ハリー・ポッターと合理主義の方法   作:ポット@翻訳

93 / 122
93章「それぞれの役割(その4)」

ハリーは大広間に足をふみいれ、一度だけ周囲に目をむけてから、体力を維持するのに必要なだけのカロリーの食べものをあつめるとすぐに退出して、また〈マント〉を着て、適当な場所をみつけて食べることにした。 テーブル席の生徒たちに目をやると——

 

自分とおなじ人間たちを目にして嫌悪を感じるのは気がかりな兆候だ——とハッフルパフが言う。 きみが知っていた知識を知る機会がなかった人たちを責めるのは不合理だ。 緊急時に動けないことと、自分勝手であることとはまったく別だ。 正常性バイアス。テネなんとかという名前の空港の衝突事故で、事故を起こした飛行機から逃げだした人は少なかった。飛行機に文字どおり火がついていたのに、大半の人が座席についたままでいた。 きみだって、動きだすのにあれだけ時間がかかったじゃないか。

 

憎むことには有用性がない。憎んでも、自分の利他心をそこなうばかりだ——とグリフィンドールが言う。

 

かわりに、またおなじことにならないように訓練する方法を考えてみればいい——とレイヴンクローが言った。

 

実験結果をまえもって予想するから、記録しておいてほしい——とスリザリンが言う。 どういう実験をしても結果はかわらない。人間は救いようがなく、教育しようもなく、肝心なときにかぎって頼りにならないものだ、という仮説にしたがう観察しか得られない。 それと、これが正解だった回数を記録する方法も用意しておいてもらいたいね。

 

ハリーはあたまのなかのそういった声を無視して、ひたすらトーストをくちに運ぶ。 栄養的には好ましくないメニューだが、たまにはそうせざるをえないこともある。翌日の食事でとりもどすことを前提として。

 

まだくちを動かしているうちに、不死鳥のかたちをした銀色の光がどこからともなく飛んできて、疲れた老人の声でハリーに話しかけた。 「これから手紙をひとつ、きみのところへとどけに行きたい。〈マント〉をぬいでいてくれ。」

 

ハリーは一度むせ、のどのなかのトーストをのみこみ直し、立ちあがって〈不可視のマント〉をぬいだ。そして「ダンブルドアに『わかった』と伝えて。」と言い、座ってまたトーストを食べはじめた。

 

ハリーがいるくぼみのところへアルバス・ダンブルドアがやってきたとき、トーストはすべてなくなっていた。ダンブルドアは片手に折りたたまれた紙のたばを持っていた。魔法族の羊皮紙ではなく、罫線のついたほんものの紙だった。

 

「それは——」とハリーが言いかける。

 

「きみのお父さんと、お母さんからの手紙じゃ。」  ダンブルドアは無言で便箋のたばを渡し、ハリーは無言で受けとった。 ダンブルドアは一度ためらってから、静かに話しだした。 「わしは、助言をしたくなったときもっと自制するようにと、〈防衛術〉教授に言われたことがある。一人で考えてみても、たしかにそのとおりだと思えた。 昔からわしは、あとになって沈黙の価値に気づくことばかりじゃ。 ただ、きみがそう思わないなら、一言言ってくれれば——」

 

「いえ、けっこうです。」  ハリーは手もとの便箋に目をやる。同時に、自分が強く悲観的な予想をしているときいつも感じる内臓の不快感があった。 さすがに両親に縁を切られることはないだろうし、両親が実際ハリーに対して()()()ことはあまりない(それでも、ハリーの一部はテレビを見る権利をうばわれることへの身体的な恐怖を感じてしまっている……いまとなってはほとんど意味のないことであるにもかかわらず)。 しかしハリーは実際、親が子に対して内心で期待する役割にそぐわないふるまいをした。親から見て低い序列にある者にあるまじきふるまいだった。 こちらがそういうふるまいをすれば、支配者であると思っているがわは当然、完全に激怒するものだ。それ以外の反応を期待するほうがおかしい。

 

「ハリー、きみはそれを読んだあと、すぐに大広間に来たほうがよいと思う。 きみが聞きのがしたくないであろう告知があることになっている。」

 

「葬儀には興味ありません——」

 

「いや、そのことではない。それを読みおえたらすぐに、〈マント〉なしで、ぜひとも来てほしい。よいかね?」

 

「はい。」

 

老魔法使いはその場を去った。

 

ハリーは努力してやっと手紙をひらいた。 重要なのは自分の友だちや近しい人たちの身に危険がおよばないようにすること。陳腐な言いかたではあるが、その論理はまちがっていないように見える。 傷ついた関係を修復するのはあとでいい。

 

一通目は筆記体で書かれた手紙で、読みとるのに集中力が必要だった。

 

息子へ

 

きみが読んだ本にどんなことが書いてあったとしても、ぼくたち夫婦を危険から遠ざけることが、きみが困ったとき助けになってくれる大人を周囲に置くことよりも重要だなどと思うのはまちがっている。 きみはほとんど話しもしないまま、自分には『暗黒面』があるから両親に見捨てられてしまう、と決めつけてしまったらしいが、 シェイクスピアの亡霊に誓って、この一年、ぼくはとてもじゃないがありえないと思っていたような——ペチュニアがごまかしているだけで実は、きみはぼくがきみの魔法の能力を信じはじめたころに当局に連れ去られたと思ってもいいくらいの——ものを見せられた。だから、考えにくくはあるが()()()()()()()きみのなかに……まだなんとも言えないが、実態がよく分からないうちに『暗黒面』と呼ぶべきではない気がする……それが生じた、ということもあるのかもしれない。 でも、テレパシー能力が開花して、近くにいる別の魔法使いの精神を盗聴しているだけだったりということもあるんじゃないか? もっとまともな文明で育った子どもの目には、彼らの思考が邪悪にうつるのかもしれない。 無論これは根拠のないぼくの想像にすぎないが、きみも結論をいそいではいけない。

 

いま伝えておかなければならない大切なことが二つ。 第一に、きみ自身がそう選択するかぎり、きみは〈光のフォースの陣営〉にとどまることができるとぼくは信じている。きみがそう選択するということも、信じている。 きみに悪事をさせようとして耳うちする邪悪な霊かなにかがいるなら、とにかくそれのことは無視すること。 口うるさいようではあるが、この点に関してはくれぐれも意識してそうしてもらいたい。邪悪な霊がいくらおもしろい発想をしているように聞こえても、耳をかたむけてはいけない。耳をかたむけたらどうなるかについては、こちらから言うまでもなく〈理科課題事件〉でのできごとを思いだしてくれることを期待している。いま思えば、あれはきみが悪魔にとりつかれて苦しまぎれにやったことだったとすれば、よほど理解できる気がするな。

 

第二に、『暗黒面』のことでお母さんお父さんに捨てられるかもしれないといった心配はどうかしないでほしい。 きみが魔法能力を身につけたり黒魔術への親近感を持ちはじめたりするというのは想定外だったにせよ、いずれ思春期が来ることは想定内だった。 わずか九歳ですでに消防車を呼ぶ事案に計五回かかわっていた子をもつ父親の立ち場からすれば、これがそれなりに気をもむべきことであるのは分かってもらえると思う。 子どもは成長する。 ごまかしのない事実を言うなら、きみも二十歳になるころには、いまほどぼくたちに対して親密な気持ちをもたなくなるだろうと思う。 けれどぼくたちは年老いて介護ロボットの世話になるころにも、きみに対していまとまったく変わらない親密な気持ちをもちつづけている。 いつの時代も、子どもは成長して親のもとを去るもの。親はそれを追いかけて、役に立とうとするもの。 子どもは成長すれば性格が変わったり、親の意にそむくことをしたり、親にむかって失礼なふるまいをしたり、親を魔法学校の外へたたきだしたりもする。親はそれでも子どもを愛しつづける。 〈自然〉界はそういう風にできている。 とは言うものの、これがまだ思春期ですらなく、まだまだ悪化する見こみがあるのだったりする場合にそなえて、この気持ちを変更する権利の留保させてもらいたいがね。

 

一連のできごとの実態がなんであれ、ぼくたちはきみを愛している。それはなにがあっても変わらない。 もしもそちらの世界の法則で、その愛になにか魔法的な効果があったりするのだとしたら、遠慮なく使ってくれ。

 

まずそのあたりをはっきりさせたうえで言うが……きみのあの言動は看過できない。 そのことは自分でも分かっているだろうと思う。 ぼくも、いまぼくが口うるさくすべきときでないことは分かっている。 それでも、いま実際どういうことが起きているのかについて、かならず手紙に書いて教えてくれ。 きみがぼくたちをその学校から離れさせようとした理由はよく分かるし、ぼくたちがきみになにかを強制することはできないと分かってもいるが、きみもすこし考えればぼくたちがどれだけ恐怖を感じているかを理解してくれると思う。

 

すこしでも周囲の大人に危険だと言われるような種類の魔法にはいっさい手をだしてはならない、ということははっきり言っておきたい。が、どうやらきみの学校の教師たちは毎週月曜日に全生徒に上級死霊魔術の授業をしていてもおかしくなさそうだから、こう言いかえよう。 きみがいまどんな状況におかれているにせよ、状況に応じて自分にできるかぎりの警戒をすること。 きみは駆け足で説明をくれはしたが、ぼくたちには状況がさっぱり分からない。だからこそきみには、書ける範囲のことすべてを手紙に書いて送ってほしいと思っているんだが。 きみがすくなくともある面では成長したことはたしかなようだし、ぼくも児童書にでてくるような邪魔ばかりする親にならないようにしたいと思う——とはいえ親としては葛藤があることも理解してほしい。ペチュニアからは魔法の秘密がどうやって守られているかについて、いろいろと恐ろしげなことを聞かされた。ぼくがことを荒立てればきみにどんな害がおよびかねないかということも。 学校自体が危険で、きみが学校を離れることを許されていない以上、安全でないあらゆるものに近づくなとは言えない。 ほかの子どもたちが困っているかもしれない以上、身のまわりで起きるどんなできごとへの責任を果たそうとするなとも言えない。 だが、きみには大人を守る道義的責任だけはないということを忘れるな。大人たちはきみを守るためにいる。これはまともな大人ならかならず同意してくれるはずだ。 できるだけ早く手紙を書いて詳細を聞かせてくれ。

 

ぼくたち夫婦はなにかすこしでもきみの助けになりたいと思っている。 どんなことでもぼくたちにできることがあれば、すぐに教えてくれ。 ぼくたち自身がどうなろうとも、きみの身になにかが起きたことをあとから知らされるのよりはましだ。

 

パパより

 

もう一枚の内容は短かかった。

 

あなたは魔法にわたしたちの仲がひきさかれたりはしないようにするから、と約束してくれましたね。ママとの約束をやぶるような子に育てたつもりはありません。 かならず無事に帰ってください。約束だから。

 

ママより

 

ハリーはゆっくりと手紙をもつ手をおろし、大広間にむけて歩きだした。 手が震え、全身が震えていて、大変な労力をかけなければ泣くのをこらえることができそうになかった。ハリーは、泣いてはいけないということを無意識のうちに理解していた。 あれから一日のあいだハリーはまだ泣いていない。これからも泣かない。 泣くことは敗北を受けいれることに等しい。 まだ終わりじゃない。 だから泣かない。

 

◆ ◆ ◆

 

その夜、大広間でだされたのは質素な食事だった。トーストとバターとジャム、水とオレンジジュース、オートミールなど簡単なものだけで、デザートはなかった。 寮の色をあしらわない黒単色のローブを着て来た生徒もいた。ふだんどおりの服装の生徒もいた。 通常ならそれだけで口論の種にもなる。この日はただ全員が静かに、話をせず食べる音だけがあった。 論争には二つの陣営が必要だが、この日、そのかたほうには論争をする気がない。

 

ミネルヴァ・マクゴナガル副総長は〈主テーブル〉の席についたが、食事をしていない。 すべきだと思ってはいる。 もうすこし経ったら、と思う。 わかってはいるのに行動に移すことができない。

 

グリフィンドールの人間として、とるべき道は一つ。 〈防衛術〉教授に煽られてから、知略の方面でできることを探して見つからずにいたとき、それがグリフィンドールらしくない方向の思考であると気づくのに、長くはかからなかった。 いや、言えるのは自分らしい道ではないということだけかもしれない。アルバスなら知略にも手をだそうとする……が、それでもおたがいの過去を思い起こせば、危機に際して最後に頼るものとして、権謀術数が登場したことはない。 アルバス・ダンブルドアにとってもミネルヴァにとっても、究極の指針は、正しいことがなんであるかを見きわめること。それが分かれば、自分がどんな代償をしはらうことになってもやりとげる、ということ。 みずからの(のり)()え、役割を変え、それまでの自己像を放棄することになろうともそうするということが、 グリフィンドールにとって最後のとりでだ。

 

大広間の側面の入りぐちからハリー・ポッターがそっと入場した。

 

いまだ、と思った。

 

マクゴナガル教授は席を立ち、しおれた帽子の先を直して、〈主テーブル〉のまえの演台へゆっくり歩いていく。

 

大広間はすでに十分静かだったが、それが完全に無音になり、生徒たちがミネルヴァに注目した。

 

「もうみなさんもお聞きのとおり……」  声に安定感がない。『ハーマイオニー・グレンジャーが死んだ』という部分を言わないのは、すでにだれもが聞いているから。 「なんらかの方法でホグウォーツ城にトロルが送りこまれ、その時点で城の古くからの結界の警報は作動しませんでした。 トロルは生徒一名を攻撃してけがをさせ、その生徒の死にいたる瞬間まで、やはり結界は作動しませんでした。 どのようにしてこの事態が生じたのかについて、調査が進行中です。 本校としての対応方針を決めるために近く理事会が開催されます。 犯人にはいずれ公正な裁きがくだります。 そのまえに、ただちにくだしておかねばらならないもうひとつの裁きがあります。 ジョージ・ウィーズリーとフレッド・ウィーズリーは前へ。全員から見える位置に来なさい。」

 

グリフィンドールのテーブルについていたウィーズリー兄弟の二人は一度おたがいを見あってから席を立ち、ミネルヴァのほうへ、不承不承あるいてくる。 それを見て、二人は退学させられると思っているのだ、ということにミネルヴァは気づいた。

 

二人はまじめにそう信じているのだと。

 

ミネルヴァのあたまのなかにいるマクゴナガル教授のイメージがそうさせたのだと。

 

ウィーズリー兄弟は演台の位置まで来て、顔をあげた。その表情には恐れと同時に決意が見え、ミネルヴァはまた少しこころを引き裂かれる思いがした。

 

「退学命令ではありません。」  二人がおどろくのを見て、ミネルヴァはまた悲しくなった。 「フレッド・ウィーズリー、ジョージ・ウィーズリー。二人とも、学友のみなさんがいるほうへ、顔をむけなさい。」

 

おどろいた表情のまま、二人はそうした。

 

ミネルヴァはこころを引きしめて、正しいことを言った。

 

「わたしは今日一日のできごとが恥ずかしい。 動いたのがあなたがた二人だけであったことが恥ずかしい。 わたしがこれまでグリフィンドール寮にしてきたことが恥ずかしい。 ハーマイオニー・グレンジャーが助けをもとめていたとき、そしてハリー・ポッターが支援をつのったとき、本来であればグリフィンドール寮が率先して動くべきでした。 実際、七年生が一人いれば、ミス・グレンジャーを捜索するあいだ山トロルの攻撃を防ぐ役目は果たせたはずでした。 そして本来であればグリフィンドール寮監は……」  声が一度とぎれた。 「……予想不可能な状況下で命令にそむいて正しいことをする人を認めるであろうと、思ってもらえる人物でなければなりません。 わたしはそう思われるに足るだけの証拠をみなさんに見せたことがありませんでした。 わたしはみなさんを信じていなかった。 グリフィンドールの美徳を信じてすらいなかった。 わたしは生徒の反抗心を消し去ろうとするいっぽうで、生徒の勇気を賢明な行動へつなげる教えかたをしませんでした。 〈組わけ帽子〉がわたしのなにを見てグリフィンドールをえらんだにせよ、わたしはその名に足るふるまいができませんでした。 このため、わたしは副総長とグリフィンドール寮監の職を辞職することを総長に申し出ました。」

 

◆ ◆ ◆

 

驚愕の声がグリフィンドールのテーブル以外からもあがり、ハリーの心臓は凍りついた。 前列に飛びこんで、なにか言わなければならない、と思う。こんなつもりではなかった——

 

◆ ◆ ◆

 

ミネルヴァはまた息をすってから、話をつづける。 「ですが、総長はわたしの辞職を認めませんでした。 わたしは職務をつづけ、自分のあやまちを正そうと思います。 どうすれば安全なことでもなく、安易なことでもなく、命令されたことでもなく、正しいことができるのか。わたしはそのため方法を教えられるようにならなければなりません。 レポートの期限をまもらせることしかできないなら、いっそグリフィンドール寮などないほうがいいくらいです。 この道はわたしにとって、おそらくわれわれ全員にとって、困難な道でしょう。 これまでのわたしは安易な道をえらんでいただけであったことが今日わかりました。」

 

ミネルヴァは演台をおりて、ウィーズリー兄弟のところへ行った。

 

「フレッド・ウィーズリーとジョージ・ウィーズリー。あなたがた二人はこれまでいつも正しくあったとは言えません。 権威に対して無闇に反抗するのは賢明な態度とは言えません。 しかし今日のできごとは、あなたがたがグリフィンドール寮で唯一、わたしのあやまちの犠牲にならずに生きのびていたことを証明しました。 それが正しいおこないであると分かっていたからこそ、あなたがたは退学処分の脅迫をはねのけて、自分の身の危険もかえりみず、山トロルに立ちむかった。 グリフィンドール寮が誇るべきその目ざましい勇気に対して、二人それぞれにグリフィンドールの寮点二百点をあたえます。」

 

またしても驚愕の表情を見せる二人。ミネルヴァはまた、心臓に小刀を刺されたような痛みを感じた。

 

ほかの生徒たちのほうに顔を向けて話す。

 

「レイヴンクローへの加点はしません。 ミスター・ポッターは受けとりたがらないでしょうから。 もし本人がそうでないと言うなら、寮点はいくらでも好きなだけ差しあげます。 ですがわたしからミスター・ポッターには、せめて一言……」  声がゆらぐ。 「ごめんなさい——」

 

◆ ◆ ◆

 

「やめて!」とハリーは叫んだ。 「やめてください。 そこまでしなくても。」  自分が巨人の手でしめあげられて、内臓がねじれ、からだがねじきられているように感じられる。 「それと、スーザン・ボーンズとロン・ウィーズリーのことを忘れていますよ——この二人も手を貸してくれたので、寮点をもらう権利があります——」

 

「ミス・ボーンズとミスター・ウィーズリーが? それはルビウスから聞きませんでしたが——その二人はなにを?」

 

「ミス・ボーンズは、ミスター・ハグリッドがぼくをとめようとしたとき、彼を失神させようとしました。ミスター・ウィーズリーは、ネヴィルがぼくをとめようとしたとき、ネヴィルを撃ちました。この二人にも加点があるべきです。それとネヴィルにも。」  ハリーはそれまでネヴィルがいまどんな気持ちでいるかを考えていなかったが、想像してみるとすぐにわかった。 「ネヴィルも行動しようとはしたからです。結果的に正しい行動でなかったとしても、正しいことをするのを学ぶまえに、すこしでも行動することを練習するのが先決ですから——」

 

「ハッフルパフとミス・ボーンズに十点。」  マクゴナガル先生の声がそこで一度とぎれる。 「グリフィンドールとロン・ウィーズリーに十点。 ウィーズリー家は今日とりわけ立派でしたね。 自分は正しい行為をしていると信じてミスター・ポッターに立ちむかったネヴィル・ロングボトムの功績を認めて、ハッフルパフにもう十点——」

 

「やめてくださいよ!」とハッフルパフのテーブルから声があがった。つづいて、しゃくりあげる音がした。

 

ハリーは一度そちらを見てから、マクゴナガル先生にむいて、できるかぎり声を落ちつかせて話しだす。 「たしかにネヴィルが言うとおり、行動が正しかったという部分についての点がゼロというのも、まちがったメッセージを送ることになります。半分正解だったということで、五点でいいんじゃないでしょうか。」

 

マクゴナガル先生はしばらく、なにを言えばいいかわからない、という表情をしたが、やがてネヴィルの席に目をむけてから言った。 「ではそうしましょう。 ……ミス・ボーンズ、なにか?」

 

見ると、前列に来ていたスーザン・ボーンズが目もとをぬぐって話しはじめるところだった。 「実は——ポッター司令官からは見えないところで——ウィーズリー隊長とわたし以外にも、ミスター・ハグリッドの動きを妨害しようとした人がいました。ポッター司令官が外にいってからのことです。 結局はわたしたちも上級生たちにとめられたんですが、 ミスター・ハグリッドを一分間足どめして、ポッター司令官に追いつけないようにすることはできました。」

 

「点はみんないっしょにつけてくださいよ。」とグリフィンドールのテーブルからロン・ウィーズリーの声がする。「でなきゃ、ぼくのぶんもいらない。」

 

「みんなと言うと?」  マクゴナガル先生の声はすこしぐらついていた。

 

七人の男女が立ちあがった。

 

たしかスリザリンのやつが、なにをやっても無駄だとかいう予測をしていたような?——とハッフルパフが言った。

 

ハリーのなかでなにかが割れ、そこから自分がばらばらにならないよう、全力をこめなければならなかった。

 

◆ ◆ ◆

 

ミネルヴァは言うべきことを言い終え、すべきことをすべてし終えてから、ハリー・ポッターのもとへ行った。 自分の得意分野でないことを承知で、視界をぼやけさせる結界と、音を吸収する魔法を無言でかけた。

 

「あ……あれは—— ぼくはあなたにあんなことをさせるつもりでは——」と、しゃくりあげるような声でハリー・ポッターが言う。 「ぼ……ぼくはあなたに、ひどく傷つけるような、まちがったことばかりを言ってしまって——」

 

「そうでしたね。それでもわたしは、もっとがんばりたいと思いました。」  胸のなかが軽くなったような気がした。ちょうど、崖から足を離れさせ、足にかかっていた体重がなくなるときに似ているかもしれない。 ほんとうに自分にできるのかは分からないし、先行きははっきりしない。それでも、自分が総長(ヘッドミストレス)になるとき、ホグウォーツをぬけがら同然にせずにすむかもしれないような気が、はじめてした。

 

ハリーはミネルヴァをじっと見てから、のどからひねりだされたような奇妙な声をだし、両手で顔をおおった。

 

ミネルヴァは床にひざをついて、ハリーを抱擁した。 この試みは失敗するかもしれないが、成功するかもしれない。その不透明さに足どめされてはいられない。 そろそろ自分もグリフィンドールの勇気を学んで、教えられるようにならなければと思う。

 

「わたしにも昔、妹がいました。」とだけ、彼女は小声で言った。

 

◆ ◆ ◆

 

いちおう確認しておくけど——とハリーの一部が、マクゴナガル先生の腕のなかで泣いている自分にむけて言う。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

もちろん——と、ハリーのそれ以外の部分すべてが一致して唱和する。温かな部分も冷ややかな部分も、隠れた芯の部分も。()()()()()()()()()()()()()()

 

◆ ◆ ◆

 

そこに老魔法使いが一人、結界をなんの苦もなくやりすごし、魔女と若い魔法使いを上から見つめていた。 アルバス・ダンブルドアは奇妙に悲しげな表情の目をして、ほほ笑んでいた。予見されたとおりの目的地へ向けてまた一歩あゆみをすすめる人のように。

 

◆ ◆ ◆

 

〈防衛術〉教授はその女性と泣く少年をじっと見ていた。 とても冷たく、計算高い目をしていた。

 

これではまだ足りない、と思いながら。

 

◆ ◆ ◆

 

翌朝になってはじめて、ハーマイオニー・グレンジャーの遺体がなくなっていることが判明した。

 

◆ ◆ ◆

 

原作品の著者:J. K. Rowling

ファンフィクションの著者:Eliezer Yudkowsky

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。