柱なんてさっさとやめたい。   作:いろはにぼうし

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壱拾壱.座右の銘を教えてください。

十二支 兎 :危ないときは即撤退。桜花は正義かわいいかわいい。

十二支 桜花:酒はのんでものまれるな。兎さんに心配をかけないこと。


十二支 兎は 入院する。

十二支 兎は 入院する。

 

大正○○年 ▲月 ☆日。

 

 結論を言うと、生きてた。

 骨が何本か折れていた。

 肩も砕けた。

 出血量も人間としてギリギリだった。

 でもまぁ、生きてた。

 

 蝶屋敷で治療を受けながら、生きていることに感謝する。

 いや、ほんと今回はダメかもしれないと思った。

 あんなに強い鬼とは戦ったことがない。

 いや、いままで強敵との戦いをこっそり避けていたツケが回ってきた、と言われればそれまでなのだが。

 

 蝶屋敷。

 胡蝶しのぶちゃんがすむ屋敷。薬学にも精通した彼女は、自らの屋敷を傷ついた隊士たちの診療所として開放している。

 彼女は初めて鬼に効く毒を作った、言うなら天才。

 胡蝶ちゃんからしたら、人間の治療などお茶の子さいさいなのかもしれない。

 

 ・・・なんか俺の周り才能ある奴多くない?

 天才が畑になってるような状況なんだけど。

 なぜこれでオレは柱をやめてはならないのか。

 もういいじゃん。

 上弦とはいえ、鬼にここまでやられるオレは役に立たないかと存じますお館様。

 

 

 

 さて、このようにめでたく入院患者となったオレ、十二支 兎。

 もう気分は最低、毎日地獄、なんて思われるかもしれないが。

 実はそうでもない。

 むしろずっとこのままで居たい。

 痛い、いや居たい。

 

 何故かと言うと。

 

 

「兎さん、痛いところは無いですか? 大丈夫ですか?」

 

 天使が常に世話をやいてくれるからだ。

 

 

 

 

 こうなった事には原因がある。

 桜花は、俺たちの中で最も軽症だった。

 そも、戦闘らしい戦闘をしていなかったのだが、それでも上弦の鬼に踏みつぶされていたので、オレも心配していた。

 なんとかかすり傷ですみ、調べたところ踏まれた頭蓋骨にも異常なし。

 良かった、本当に良かった。

 

 

 

 

 って、いいわけあるか。

 桜花を戦わせたこと、桜花に日輪刀を握らせたことを、オレは深く恥じ入った。

 桜花に好きなだけ打ってくれ、殴ってくれと頭を下げた。

 

 何が夫だ。情けない。

 

 

 そんなオレを見た桜花は、オレの寝台の横までやって来て。

 

 オレと同じように、深々と頭を下げた。

 

 桜花、何してるんだ。

 

 「兎さん。桜花は、兎さんに謝りたいんです」

 

 「桜花を助けるために、霙さんは意識が戻らない程の重症を負いました。多くの隊士が亡くなってしまいました」

 

 「桜花は、もっと早くに刀を取るべきだったかもしれません」

 

 「それに、桜花はその後あの鬼・・・過愚夜に情けないほど完封されました。この両手さえ万全だったなら、全盛期だったなら、犠牲は最小限で済んだのに」

 

 「叱ってください、兎さん。桜花は家を守れず、家族を死なせた。妻として、失格です」

 

 

 

 頭を下げ続ける桜花を見る。

 オレはゆっくりと彼女に近づき、そして。

 

 ゆっくりと、オレの寝台に引き寄せた。

 

 「う、兎さん!? だ、ダメです! 傷に触ります!!」

 

 うん、めっちゃ痛い。

 でもやっぱり。

 桜花が痛がってる事の方が気になるからさ。

 

 「・・・・」

 

 桜花は何も言わない。

 オレは言葉をつづけた。

 

 オレの痛みは、桜花が誰よりも解ってくれる。

 桜花の痛みは、オレが誰より解ってる。

 だからさ、分け合おう。

 たくさんの命が消えた。

 たくさんの魂が消えた。

 

 だから、この痛みは消さないように。

 二人で分け合おう。

 俺達は、夫婦なんだから、桜花。

 

 

 しばらくは、オレ達の泣き声だけが、広い病室に響いていた。

 

 

 

 その後、桜花は涙を拭き、甲斐甲斐しくオレの世話をやき始めた。

 もちろん治療は胡蝶ちゃんや看護婦の子たちにやってもらっていたが、食事の支度などは率先して桜花がしてくれている。

 

 「兎さん、痛いところは無いですか?」

 

 まだすこし傷が痛むかな、と答える。

 どうせ強がってもばれるし、この場でそれをすることに意味があるとも思えなかった。

 

 すると桜花はオレの手を握ってこう語りかけた。

 

 「大丈夫ですよ、よしよし。大丈夫」

 

 ごめんなさい。

 不謹慎にも、怪我して良かったと思いました。

 

 

 

 大正○○年 ▲月 ❤日

 入院していればいろいろと問題も発生する。

 オレの場合思い切り肩を貫かれているので、匙が持てても左腕で椀がもてない。

 桜花に椀を持ってもらおうか、でも食事の粥は熱いしなぁ。

 なんて考えていると、それを察したのか、桜花は椀を右手で持った。

 

 桜花が火傷しない内に早く食べてしまおう。

 

 そうおもって、匙を手に取ろうとするが、見当たらない。

 

 見ると、匙は桜花の左手に。

 

 あ、あのさ桜花。飯食べたいんだけど。

 なんでそんなに紅くなってんの?

 

 顔を伏せていた桜花は、やがて意を決したように匙に粥をいれ、ふー、ふーと息を吹きかけた。そしてそれをオレに向け、消え入りそうな声でこう言った。

 

 

 

 「あ、あーん・・・」

 

 

 

 桜花、御免ね。

 せっかく作ってくれたんだろうけど。

 味がわかんねェ。

 

 

 

 

 

 

 

 

大正○○年 ▲月★日

 

 今日はとても喜ばしいことがあった。

 霙さんの意識が戻ったのだ。

 オレも病室から出て桜花と共に彼女に会いに行った。

 

 彼女は包帯ぐるぐる巻きでいつぞやの潜入任務を思い出した。

 胡蝶ちゃん曰く結構ぎりぎりの状態だったらしく、まだあまり興奮させてはいけないとのこと。

 

 病室に入ってまずしたことはお礼だった。

 桜花も一応オレの言伝を伝えてくれていたそうだが、そのときすでに彼女に意識が無かった。だから、改めて、という形だ。

 

 そしてそれを黙って聞いていた霙さんは。

 

 桜花からお礼と謝罪を聞いた時、最初に。

 

 口もとの包帯を思い切りほどいて。

 

 「奥様!! ホントに何考えてんですかァ!!」

 

 桜花に対して烈火のごとく怒りだした。

 名前、『氷』柱 霙なのに。

 杏寿朗より熱く怒りだした。

 

 「屋敷から逃げてくださいと言ったでしょう!? 伝令の鎹鴉にもちゃんとそう伝えるよう言ったはずです!! 竹林の罠で時間は稼げるはずだったのに、なんで外側に居たのアンタァ!!」

 

 「は、はい、ご、ごめんなさい」

 

 「挙句鬼との戦いに割って入って!! 十二鬼月ですよ!? 下弦の肆とか言ってましたよ!? 死にたいんですか、ああん!?」

 

 「ご、ごめんなさ」

 

 「なぁにが、日輪刀借りますね? ですか!!馬鹿なんですか? 馬鹿ですよこの馬鹿!! ええ!?」

 

 「ご、ごめんなさぁい・・ぐすっ」

 

 ヤバい、泣きそう。桜花泣きそう。

 ここは夫として妻を守らなければ。

 

 霙さん、いくらなんでもいいすぎじゃあ

 

 「煩い黙ってそこに座れェ!! 二人ともだ!!」

 

 オレは無力だ。

 

 そして俺達はそれから日が傾くまでずっと、年上のお姉さんの説教を聞き続けた。

 

 「大体業柱さまは奥様を甘やかしすぎです。玄関先で抱き着くわ、悪いことをしても強く責めないわ!! そういう教育は将来お二人の御子にさえ悪影響です!! ・・・照れてんじゃないわよ!! そういう甘い空間を私の前で出すな!! ああそうさ27歳さ!! 独り身ですよ彼氏いないですよ婿欲しいですよ!! でもこの年で交際したことなし!! 言え!! 私の悪いところを言ってみろ!!あああるわいっぱいあるわ!! これは驚きね!! はははははは、笑えよ、笑ってみろよ、笑えぇぇぇ!!」

 

 真面目に重症患者の人が、それはもう怒って泣いていた。

 いろんな意味で決して笑えない光景だった。

 

 

 そして長い説教と愚痴と慟哭の時間が終わり。

 解放された俺達がフラフラと霙さんの部屋を出ようとすると。

 

 「・・・・業柱様。すこし残っていただいてもよろしいですか」

 

 若干興奮しすぎで失血した霙さんがオレに声をかけた。

 桜花に先に戻ってもらい(真っ白になっていたので、生返事でふらふらと廊下に消えた)、

 霙さんの傍に戻る。

 

 「私は蟲柱様の診断を受けました・・・。結論として、剣士として復帰するのは難しいそうです」

 

 霙さんはオレの事を真っ直ぐ見つめて言った。

 自分の口で話した事実に、しかしてその瞳は少しもぶれていなかった。

 

 「普通に暮らすことはできますが・・。足の腱がズタズタに裂かれているそうです。これでは育手になることも難しいかと。もうしわけありません」

 

 そう言った霙さんは本当に申し訳なさそうだった。

 

 「氷柱家はかつて、柱を輩出したこともある、代々鬼殺に生きる一族です。刀が握れなくなった以上、私の剣士としての役目は終わりました。そうなると、しなくてはならないことがあります」

 

 私の隣の薬棚をあけてください、という霙さんに従って棚を開け、中を見る。

 

 そこには、一本の髪飾りが置いてあった。山茶花を模したそれは、透明の硝子でできていて、素人目のオレから見てもとても美しいものだった。

 

 「それはかつて柱になった氷柱家の人間が付けていたもの。柱になった者だけが、それを付けることを許されます」

 

 「私には終ぞ、それを付けることは叶いませんでした」

 

 「業柱様、もしよろしければなのですが、それを私の妹に届けてはいただけないでしょうか? 妹も鬼殺隊士になるため、どこかで育手の育成を受けている筈です」

 

 なんだかすごい一族だ、と思った。

 柱になるのに、驚くほど積極的。

 あのさ、そんなにいいもんじゃないよ、柱なんて。

 

 「長い付き合いですからね。あなたのそういう『残酷さ』にも慣れてきましたよ。それで、引きうけて頂けますか?」

 

 もちろん。

 それぐらいならお安い御用。

 

 そう答えると、霙さんは安心したように微笑んだ。

 

 「よかった。・・・最後までお役に立てず、申し訳ありません」

 

 

 

 

 強い人だと思う。

 俺なんかより、よほど柱にふさわしいと思う。

 彼女の言う事は、何時も正確でオレの支えにもなった。

 

 でも、1つだけ間違えている。

 

 

 霙さん。

 なんどもいうけど。

 あなたがいなければオレは間に合わなかったかもしれない。

 あなたが血だらけで戦ってくれたおかげで

 オレはまた妻に会うことが出来た。

 

 ありがとう。

 ありがとう。

 

 あなたがいてくれて、良かった。

 

 

 それだけ言って、オレは病室を出た。

 後ろで、雫が落ちる音がしたけれど、聞こえなかったことにした。

 

 預けられた髪飾りを見る。

 この山茶花の花のように、美しく強い人だよな。

 

 そんな人の妹も、きっと清く強い子なのだろう。

 会うのが楽しみだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、蝶屋敷から遠く離れた場所にて。

 そこには年中通して深い霧の立ち込める山がある。

 名を狭霧山。

 水柱、冨岡義勇がかつて修練に励んだ山であり、元水柱、鱗滝左近次が若き剣士を育てる山でもある。

 

 その霧深き山の中腹で、一組の少年少女が楽しげに話をしていた。

 

 「ごめんな、白雪(しらゆき)。いつも助けてもらってばかりで」

 

 少年の名は、竈門 炭治朗(かまど たんじろう)。約半年前のある日、家族を惨殺され、1人生き残った妹は凶暴な人食い鬼に変えられた。妹をもとに戻すため、地獄のような修練に耐える、真っ直ぐな少年。

 

 「あははー、気にしない気にしない、ボクは炭治朗より早く刀を持ったんだから、これくらい当たり前だよー」

 

 もう1人の少女は、『水色』の髪をしていた。姉のそれより短いそれは、深い霧の中にあってもよく映える美しい色だった。おなじく水色の瞳は面白げに目の前の少年を見つめている。上半身と下半身がわかれた着流しは、この酸素が薄く、湿度の高い山に合うのか合わないのか、彼女の腹部を全く隠していない。どこか、扇情的な服装だった。

 

 「それでも、こうして一緒に修行してくれているのは心強いよ。1人だったらくじけていたかもしれないし、白雪の指導が無かったらこんなに早く鱗滝さんに刀の稽古をつけてもらえなかった」

 

 「すっごい褒めるね炭治朗。いい人って言われるでしょー? でも残念、ボクを口説くには足りないなぁ」

 

 「ああ、そんなつもりはないよ、大丈夫!」

 

 「まっすぐそんなこと言っちゃだめだよー。ボクは気にしないケド、将来刺されちゃうかもよー」

 

 「? そうなのか。ごめん」

 

 「いいよいいよー。あ、炭治朗、それでお願いなんだけどー」

 

 「? なんだ?」

 

 「ボク何時になったら禰豆子ちゃんの手を握って添い寝して触って頭撫でてぎゅーってしていいのー?」

 

 「ええ? そ、そうだなぁ。禰豆子はまだ起きないし・・・。でも、目が覚めたら仲良くしてやってくれないか。きっと女の子の友達がいた方が禰豆子もよろこぶだろうし」

 

 「ほんとにー? 嬉しいなぁ、ボクも早く禰豆子ちゃんと『お友達』になりたいよ・・じゅるり」

 

 「? 白雪、よだれが出てるぞ。そんなにお腹が減ったのなら、今日のオレのおかず一品たべていいからな?」

 

 

 

 

 

 

 少女の名は、『氷柱 白雪(つらら しらゆき)』。

 後に最強の柱と邂逅を果たす、いろんな意味で予想を裏切る少女である。

 




大正コソコソ噂話(偽)

 白雪ちゃんの趣味はお裁縫。
 着流しも自作なんだって。
 おしゃれがしたいかららしいよ。

 「だってー。オシャレしてないと女の子とお茶出来ないしー。自分が作った服を可愛い女の子が着てくれるとおもうとさー。 うふふふ」
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