ハリー・ポッターと合理主義の方法   作:ポット@翻訳

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98章「それぞれの役割(終)」

一九九二年四月十九日日曜日、午後六時三十四分

 

ダフネ・グリーングラスはしずかにスリザリン地下洞の下のグリーングラス専用室をめざして歩いていく。ホグウォーツ急行を下車した彼女は、部屋にトランクをおいてからほかの生徒たちといっしょに夕食をとる予定だ。 マルフォイがいなくなったいま、〈元老貴族〉の特権でもある個室区画は彼女一人のものになっている。 エメラルドがはめられた巨大なトランクはうしろにいる。一族伝統の頑固なこのトランクは、何度手招きをしてもなかなか動こうとしない。魔法をかけなおす時期にきているのだろうか。それとも、ホグウォーツ城が安全な場所でなくなったと知ってのことだろうか。

 

ダフネがハーマイオニーのことを話すと、母と父は長く話しこんだ。それをダフネは扉のそとでこっそりと聞いていて、泣きだしそうになっては声を殺して飲みこんでいた。

 

母はこう言った。不幸なことだが、ホグウォーツで死ぬ生徒が一年あたり一人しかいないなら、それはまだボーバトンより安全で、ダームストラングよりはるかによい。 若い魔女が死ぬ原因はだれかに殺されることだけではないし、 ボーバトンの〈転成術〉教師とマクゴナガルとのあいだには歴然した手腕の差がある。

 

父はまじめな顔で、グリーングラス家のあとつぎにとって、ほかの〈貴族〉家の子どもたち全員とおなじ学校で暮らすことは有意義である(昔から各家があとつぎの生まれる時期を調整して重なるようにしているのも、その子たちをホグウォーツで同学年にしたいからだ)と説いた。 〈元老貴族〉の一族のあとつぎたるもの、不都合を避けてばかりはいられないのだ、とも。

 

ダフネはその最後の部分にうんざりだった。

 

ぐっと息をのみこんで、ドアノブをまわして部屋のドアをあける。

 

「ミス・グリーングラス——」とささやく声があった。銀色にぼうっと光るローブすがたのだれかがそこにいた。

 

ダフネは悲鳴をあげ、ドアをぴしゃりと閉じて、杖を手にし、部屋に背をむけて走りだそうとした。

 

「待て!」とおなじ声が言った。こんどはもっと高く大きな声で。

 

ダフネは立ちどまった。 聞きおぼえのある声だが、まさか。

 

ゆっくりとふりかえって、もう一度ドアをあける。

 

「あなたは……!」  ダフネはフードの下の相手の顔を目にしておどろく。 「あなたはたしかもう——」

 

「潮目がかわったいま、ぼくもまた——」と銀色のローブすがたの人が力強く言いかける。

 

「わたしの部屋になんの用!?」

 

「きみは霧型の〈守護霊の魔法〉をつかえると聞いた。 やって見せてくれないか?」

 

そう言う彼を見て、ダフネは血が熱くなるのを感じた。 「なんのために?」と杖をつきつけたまま言う。 「スリザリンらしくない呪文をつかうスリザリン生を全員()()ため? ハーマイオニーを殺したのがだれだったかは、もうわかってるのよ!」

 

人影の声も大きくなる。 「ぼく自身も〈真実薬〉を処方されて証言した! ぼくはミス・グレンジャーを助けようとしていたんだと。 屋上で手をつかんだときも、手を貸して立ちあがらせてやったときも——」

 

ダフネは杖をさげようとしない。 「あなたのお父さんなら、その気になれば〈闇ばらい〉の記録をいじるくらいなんでもない。そのくらい、ちょっと考えればわかるわよ!ミスター・()()()()()!」

 

銀色のローブの人影は、警戒されまいとするように、ゆっくりとした動きでローブのなかから杖をとりだした。 ダフネも杖をにぎりなおす。と同時に、相手の杖におかれた指の位置、そして立ちかたからその呪文を思いだし、ダフネははっとして息をのむ——

 

「『エクスペクト・パトローナム』!」

 

相手の杖さきから銀色の光が飛びだし——光は凝縮して光るヘビとなり、空中でゆったりととぐろを巻いた。

 

ダフネはただ呆然となった。

 

「ぼくは本気でハーマイオニー・グレンジャーを助けようとしていた。 スリザリン寮の中心に巣くう病気、あれほど多くのスリザリン生が〈守護霊の魔法〉をつかえない理由が分かっているから。それは憎悪だ。 マグル生まれに対する憎悪、というよりあらゆる相手への憎悪。 世のなかではスリザリンといえばそういうものだと思われてしまっている。狡知でも野心でも名誉でもなく。 それに、ハーマイオニー・グレンジャーの魔法の能力が低くなかったことも分かっている。どう見ても低いわけがないじゃないか。」

 

ダフネはあたまのなかが真っ白になった。 不安のあまり、目をきょろきょろさせて、周囲の扉の下から血がながれてきていたりしないかたしかめようとする。前回〈なにか〉が〈壊れた〉ときはそうだったから。

 

「それだけじゃなく……」とドラコ・マルフォイが言う横で、銀色のヘビは〈守護霊〉以外のなにものでもない光と熱を発している。 「ハーマイオニー・グレンジャーがぼくを殺そうとしてなどいないことも分かっている。 〈偽記憶の魔法〉をかけられていたか、〈開心術〉をかけられていたか。いずれにしろ、こうしてミス・グレンジャー自身が殺された以上、だれかが彼女にぼくを殺させようとしていたということだ。最初から標的は彼女だったということだ——」

 

「あ……あ……あなた自分がなにを言ってるか分かってるの?」  これがルシウス・マルフォイの耳にはいれば——ドラコは皮を剥がれてズボンにでもされてしまう!

 

ドラコ・マルフォイはにこりとした。銀色のローブは完全な有形の〈守護霊〉の光に照らされている。それは自分がレザーパンツにされるといった瑣末なことなどどうでもいいと言いたげな、不敵な笑みだった。 「たしかに。けれどそれはもうだいじょうぶだ。 マルフォイ家はポッター家の債務を帳消しにして、支払いずみの金額も返却することにした。」

 

ダフネはベッドに歩み寄り、そのままどさりと倒れた。ベッドにいけばこの夢からさめられるのではないかと思った。

 

「きみを陰謀団に招待したい。 そしてスリザリン所属で〈守護霊の魔法〉をつかえる人、これから身につけられる人はみな仲間にいれたい。 〈白銀のスリザリン〉団では、そうやっておたがいが信頼できることをたしかめることにするんだ。」  ドラコ・マルフォイはこれ見よがしにフードをめくって顔を見せた。 「しかしそれも、ダフネ・グリーングラスという存在がなければはじまらない。きみとグリーングラス家がね。 そちらのお母さんと父上とで話をつけてもらうことにはなるが、この提案はぜひきみのくちからご一族にとどけてもらいたくてね。」  ドラコ・マルフォイの声が深刻そうな声に変わる。 「きみとは夕食までに話しておくべきことが多々ある。」

 

◆ ◆ ◆

 

どうやらハリー・ポッターはいつも透明でいることにしたらしい。羊皮紙でないなにかに書かれたリストをわたしてくるときも、二人からは手の部分がちらりと見えるだけだった。 ハリー自身が言うには、一連の状況をかんがみれば、特別な場合以外に()()()()()()()()()()状態でいることが賢明だとは思えないから、これから他人と対面するときは、空中を浮遊する声か、だれにも見えない場所に隠れて光る銀色の光となって会話するようにしたい、ということらしい。光の場合は、味方である相手がどこに隠れようとしていても探しあてることができる、とも言っていた。 フレッドとジョージが知る範囲で、これほど気味のわるいものはなかなかない。スリザリン二年生全員の靴のなかみを〈転成〉した生きたムカデだらけにした経験のある二人がそう言うのだから、よほどのことだ。 いかにも本人の精神にも悪影響がありそうだとは思うものの、二人はハリーにどんなことばをかけるべきか分からないでいた。 というのも、今回のことで二人自身がホグウォーツの実態を目撃してしまっていたから。ここはたしかに……

 

……安全ではない……。

 

「リタ・スキーターの件で、きみたちがだれにたのんで〈偽記憶の魔法〉をかけてもらったのかは知らないけれど……」とハリー・ポッターの声が言う。 「とにかくその人なら……その人本人がこの依頼をやることはないにしても、マグル世界のものを入手できる別のだれかを知ってはいるかもしれない。 それと——口止め料がかさんでもかまわないから、このことにハリー・ポッターがかかわっていることを知る人の数はできるかぎり少なくしてほしい。」  男の子の片手がちらりと見えたあと、袋が地面に落ちて、チャリンと音をたてた。 「このうちいくつかの物品はマグル世界で買っても高価なしろもので、請け負う人は外国にいかなければならないかもしれない。それでも百ガリオンあれば十分だろうと思う。 これだけの大金がどこからでているかについては、教えてあげたいところだけれど、それは明日のお楽しみ。」

 

「なにこれ?」と、リストに目をとおしているフレッドとジョージのどちらかが言う。 「マグルを専門にしてる父親がいるおれたちでも——」

 

「——このリストにある名前の半分も聞いたことがない——」

 

「——いや、ひとつも聞いたことがない——」

 

「——これでなにをしようって言うんだよ?」

 

「事態は深刻になった。」とハリーの声が小声で言う。 「これからどんな必要ができるかわからない。 最終的には、魔法族だけじゃなくマグル族のちからが必要になるかもしれない——もしかすると、準備する猶予もなく、いきなり必要になるかもしれない。 これは、つかう()()があって書いたんじゃない。 ただ手もとにおいておきたいだけさ……有事にそなえて。」  ハリーはそこで一度とまった。 「もちろんぼくはきみたちに返しきれない借りがある。その借りに見あうだけの返礼をしようしてもきみたちは断るだろうし、どう感謝していいかも分からない。だからぼくとしては、きみたちがいつか大人になって、もっとまともな判断ができるようになったとき、十パーセントの手数料を受けとってくれるよう期待するしかない——」

 

「うるさい。」とジョージかフレッドかが言った。

 

「きみたちはぼくのためにトロルを足どめして、フレッドは肋骨を折ることまでしてくれたじゃないか!」

 

そう聞いて、フレッドとジョージはそろってくびを横にふった。 ハリーはあのとき逃げろと言われても逃げず、ジョージを食べようとするトロルの気をそらしてくれた。 ハリーはそれくらいでは自分が受けた恩を返せていないと思う種類の人間なのだ。 けれどそもそも、この三人のあいだには、これまでもこれからも貸し借りなどない。フレッドとジョージはそう理解しているが、ハリーはもうすこし大人になるまで理解できないらしい。 ある意味でひとりよがりなハリーは——自分自身のなかにある思いやりを理解していない。ハリー自身は、自分がだれかを救ったことに対して金銭的な支払いをもとめたり、それを債務と呼んだりしようとは思いもよらない——その反面、()()()おなじように行動する可能性となるとまったく理解できないらしい。

 

「あとできみたちに、『肩をすくめるアトラス』というマグルの小説をプレゼントしたいから、忘れていたら教えてほしい。 あの本からいい意味で影響を受けられる人がどういう種類の人なのか、わかってきた気がするよ。」と、またおなじ声が言った。

 

◆ ◆ ◆

 

四月二十日月曜日、午後七時

 

そのできごとは、生徒たちがしめやかな夕食を終えたころ、〈主テーブル〉のだれの関与もなしに起きた。どの教員が認めたのでもなく、総長が許したのでもなかった。

 

デザートの皿が出現してまもなく、スリザリンのテーブルで一人の生徒が立ちあがり、四列のテーブルの端——〈主テーブル〉のほうでなく、その反対の端——に向かって、歩みをすすめていった。 みじかく切りそろった白金色の髪のその少年、ドラコ・マルフォイが無言で全員を見わたす位置につくのを見て、何人かが小声でささやいた。 突然の復学以後、ドラコ・マルフォイはほとんどなにも語らなかった。 マルフォイ家の手でハーマイオニー・グレンジャーが死んだ以上、恐れるものがなくなったから復学したのか、と問われても、肯定も否定もしかねるという返事をするだけだった。

 

ドラコ・マルフォイは片手のスプーンで、もう片手の水のはいったグラスをたたきはじめた。グラスはよく響く音で鳴った。

 

チリン。

 

チリン。

 

チリン。

 

その音を聞いて、まずざわめきがうまれた。 〈主テーブル〉では教師たちがそれぞれ困惑した表情で、玉座にいる総長をあおいだ。しかし総長がなんの反応も見せないので、教師たちも動かない。

 

ドラコ・マルフォイはスプーンでグラスを鳴らしつづけ、大広間が静まるのを待った。

 

それから、レイヴンクローのテーブルから一人の生徒が立ちあがり、ドラコ・マルフォイのいる場所にまで歩いていき、その横にならんで立って、全員と向きあった。 意外な組み合わせを見て、息をのむ音が聞こえた。この二人はいまや不倶戴天の敵同士だったのでは——

 

「〈元老貴族〉マルフォイ家当主とその子であるわれわれは……」  ドラコ・マルフォイがよくとおる声で言う。 「ホグウォーツ内に暗躍する勢力があるということ、その勢力がハーマイオニー・グレンジャーへの害意をもって行動したということ、 ハーマイオニー・グレンジャーはみずからの意思に反してマルフォイ家に敵対する行動をとらされていたか、ぼくもろとも〈記憶の魔法〉をかけられていた可能性があるということを認識した。 われわれはマルフォイ家の継嗣をそのように利用しようとした何者かを一族の敵であると宣言し、報復を誓う。 その一環として、われわれはポッター家から受けとった資産を返却し、ポッター家の全債務を破棄した。」

 

つづいて、ハリー・ポッターが。 「ポッター家はマルフォイ家の行為は悪意のないあやまちであったと認め、 ハーマイオニー・グレンジャーの死についてマルフォイ家が責任を問われるべきでないと考える。 ハーマイオニー・グレンジャーを害した何者かが、ポッター家の敵である。両家はその敵に報復することを誓う。」

 

そしてハリー・ポッターはレイヴンクローのテーブルにもどっていき、驚天動地のできごとを目にした周囲の人たちから徐々にどよめきが生まれる——

 

ドラコ・マルフォイがまたスプーンでグラスをたたいて、よく響く音を鳴らした。

 

チリン。

 

チリン。

 

チリン。

 

ほかのテーブルから、ほかの生徒が何名か立ち、ドラコ・マルフォイのいる場所に歩いていき、ドラコ・マルフォイの横や後ろや前にならんだ。

 

大広間は静まりかえり、世界が一変し〈勢力図〉がぬりかわる感覚が質感をもって伝わった。

 

「わが父、オーウェン・グリーングラスは〈元老貴族〉グリーングラス家を継いだ母の全面的な同意のもとに一票を投じ……」とダフネ・グリーングラスが言った。

 

「われわれノット家一族のチャールズと……」と元〈カオス〉軍セオドア・ノットが、ドラコ・マルフォイのうしろの位置から言った。

 

「わたしの大叔母で〈魔法法執行部〉長官でもあるボーンズ家のアメリアと……」とスーザン・ボーンズが戦友ダフネ・グリーングラスのとなりで言った。

 

「わが祖母、〈元老貴族〉ロングボトム家のオーガスタと……」とこの日のためにもどってきたネヴィル・ロングボトムが言った。

 

「わが父、〈元老貴族〉マルフォイ家の当主ルシウスと……」

 

「そしてアランナ・ホー、以上六名で理事会の過半数を構成する理事が……」とダフネ・グリーングラスがよくとおる声で言う。 「理事自身の子女をふくむ全生徒の安全を確保するために採択した、ホグウォーツ魔術学校〈教育令〉をここに告げる!」

 

◆ ◆ ◆

 

「第一条!」  ダフネは声がふるえるのを抑えようとしながら、五人の先頭にたって四寮を相手に話しだす。 両親から演説のしかたをおそわっているとはいえ、それにも限界があるので、 ちらりと片手に視線をおとし、そこに薄い赤色のインクで書いておいた口上のメモを確認する。 「生徒はどんなときも、トイレにいくときも単独で移動しないこと。 かならず三人以上の組で移動し、そのなかに六年生か七年生を一人以上いれること!」

 

「第二条!」 とダフネのうしろにいるスーザン・ボーンズが声をあげる。ほとんどあぶなげのない声に聞こえる。 「生徒の身の安全を確保するため、九人の〈闇ばらい〉をホグウォーツに出動させてあります。これを〈予備防衛隊〉とします。」  スーザンはローブのなかからガラス製の小さな道具をとりだした。五人に配布された〈魔法法執行部〉の通信器である。 スーザンはそれを口にちかづけ、大きな声を発した。 「こちらはスーザン・ボーンズ。ブロードスキー隊長、中へ!」

 

大広間の扉が音をたてて開き、実戦用の強化革服を着た九人の〈闇ばらい〉が入場した。 八人は入場するとすぐに四つのテーブルに二人の組で展開し、もう一人は〈主テーブル〉の監視についた。また息をのむ音がした。

 

「第三条!」とドラコ・マルフォイが堂々とした声で言う。 マルフォイはせりふを暗記しているらしく、手を見てもなにも書かれていない。 「どの寮の生徒であれ生徒を殺すことを辞さないホグウォーツ共通の敵に対して、四寮は一丸となって行動しなければならない。 その一環として、寮点の制度を一時的に停止する。 理事会は全教師が寮間の助けあいを奨励するよう命じる!」

 

「第四条!」とネヴィル・ロングボトムが言う。 「〈防衛術〉教授の課外授業に参加していなかった生徒は〈闇ばらい〉講師による護身術の訓練を受けること!」

 

「第五条!」とセオドア・ノットが威嚇するように言う。 「〈防衛術〉の授業をのぞいて、校内の廊下をはじめとするどんな場所でおこなわれた戦闘も厳しく処罰する。共闘以外の戦闘は許されない!」

 

「第六条!」  この計画の内容を知ったとき、ダフネは〈煙送(フルー)〉を通じて母にちょっとしたことを頼んだ。 仮にルシウス・マルフォイがアメリア・ボーンズと手をくむのだとして——手をくむというのがいまだに信じきれないのだが——ジャグソンの派閥がマルフォイにつかなかった以上、グリーングラスの浮動票はやはり趨勢を左右する一票である。 言うまでもなくボーンズはマルフォイを信用していないし、マルフォイもボーンズを信用していない。 そのため、グリーングラス家にこれをあたえるようにという母の要求が通ることになった—— 「生徒に対して〈記憶の魔法〉が使用されていながら、結界は作動しなかった。ということはホグウォーツの教師陣のうちのだれかが敵に加担している可能性がある。 したがって、〈予備防衛隊〉はグリーングラス卿が直接指揮するものとする!」  そして、このつぎの部分は象徴的な取り決めにすぎない。〈闇ばらい〉に直接連絡すればすむ話だから。それでもいつかもっと意味があるものになるかもしれない、と思って母にこの要求を通してもらったのだった—— 「〈予備防衛隊〉へ通報したいことがあれば、隊員の〈闇ばらい〉のほか、()()()——」  ダフネは背後にならぶ生徒たちをおおうように片手をうごかす。 「——〈予備防衛隊〉特別委員会委員長に任命されたわたしが受け付ける!」

 

そこでダフネはおおげさに間をおいた。ここからの部分はみんなでよく練習してある部分だった。

 

「敵の正体はわからない。」というネヴィルの声はうわずっていない。

 

「敵の狙いはまだわからない。」とセオドアがまた威嚇するように言う。

 

「でも敵は現にわれわれを襲っている。」と言うスーザンは以前七年生三人を相手にしたときとおなじくらい猛々しい。

 

「敵はホグウォーツ生を襲っている。」とドラコ・マルフォイは堂にはいった明瞭な声で言う。

 

「だからホグウォーツは……」  ダフネ・グリーングラスはかつて感じたことのない熱さで血がたぎる思いとともに言う。 「()()()()。」

 

◆ ◆ ◆

 

原作品の著者:J. K. Rowling

ファンフィクションの著者:Eliezer Yudkowsky

 


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