアとハリーはこういう話をした——

 

「審判の場に来るなとまでは言わん。」  静かだが妥協を許さない声だった。 「言えばどうなるかは目に見えている。 しかしきみもこちらの厚意を踏みにじるようなことはしないようにしてもらいたい。 ウィゼンガモートでは繊細な駆け引きがおこなわれる。きみはその分野になんの知識もない。 ほんのわずかな不手際がハーマイオニー・グレンジャーの身をあやうくし、 きみは一生後悔することになる。そのことをよくこころえておくように……ハリー・ジェイムズ・ポッター゠エヴァンズ゠ヴェレス。」

 

「はい、わかっています。 ただ——なんの救いもないまま敗北が決定しかけた瞬間に帽子からウサギをとりだして逆転の一手を打ったりする用意があったりするなら、いまのうちに教えてください。無駄な心配はしたくないので——」

 

老魔法使いは気苦労に満ちた雰囲気で、ハリーに背をむけて歩きだそうとする。 「きみにそんな残酷なことをしようとは思わない。もちろんハーマイオニーにも。 正直に言うが、わしはウサギも帽子ももっていない。すべてはルシウス・マルフォイの出かたしだい。」

 

コンと音がした。大きな音ではなかったが、なぜかそれだけで議場全体が静まった。ハリーがぱっと見あげると、 一番上の段のダンブルドアが目にはいった。それはダンブルドアが左手の黒い短杖で演台をたたいた音だった。

 

「これより第二百八期ウィゼンガモート第九十回を開催する。開催を要請したルシウス・マルフォイ評議員に発言を許す。」とダンブルドアが単調な声で言った。

 

半円のなかで、演台とおなじ高さで相対する位置に、背の高い男が一人、すくりと立ちあがる。肩まである銀髪が濃紫のローブにかかっている。 「では、一人目の証言をみなさまにお聞かせしましょう。証人には〈真実薬〉を飲ませます。」  ルシウス・マルフォイはよくひびく冷たい声で言う。抑制された口調だが、かすかに義憤の色もある。 「グレンジャー家初代、ハーマイオニーをここへ。」

 

「評議員諸君は、この証人がホグウォーツの一年生であることもお忘れなきよう。」とダンブルドアが言う。 「そして証人の心身の安全は確保されねばならないということも——」

 

評議員席のだれかがプッと吹きだし、もう何人かが不服そうに鼻を鳴らした。一、二度、やじる声もあった。

 

ハリーは濃紫のローブの人たちに、キッと目をむけた。

 

怒りがつのるいっぽうで、胸さわぎがした。ひどくゆがんだものが来たような、現実そのものに乱れが生じたような感覚があった。 なにかがあることだけは不思議と分かっていながら、それがなんなのかは分からず、ただ悪化していくような気がしてしまう……

 

静粛に!」と言って、ダンブルドアが石の短杖で演台を二度たたくと、また二つ、コン、コンという音がして、騒音を押しかえした。 「諸君、どうか静粛に!」

 

証人が通される扉はハリーがいる席の真下にある。そのため、一団全体が入場し終わってやっとハリーは一人一人を確認することができた——

 

——三人一組の〈闇ばらい〉——

 

——こちらに背をむけていて顔が見えないハーマイオニー——

 

——そのうしろに、銀色にかがやくスズメと、走りまわる月光色のリス——

 

——そして、ぼろぼろのマントの下に半分隠れて、ゆがみの元凶がいた。

 

ハリーは考えるより早く立ちあがった。マクゴナガル先生がやっとのことでハリーの手をつかんで止め、杖に触れるのを阻止した。マクゴナガル先生は切迫した声でハリーにささやく。 「ハリー、ほら、ちゃんとあそこに〈守護霊(パトローナス)〉が——」

 

数秒かかってハリーはなんとか気を落ちつかせることができた。ハーマイオニーは直接ディメンターにさらされているのではない、ということを理解している部分の自分が、のこりの部分の自分を説きふせて、なんとか正気らしきものをとりもどした——

 

でも動物型の〈守護霊〉は完璧ではない。完璧であれば、ダンブルドアが痛ましい男の裸体を見ることはない。おまえだって、あのときいくら動物型の〈守護霊〉がついていても、ディメンターが迫ってくるのを感じていたじゃないか……

 

ハリー・ポッターはマクゴナガル先生に手を引かれ、ゆっくりと席にもどった。

 

もどったころにはすでに、ハリー・ポッターはブリテン魔法界全体と戦争状態になっていて、他人に〈闇の王〉と呼ばれたとしてもかまうものかと思えていた。

 

ハーマイオニーが椅子に腰をおろし、ハリーからも顔が見えるようになった。その表情は、スネイプに立ちむかったときのような凛とした表情ではなかった。〈闇ばらい〉に逮捕されたときの泣き顔でもなかった。 椅子から這いでる黒い金属の鎖に手足をつながれて、ハーマイオニーはただうつろに、なにかを恐れる表情をしてそこにいた。

 

ハリーはそれに耐えられず、 無意識に自分のなかへ、暗黒面のなかへ逃げこんで、冷たい怒りで自分を(よろ)おうとした。 しかしアズカバン以来暗黒面に没入しようとしたことがしばらくなかったので、それも間にあわなかった。 やっと血に冷たさを感じかけたところでもう一度顔をあげ、椅子に座らされたハーマイオニーを見た。見て気づいたのは、暗黒面はこの種類の痛みに対処するすべをもっていないということ。痛みは短剣のように冷たさの層に刺さり、するりと貫通した。

 

「あらあら、だれかと思えばハリー・ポッターじゃありませんか!」 と甲高い女性の声がした。やけに甘ったるい言いかただった。

 

椅子にむいていた顔をゆっくりと声の方向にむけると、厚化粧の笑顔の女性がそこにいた。厚化粧すぎて肌がほとんどピンク色になっている。そのとなりにいるのは大臣コーネリアス・ファッジ(写真で見たことがあったのでそうだと分かった)。

 

「言いたいことがあったら遠慮なく言っていいのよ? ミスター・ポッター。」  裁判の場に似つかわしくない明るい言いかただった。

 

そのあいだに、ほかの何人かもハリーに目をむけてきた。

 

いま言うべきでないことばかりが思いつき、話そうにも話せない。 ネヴィルが言ってもおかしくなさそうなことを思いつくことができない。 ダンブルドア以外のだれかから発言をもとめられたら、()()()()()()()以外なにもくちにするな、というのがダンブルドアの指示だったのだが——

 

「ぼくは総長からしゃべるなと言われています。」  ついすこし、とげのある言いかたになってしまう。

 

「あら、そんなこと。()()()()()が許可してあげますよ! 〈死ななかった男の子〉の話なら、議員一同いつでも大歓迎ですもの!」  それに合わせて、となりのコーネリアス・ファッジもうなづいた。

 

女性の顔はぶくぶくとふくらんでいて、化粧の下に生気のない肌があることがはっきり分かる。ほとんどいやおうなく、『カエル』という単語があたまのなかをよぎる。 ハリーのなかの論理的な部分が、人間の外見と善悪は相関しない、と言う。 ブスな人が邪悪である傾向があるのはディズニーの映画だけだし、ディズニーの映画がそうなのはきっと脚本家がブスじゃないからだ。判断を急いではいけない。この女性にも、ここにいるどんな人にも、一度はチャンスをあたえよう……

 

「ぼくが〈闇の王〉を倒したからですか?」と言ってハリーはハーマイオニーの椅子のうしろに浮いているディメンターを指さす。 「もっとひどい〈闇〉の生きものがここにいるようですが。」

 

女性が顔をすぼめ、すこし険しい表情になった。 「おさない子には怖く見えてしまうかもしれませんね。でもね、ディメンターというのは〈魔法省〉大臣の命令をちゃんと聞いてくれます。 第一、ディメンターがいてくれなくては、わたしたちの安全が——」

 

「十二歳の女の子がそれほど危険ですか?」とハリーは言いたてる。 「これほど〈闇〉に満ちた生きものはほかにいません。 あいだに〈守護霊〉の壁があっても、ぼくはこれを——この()()()が近づいてくるのを感じます。これはできることならここにいる人間を一人のこらず食べようとするくらいの、邪悪な生きものです! 一歩たりとも子どもに近づかせてはいけません! ぼくにも、彼女にも、どの子どもにも! むしろ、追い出す決議でもしたらどうですか!」

 

「そんな決議、できるわけがないでしょう——」とカエルおばさんが言いかえす。

 

「マダム・アンブリッジ、ミスター・ポッター、そこまで。」 と上方からダンブルドアの声がおりてきた。 そして一息おいてから、 「ただしもちろん、彼がいま言ったことはまったくの正論ではある。」

 

なかには〈死ななかった男の子〉からの忠告に恥じいった表情の議員もいた。ダンブルドアの発言に激しくうなづいた議員もいた。 しかしその人数はすくなすぎた。ハリーが期待する人数とは、ほどとおい。

 

それから、〈真実薬〉がやってきた。ハーマイオニーはこんどは一瞬泣きそうな顔をして、ハリーを——いや、マクゴナガル先生を見た。マクゴナガル先生は声をださずにくちびるの動きで返事していたが、ハリーのいる位置からは細部が見えなかった。 ハーマイオニーはそれから三滴の〈真実薬〉を飲み、途端に表情が弛緩した。

 

「ガウェイン・ロバーズ。」とルシウス・マルフォイが言う。 「貴官の実直さは全評議員が知っている。ここからはおまかせしてもよろしいかな?」

 

〈闇ばらい〉三人のうちの一人がまえにでた。

 

数度訊問がくりかえされたところで、ハリーは横をむいて両耳に指をつっこんだ。ハーマイオニーの脳は〈偽記憶の魔法〉で植えつけられた内容を再生している。 ときおり漏れる苦悶の声すら、薬物の影響で精彩がない。そのことがハリーにもハリーの暗黒面にもいたたまれない。そもそもこの偽記憶の内容のあらましは分かっているので聞く必要もない。

 

ハリーの脳裡に別の悲惨な女の記憶がぶりかえす。ヴォルデモート卿はまだ生きているとダンブルドアは言うが、ハリーは今日までそれを老人のたわごとにすぎないと思っていた。しかし、こうやって〈記憶の魔法〉をかけられたハーマイオニーをまえにすると、これをやった人物と、ベラトリクス・ブラックを——()()()()——人物とが同一である可能性は高いように思えてしまう。 二つのやりくちには陰惨な共通点がある。これを自分の意思で選択し、そのための()()をする人間には——邪悪さだけではなく、()()がある。

 

ハリーは一度上を見あげた。濃紫のローブの人たちがただじっと、これをながめているのが見えた。

 

しばらくして、夜空の星がすべて燃えつき、宇宙を照らす火がどこにもなくなったころ、ハーマイオニーの訊問が終わった。

 

「では僭越ながら……」とマルフォイ卿の声がする。 「つぎは、息子ドラコの証言を。〈真実薬〉二滴投与のうえで当人が話した内容を、ここに読みあげさせます。」

 

『模擬戦の最中にしつこく攻撃されるまでは、グレンジャーをやりこめようなどとは思っていませんでした。 でもあのできごとがあってからは、自分がこけにされたように思いました。こちらがあれだけ助けてやっていたのに——』

 

そこまでの内容が読みあげられると、ハーマイオニーのくちから、人間が巨大な落石につぶされるときに出すような声が出た。叫ぶことも息をのむこともできず、ただ一度、小さくうめく声だった。

 

「ひとつよろしいですか、マルフォイ卿。」とマルフォイ派らしい集団にいる魔女が言う。 「ご子息はこの泥血を()()()()()()()()というのですか? なぜ?」

 

「なげかわしいことに……」とルシウス・マルフォイが重い声で言う。「息子は、ある種の非常識な主張に耳を貸してしまっていたようです。 幼さゆえのあやまちとはいえ——とんだ考えちがいがこのような結果をもたらすということ。これはわれわれ全員への教訓でもありますが、今回のことで当人も身にしみたことでしょう。」

 

数段下の傍聴席で、記者の帽子をかぶり『デイリー・プロフェット』紙の記章をつけた男が長い羽ペンを手に、いそがしくメモをとっている。

 

すこしまえにダンブルドアの発言にうなづいた少数の人たちが、うんざりした顔をした。 ダンブルドア派らしい集団から魔女が一人、わざとらしく席を立ち、マルフォイ派のほうに移動した。

 

〈闇ばらい〉は単調な声で読みあげを再開する。

 

『対決するまえに施錠の呪文をやりすぎて、ぼくは疲れていました。万全の状態ではありませんでした。 自分ではグレンジャー以上の実力があると思っていたけれど確信はなかったので、決闘をすることで実験的に検証してみようと思った。で……でも理由はもうひとつあって、もし秘密の決闘で勝てたらつぎは公開の決闘で勝つところをみんなに見せてやろうと思っていました。……〈真実薬〉め。 でもグレンジャーはそのことを知らなかったはずです。なのにぼくを()()()()()()! ぼくはなんの下心もなくグレンジャーを助けていた。なのにグレンジャーはぼくを()()()()にして()()()()()()!』

 

証人の証言が終わると、ウィゼンガモートの審議がはじまった。

 

『審議』とは名ばかりのものだったが。

 

殺人は悪だとしか考える気のないウィゼンガモート評議員は多いようだった。

 

ダンブルドア派に属する濃紫のローブの男女はもっと勝ち目のある抗争のときのために政治的資本を温存することにしたらしく、だれも発言しなかった。 クィレル先生がすぐとなりで『ダンブルドア派がいまここで発言してもなんの得にもならない』と説明するのが聞こえるような気がした。

 

ただ、この際、体面を心配しなくてもいいほど万全の地位にある男が一人いた。自由に正論を言いはなつことができる男が一人いた。たった一人でハーマイオニーを弁護するその男は、肩に不死鳥をのせていた。

 

アルバス・ダンブルドアはハーマイオニー・グレンジャーが完全に潔白であると主張しようとはしなかった。 そう主張しても信じる人はいないであろうし、心証を悪くするだけだと、ハリーは事前に聞かされていた。

 

そのかわり、アルバス・ダンブルドアは淡々と根拠をあげていった。犯人はホグウォーツ一年生の女の子であること。子ども時代に愚かな失敗をした人は多いであろうこと。一年生ではまだ自分の行為にどれだけの報いがあるのか理解できなくとも無理はないということ。(そして小声になって)アルバス・ダンブルドア自身この女の子より上の年齢でも愚かなことをしたということ。

 

ハーマイオニー・グレンジャーは教師全員から好かれる生徒であること。ハッフルパフ女子四人が〈操作魔法術(チャームズ)〉の宿題をするのを助けたこともあるということ。この一年たらずのうちにレイヴンクローの寮点を百三点獲得したこと。

 

ハーマイオニー・グレンジャーを知る人にとって、今回のできごとは衝撃以外のなにものでもないということ。 証言の際、彼女がいかに痛切な声で事件をものがたったかということ。 そしてもしも彼女が事件当時、特殊な狂気にとらわれていたのであれば——われわれとしては同情をもって癒者の治療を受けさせる以外の選択肢は論外であろうということ。

 

そして最後に、ここまでの発言に反対する野次の嵐をおさえつけるようにして、問題の容疑は殺人ではなく殺人()()であるということ、結果としてだれの身にも大過はなかったのだということを念押ししたうえで、 諸君はどうか評議会はじまって以来の最悪の愚行をおかすことのないように、と言い——

 

()()()()()」とルシウス・マルフォイが言いはなった。つづいて挙手による採決がおこなわれ、審議の終了が決まった。 銀髪のマルフォイ卿は気迫のこもった様子で銀色のステッキを片手に持ってかかげ、いまにも振りおろそうとする。 「この狂った女は、ほかならぬわが子に手をかけ——〈元老貴族〉の血統の一端を途絶えさせようとした。これだけの血の債務——そのつぐないとして——」

 

「アズカバン!」とマルフォイ卿のとなりの席の、顔に傷のある男が吠える。 「アズカバン行きだ!」

 

「アズカバン!」という声が、ほかの席からもつぎつぎと——

 

ダンブルドアの手にある短杖からコツリと音がして、議場がしんとなった。 「諸君、どうか冷静に。 そして、なんと野蛮な提案か。そのような提案を通してしまっては、歴史ある当評議会の品位にかかわる。ではマルフォイ卿、つづきを。」

 

ルシウス・マルフォイは感情のない表情でじっとそこまでの様子を聞いていた。 「……ふむ。」と言うと、目に冷たい光が宿る。 「わたしもそのような要求をするつもりはなかった。 しかしそれがウィゼンガモートの意思であるなら——この娘を特別あつかいする必要もあるまい。アズカバンとしよう。」

 

「いいぞ」という声がいっせいにあがる——

 

「ものには限度がある!」とアルバス・ダンブルドア。 「子どもの精神はアズカバンに耐え切れない! この三百年われわれはその原則をまもってきたではないか!」

 

「他国からの印象も悪化するのでは?」と、するどい声があった。ネヴィルのおばあさんだ。

 

「それが通ったあかつきには、マルフォイ卿みずからアズカバンの番をしていただけますか?」  こんどはハリーの知らない、別の老魔女がそう言う。 「子どもが投獄されたとなれば、わたしの配下の〈闇ばらい〉はその任を拒否しかねませんので。」

 

「審議時間はもう終了しているが……」とルシウス・マルフォイが冷ややかに言う。 「ウィゼンガモートの意思にそむく〈闇ばらい〉しか見つけられないとおっしゃるのなら、辞職してくださってけっこうですよ、マダム・ボーンズ。後任者はいくらでもいる。 評議会の総意は明確だ。 このような言語道断の罪人には、成人に準じた裁きがふさわしい。 殺人未遂の罪に対して、アズカバンへの禁固十年。」

 

ダンブルドアが、こんどは小声になって言う。 「ほかの手段もあるのではないかね、ルシウス? 必要であれば、二人で控え室で議論することもできるぞ。」

 

銀髪の長躯の男はふりむいて、演台にいる老魔法使いと正面から向きあい、視線をかわす。そのまましばらく時間が過ぎた。

 

それからルシウス・マルフォイがまた話しだしたが、ほんのすこしだけ声が震えているようにも聞こえた。声をうまく抑制できなくなりかけているようにも思えた。 「ことは血の問題、しかも一族の存続にかかわる問題だ。 どんな大金を積まれようとも、わが子の血の債務を売る気はない。 人を愛したことも子をもったこともないあなたには理解できまい。 しかし、マルフォイ家への債務はほかにもあることを、あなたはよく知っている。息子ならきっと、自分自身の血をつぐなわれるより、母親の血をつぐなわれることをえらぶだろう。 この機会に、わたし個人に告白した罪を全評議員にむけて告白するがいい。さすれば——」

 

「とりあう必要はないわよ、アルバス。」と、すこしまえに発言した老魔女が言う。

 

老魔法使いは演台で立ちつくしている。

 

立ちつくしたまま、何度も顔をしかめ——

 

「……やめなさい。正解がなんなのかは分かっているでしょう。いくら悩んでも正解は変わらない。」

 

アルバス・ダンブルドアの返事は……

 

「ことわる。」

 

「それと、マルフォイ……」と老魔女がつづける。 「これだけの大ごとに仕立てたのも、どうせアルバスの顔をつぶそうという魂胆——」

 

「滅相もない。」と言ってルシウス・マルフォイは口もとに皮肉な笑みを浮かべる。 「わたしにとっては、息子のための報復がすべて。 ただ、ご立派なダンブルドアもこのとおり、この娘を賞賛するいっぽうで、みずからを犠牲にして彼女を救うことは露ほども考えない。そういう人間だということをはっきりさせておけば、同輩評議員諸君の参考になると思ったまで。」

 

「〈死食い人〉を思わせる残酷なやりくちだこと。」とオーガスタ・ロングボトムが言う。 「もちろんこれはたんなる比喩ですがね。」

 

「残酷?」とルシウス・マルフォイは皮肉な笑みのまま言う。 「なにをおっしゃる。 ダンブルドアの返事は最初から分かっていた。 彼が表面上の演技にたけた男であるということは、これまでにも指摘してきたとおり。 あのためらいの部分が本心だと思うなら、お笑いぐさだ。 けっきょく返事は変わらなかったではないか。」  そこで呼びかける声になる。 「では同輩評議員諸君、このあたりで採決を。 方法は挙手で十分でしょう。わざわざ人殺しのがわを味方しようという酔狂者はそうはいないでしょうから。」  最後の一言は冷たく、はっきりとした期待がこめられていた。

 

「この子を見なさい。」とアルバス・ダンブルドアが言う。 「諸君はこの子にどれだけ非道な仕打ちをしようとしているのか、分かっているのか! この子は——」  一度声がとぎれた。「……この子はおびえている——」

 

〈真実薬〉の効果が薄れつつあるらしく、ハーマイオニー・グレンジャーの様子は変わりつつあった。弛緩していた表情はわずかにゆがみはじめ、鎖につながれた手足ははっきりと震えている。椅子から逃げだそうともがく手足が、魔法の鎖の巨大な重みに上から押しつけられているように見える。 そこでハーマイオニーは首をがくがくと動かして、やっとのことでハリーと目をあわせ——

 

ハーマイオニー・グレンジャーの目はこれ以上なく明瞭に、ひとつのことを訴えていた。

 

——ハリー——

 

——たすけて——

 

つぎの瞬間、〈元老の会堂〉に氷のような声が—— 液体窒素の色をした温度と裏腹に若い声が響いた。 「()()()()()()()()()()。」

 

◆ ◆ ◆

 

列席する人びとはかなりの時間をかけても声のぬしを探しだすことができなかった。 声がわりまえの高い声であったとはいえ、子どもがそのようなことを言うとは予想しがたい。

 

人びとが声のぬしを見つけられないうちに、マルフォイ卿が応答した。

 

「ハリー・ポッター。」  ルシウス・マルフォイはそう言ってから、目礼しなかった。

 

人びとの顔と目が反応し、涙目の魔女のとなりの、髪のみだれた少年に注目があつまる。 少年は黒の礼服ローブを着て、靴をはいて立っているが、胸より下は机に隠れている。 遠くの席からではよほどの視力なしには見えないが、みだれた髪の下には有名な傷あとがある。

 

「ルシウス、あなたには失望させられた。」と少年が言う。 「十二歳の女の子が殺人をする可能性は低い。 あなたはスリザリン出身で、知性もある。この事件には裏があると分かっているはずだ。 ハーマイオニー・グレンジャーは何者かの謀略にむりやり参加させられた駒にすぎない。 あなた自身のそのふるまいさえ、まちがいなく謀略の筋書きに書かれている——ただし、ドラコ・マルフォイは本来死ぬはずで、あなたは完全にわれをうしなっていたはずだった。 実際にはドラコ・マルフォイは生きていて、あなたは正気だ。 なのにあなたはわが子を殺すはずだった謀略に迎合するような態度をなぜとりつづけるのか?」

 

ルシウスの心中には嵐が吹き荒れているようで、銀髪にかこまれたその顔がいつぱくりと割れて得体の知れないなにかをのぞかせるとも知れない。 くちを閉じたまま一度うごかし、もう一度うごかし、三度目にもまた声にならないなにかを言い、そのつぎにようやく声がでる。 「謀略……だと?」  表情はひきつり、抑制はほとんどうしなわれている。 「だれの謀略だと言いたいのかね?」

 

「それが分かっていたら、とっくにそう言っていますよ。 けれどハーマイオニー・グレンジャーの同級生ならだれでも、彼女が人殺しとほどとおい人物であることは分かります。 ハッフルパフ生の宿題の手つだいを買ってでるくらいの女の子ですからね。 この不自然さが分かりませんか、マルフォイ卿。」

 

「たとえ騙されてのことにせよ——」  ルシウスの声が震える。 「この娘はわたしの息子に手をだした。それをただでおくものか。 貴君はそのことをよく分かっているはずだがな、()()()()()()()()。」

 

「いいえ、ハーマイオニー・グレンジャーが問題の〈血液冷却の魔法〉をかけたという確証はありません。かけていない可能性のほうが高いくらいです。 正確にどういう状況でどんな呪文がつかわれたかは分かりませんが、単純なトリックで彼女にこれだけのことをさせることはできません。 となると、本人の意思にそむいてだれかがそうさせたことになる。あるいは犯行そのものが起きていないのかもしれない。 マルフォイ卿、あなたは誘導されてしまっている。あなたの敵は十二歳の女の子ではない。あなたが復讐すべき相手は別にいる。」

 

「この娘になにをそこまで入れこむことがある?」とルシウス・マルフォイが声をあらげる。 「貴君の知ったことではないだろう?」

 

「彼女はぼくの友だちで、ドラコもぼくの友だちです。 今回の件で狙われたのはマルフォイ家ではなく、ぼくである可能性もあります。」

 

ルシウスがまた顔の筋肉をひきつらせる。 「息子に聞かせたのとおなじ欺瞞を、わたしにも聞かせるつもりか!」

 

「意外に聞こえるでしょうが、ぼくはいつもドラコには真実だけを知らせようとしていた——」

 

「もうよい! その手の欺瞞は聞き飽きた! その手の()()()も聞き飽きた! 貴君は——おまえは——息子がわたしにとってどんな存在であるかを知らない! 今回こそは、仇を討つ機会をとりあげられてなるものか! マルフォイ家へのこの血の債務、当人にアズカバン行きをもってつぐなってもらう。 もしほかに首謀者が見つかれば——たとえそれがおまえであろうとも——おなじ目にあわせるまでだ!」  そう言って、ものものしい銀色のステッキを命令するように振りあげ、ドラゴンに立ちむかうオオカミのように歯をむきだしにする。 「ほかに言えることがないなら——口をつつしめ、ハリー・ポッター!」

 

◆ ◆ ◆

 

ハリーの氷の暗黒面の下で心臓がはげしく鼓動する。ハーマイオニーのことを思うと、いますぐにでもルシウスに飛びかかってやりたい。ルシウスの不遜さ、()()()が許せない——が、自分には攻撃を成功させる()()がない。自分は採決にくわわる一票ですらない——

 

ドラコの話では、ルシウスはなにか理由があってハリーのことを恐れているらしい。 現にいまマルフォイ卿は苦悶の表情をしていて、ハリーに黙れと言うのに勇気を振りしぼっていたことが分かる。

 

そこにわずかな望みを託して、冷たく凄みのある声で言ってみる。 「ぼくを敵にまわしていいのかな、ルシウス……」

 

下の層の純血主義者の一角らしいあたりで、上方のマルフォイ卿ではなく下方の少年を見ていただれかが、信じられないというように笑いだした。 つづいて濃紫のローブの男女がもう何人か笑いだす。

 

笑い声がひろがるなか、マルフォイ卿は態度をゆるがすことなくハリーをじっと見つづけていた。 「わたしはかまわない。そちらこそ、マルフォイ家を敵にまわす覚悟はあるのだろうな。」

 

「それくらいでよろしいんじゃありません?」とピンク色の厚化粧の女性が声をかける。 「もうずいぶん時間をかけましたし。その子も学校の授業があるでしょうし。」

 

「ごもっとも。」と言ってから、ルシウス・マルフォイはまた声を大きくする。 「では、挙手で採決としましょう。 初代グレンジャー、ハーマイオニーが犯したドラコ・マルフォイ殺人未遂事件により、〈元老貴族〉家マルフォイ家は血統断絶の危機にさらされた。よって彼女は当家へ血の債務を負う。以上に賛成のかたは挙手を!」

 

つぎつぎと手があがり、最下段の円のなかにいる書記官が票を集計していく。しかし賛否のどちらが多数であるかはひとめで分かった。

 

ハリーはこころのなかで、自分の一部たちになにか抜け道を、戦略を、アイデアをだしてくれとわめく。 わめいても、なにもでてこない。最後の切り札はもう使ってしまったのだから。 あとはこれを試すしかないと思い、なりふりかまわず自分の暗黒面(ダークサイド)に飛びこみ、その冷徹な精神をつかまえて、なにと引き換えにしてでもいいからこの問題をといてくれと頼みこむ。 暗黒面がその呼びかけにやっとこたえて、氷のような落ちつきをもたらす。 パニックと絶望を乗りこえて、ハリーの頭脳が手もちのあらゆる情報を吟味しはじめる。ルシウス・マルフォイに関する記憶のすべて。ウィゼンガモートに関する記憶のすべて。ブリテン魔法界に関する記憶のすべて。目は椅子の列を見わたし、視界のなかにいる人間と人間以外のものすべてのなかから、利用できるなにかを見つけだそうとする——

 

◆ ◆ ◆

 

原作品の著者:J. K. Rowling

ファンフィクションの著者:Eliezer Yudkowsky

 

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