大正○○年。 ×月■日。
オレの名前は、十二支 兎(じゅうにし うさぎ)。よく変な名前とからかわれます。
年は今年で21歳になりました。
仕事は鬼殺隊士と言う、まぁいうなら死にたがりしかしないような阿呆な仕事をしています。
悪い鬼を、剣を使って、うおりゃー、とやっつける仕事です。
鬼はキブツジだかキツツキだかよくわからんとっても強い鬼から血を受けることで数が増えていきます。
人を食べます。傷を受けてもすぐ直ります。中には血鬼術といって、とんでもない技を繰り出してくる鬼もいます。この間は岩の中に埋められそうになりました。とっさに新技を思いついていなければ死んでいました。この事を同僚かつ同期の宇随君に愚痴ったら、
「派手に生き残れて羨ましいな! 派手に羨ましい!」
なんて言われました。
バカ野郎、死ぬとこだったんぞこっちは。
と、まぁここまで言えばわかると思います。
鬼、超怖いんです。
だから、だからどうかお館様。
この辞表を受け取ってくれませんか。
若輩ですが妻もいるんです。オレはもう戦いたくありません。
大丈夫大丈夫。後輩の冨岡君とか胡蝶ちゃんとか、優秀な柱ならいるじゃないですか。
家を支えるのに柱は10本もいらないですって。ね?
大正○○年。 ×月▼日。
つっかえされた。ついでに不死川の奴にめちゃめちゃ怒られた。辛い。
曰く、「強いくせに何を言っている!」 とか、「勝ち逃げは許さん!!」とか意味わかんないことメチャ言われた。
強いくせに? 違うわい。たまたま弱い鬼しかオレの所に来なかったんだい。気が付いたら倒した数が50を超えてて、杏寿朗に強引に柱に推薦されて、なんかよくわからない内に柱になってたんだい。
勝ち逃げ? オマエがあんまり下の隊士に乱暴するからすこし叩きのめしただけじゃないか。不意を打たなきゃきっと勝てないんだから、お前の勝ちでいいよ、もう。
不機嫌なまま、家に帰ると、妻が好物の沢庵をたくさんこしらえてくれていた。
愛してる。
妻に免じて許してやるぞ、不死川。
大正○○年 ×月○日
今日も鬼狩りに出かけることになった。鴉がかぁかぁとやかましい。
畜生、わかってんのか。お前がそうやって伝令を持ってくるたびに、桜花は寂しそうにするんだぞ。屋敷をぱたぱた動き回って、お弁当を作ってくれるんだぞ。いつも好物の沢庵を忘れないんだぞ。出かけるときには替えの草鞋もちゃんと用意してくれるし、いざ家を出ようとしたら両手で握りコブシをむん、と握って
「我が家の留守はちゃんと桜花が守りますからね! 妻ですから、ね!」
なんていってくれるんだぞ。
畜生、ほんと可愛いなうちの嫁。
しっかりお勤めをしようじゃないか。案内をしたまえ、鴉くん。
なんて威勢よく飛び出した俺でした。そんな俺をぶった斬りたい今の俺。
ここはなんと船の上。オレはこれから海を渡ってある島に向かいます。なんでも本土から少し離れた島に漁師の皆さんの漁場があったらしいんだけど、最近その漁師さんたちがだれも戻ってこないらしい。しかも、嵐でもなんでもない、海が穏やかな日に。
これは鬼が噛んでるでしょう? 鬼だけに噛んでるでしょう? などと鴉がのたまっていた。桜花、帰りは遅くなるよ。でも安心してくれ。お前の好きなねぎま焼き鳥の材料を持って帰る。
大正○○年 ×月▽日
ひどい目にあった。結論を言うと、島は完全に鬼に乗っ取られていた。島について最初に口を開けて、空気を思い切り吸い込んだ。オレはもともと味にうるさいから、空気の中に鬼の味がすればすぐわかる。胡蝶ちゃんにこの話をすると、いつも微妙な顔をされる。辛い。それはそれとして、独特な味を口に含んだ瞬間、すぐにわかった。一匹二匹じゃない。この島には、少なくとも三十の雑魚鬼と、一匹の覚醒鬼がいる。そうと決まればさっさと終わらせる。そう考えたオレは三十の雑魚鬼を急いで片付けた。でもこの島、砂利だらけですごく走りにくい。これじゃ『牛』『午』は使えなさそうだったので、仕方なくどんな場所でも役に立つ『子』と『虎』の呼吸で頑張った。お蔭で雑魚鬼を始末するのに三分もかかってしまった。
でもまぁ、ここまではいい。問題はそのあとだ。
異能鬼。通常の鬼と違い、特別な能力を持つ鬼を指す。その能力は千差万別。
で、今回の鬼は水を操る事に長けていた。周りが海であることをいいことに、海水を槍みたいな水柱にしてオレを狙い打ってきた。舐め腐ったのか、随分遅かった。
で、当たらないことですこしイラついたのか、奴は標的を変えた。
なんと、オレが乗って来た船を狙い撃ちにして大破させやがった。
奴はやってはいけないことをした。あの船には・・あの船には。
桜花の弁当が入ってたんだぞぉぉおおおおおおお!!
そして今。対象の鬼を沈黙させ、鴉に連絡を取ってもらって隠の皆さまの救援待ち。すまない桜花。でも弁当は素潜りしてちゃんと食べたからな。美味しかったよ。ありがとう。
事は、兎の日記を離れ、現実へ。
鬼舞辻が気まぐれに作った鬼の養殖場。通称『鬼が島』の管理を任された異能鬼、海鼠は恐怖していた。配下の鬼は30いた。強い、とまではいかないまでも、それなりの数の人間を食っているからそうやすやすと葬られるはずがないのだ。それがおおよそ、3分と経たない内に全滅させられた。
海鼠は何人かの鬼殺隊士とまみえたことがあった。しかし、兎の動きはそのどの隊士とも違う。
まず速さが桁違いだった。島の端から端まで一瞬で移動する上に、島のどこからでも、正確に鬼が隠れている場所に現れては、あの『爪』のような斬撃で仕留めていった。
すばやく、そして力強い。虎の体をもった鼠を相手にしているような厄介さだった。
(クソッ! クソッ! こんなはずでは、こんなはずではない!!)
海鼠は死に物狂いで海を操り、水柱を叩きつけた。人間はいつもこれで粉微塵になったが、それも兎には一発も当たらない。というより、不思議そうな顔をしながらもあっさり避けるその様は、まるで「どうして手を抜いてるの? なんで?」とでも言わんばかりの物で、海鼠をイラつかせた。
(オマエもか。オマエも、私を嗤うのか!?)
海鼠は鬼になる前、腕のいい漁師だった。ある日、大物を取るため相棒と沖に漕ぎ出した海鼠は、そこで海の洗礼に会う。
二人の船を叩き壊したのは、大きなクジラだった。
相棒は死に、何とか生き残った海鼠も両手を失った。海鼠はその危険なクジラについて村に伝え回ったが、誰も信じようとはしなかった。
それどころか、次の日から両手を失った海鼠を誰も彼もが避けるようになった。
気を配った者達がその行動を歪めたのか、あるいは。
海鼠には、それが耐えられなかった。
真実を伝えることは叶わず、生きていることを喜ばれもしない。
そんな障害だらけの生涯を、誰もが嗤う。
許せない。
許せない。
だから鬼になった。
だから強くなったのに。
(許さん!! 許さん!! 許さんぞ!!)
そして、海鼠は兎の乗って来た船に目をとめた。
「私はもう弱くない! 私は、私は!! クジラになったのだ!!」
水柱を一本操り、彼が乗って来た船を破壊した。
次の瞬間、海鼠の首は、地面を転がった。
絶命の瞬間、海鼠は男の声を聴いた気がした。
『辰』の呼吸。 昇竜失墜。
大正コソコソ噂話(偽)
十二支 兎くんの日輪刀は白いんだよ。
髪の毛も白いんだよ。
でも目だけは赤いんだ。ウサギみたいだよね。