※注意
今回は原作にない独自設定多め(下弦の肆の名前含む)。オリキャラも一人出ます。
苦手な方はご注意ください。
十二鬼月、という鬼たちがいる。
長い年月をかけ、人間に溶け込み、人食い鬼を増やし続けた鬼舞辻 無惨が、特に強いと認め、多くの血を分け与えた十二体の鬼。
その彼らは皆強大な力を有しており、並の鬼殺隊士など相手にならない。
幾年にもわたる戦いで鬼殺隊を支えてきたのが柱ならば。
人知れず鬼の世を形成する魔の時代を支えていたのは十二鬼月だった。
しかし、それも『上弦』であればの話。
上弦の月。十二体の最強の内から選ばれる、更なる六の頂点。
彼らは皆、鬼舞辻から大量の血を与えられ、それに見合う働きをしていた。
すなわち、柱の捕食。
鬼殺隊最強の剣士、柱を殺すこと。それが上弦の『最低』条件だった。
下弦の月の鬼たちに、それだけの力はない。
すこし腕に覚えのある鬼殺隊士程度なら容易に食えるが、柱が現れれば手におえない。
食う事どころか、傷をつけることさえできるかどうかわからない。
そしてその事を理解できない馬鹿から死んでいく。
下弦の肆、恐骨は絶対に柱と戦わない。
戦えば負けることがわかっているからだ。
しかし、それ以外とは必ず戦う。
何もしない臆病者を、主が生かす理由は無いからだ。
恐骨は臆病な鬼だった。
柱も怖ければ、主も怖い。
明日生きられるかどうかが怖い。
明日殺されてしまうかもしれないと思うと怖い。
その怖さから逃れるように人を喰らい続けた。
恐骨は、彼女にひれ伏しながら思い出す。
自らがこんなにも怯えているのはなぜだったか。
自らを追い詰めたあの剣士は、どんな男だったか。
数か月前。
恐骨は自らの住み処である洞窟にこもり、餌を待っていた。
人間とは簡単な生き物だと思う。
愛してる、愛してる、と簡単に呟いて。
それと同じくらい簡単に子を捨てる。
「ほ、ほら! 持ってきた! 持ってきました!!」
目の前のみすぼらしい男が恐骨に包みを差し出した。ほどいてみると、中から小さな手。
人間の赤子だった。
目の前の男が愛したはずのものだった。
今はもう、愛していないものだった。
「童様、童様・・・。我が子でございます。我が子でございます。どうか、どうか村の安寧を、安寧を」
恐骨は、安定した餌場を求めて、ある人間の村に目を付けた。
一気に村の全員を喰らい尽くすのも良い、それが主の望みなら。
しかし、ふと。
恐骨は思いとどまった。
たしかにここの人間を喰らい尽くせば、鬼としての力も強化されるだろう。一時的にだが、腹も膨れるだろう。
だが、その後は?
次に人間を喰うのはいつになる。
その間に柱に見つかってしまったら?
恐骨は臆病だ。臆病者は、先の見えぬ道をこそ恐れる。
そこで、恐骨は一計を案じた。
手始めに、近場に居た知能の低い鬼を村まで誘導し、暴れさせた。
何人かの村人が死んだ。
村人たちが恐怖におののいた様を見届けた後、人間に擬態した恐骨が村に入り、その鬼を惨殺した。
そも、擬態は得意な訳ではなかったが、恐骨は童女のような外見をしていたためか、最初の鬼ほど彼らに怯えられることも無かった。
村人たちの様子を見た恐骨は憐れむようにこう言った。
「哀れです。恐ろしい事です。この村は人食い鬼に狙われています。しかし安心なさい、罪なき者達よ。私は童。あなた達を守るため遣わされた者です。私があなた達を守りましょう」
その言葉に村人たちは歓喜した。一度恐怖の底に落とされた彼らには恐骨が本物の神に見えたのだろう。
恐骨は臆病な鬼だった。 恐怖というものをよく理解していた。
ただし、と恐骨は言葉をつづけた。
「一月に一人、私の言う条件を満たす者を私の住む西の洞窟に連れてきなさい。その者は涅槃に旅立ちますが、引き換えに村の全員を守りましょう」
村人の反応は様々だった。
恐ろしい物をみる顔。
どこか他人事のようにとらえる顔。
さまざまな顔があったけれど、結局彼らは童に飼われる道を選んだ。
さまざまな思いがあったのかもしれないけれど、人間たちは鬼になる道を選んだ。
そして今日、恐骨が要求したのは生まれたての赤子だった。
肉付きは良くないが、なんとなく赤子が食べたい気分だった。
「よく決心しましたね。これで村の安全は保障されましょう」
恐骨は内心でせせら笑いながら、されど慈愛に満ちた表情でそう言った。
男の表情が安堵に染まった。目からは涙があふれた。口から、かすれた息が漏れていた。
「随分狡いことする鬼がいるんだな。いや、気持ちはわからんでもないけど」
次の瞬間、恐骨は擬態を解除し、鬼の姿を現した。
村人が悲鳴をあげるが構っている暇はない。
本能による警告。
主の血が、怯えているような錯覚さえ覚える。
目の前に立っているのは鬼殺隊の剣士だった。なんども食い破ってきた隊服だからすぐにわかる。
暗い洞窟にあってもきらめいているかのような短髪の白髪に、真っ赤に染まった目。しかし、表情はどこか不安げだった。なんというか、ちぐはぐな剣士だった。
刀を抜いて、なんだかやる気がなさそうだった。
戦闘態勢であって、なんだかとても怯えていた。
一見弱そうなのに、あり得ないほどの殺気を放っていた。
剣士は、目の前でうずくまる村人に言葉をかけ始めた。
「ねぇ、おじさん。ねえってば」
「おじさんはさ、その子をこの自称神の使いに預けることに、なんの迷いもなかったのか?」
「知ってるかい、おじさん。目の前にいるあのちびっこ。あれ、鬼って言う怪物なんだぜ」
「人を食べるんだ。オレ達みたいな特別な剣士じゃないと、どんな傷を与えてもすぐに治しちまう。こわいよね。いやほんと」
「ところで、質問なんだけどおじさん」
「オレが今から斬らなきゃいけない『鬼』は、おじさんとあのちびっこ。どっちだと思う?」
村人は悲鳴をあげてながら、洞窟から出て行った。
「あーあ。いいなぁ。オレも逃げたい」
剣士はそんな言葉をつぶやいた。
恐骨は隙をうかがいながら、言葉をかけた
「そう思うなら、逃げてもいいですよ、お兄さん」
「え?ホントに?」
・・・・まさか、本当に逃げたいと思っているのか?
こんな殺気を放つ剣士が?
馬鹿な。
「それはありがたいな、のどから手が出るありがたさ。じゃあ、逃げるわ。うん、即刻お別れだ」
そういって、剣士は背を向けた。
『血鬼術・岩穿殺(がんくうさつ)』
「あははは、馬鹿じゃないですか!? 逃がすわけない、逃がすわけないでしょう!!」
目の前の強者が見せた隙。これを逃す恐骨ではなかった。
恐骨は臆病な鬼だった。だから、生き残るために必要なことがわかっている。
血鬼術・岩穿殺。恐骨は自らの血をしみこませた岩を自由に操れる。
恐骨は臆病な鬼だった。
だから洞窟に籠った、訳ではない。
洞窟はもはや、恐骨の体の一部ともいえるほど自由に操れる。
岩穿殺は岩を槍に変え、相手の体に突き立てる。
何十、何百。
そのすべてが恐骨の血で強化された岩でできている。
この岩は、刀より硬い。
「仕留めた! 仕留めました!! あのお方に喜んでいただける、もっと血を頂ける!!」
「こういうの、ホントに止めて。心臓に悪いよ」
全集中・『巳』の呼吸。
『僻蛇・笛呼びの巳』。
重ねて、一刻。
『午』の呼吸。
『掛馬』
『それ』をぎりぎりで視認できたのは、下弦の肆であるがゆえの不幸だったのかもしれない。
岩の槍は、間違いなく剣士に迫るように発射されていた。
それに対して剣士は刀を、振らない。
まっすぐ槍に向かって進む。
そして。
わずかな槍の隙間を、『通って』こちらにやってくる。
人間の視覚では視認できない程の速度でせまるそれを、剣士は躱して進んでくる。まるで、笛に導かれる蛇のように。前しか見ない、馬のように。
恐骨は知る由も無かったことだが、目の前の剣士が使っているのは『十二の呼吸』という、鬼殺の呼吸法の中でも特殊な呼吸。
五の攻撃系統、五の補助系統、そして二の禁じ手からなる呼吸法。
型は存在しない。
あるのは、人を人ならざる者に変える、外法の呼吸だけである。
もし、人体の限界を超えることを要求されるこの呼吸を極める者がいるとしたら。
鍛錬の前提として。
産まれた時からの全集中の呼吸・常中を求められるこの呼吸を極める者が現れるとしたら。
きっと、その人間は孤独な戦いを運命づけられるだろう。
暴れるでもない、叩き落とすでもない。
ただ、通ってやってくるその赤目の剣士に、恐骨は気が付けば絶叫していた。
恐骨は臆病な鬼だったが、本当の恐怖をしらなかった。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!」
追いつめられた恐骨のとった手段は。
洞窟を諸共崩落させるという強硬策だった。
「えっ? ちょ、ウソでしょ!? 嘘だろ嘘で在れよ嘘だと言え!! ぎゃあああああッ!?」
そんな恐らく生きているであろう剣士の言葉が、耳に残っていた。
そして、今。
恐骨は、震えていた。
よく逃げられたものだと思う。
よく逃げ続けられているものだと思う。
無様に地に這い出て、日の光を恐れ、主を恐れ、剣士を恐れ、死を恐れ。
しかし、そんな日々ももう終わりなのかもしれない。
恐骨はそんな風にぼんやりと考えていた。
目の前に、その『鬼』が現れてしまったから。
「うふふふふふふ、ねぇ、どうしたのかしらぁ? ええ? 下弦の肆ぃ?」
その鬼は、美しい姿をしていた。
鬼としては珍しい、輝く銀色の長い髪。黒色の着物をまとい、しかしその腰には大量の目玉。全てが、鬼から『没収』したもの。
閉じられた瞳は哀愁に満ちているようで、何処かこちらをあざ笑っているようだった。
その鬼は、恐骨の顎に、やさしく、それでいて捕えるように撫でながら口を開く。
「うふふふふ、ねぇ、聞いてるのよぉ? 下弦の肆ぃ。こたえなさぁいよぉ? きかれたぁことにぃはぁ? こたえなさいよぉ? さぁみぃしぃじゃない」
「も、もうしわけありません。過愚夜(かぐや)様」
「うふふふふふ」
不気味に笑うその鬼は、恐骨の一挙手一投足を楽しんでいるように見えた。
「ねーえ? いつまで鬼狩りから逃げ回る気ぃ? あのお方も、そろそろ結果をお望みよぉ?」
「は、はい、すぐにでも鬼狩りを、柱を」
「嘘をつくな、臆病者」
恐骨は、自らの首をつかんだ。
繋がっている。
今、『絶対に首が離れたと思ったのに』
「ねーえぇ? 知ってるのよぉ? あぁなぁたぁ・・アタシの可愛い可愛いうさぎちゃんにあったでしょう?」
恐骨は、なんのことかわからなかった。
「・・あぁ? 名前をしらなぁいのかしらぁ? 十二支 兎ぃ。素敵な素敵なぁ、白い髪の剣士ぃ」
件の剣士だ。
恐骨は、首を縦に振ることで肯定の意を示した。
「ふふふふ、ねぇえ? 挽回のきかぁい、欲しいぃ? 上手にできたらぁ、『没収』は待ってあげるぅ」
そう言って、鬼の女、過愚夜は目を見開いて囁いた。
右目には文字。『上弦』。二文字の証明。
左目には、数字。強さの位。
「あのじゃあまぁなおんなぁをしまぁつしなさぁいいい。
十二支 桜花の首を持って来い」
刻まれた数字は、『零(0)』。
大正コソコソ噂話(偽)
兎君は元々白髪だったわけじゃないんだよ。
兎君の髪は、雪に埋まり過ぎて白くなったんだって。